Photo by Ume氏(再録)
今月27日に起きた雪崩事故について、もう少しだけ。
30日の毎日新聞は、この事故について那須町の高久町長が述べた「あまりに無謀」という言葉を待っていましたとばかりに報じ、「雪崩が発生しやすいため専門家でも入らない云々」と引用を続けている。町長の立場としてみれば、このような事故は大迷惑だったろう。この事故により町や、スキー場、他の観光事業に悪い影響が出たり、評判に傷が付きはしないかと心配した政治的発言だったようにも受け取れる。ただ、町長の言う「専門家」とはどういう人を言ってるのか分からない。また「素人から見ても、そこでのラッセルはあまりにも無謀」などと、「素人」の公人が言ってもよいものか。まだ充分な調査が終わっていない。「バックカントリースキー」などと呼んで、スキー場外の雪崩の巣のような場所を滑るスキーに人気が出てきている昨今、それを後押しするような危険な市町村があることも知らないのだろう。
きょうの新聞では、野口某が「今回の事故は、責任者が現場を見ることもなく急きょ予定を変更するなど、責任者に基礎知識が欠けていた。問題の本質は判断ミス」と断じる記事を載せていた。彼のことは「世界的な登山家」だと説明されていたが、どういう意味だか分からない。まさか、世間で名前は知られているが、一流の登山家ではないという意味ではないだろう。それにしても「基礎知識に欠けていた」とまで言われた講師の先生たちは、さぞかし無念やるかたなかったと思う。彼よりも基礎知識だけでなく、経験も技量も優れた講師が恐らく幾人もいたはずだから。また、急きょ予定を変えたことが、果たして基礎知識の欠如によるものだったのか疑問でもある。
現場の責任者とされる猪瀬修一教諭は「絶対安全だと判断」したという。こういう発言を実際に事故が起きてしまった後で耳にするのは、聞き苦しい。「絶対」などと言ってみても、その時の状況判断について味方してくれるわけでも、言い訳になるわけでもない。将来のある若い生命が多数失われたのだから、その重い事実を断腸の思いして背負ってほしい。
言葉の揚げ足取りのようなことになったかも知れないが、もちろん自然ばかりでなく、われわれの文明とて「絶対安全」などありえない。3兆円もの財投が決まったリニア新幹線にしてまたしかり。飛行機も落ちる。原子力発電所も事故を回避できなかった。人間のやることは、過ちを犯す。政治もそうだ。検証し、学ぶことは大切だろうが、それで「絶対安全」になるわけではない。登山も同じだが、だからと言って、「冬山登山厳禁」では、この事故が提示した問題への回答として、正解とは言えないだろう。