今朝上がって来る時、焼合わせ近くまで来て不意にこの色付いたツタウルシが目に入った。それでつい運転している軽トラを停め、湿った草叢の中にわざわざ入り、折角だからと1枚撮っておくことにした。近くにもう一葉紅葉していたが、そこへ行くには藪の中を進まなければならず面倒になって諦めた。
それにしても、少し早過ぎはしないか。昨年の作業日誌に何か書いてあるかと調べてみたら、9月30日に「ツタウルシも、ぼつぼつ散るか」とあり、とすれば9月の半ばごろには、あの辺りの森はツタウルシの紅葉で真っ赤に燃えるだろう。まあ、急ぐこともない。毎年のことながら、少しでも長い秋であることを願っている。
その作業日誌には、これもまた例年のことながら、「牛が下りたら、誰にも遠慮せずに旅に出る」というお定まりの決意と、それと佐藤春夫の「秋刀魚の歌」の一節が走り書きしてあり、思わず一人笑いをした。この詩も、このころの季節になると決まって思い出す。
あはれ
秋風よ
情(こころ)あらば伝へてよ
―――男ありて
今日の夕餉に ひとり
さんまを食らいて
思ひにふける と。
恐らく、この詩を知ったのは十代のころ、いや、遅くとも二十代には知っていた。詩の背景も分かっていた。そのころはまさか、人妻に恋することはないにしても、何十年後かの自分が一人陋屋でサンマならぬシシャモを喰らいながら、この詩を口ずさむことになるとは思いもしなかっただろう。
いや、考えてみれば、この山の中の牧場で13年も牛守を続けたことは思いもよらぬことだったのか、あるいは昨夜のようにちゃぶ台にシシャモと豚汁と豆腐、それに少々の香の物を加え、ビールを冷水代わりに一人熱燗をすする姿は想像もしなかったことだったのか・・・。
秋の夜には明るい灯火の下で、家族の団欒が当然にあると信じていたのだろうか。ムー。
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