ぬえの能楽通信blog

能楽師ぬえが能の情報を発信するブログです。開設16周年を迎えさせて頂きました!今後ともよろしくお願い申し上げます~

『大会』…終わりました~(その4)

2011-05-24 01:18:16 | 能楽
あとでビデオを見てみたんですが、はね除けた無地熨斗目が大兜巾に引っかかってしまって、そのうえ悪いことにその時一足に飛び上がったために、無地熨斗目がバサリと頭の上に掛かってしまったんですね。大兜巾にかからぬよう高くはね除ければよかったんですが、狩衣・舞衣の二枚の装束の袖口を握りながら、さらに右手では羽団扇の柄まで握っているので、そこにうまく無地熨斗目をつまむように持つのは大変~。

それでも稽古でのシミュレーション不足には違いありませんね。あれだけやってもまだ稽古不足だったかなあ、と思うと残念。…それでも、ここでも後見の手腕は光りまして、あっという間に無地熨斗目を ぬえの頭から外して持ち去りました。型としては、ちょうど舞働で動き出す直前で、動作には支障がなかったのでした。ありがたや~

もっとも幕から飛び出してきたツレの帝釈天はびっくりしたそうです。そりゃそうでしょう。頭からスッポリ無地熨斗目をかぶって…まるで「トリック・オア・トリート~」って言ってるみたいな紺色のお化けが目の前に。まあ、アクシデントにはすぐに気がついて、このままシテが動けなかったら…一人でどう舞う??と一瞬の間に頭の中で対策を考えていたそうです。ごめんなさ~い

さてアクシデントから抜け出した ぬえは、ん~、よく足が動きました。もともと師家の『大会』の型はかなり派手についているようですが、舞働の中の橋掛リでの ぬえの型がツレには見えず、そのためにタイミングが計りづらい、という問題点も発見されまして、稽古能のあとで師匠から「橋掛リでまた飛び上がって知らせても良いぞ」とアドバイスを頂きました。この型は、ツレにとっても解りやすくなったばかりか、またまた能が派手になりましたね~

さていよいよクライマックスのキリですが、帝釈天に追い廻され、打ち据えられてガックリと倒れ、その場から逃げ出そうと両袖で羽ばたいて飛び上がろうとしますが羽根がよじれて再びバッタリと地面に落ち…このへんは良く型がついていますね~。舞っていても楽しいところです。…ついに諦めた天狗は降参して帝釈天に向かって礼拝をすると、帝釈は怒りを静めて天上に上がって行きます。袖を頭に返して遠くそれを見送った天狗はすごすごと立ち上がってグワッシをし、橋掛リに抜けて幕際でノリ込拍子を踏み、羽団扇を放り投げて飛び返り、またまた袖を頭に返して、岩の洞窟に隠れた体。そうして最後に定型通り留拍子を踏んで終わります。

いやいや、アクシデントもありましたが、じつは ぬえ自身としては過去の演能の中でも5指に入る良い出来だったと自負しております。不思議なもので、稽古量をかなり多く取ってもそれがそのまま成功に繋がるわけではないですね。稽古が足りないのは問題外としても、多ければ良い、というものでもないようです。それから、すべての能に言えることですが、いかにシミュレーションができるか、という事が、成功はともかく失敗の対策には重要だと思います。

ぬえ自身としては、今回は良く足が動いたのがとても嬉しかったですね~。身体が重いようでは能は舞えないのですが、これまた良く足が動くのも稽古量そのままが反映されるわけでもなさそう。今回は「釈迦」面を掛け、二人分の装束を着る事によって制約された動作が、天狗の姿になった途端に解放されて、それで動きやすくなったように感じたのかしらん。