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HALが姿を消した。昨日29日の朝のことだった。起きてすぐ様子を見にいったら、玄関の三和土のいつもの場所に、当然いるはずだと思っていた犬がいなかった。あの痩せ衰え、息も絶えだえのような老犬(14歳)には最早、首輪も綱も無用だろうと2,3日前に外してやった。それが徒になってしまったということなのか。それにしても、夜中に雨に濡れながら、3メートルそこそこの距離を家の中まで戻れなかったような犬が、一体どこへ行くことができたというのか。余命わずかであることを知って姿を消したと考えるには、確かに川上犬は山犬や狼に最も近い犬種だとは言われていても、HALはあまりにも野生から遠く、離れ過ぎた犬だったと思っていた。それでも、もしかすればあの犬にも、乏しい生命と同じくらいの野生がかろうじて残っていて、その最後の本能をして彼女の姿を人の目から隠したというのだろうか。
もう17年も前になるが、重い決断の末に東京を離れ、何の当てもない信州に帰ってきた。その40年近い無沙汰の故郷でまずやることは犬を飼うことと決めていたから、それを聞いた知人が、野犬として殺処分されそうになっているある犬のことを教えてくれた。
思案の末、見たこともないその犬を助けることにして、貰い受け、小太郎と名付けた。小太郎は猟犬として育てられたと思われれ(クマを追い出したこともある)、川上犬の血を継いだ忠誠心の篤い、勇敢な雄犬で、この犬のことも語れば尽きないが、1頭では淋しかろうともう1頭を飼うことにしたのがHALだった。
その翌年、小太郎が事故で呆気なく死に、HALが1匹になった。それでHALとかなり年齢の離れた妹キクが来たが、しかしキクも4年後には入笠へ来る夜の雪道で消息を絶った。キクは雌のくせに気性が荒く、恐らく道中で見付けた鹿の死骸を他の動物と奪い合いになり、生命を縮めてしまったのだろう。その時も、HALはすぐに追いかけてきた。
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この続きをどうすればよいのか・・・。午前10時ごろ、電話が入った。電話の主は家の一段下を流れる水路に、動物の死体らしきがあるが、思い当たることはないかと聞いてきた。即座に、HALに間違いないと思った。そこまで家から100㍍あるかないか、この家の裏が、一段下がるが、その水路の上流になる。
今HALは、14年の生涯を閉じて、生前縁のあった衣服にくるまれて家の中にいる。少し汚れてはいたが、それほど痛んでいない身体は、洗い清めた。しかし、HALの飼い主として、この事実をどのように受け入れたらよいのか、長い煩悶の時が待っている。
本日はこの辺で、Mさん、TDS君ありがとう。