入笠牧場その日その時

入笠牧場の花.星.動物

     ’19年「晩夏」 (12)

2019年08月31日 | キャンプ場および宿泊施設の案内など


 今朝上がって来る時、焼合わせ近くまで来て不意にこの色付いたツタウルシが目に入った。それでつい運転している軽トラを停め、湿った草叢の中にわざわざ入り、折角だからと1枚撮っておくことにした。近くにもう一葉紅葉していたが、そこへ行くには藪の中を進まなければならず面倒になって諦めた。
 それにしても、少し早過ぎはしないか。昨年の作業日誌に何か書いてあるかと調べてみたら、9月30日に「ツタウルシも、ぼつぼつ散るか」とあり、とすれば9月の半ばごろには、あの辺りの森はツタウルシの紅葉で真っ赤に燃えるだろう。まあ、急ぐこともない。毎年のことながら、少しでも長い秋であることを願っている。

 その作業日誌には、これもまた例年のことながら、「牛が下りたら、誰にも遠慮せずに旅に出る」というお定まりの決意と、それと佐藤春夫の「秋刀魚の歌」の一節が走り書きしてあり、思わず一人笑いをした。この詩も、このころの季節になると決まって思い出す。

   あはれ
   秋風よ
   情(こころ)あらば伝へてよ
   ―――男ありて
   今日の夕餉に ひとり
   さんまを食らいて
   思ひにふける と。

 恐らく、この詩を知ったのは十代のころ、いや、遅くとも二十代には知っていた。詩の背景も分かっていた。そのころはまさか、人妻に恋することはないにしても、何十年後かの自分が一人陋屋でサンマならぬシシャモを喰らいながら、この詩を口ずさむことになるとは思いもしなかっただろう。
 いや、考えてみれば、この山の中の牧場で13年も牛守を続けたことは思いもよらぬことだったのか、あるいは昨夜のようにちゃぶ台にシシャモと豚汁と豆腐、それに少々の香の物を加え、ビールを冷水代わりに一人熱燗をすする姿は想像もしなかったことだったのか・・・。
 秋の夜には明るい灯火の下で、家族の団欒が当然にあると信じていたのだろうか。ムー。

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     ’19年「晩夏」 (11)

2019年08月30日 | キャンプ場および宿泊施設の案内など

 
 夜が明けてきた。きょうも雨。「ぐずついた」とか「はっきりしない」とか言う天気ばかりが続く気がするが、これも気候変動の影響なのだろうか。今まで、上で働く7か月間の3分の1は霧と雨と呟いてきたが、どうも実際は雨、霧、曇天の日はもっと多いかも知れない。とにかく、スカッとしない中途半端な天気が多い。あまり明確なのも困るが、ぐじぐじとして意志をはっきりと示さない人のようでイライラさせられる。

 きょうから5日ばかりは巡行運転で行ける。言い換えれば、牧場管理人の仕事さえすれば足りるということだ。一昨日まで、JALNECのWさんが居残ってくれて、熱心にドラム缶工作や電気工事をやってくれているのを傍観させてもらっていたが、氏が去った後、昨日も富士見に下り土台とするブロックを入手し、しかるべき場所に名匠の作品を据え、使い物にならなくなった換気扇も電気コードごと新しくして、それでようやく番外編が終わった。後は、牛の脱柵を心配しながら、撮影が始まるのを待つことにする。
 キャンプ場関連の仕事は、夏も過ぎたから大したことはない。昨日、小屋をよく利用してくれてるF氏から数日の小屋の予約を貰ったが撮影と重なり、折角のことなのに断るしかなかった。大変に申し訳なかった。
 小屋は、主に子供たちだが、48畳まるまる出演者の支度部屋になってしまう。加えて幾日かは、管理人室の隣にある10畳2間も同じような目的で使われる。こんなことは初めてのことで、しかしこれを乗り切り、そして静かないい秋の中で本来の牛守となって過ごしたい。撮影は予備日も入れて4日ぐらいづつ、まだ断続的に3回ほど残っていて、9月一杯続く。


  メスグロヒョウモン 入笠牧場


 ヤマキチョウ 芝平 Photo by Kaku氏 2枚とも

 京都のK来さんはよく入笠へ来てくれる。70代後半のはずだが蝶を求めて、いろいろな土地へと旅を続ける。夏の思い出に、氏の撮った写真を紹介していきたい。

 それにしても天は狂ったように雨を降らせる。夕方まで続き、夜になって小康状態の後また狂い、あすも午後は狂いそうだ。

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     ’19年「晩夏」 (10)

2019年08月29日 | キャンプ場および宿泊施設の案内など


 きょうは午後になって、権兵衛山が姿を見せた。やはり気のせいではなくて、まだ8月だというのにあの山の中腹は茶色味を帯びてきた。ちょうど鉄塔の下の中央部で、山全体というわけではない。空にも時々青空が広がるが、何にしてもはっきりとしない中途半端な天気が続く。
 稲穂は垂れ、蕎麦は白い花を咲かせ、ススキの穂が目立つようになったのはいいが、またしても九州北部は大雨による深刻な被害で、死亡者まで出てしまった。「河川の氾濫、土砂災害の恐れ」に対する警報は当然だとしても、こういう大被害の起きそうな場所には、避難以外に、もっと事前の対策が打てないのだろうか。「国土強靭化」なんて大層な言葉を耳にした気もするが。
 NHKは災害情報を最優先にしているらしいが、午後7時の天気予報はあまりに大まか過ぎ、あれで実際の避難行動に繫がるかは疑問だ。その点最近は、有料ながらかなり狭い範囲の、相当正確な気象予報も入手できるようになっていると聞く。日本国中どこでもとはいかないだろうが、自治体などで利用できるなら、上手な方法を考えてみてはどうだろうか。

 日が短くなり夕暮れ時に帰ると、鹿をよく見る。逃げる時、道路が濡れているとあの足では滑るらしくよく転ぶ。特に小鹿はそうで、まだDNAには舗装路に対する走り方は組み込まれていないのか、成長の過程で学ぶしかないようだ。あの勢いで藪の中や急な斜面に飛び込んでいくのだから怪我だってするだろうし、悪くすれば死ぬこともあると思う。しかしその頭数はまだ、腹が立つほど多い。 
 牧草ばかりでなく、牧柵の被害も大半は鹿。ステンであれ鉄であれ、バラ線を支柱に留めてるあの針金を何故、どうやって切るのか知りたいものだ。普段は実に上手にバラ線の間を擦り抜けていくのに。

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     ’19年「晩夏」 (9)

2019年08月28日 | キャンプ場および宿泊施設の案内など

Photo by Ume氏

 驚いた。今朝上って来る時に気付いたが、落葉松の緑の葉に微かな茶色の濁りを感じた。もう、ここらあたりの落葉松は水揚げを止めてしまったというのだろうか。里では今年は稲の実りがいつもよりか早いと言っている人もいた。雨ばかり降って、夏はあまりに短く、この独り言をせめて8月が終わるまでは「晩夏」としておこうとは思ってはいるものの、今聞こえてくる風が揺らす木々のざわめきの音にさえ、その気配はない。
 きょうの写真は先週末、JALNECの総勢40余名が来た時の空から見た様子。好天と撮影時間が早朝だったせいか、まだ夏の面影は残っている。これだけの人員をキャンプサイトCだけで収容したが、普段は5組程度に留めている。
 赤い屋根は一番手前が管理棟、次が10畳2部屋、そして一番奥が48畳の山小屋。Cサイトは道路を挟み建物の横のコナシの林の中にある。



 また霧が深くなってきた。権兵衛山は終日姿を見せない。午前中、富士見に用事で下りたときには第4牧区の放牧地Bに牛の姿はなかったが、戻ってきた時には種牛も含めかなりの頭数の牛がいた。いつもなら朝はAにある水場にたむろしている牛たちもきょうは雨で喉が渇かないのかも知れない。ともかく約500メートルの森の中の牛道と、AとBの放牧地の水平距離を合わせたら1キロは優にある。どうやらその範囲が活動域だと牛たちにも分かってきたようだ。

「連日使役され、昼はセブンイレブンのカレーだよ」と、JALNECのWさん、かかってきた電話の相手に言っていた。「昨日は特製の鍋だったでしょう」と、すぐさま訂正を求めた。Wさんは一人だけ居残って、只今はトンチカ、トンチカ電気工事をやってくれている。本当に助かる。感謝。

 昨日Ume氏の写真説明で、撮影の時季を「晩秋」としましたが、実際の撮影日は9月28日でした。

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     ’19年「晩夏」 (8)

2019年08月27日 | キャンプ場および宿泊施設の案内など


 焼合わせ辺りまで来ると急に、落葉松の幹に絡まるツタウルシが目に付くようになった。まだ艶のある緑色だが、中にはすでに先を急いだのか色付き始めた葉もある。これから毎日、この落葉松の一部になってしまったツタウルシの変化していく様を楽しみにしながら、今年も深まりゆく秋を迎える。
 そういえばいつの年だったか、林業関係者のしたことだろうが、色付く前にツタウルシは殆どが根元を切られて、その年の秋は燃えるような紅葉を見ることができなかった。落葉松の成長を考えてしたことだろうが、この辺りの落葉松の本数など国有林の極くごく一部に過ぎない、どうかあのような無粋なことはしないでおいて欲しいと切に願う。

「美山彩嶺Ⅲ」、随分と凝った題名の本だ。日本山岳写真協会が創立80年を記念して出版した写真集である。Ume氏から頂いた。同写真集にはUme氏の作品も載っている。
 それは淡い霧の立ち込めた晩秋のヒルデエラ(大阿原)を写した1枚だ。ここにその写真を紹介したいが、恐らく著作権は協会の方に移っているだろうから、残念だがそれができない。
 ――――手前の湿原、枯れた一部の草は黄土色に、また一部は赤茶け、その上に薄く霜が降りたように見える。白樺の葉はかなり黄色く色付いて、大分日が経っているようだ。もうすぐ落葉するだろう。その背後に、シラビソだかモミの木なのか、落葉松との混生林がずっと奥の方まで続いている。霧がまるで絵筆のように常緑樹の緑の色を薄めている・・・。抒情詩を思わせる風景だ(作品をご覧になりたい方は、小屋に写真集を置いてありますから声をかけてください)。

 昨日第4牧区のAからBに移した牛たちは、Bに6頭を残し、その他の全頭が再びAの水場に戻っていた。しかし、午後になると三々五々、またBの方へ移動を始めた。毎日1㌔ばかりを、行ったり来たりすればいい運動になるだろう。

 F破さん、通信届きました。三俣の帰りにでも寄ってください。それと、できたら英文も是非拝読させてください。気を付けて。

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