この見慣れた風景も今年はきょうが最後で、囲いの中に残っていた20頭の牛の全頭が明日で山を下る。役目を終えた安堵感はまだ湧いてこない。
春は鳥の声に興味を持ち、鳴き声の主の姿や名前を覚えようと、早起きをして来るのが楽しみだった。芽吹きのころの淡い新緑の色や、山桜の咲く山、遠くに見える残雪のアルプスに感動したのも、今では遠い記憶になりつつある。
6月、牛が来た。今年は種牛も上がってきて、それで入牧頭数は少し増えて49頭になった。梅雨の時季だけでは足りなかったのか雨がよく降り、夏らしい夏はついにここには来なかった気がする。それでもこの間のことは毎年と変わらず牛の世話、人の世話に忙しくて、印象に残ることと言えばやはり星空だろうか。天の川銀河やたくさんの星々、星座、星雲を間近に眺め、子供も大人も喜んだ。撮影の仕事が2本入ったのは有難かったが、そのうちの1本は雨に濡れながら、機材の搬出が終わったのは夜中の2時、恐れ入った。
そして、いつともなく待望の秋が来た。第3牧区の電気柵の調子が悪く、今年は放牧を断念し、そのために長く使用してなかった牧区にも牛を出す羽目になったが、しかしここで牛のこと、就中種牛のことは改めて呟かない。とても1行や2行では終わらない。また鹿による被害の苦労もこれまた尋常ではなかったが、今年はイノシシにも手を焼かされるというオマケまでが付いた。
8月から始まった映画撮影は27日にようやく終わり、機材搬出も明日で終わる。実質的な撮影は10日ばかりだったが、その準備がかなりの時間と労力を要し大変だった。願わくば今後、牧場を中心としたこの一帯を活かす新たな方法の一つになってもらいたい。そうであれば、苦労も報われる。
牛のいなくなった牧場で何をするかは、おいおい呟いていきます。牧を閉じるのはまだ先のことで11月の20日、さらに冬の営業も、目下思案中です。
10月、いい季節がやってくる。まだそれほどでもないが、ポツポツ予約が入るようになりました。
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