僧が感涙を流したことで、天狗が演じる大会の有様が喜見城に知れたのでしょう、この早笛で帝釈天が走り出ます。
帝釈天は須弥山の頂上の喜見城に住んでいて、忉利天に住む三十三天を統率して仏教の敵を排し、また人間の生活を監察しているそうです。甲冑を着けた武神の姿で表されることが多い神ですが、京都・東寺の講堂には百象に乗った、美しい像がありますね。
→東寺「天、菩薩、明王、如来」
能『大会』に登場する帝釈天はこれよりはずっと荒々しい姿です。
面=天神、黒垂、萌黄地金襴鉢巻、走天冠、襟=縹色、厚板、白大口(または半切)、側次(または法被肩上げ)、縫紋腰帯、打杖
じつは能の中で武神のツレの役…『大会』と同じように後シテをこらしめるツレは同じ装束付になっています。例は多くはないのですが、『舎利』の韋駄天、『第六天』の素戔鳴尊はみな『大会』の帝釈天と同装です。
…ところが面白いのが ぬえの師家の装束付けで、「法被・半切の時は黒頭」と追記が書かれてありました(!)
黒頭、法被、半切に天神面かあ…正義の味方風の印象とはちょっと離れてしまうような気もするけれど…
ともあれ早笛の中で打杖を前に高くサシながら登場した帝釈天は舞台常座に止まり、地謡に合わせてシテと対峙します。
地謡「刹那が間に喜見城の。とツレは七つ拍子踏み刹那が間に喜見城の。帝釈現れと正ヘサシ込ヒラキ数千の魔術を。あさまになせば。とサシ右へ廻り角より常座へ向き行きありつる大会。散りぢりになつてぞ見えたりける。と小廻りシテと向き合い一緒にサシ込ヒラキ
シテは「刹那が間に喜見城の」のあたりに被衣をかづいたまま立ち上がり正面に向いて出、脇座の前にて立ち居、ツレが角に行く頃に被衣をはねのけて天狗の姿を現し、すぐに帝釈天との争いを表す「舞働」になります。
舞働は短い「舞」…器楽演奏による狭義の舞で、通常は型も定型。ほんの1~2分で終わってしまいます。舞働は能の台本の中で舞台進行上に必ずしも必要なものではなく、これが存在する意味としてよく言われるのは「示威行為」とされていますが、まさに言い得ていると思います。たとえば『嵐山』『国栖』『鵜飼』などには舞働がないのですが、曲趣から言っても当然 舞働はあってもよい曲で、それがないこれらの曲は、ちょっとあっさりしているかな、という印象はありますね。
ところが舞働の中には上記の定型からはずれるものもいくつかありまして、『玉井』『項羽』はちょっと特殊な舞働です。また『大会』のようにシテとツレ、あるいはワキが舞台上で戦う場面に用いられる舞働もあって、観世流ではとくにそれを名称では区別しておりませんけれども、たとえば金春流太鼓では「打合せ働」というように呼んで区別しています。
帝釈天は須弥山の頂上の喜見城に住んでいて、忉利天に住む三十三天を統率して仏教の敵を排し、また人間の生活を監察しているそうです。甲冑を着けた武神の姿で表されることが多い神ですが、京都・東寺の講堂には百象に乗った、美しい像がありますね。
→東寺「天、菩薩、明王、如来」
能『大会』に登場する帝釈天はこれよりはずっと荒々しい姿です。
面=天神、黒垂、萌黄地金襴鉢巻、走天冠、襟=縹色、厚板、白大口(または半切)、側次(または法被肩上げ)、縫紋腰帯、打杖
じつは能の中で武神のツレの役…『大会』と同じように後シテをこらしめるツレは同じ装束付になっています。例は多くはないのですが、『舎利』の韋駄天、『第六天』の素戔鳴尊はみな『大会』の帝釈天と同装です。
…ところが面白いのが ぬえの師家の装束付けで、「法被・半切の時は黒頭」と追記が書かれてありました(!)
黒頭、法被、半切に天神面かあ…正義の味方風の印象とはちょっと離れてしまうような気もするけれど…
ともあれ早笛の中で打杖を前に高くサシながら登場した帝釈天は舞台常座に止まり、地謡に合わせてシテと対峙します。
地謡「刹那が間に喜見城の。とツレは七つ拍子踏み刹那が間に喜見城の。帝釈現れと正ヘサシ込ヒラキ数千の魔術を。あさまになせば。とサシ右へ廻り角より常座へ向き行きありつる大会。散りぢりになつてぞ見えたりける。と小廻りシテと向き合い一緒にサシ込ヒラキ
シテは「刹那が間に喜見城の」のあたりに被衣をかづいたまま立ち上がり正面に向いて出、脇座の前にて立ち居、ツレが角に行く頃に被衣をはねのけて天狗の姿を現し、すぐに帝釈天との争いを表す「舞働」になります。
舞働は短い「舞」…器楽演奏による狭義の舞で、通常は型も定型。ほんの1~2分で終わってしまいます。舞働は能の台本の中で舞台進行上に必ずしも必要なものではなく、これが存在する意味としてよく言われるのは「示威行為」とされていますが、まさに言い得ていると思います。たとえば『嵐山』『国栖』『鵜飼』などには舞働がないのですが、曲趣から言っても当然 舞働はあってもよい曲で、それがないこれらの曲は、ちょっとあっさりしているかな、という印象はありますね。
ところが舞働の中には上記の定型からはずれるものもいくつかありまして、『玉井』『項羽』はちょっと特殊な舞働です。また『大会』のようにシテとツレ、あるいはワキが舞台上で戦う場面に用いられる舞働もあって、観世流ではとくにそれを名称では区別しておりませんけれども、たとえば金春流太鼓では「打合せ働」というように呼んで区別しています。