現代人

現代人　☆☆
1952.09.03 松竹、白黒、普通サイズ
監督：渋谷実、脚本：猪俣勝人
出演：池部良、山田五十鈴、山村聡、小林トシ子、多々良純

いくらかギクシャクした感じだったけれども、
アップテンポで軽快な当時の現代的気分の映画。

池辺良はドライで切れる芝居、
静止したポーズを次々と決めて行く。
ちょっと当時の漫画のスタイル。
多々良純はいかにもワルといった感じの、
土建屋風の営業。
この芝居が良くて、映画全体を引き締めていた。
山村聡はいかにも東大出の弱々しい官僚といった風情。
小林トシ子は正義感満載の直球型の女性。

なんと言っても山田五十鈴の芝居がうまい。
バーのママさん役。
せまい廊下、
ぼうやの池辺良に振られて、
「私としたことが・・・」、
という雰囲気で、
手のひらでポンと額を叩く。
別に、どうということは無くて、
「遊びよ遊び・・・」、
というような風情だけれども、
その表情には、
かすかに、
強烈な未練が残っている。

11.08.13 ＮＦＣ

東京のえくぼ

東京のえくぼ　☆☆
1952.07.15 新東宝、白黒、普通サイズ
監督：松林宗恵、脚本：小国英雄
出演：丹阿弥谷津子、上原謙、柳家金語楼、清川虹子
　　　小林桂樹、高峰秀子、古川ロッパ

東京の明るい空の下、
いつも微笑みが絶えない丹阿弥谷津子の、
横に長くひかれた楽しそうな唇の線が、
良く似合って、
その理知的な瞳が、
東京のえくぼの１つ、
なんだろうか。

喜劇役者の芝居が良くて、みんな張り切っている。
上原謙と柳家金語楼のやりとりが面白い。
柳家金語楼は酒瓶に指を突っ込んでどうするつもりなんだろう。
清川虹子の芝居が良い。
小林桂樹と高峰秀子の警官も良く似合っている。
古川ロッパの重役は味が出すぎで面白い。
タイトル・ロールに、
第１回作品と出る松林宗恵の演出も張り切っていた。
明るく楽しい、出来が良い。

11.08.13 ＮＦＣ

異母兄弟

異母兄弟　☆☆
1957.06.25 独立映画、白黒、普通サイズ
監督：家城巳代治、脚本：依田義賢、寺田信義、原作：田宮虎彦
出演：田中絹代、三国連太郎、中村賀津雄、高千穂ひづる、飯田蝶子

三国連太郎は極端な軍人思想に凝り固まったような、
非道で残酷な性格。
虐げられる田中絹代は地道で一所懸命、素朴で忍耐強い。
中村賀津雄は若い純情な青年、
高千穂ひづるは活発、元気な娘。
手洗いで洗濯している時の明るい歌声が美しい。
暗い物語の中でひときわ明るい。
逆境にも耐えて元気でやって行くに違いないと思う。

軍人家族の物語が戦争前後の日本の姿に重ねられていて、残酷で悲しいけれども、田中絹代とその息子達や高千穂ひづるの耐え忍んで、頑張る姿が主題のようでもある。

11.07.31 神保町シアター

陸軍

陸軍　☆☆
1944.12.07 松竹、白黒、普通サイズ
監督：木下恵介、脚本：池田忠雄、原作：火野葦平
出演：田中絹代、笠智衆、上原謙、東野英治郎

陸軍の肝いりで作られたかのような、戦時中の戦意高揚を意図した宣伝映画。映画作り自体は良くて当時としては相当高い水準の演出であったと思われる。戦争後半の厳しい戦局の中にあって、戦争継続の思想をどう表現するか苦労しているかのような印象であった。田中絹代の芝居が良い。全体に映画の趣旨に良く沿った素直な芝居であった。

最後の場面、
田中絹代は軍人勅諭を小声でゆっくり唱えたあとに、
ちょっとクラッとして、
それから出征する息子の行進を追いかけに行く。
沿道の人垣、
激しく振られる旗、
行進の先頭を行くラッパ手、
兵隊たち、
そして息子に伴走して走る田中絹代。

この最後の場面だけが、宣伝映画のようにも反戦映画のようにも取れる演出で、特にこの時の田中絹代の芝居が良く、演出も良かった。この映画が評価されているのはこの部分らしい。最後のカットの両手を合わせて息子の無事を祈る田中絹代には、戦後のネオリアリズム映画のような印象さえも感じた。もしかすると、これは戦意高揚宣伝映画のように見せかけた反戦映画なのかも知れない。最後のシーンは大どんでん返しなのかも知れない。

11.07.31 神保町シアター