日本の教育における最大の問題は、思索することの軽視ではないかと思う。
これはある意味、哲学の欠如でもある。困ったことに、必ずしもデメリットばかりではないから困る。現在も続く自動車メーカーに対する型式認定試験における不正も、この問題につながっている。
果たして何のために型式認定はあるのか。もっと言えば、どのような思考のもとで、何が求められ、何が必要なのか。つまり良い製品を作るとは、誰のため、何の目的であるのかが明確である必要がある。
そして、型式認定とはその目的に沿った製品の完成に必要な手段である。型式認定が目的ではない、あくまでそれは良い製品を作る為の手段である。この思考がないと、型式認定は重要視されず、徒に製造現場の技術者の自己満足が優先されてしまう。
その典型例が昨年、一兆円以上の資金が投じられながら失敗に終わった国産旅客MRJではないかと思う。結果からすれば、アメリカの型式認定を取れなかったが故の失敗だとされる。しかし、その原因は決して単純ではない。
私は当初、日本国内の型式認定に拘る官庁側の指導誤りが主な原因ではないかと考えていた。これは失敗を認めない日本の官庁の悪癖もあり、かなり真実性を持っていると思っていた。しかし、その後ちらほらと出てきた情報からすると、そんな単純なものではなかった。
プロジェクトを主導した経済産業省はもちろん、ボーイング社のOBを採用しアメリカ(FAA)の型式認定に適合するように努力した三菱も必死な思いで努力はしていた。しかし、それでも通用しなかった。
実はアメリカのFAAの認証を得られなくても、MRJは空は飛べる。ただ欧米の空を飛ぶことは、安全性が十分でないとされて断られる。実際、シナで作られた旅客機であるC919はFAAの認証を受けていない。シナ国内を飛ぶだけなので不要と判断している。まぁ国内に膨大な航空路線を持つシナだからこそではある。
ボーイング社の元社員を採用してFAAの認証を目指した三菱だが、実は社内ではかなり揉めている。現場のエンジニアたちが従わずに、独自の考えで設計、製造した部品などがかなりの数になっている。三菱重工は技術力の高い企業として知られており、現場のエンジニアたちの影響力はかなり強い。
彼らは日本の役所が求める型式認定には嫌々従っていたようだが、アメリカのFAAの型式認定にはあまり協力的ではなかったらしい。困ったことに、経済産業省自体も西欧に通用する型式認定について、完全に意見統一されていなかったらしい。そこに現場のエンジニアたちの独断が加わり、結果的に一兆円の大プロジェクトは失敗に終わった。
少し整理すると、問題点は数点に絞られる。
1 日本の経済産業省の知識と経験不足。アメリカのFAAの最新の航空機に対する型式認定を完全に理解していなかった。
2 実際に旅客機を作ったことがない癖に、エンジニアのプライドが邪魔してアメリカの最新の技術水準を理解しようとしなかった三菱重工。
実はもう一つある。せっかくボーイング社のOBを採用したが、彼らもまた最新のFAAの考え方を十分理解していなかった。これでは失敗して当然である。実はボーイング社もFAAの型式認定には苦労している。
まっさらな新型旅客機を作ると、必ずFAAと揉めてしまい、それを回避するため旧型機の改良で済ませていた。その典型がボーイング737MAXである、そして航空機事故に詳しい方なら、この機体がしばしばトラブルを引き起こしていることはご存じだと思う。
ここからが日本とアメリカの違いが出る。
ボーイング社はFAAの型式認定に従ったが故に、最新機に無理が生じ、結果的にトラブルが増えたと考えている。要するにFAAのデスクワーカーたちは、最新の製造業の知識が足りないと言い出した。日本ではボーイング社がFAAの生産停止指示に従ったと簡潔に報じている。
しかし、アメリカでは既にFAAの型式認定そのものが時代に即したものかどうかを水面下で議論している。日本の経済産業省及び三菱重工のエンジニアとは製造に関する姿勢がまったく違うのだ。いや、日本の経済産業省内に、現行の型式認定基準に疑いを持ち、その有効性を調べ議論する役人が果たしているのか。
技術力に自信を持つ三菱重工のエンジニアで、FAAの型式認定の内容に異議を訴える気概と見識のある人が果たしていたのか。
日本の産業界は、戦後敗戦の荒野からアメリカを見上げ、アメリカを基準に考え、真似して、改良して良い製品を作ってきた。それは確かにかなりの実績を残した。でも肝心かなめの製造の哲学とも言うべき思索が足りないのではないでしょうか。
実は民間旅客機だけでなく、防衛産業などでこの傾向が非常に強く出ています。いずれ機会をみて取り上げたいと思います。