馬鹿にせずに一度は読んで欲しいと思う作家の一人にディーン・R・クーンツがいる。
ホラー小説を娯楽作品として極めている作家だと思っている。どんなに恐ろしい怪物が登場しようと、あるいは凄まじく絶望的な状況下であろうと最後はハッピーエンドで終わる安心のホラー小説を提供してくれる。
キングやマキャモンと比べると、ホラーの深度は浅いかもしれない。でも、必ず読者を安心させて笑顔で最終頁を読み切れる。変に後を引きずるホラー作家が少なくない中、徹底して娯楽作品に徹するクーンツは凄いと思う。
ところが皮肉なことにハッピーエンドが分かっているが故に、クーンツの作品を過小評価されることが多い。とんでもない誤解というか、理解が斜め上過ぎる。陰惨なエンディングならば、ホラー小説としての面白いといえるのか。救いようのない絶望が待ち構えていることがホラー小説に求められているとでも言うのか。
クーンツは作家として読者を楽しませることに至上の価値観を置いている。芸術作品を書きたい訳でもなく、悲劇により人間の性を追求しようと志している訳でもない。徹底してエンターテインメントに徹してる。この凄さが分からないのは、むしろ偏見と自己中心的価値観に縛られているとさえ思う。
表題の作品で出てくるモンスターは、銃も効かず、祈りも通じず、仮借なき暴力で暴れまわる。どこにでも現れ、誰にも止められない。その正体は終盤に至り絶望と共に明らかにされる。それでも主人公は諦めず、事件解決に向けて紛争する。
彼の想いはただ一つ、助けたいだ。
こんな作品を書ける小説家はそうそう多くはない。クーンツを読んだことのない人は、是非とも一度は読んで欲しい。犬好きならば「ウォッチャーズ」、おぞましい怖さを堪能したいのならば「ウィスパーズ」がお薦めだ。
唯一困るのは、クーンツの映画化作品がそろいもそろってB級というよりもC級であることだ。だからこそ原作である小説を読んで欲しいと思うのです。