入笠牧場その日その時

入笠牧場の花.星.動物

     ’18年「秋」 (34)

2018年09月30日 | キャンプ場および宿泊施設の案内など


 来る途中の山道に落ち葉が目立つようになった。またしても大型の台風の接近が盛んに報じられているものの、午前中くらいまでなら外の仕事ができるだろうと思って上がってきた。おかしな天気で、止んだと思っていた雨が北門を過ぎるとにわかに雨脚を強め、ここに着いてからもしばらく続いた。諦めかけていたら突然、今度は薄い雲の破れから青空が見え、日まで射し始めた。
 雨が降っても降らなくても、牛の状態だけは見ておかなければと第1牧区へ急ぐと、全頭が大きく散らばるようにして草を食んでいた。明後日には山を下りていく牛たちはそのことも知らず、台風接近のことにも気付かず、何のためにそこに放牧されているかも分からないままいつもと変わらない。幾頭かの牛が近寄ってこようとしたが、給塩にきたのではないことを分からせるため、牧区内には歩いて入った。
 毎年、牛の下牧間近になると、どうしても牛と過ごした4か月間のことを思い出す。今年は牛たちはなかなか塩場を覚えず、仕方なく軽トラに塩を積んで群れの中に持っていったりした。頭数も少なく、それでいて群れは細かく割れたせいで調教に手間取り、頭数の確認にも手を焼くことがあった。それがいつの間にか2群に落ち着き、塩をせがむことを覚えたころにはコナシの花の季節も終わっていた。
 囲い罠の中の和牛も8月の中間検査のころまでは、塩を持っていっても遠巻きにして近寄らず、検査のためにパドックに入れるにはたくさんの人の手が要った。それが今では塩をよこせと咆哮し、軽トラが近付けば遠くにいても4頭で走ってくる。
 その牛たちを送り出せば、まだ3ヶ月もあるのに、今年の大方のことはすでに済んでしまったような気になる。短い秋を、さて、どう過ごすか。ぼつぼつ紅葉のことを問い合わせてくる人もいるようになってきた。

 雨音がする。3時ごろまでは大丈夫と予測していたが、これでは止まないだろうか。予定していた草刈りは午前中に済ませた。きょうで9月も終わる。雨ばかりの多い、短い1ヶ月だった。

 秋風が旅に出ろと言ってませんか。小屋もキャンプ場も充分に余裕があります。FAXでも予約や問い合わせに対応できます。ご利用ください。入笠牧場の営業案内は「入笠牧場の山小屋&キャンプ場(1)」
「同(2)」をご覧ください。

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     ’18年「秋」 (33)

2018年09月29日 | キャンプ場および宿泊施設の案内など

風雨を避けていた牛たち

          「来るな」と言っても聞かない
 またきょうも雨。昨日遅くに来たO氏と氏の友人は、すでにテントを片付けタープの下で、お得意の七輪の上に薬缶を置いて湯を沸かすなど、それなりに秋霖に煙るこの季節の山の雰囲気を楽しんでいるようだった。小屋に誘ったがまだ来ないところをみると、彼らはああしている方がいいみたいだ。魚釣りは9月一杯で禁漁に入るので、今年最後の釣りが、ここへ来た主な目的だったのだろう。
 このO氏ともう一人I上氏は本当に自然が好きで、山が好きで、魚釣りが好きだ。I上氏などは「山に来れば何かいいことがありそうだから」などとよく言ったものだが、心からそう思っているようだった。ご両人とも東京生まれ、60歳を過ぎているはずだ。
 きょうはそのN上氏がなぜいないかというと、氏は日本を離れ、釣りの病が高じてか今はカナダにいる。最終的にはアラスカへ行くつもりのようだが、とりあえず英語学校へ潜り込み、しばらくは彼の地で魚釣りに興じるつもりらしい。結構なことだ60ウン歳。アラスカに落ち着いたら沙汰が来ることになっているが、O氏にはすでにカナダで大きなキングサーモンを釣ったなどという報が届き、氏の気持ちを複雑なものにさせてもいるようだった。

 大型の台風が接近しつつあるようだから仕方ないが、雨は一向に止みそうもない。雨脚は強まるばかりだ。囲い罠の牛たちもこの長雨に慣れたのか、諦めたのか、普段と変わらぬ様子で草を食んでいる。権兵衛山は灰色の空と変わらぬ雲だか霧に隠されてしまい、ここからは渋く変色した落葉松の林だけが見えている。背後の景色が隠されてしまうと、その向こうにも平坦な草原がずっと続いているような錯覚に陥るのだが、やはり権兵衛山がなければ主役を欠いたような物足りなさを、ここの眺めからは感じる。

 第1牧区の牛たちの様子を見たら、きょうは早めに山を下りようと思っている。そこまで歩いて行くか、車で行くか、迷っている。今、O氏と彼の友人を見送った。初めて来た彼も、ここが気に入ってくれたらしい。

 F破さん、通信拝読。勝頼やその婦人もそうですが、武将の敢え無い最後を考えるに、きょうは相応しい雨です。

 秋風が旅に出ろと言ってませんか。小屋もキャンプ場も充分に余裕があります。FAXでも予約や問い合わせに対応できます。ご利用ください。入笠牧場の営業案内は「入笠牧場の山小屋&キャンプ場(1)」
「同(2)」をご覧ください。

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     ’18年「秋」 (32)

2018年09月28日 | キャンプ場および宿泊施設の案内など


 きょうの天気は文句の言いようがない快晴だ。牛たちもようやく晴天の下、待ち焦がれた塩にありつけ、少しは落ち着きを取り戻したかと思っていた。ところが遂に、本日第1牧区にて、ホルス1頭が脱柵した。草が少なくなっていたから気にはなっていた。
 もっとたくさんの牛がいたころのことだが、下牧を3日後に控えて1頭のホルスが死んだ。体型も小さく、他の牛の群れとも上手くいってないようだったから、注意はしていた。それが、元気な姿を確認した翌朝、藪の傍で小さくなって死んでいた。生まれてまだ1年も経っていない。親牛から離され、何も分からずに山の中に連れてこられて、自身が何であるかも識らないまま他の牛の後に付き従い、心細い思いで過ごした日々だったろう。
 下牧が迫ってくると、この牛のことを思い出す。残り1歩というところまで来て、というその時の無念な思い、それと、横たわったまま動かない姿。しかしこの頃は、この牛に対して少し違った考えも持つようになった。なったが、それをここで呟くことはできない。牛守としての立場がある。とにかく、家畜としての役目は果たせなかったことだけは確かだ。

 部屋に帰ってきた途端、外でバイクの音がして止まった。そして「すいません」という声がした。出ていくと若い男が「Lost」とだけ言った。後から3台のバイクが続いてきた。どうも東洋人もいれば西洋人もいる。二人乗りのうち一人は女性だった。とうとうこの山道は、外人たちにまで知られるようになったのかと驚いた。東京に帰りたいということ、悪路で苦労したということ、国はフランス、オーストラリアということは分かった。ほとんど会話らしい会話にならなかったはずだが、別れ際、「よくオレたちの言うことが分かったな」と言われ、答えに窮して「牛が教えてくれるのよ」と返した。そしたら、その男はきょとんとして、それから横のオーストラリア人の男女が笑ってくれた。

 秋風が旅に出ろと言ってませんか。小屋もキャンプ場も充分に余裕があります。FAXでも予約や問い合わせに対応できます。ご利用ください。入笠牧場の営業案内は「入笠牧場の山小屋&キャンプ場(1)」
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     ’18年「秋」 (31)

2018年09月27日 | キャンプ場および宿泊施設の案内など


 今朝の牧場の気温は10度。富士山では昨日初雪があったそうだ。きょうも天気予報では、午後3時ごろまでは雨の予報。しかし、この雨は恐らく昼頃には止む。「雲量・雨量」を調べながらそう判断している間にも、あっという間に深い霧が辺りを包んでしまった。これは回復の予兆である。カラスの鳴く声もする。ぜひそうなってほしい。まだ終わってない「追い上げ坂」の草刈りとその始末が気になって仕方ないからだが、半日あればなんとかなる。明日と、下牧予定日の2日は天気が良さそうだが、明日は好天なら別な予定が入ることになっている。となれば、それ以外は下牧まで期待できそうもないから、何としてもきょうで終わらせておきたい。
 それにしても、「秋霖」などとも言うこの季節の長雨だが、そのお蔭で、3連休が2回続いたにもかかわらず今月のキャンプ場や小屋の売り上げなど、前年度と比較して3分の1程度しかない。今週末も一応、予約はあるが台風が来るとなると、取り消しになる可能性が高い。これだけ不順な天候ばかりが続けば、これからは何かを予定をしたとしても、半分とは言わずも、3分の1は雨に邪魔される、と考えた方が良さそうな気がしてきた。来月予定の撮影なども、これは雨さえ降らなければ強行されると思うが、3分の1の確率で・・・。ウーンいつになったら天は高くなるのか。

 つい先ほどキャンプの予約が入ったが、気温のことを心配されていた。きょうなどは例外だが、このくらいの気温でも肉体労働には丁度良いくらいだから、この辺りなら10月一杯は山歩きやキャンプも問題はないと思う。ただしこの季節、雨に濡れるのだけは怖い。雨合羽は大分よくなってきてはいても、決して万全ではないからだ。そういう理由で、中高年の森林限界を超えるような登山はなるべくなら控えた方がいい。鹿も寒くなると、大半が低地に移るようになることだし。

 まだ霧は残るが、雨は止みそうだ。気合を入れてそろそろ行こう。

 秋風が旅に出ろと言ってませんか。小屋もキャンプ場も充分に余裕があります。FAXでも予約や問い合わせに対応できます。ご利用ください。入笠牧場の営業案内は「入笠牧場の山小屋&キャンプ場(1)」
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     ’18年「秋」 (30)

2018年09月26日 | キャンプ場および宿泊施設の案内など


 天気予報では現在雨のはずだが、降ってはいない。昨日も午後になって小降りになったので、予定通り第1牧区へ通ずる急な斜面「追い上げの坂」の草刈りをやった。きょうもその続きをやっている。「雨量・雲量」を調べると、恐らく雨が降り出すのは4時ごろになるだろう。
 この草刈りが済めばいよいよ10月2日、この坂を下った牛たちは、その後に種々の検査を受けた後、トラックに載せられて山を下りていく。そして、人間たちのために精一杯ミルクを出し、そして仔を産み・・・、そういうことを3回ほど繰り返して短い一生を終えてしまう。

 きょうの写真は、その「追い上げ坂」の途中で撮った。こうやってカヤを中心にして草を刈る理由は以前にも呟いた。そこを牛が通る時に怪我をさせないためで、いつの間にどうしてこんなにカヤが繁茂したのか分からないが、とにかくこれでは大事な乳房を傷付けかねない。その際大事なことは、切り株をできるだけ短く、何度も丁寧に刈らなにければ、かなりの速さで駆け下る牛が今度は足を痛めてしまう。
 また、刈った草はそのままにしておいては牛が足を滑らせる。これを片付けるのがまた一仕事で、きょうの午後はそれだけに専念した。標高差でも100メートルくらいはあるこの急な斜面を、一体何度上り下りしたことか。入笠山に登る方がよほど楽なはずだ。
 昨日ときょう、草刈りのついでもあったが、上に行く作業道がぬかるんでいたため、車を使わずに下から歩き、広い牧区内を巡回した。牛が100頭以上もいたころはそれが当たり前のことだったが、しかし今それが日課となったらどうだろう。あのころ、歩数は2万歩を超えて普通だった。



 歴女はまだ来ないが、先日この独り言を読んでくれているという歴史の好きなF破さんが立ち寄ってくれた。武田のことに詳しく、良い刺激を受けた。「御所が池」にも行ってみたいと言っていたが、どうだったろうか。

 この時季の曇りの天気もなかなか奥ゆかしく、味わいがあっていい。夕暮れとともに霧が深くなってきた。
 
 秋風が旅に出ろと言ってませんか。小屋もキャンプ場も充分に余裕があります。FAXでも予約や問い合わせに対応できます。ご利用ください。入笠牧場の営業案内は「入笠牧場の山小屋&キャンプ場(1)」
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