入笠牧場その日その時

入笠牧場の花.星.動物

    ’16年「冬ごもり」 (8)

2016年11月30日 | キャンプ場および宿泊施設の案内など


 炬燵の虜囚となって早や幾日が過ぎたのか、平穏と言って、何もなくひっそりと、冬の薄日を浴びながら老人暮らしを続けている。気になることが無いというわけでもないが、怠惰をひたすらに決めていれば、時間はまこと呆気なく流れていく。そろそろ食べごろになったのか、椋鳥が三々五々柿木に飛来して、留まる時間が長くなった。

 そんなわけで、無聊をかこつわけでもないが、さりとてこのブログの話題にするようなことも乏しく、思案投げ首、妙案もないままもう記憶も大分薄れた山のことなど、また少し書いてみようかと思うに至った。老人の繰り言になることを怖れながら。
 山は大分昔とは変わった。ハイカラになった。山用品や衣料品を扱う会社がボコボコとでき、立派な会社に成長していると聞くし、ひところのゴルフやスキーのようなブームにまでなっている。
 街が山の中にも入ってきて、都会の生活と変わらないことを山の中でもしようとする人が増えた。また、いろいろな用具がそれを可能にしている。山小屋もそれに合わせて清潔で快適さを心掛け、食事も大分良くなったようだ。高い山の商魂逞しい山小屋では、水さえも商品だという。水では苦労しているから、それもむべなるかなとしておこう。
  文明の波が山にも押し寄せている。そうなれば、お洒落して山へ出かけることは実に楽しいことで、危険や登行の苦しさを相殺しても余りあると思う人が増えて当然だろう。だから山は賑やかにもなった。
 少しづつ都会と山の境界が低くなり、フルオーケストラのコンサートまでが開催されるようになったと聞くから、今後の山は”市場”としてどのように変わっていくかは予測もつかない。歩くだけでなく走る人、自転車やオートバイまで持ち込む人、カタカナがやたらと増え、それも3音に変わって乱用されるまでになった。当牧場のキャンプ場に来る人たちでも、草の上に腰を下ろす人などまずいない。
 
 さてそのような山の今について異議や、その是非などを論じるつもりはない。これでも一応キャンプ場と、時代遅れの山小屋の管理人である。これから思い出すことはもっと古くて、地味で、貧しい山の日々についての話になるかも知れないが、できるだけ今の人たちに負けないような当時のわれわれの楽しさや、喜びを明日から書いてみたい。

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    ’16年「冬ごもり」 (7)

2016年11月28日 | キャンプ場および宿泊施設の案内など

   山室川第2堰堤(芝平)
 また夕暮れがやって来た。空の色が白く薄れ、音も消えて、少しづつ夜が来る。冬の日の一日のうちで、今の平穏が最も気持ちを神妙にさせるときだ。きょうも大方何もなく終わる。もう何も待っていないし、することもない。それでいてなぜかこの時間、深い平安と安堵、そして感謝の気持ちまで感じながら、溶暗されていく空を眺めている。
 一番星だ。柿の木の梢の上に、まるで豆電球でも点けたように突然に現れ、それからずっと瞬きもせず、冷たい光を見せている。空はもう大分暗くなって、柿の枝がシルエットのようにしか見えなくなったのに、まだ寒天にあるのは夕星(ゆうずつ)、金星だけだ。

 きょうは昼飯を食べなかった。にもかかわらず、食欲もなければ、さしてアルコールも欲っしてはいない。仕方ないから、HALでも相手にしてやろうかと考えているが、もちろん、彼女は嬉しいよりも迷惑だろう。それでもこの犬種・川上犬は、飼い主だけには従順で、余程のことでもなければ反抗してこない。と言って、虐待しているわけではない。
 昨夜だって、炬燵に入れて遊んでやった。犬は寒さに強いが、だからといって暖かい方がいいに決まっている。昼寝をしていても、日の当たる方へとちゃんと移動している。
 いつの間にかまたHALを連れて、雪の法華道を行く日がすぐに来る。





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    ’16年「冬ごもり」 (6) 

2016年11月27日 | キャンプ場および宿泊施設の案内など

                                                      山室川第2堰堤(芝平)

 SHIMEさんは御年82歳、現役の「NPO法人みろく山の会」の会員である。毎年、冬の入笠山行に参加するが、決して誰にも引けをとらない。先日も今冬の合宿の荷揚げで、メンバーの一人としてやってきた。その日はテイ沢を下り、さらに高座岩に登り、本家・御所平峠を経て小屋に帰ってきた。翌日も入笠山に登り、その後は特別の許可を得た秘密のコースをたどって、元気一杯で森の中から戻ってきた。
 SHIMEさんのお得意は、もちろん山登りだが、その他にもう一つある。歌だ。若いころは合唱団にも入っていて、今でも鍛えた喉で澄んだ美しい声をしてウグイスのように歌う。それも、懐かしい山の歌が得意で、夜の宴会ではいつも過ぎし日の山の思い出を歌に込めて切なく、優しく、静かに歌う。手にしている古い歌集はSHIMEさんのお手製であるのが、またいい。
 森の中でもSHIMEさんは歌う。歩くのと同じように歌う。少し太り目の体躯で、先頭には立たずみんなの歌声の中を幸福そうに、自らも喉をふるわせて、歌う。
 戦中、そして戦後の厳しい時代を生きてきて、恋もあった・・・、だろう。もしかすれば手痛い失恋を経験した人かも知れない。80年を超える人生には、どんなことがあったのだろう。しかし、SHIMEさんは歌うだけであまり語らない。あの夜も、いつものように厚着せず、少し顔を赤らめ、座の端に腰を落ち着けて遅くまでずっと、歌手だけを続けていた。

 昨日も、葉の落ち尽した森の中を歩いている人たちがいた。薄日の射す、初冬の静かな山の雰囲気とよく合っていた。

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    ’16年「冬ごもり」 (5)

2016年11月26日 | キャンプ場および宿泊施設の案内など


 家を出たときは曇り空だったのが、高遠辺りから日が射し始め、やがて天気はすっかり回復した。ちょうど1週間ぶりの入笠行だった。途中、芝平の第2堰堤までは雪道に先行者の轍があったが、頼りの轍はそこで消えていた。例年なら、この谷は猟師が多数入るから、その人たちの車の跡を追随すればよいのだが、仕方ないから何もない雪の上に新しい轍を付けながら車を走らせた。積雪は10センチぐらいで、さしたる困難もなくオオダオ(芝平峠)に着いた。その先のことを心配していたら、道路はすでに除雪されていて、その状態が牧場までずっと続いた。
 それにしても、1か月ぐらいは早い。年末ごろの気象とよく似ていた。雪道には動物の足跡がいたる所に散らかるようにしてあったが、彼らにしても思いがけない早い降雪に戸惑い、慌てふためいた様子が見て取れた。
 牧場北門の手前で車を止めてみた。中央アルプスの空木、駒、そこから山並みが切れて御嶽、乗鞍、そして北アルプスの穂高、槍と続くいつもの山々が目に入ってきて、おだやかな安堵感と、冬の山の寂寥感のようなものを同時に懐かしく感じた。
 一番気にかけていた管理棟の近くにある取水場は、まだ凍結していなかった。ほっとした。断熱材の入った蓋を雪の中から掘り出し、開けてみると、澄んだ水が本管から湧き出していた。ただ、水量が期待したほどではなく、気温がさらに下がればこの程度の水流では凍結してしまうかも知れなかった。もちろんそうなってはほしくないが、しかし今冬にはもう打つ手が残されていない。
 小屋の中と周囲を見回り、昼時だったのでマナスル山荘の本館に立ち寄り、人気のビーフシチューを食べて帰ってきた。同山荘では今夜、ボジョレー解禁でその試飲会が開かれるのだという。

 そんなわけで、雪用タイヤに四輪駆動の車(軽)だったが、伊那側からは問題なく通行することができた。余程の大雪にでもならない限り年内は大丈夫だと思うが、今後もまた情報を随時発信していきたい。

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    ’16年「冬ごもり」 (4)

2016年11月25日 | キャンプ場および宿泊施設の案内など


 ここら辺の子供はもう、雪が降っても喜ぶ顔を見せない。雪合戦も、橇滑りも、しているところを見たことがない。大体、北風に吹かれながら戸外で遊ぶ子供の声など聞いたことがない。半世紀も前の子供たちのように、裏の山に行って橇滑りに適した坂を見付けておいて、いろいろな工夫を凝らした手製の橇を準備して、雪の降るのを毎日のように待つなどということは誰もしない。
 ひと冬に1回か2回教師に引率され、近くのスキー場でレンタルのスキー用具一式を借りて、ほんのさわり程度のスキーを怪我をしないように体験して終わるのが大半の子供たちだという気がする。
 彼らは子供たちだけで夕暮れ迫る森の中、手をかじかませ、衣服やゴム長靴の中を濡らしながら、時の経つのも忘れて遊び興ずる楽しさを多分知らない。時には急斜面を転落したり、切り株に橇をぶっつけ痛い思いすることも、或いは夜道で道に迷った時の不安なども体験せずに大人になるだろう。

 ところがそういう人たちでも、何かのきっかけで山登りを始めると、夢中になる。入笠に来る登山者の中にもそんな人がいるはずだ。2千メートルにも満たない山で、晴れていれば素晴らしい眺望を目にしながら、日常生活では知らなかったような達成感・満足感を心身で共に味わう。そして気が付くと、山歴5年、などということになる。
 ところが最近目にした報道によれば、この山歴5年が問題で、世代に関係なく、この間に山の事故を起こす登山者が最も多いそうだ。登山者にすればこのころが山行日数も増え、油の乗ってくる時期で、中には岩登りや沢登り、あるいは冬の山へと向かうころでもある。山歴も、その内容を無視して、長短ばかりを問題にしてもどうかと思うが、事故のたびに山歴が、年齢が云々される。それほど様々なレベルの人が、広い世代にわたって気軽に山に行くようになり、事故も増えたということだろう。

 子供は家の中にこもり、中高年が外へ出ていこうとしている。
 
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