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激しく降る雨の音で目が覚めた。夢と現(うつつ)の区別がつかず、それに思い返えそうとしている出来事が一昨日のことであったか、昨日のことであったかも判然とせず、ボケたままの状態が思いの外長く続いた。
牛たちのことが案じられて小屋の窓から眺めれば、何頭かの乳牛が雨の中でものんびりと草を食んでいる姿が見えて安堵する。昨日、きょうの天気を予想して栄養剤と塩を混ぜた配合飼料をいつもよりか多めに食べさせてある。
それにしても、しとしとと降るならまだしも、この性急な雨の降り方は気を騒がす。落ち着かない。いつもならこの時間、すでに一度は頭数確認を終えているが、きょうはそれを見合わせている。
世話ばかり焼かせる和牛たちにも、乳牛と同じように昨日、特製の餌を三カ所に置いてきてある。きょうは人間サマの方が先に朝飯を頂くが、たまにはいいだろう。
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和牛の中には4番のようにやたらに怖気づいて逃げ回り、群れを混乱させる牛がいる。牛の暴走をstampedeというのだと、もう遠い昔、氷雨の降るアラスカの街スキャングウエイで教えてもらった。
アラスカで金が発見されたという報に、一攫千金を夢見た人々が全米から押し寄せた。その人たちを牛の暴走になぞらえてstampedersと呼んだのだと、同地の古臭い観光案内所の壁に書いてあった。
スキャンぐウエイはそうした人々の基地の一つになったのだが、そこからさらにチルキートパスを超え、レイクベネットを渡り、目指すドーソンまではまだ遠かったろう。案内所の峠越えの説明では、なぜか人ではなくて多数の死んだ馬の数が表示され、さらに場違いな白いドレス姿の婦人の写真が添えられていたのを覚えている。
多くの人たちにとって、夢はあんな辺境の地で幻として終わったはずで、自分も異国の見知らぬ土地でそんな人たちの一人になったような気がし、多くの人の不運、不幸な結末に同情したものだ。
雨と牛、そしてstampederと呼ばれた人たち、うそ寒いきょうの天気がそれらを結び付けた。ボツボツ降りしきるこの雨の中、牛の機嫌でも伺いに出掛けるとしよう。
全頭を確認!元気だ。
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本日はこの辺で。