ぬえの能楽通信blog

能楽師ぬえが能の情報を発信するブログです。開設16周年を迎えさせて頂きました!今後ともよろしくお願い申し上げます~

第8回狩野川薪能(その6~終了しました)

2007-08-19 21:44:04 | 能楽
昨日、伊豆の国市での「狩野川薪能」が終了しました。天気予報では荒天が予想され、雨天会場に変更になったのは残念でしたが、結果的には大成功だったのではないかと思います。

前日から当地に入った ぬえは子どもたちの最後の稽古をしていたのですが、子ども創作能の方はどうにも もう一つ覇気がない、というか声が小さい。。これは半年間の稽古の間じゅう、ずっと気になっていて、例年の子ども能と比べても、今年の子どもたちは元気がないなあ。。というのが正直な感想でした。もちろん声を出すことは稽古の間じゅうずっと要求していたのですが、なかなか声が出てこない。まず謡の音程そのものが低い事が大きな声にならない原因なので、高く高く、大きく大きく、と、稽古しているこちらの方が声が涸れちゃったい。まさか催しの前日の稽古でもそこを注意する事になるとは思いませんでしたが。。

ところが当日のリハーサルを経て本番になってみると、あれ? みんな大きな声が出ています。本番の緊張感で声がうわずったのが、結果的によい音程に落ち着いたのでしょう。まずまず これならば客席にも響いていたことでしょう。終わったところで、ことに稽古の段階で声が小さかった地謡のみんなをほめてあげました。お役を頂いた6年生の子たち、武士として登場した5年生のみんな。存分に活躍できたようでした。手前味噌ではありますが、台本はかなり面白く演出してあるつもりなので、今回はそれぞれの個性に、頂いたお役がうまく合ったのではないかな、とも思います。可憐な夢知(ゆうち)の安千代の役、それに従う あゆみの従者役の独特の雰囲気、凛とした ひかりの小四郎役、恐ろしげというよりは にこやかにそれらと戦う彩花の大蛇役も、これはこれで面白い効果が出たのではないかな。みなさんお疲れさまでした~ (#^.^#)

引き続いての仕舞『東方朔』は子ども能ならでは、ということで四人で舞う事にしました。義成(よしみち)・圭恵(たまえ)・悠希・春奈の四人は、中学生になってからも薪能に参加してくれる逸材。はじめはまったく同じ型で、途中から型が別れていって、最後は舞台上で演者がすれ違う型があるこの仕舞、四人では舞台で交通事故も起きかねないかも知れない難しい仕舞だったかもしれませんでしたが、また中学生になって部活も忙しくなってくると稽古も休みがちになったりする場合もあって、なかなか演技に自信が持てなかった四人でしたが、当日が近づいて来るにつれて気持ちが合ってきたようで、本番では自信に満ちた仕舞を演じてくれました。

そして連管「破之舞」。上は中学生、下はなんと小学3年生というメンバーでこれほど吹けるとは驚異的。以前にも書きましたが、彼らが地元の郷土芸能での演奏に慣れ親しんでいたことも大きかったでしょうが、やはり先生の寺井宏明さんの指導力でしょう。連管とは何人かの笛の演奏者が一緒に曲を吹くことですが、今回は寺井先生が後見について、なんとプロの大小鼓、太鼓の伴奏に合わせて吹くのです。鼓の手を聞きながら、そのテンポに乗って吹くのですから、これはなかなか至難。でも圭恵・結衣・百夏・朱夏・百恵の五人はみんな良く吹けていたし、何といっても楽しんでいました。どうやら彼らは寺井先生の伊豆のお稽古場に出かけて稽古を受ける事も多かったようですが、そのお稽古場の寺井先生のお弟子さんは子どもたちが加わる事で大喜びで、なんでも毎回たんまりお菓子をもらっていたそうな。。はは。

玄人能『一角仙人』は ぬえも楽しみにしていましたが、明日香・ありさの二人は、これまた存分に成果を発揮できたと思います。アクシデントもあったようだったけれど、それを克服しながら、まずお客さまの前で演じきる事を全うできた彼らは、この日だけは完全にプロの意識で舞台に臨んでいたと思います。シテとの忙しい斬組も、最上のタイミングで決まりました! それにしても今回稽古をしてみて『一角仙人』の龍神役は本当に大変なことも改めて感じました。なんせこれほどカッチリ決まっているはずの能の舞台進行でありながら、複雑で多数出されている作物の間を縫うように演じなければならないこと、シテと三人の斬組もあって、どこで事故が起きるかわからない危険性も排除できません。その上、今回は雨天会場であったとはいえ、稽古では屋外での薪能を想定して、天候や風の強さによって様々な注意が必要なことも彼らには納得してもらわなければなりませんでした。彼らには普通の稽古のほかに「臨機応変」という事まで教えることになったのです。それらを乗り越え 乗り越え、とうとう最後まで演じきった彼らには100点満点以上のものを上げましょう。彼らは中学生になる来年も薪能に参加する事を希望してくれました。

また来年、狩野川薪能は巡ってきます。来年になると、もう9回目かあ。10回目の記念すべき薪能に向けて、また彼らも1歩ずつ大人になっていきますね。ん~~来年こそ、あの城山の下の河川敷の会場で、青空の下でやらせてあげたいっ。 (^。^)

最後になりますが、薪能の実行委員会のみなさん、わけても実行委員長の遠藤先生、子どもたちの稽古の連絡役や準備に驚異的な行動力を見せてくださった相磯さん、舞台設営のため遠方より労をいとわず協力してくださる明野薪能の実行委員会のみなさん、この薪能を最初に始められ、毎年子どもたちのためにスケジュールを合わせて奔走してくださる大倉正之助さん、子どもたちを指導してくださった、そして薪能の成功のために協力して出演してくださる能楽師のみなさん。みなさんのお陰で薪能を今年も催すことができました。心より感謝申し上げます~~ m(__)m