開田から眺めた昨日、3月29日の仙丈岳
久しぶりに春らしい陽気に、布団を干した。以前は屋根の上で済ませていたが、山小屋じゃないのだからと人に嘲われて、何年か前にそういう物を田圃の中の家具屋で入手した。それにしても、「緑なす繁縷(ハコベ)も萌え」だしつつある明るい日差しの中では、陋屋の荒廃が一段と目立つ。
昨日、散歩の帰り、家の西裏にある日当たりの良い傾(なだ)れで待ちわびていた蕗の薹を採った。たった5株、例年ならもっとあるはずだと思ったが、それだけしか見付からなかったのは、去年の晩秋にここをしっかりと草刈りをしたから、そのせいだったかも知れない。
菜の花のお浸しもいいが、やはりこの蕗の苦みは春の味である。牛が来て山の牧が牧らしくなるように、これで蕗味噌を作り、日本酒の熱燗を飲んでおかなければ春を語ることはできないとさえ思っている。
蕗味噌はいたって簡単な料理である。蕗の薹を軽く水に放った後水気を拭いて、薄くごま油をひいたフライパンで炒め、酒で溶いた味噌を加える。
これで充分だが、昨夜はこれにクルミを細かくして入れた。ちらし寿司のみならず焼きそばなどにもクルミを愛用する身、これも良かったが、もしかしたらあの繊細な春の味が少しぼやけたかも分からない。
キノコのクロッカワを焼いて食べる際、大根おろしを入れてしまうと、キノコのこれまた繊細な苦味が負けてしまう。あれは生醤油だけで充分、それと同じ理屈だろう。
今朝、電話の音で目が覚めた。しばらくして切れたが時計を見ると6時半前、こんな朝早く、またどこか誰かの訃報かと思い、恐るおそるかけ直した。するといきなり「山ゴボウは今が旬かえ」と、これ以上ないような幸福そうな声が聞こえてきた。
そして大分してから、その幸福そうな声の主が2種別々の味噌で漬けたという山ゴボウの味噌漬けを持ってきてくれた。食べ比べてみろと言うので、それだけではもったいないと、やむなくビールも飲むことにした。
どちらも久しく口にしたことのない尊くも懐かしい素朴な味、春が口中いっぱいに拡がった。ありがとう、T君。
なお、山ゴボウの旬は、PCで調べたら秋と春だとか。食には適さない、などという記述もあり呆れた。
本日はこの辺で、明日は沈黙します。