「初の沢俯瞰」 Photo by Ume氏
ここ何日か、Ume氏の空撮写真に寄せて、思い付くままを呟いてきた。そしたらある人が、入笠ばかりではなくもっと故郷の伊那、それも天竜川のことなどについて語れと、思いがけないことを言ってきた。
天竜川と言えば最近、終電車が対岸の少し向こうを車内の灯を輝かせながら通過していくころ、酔い覚ましを兼ねてその川の堤防の上をよく歩く。もし誰かから一日のうちで一番好きな時間はと訊かれたら、ここを歩いている時だと答える。またもし、一番気に入っている場所はと問われたら、天竜川に架かった北殿橋が見える辺りの風景だと答える。新田へ天竜の水を送るポンプ小屋が出来て、記念の碑も建てられたのはいつごろのことだったのか。風景は次第に変わっていくが、それでもこの川への思いは何も変わらない。
待て、そう言われたからといって、巡りくる新しい季節がようやくそこまで来ている時に、おいそれと入笠を、牧場を離れるわけにはいかない。
きょうの空撮写真で初めて分かったが、仕事が始まれば毎日通らなければならないこの「初の沢」の大曲がり、これほど急だとは感じていなかった。この写真には写っていないが手前にはマユミや山桜、コナシの木があって、季節ごとに装いを変えながらその存在を訴えてくる。右に曲がり終えれば、すぐモミの大木が日陰を作り、この辺りも大分枝打ちをしたが、それでもこの時季は残雪がいつまでも融けず、通行の邪魔をする場所だ。
昔は第3牧区に牛を放すと、道路をわが物顔で闊歩する彼女らが通行の車を停めたり、車内の人を驚かせたりした。また牛の一群が遠くから来て、この沢の流れの中に入って水を飲んだものだ。しかし恐らく、もうそういう光景を目にすることはないだろう。牛の入牧頭数が100頭、150頭のころの話だ。
下流に下っても、上流に上がっても自然なままの渓流とか、なかなかの景観を目にすることができるが、現在は一般の立ち入りはできない。いつか解放されるようにでもなれば、周遊のための素晴らしい山径を作ることもできるが、そうやって変貌した牧場を見たいような、見たくないような、目下のところは複雑な気持ちでいる。合掌