入笠牧場その日その時

入笠牧場の花.星.動物

     ’21年「秋」(46)

2021年10月30日 | キャンプ場および宿泊施設の案内など


 この左手に古い4等三角点の設置された小高い丘がある。この丘全体を100㍍から200㍍くらいの木の牧柵で囲い、そこへ第2牧区から吊り橋を架け、訪問者はそうやって自然の懐へ入っていくという案を以前からずっと暖めてきた。ここで呟いたこともある。その程度の人工的な手を加えても、この景観は損なわれず、牛の移動の妨げにもならないだろう。
 そして、視界の半分を占める茜色に染まる大きな空と、波のように山並みを重ねるもう半分の大地、それを眼下にして、誰しもが詩人のようにそれぞれの深い想いに耽り、浸れる。いつもは忘れている、一瞬が永遠と同化することを体感し、感動できるかも知れない。
 これは、このきょうの写真のような秋の夕暮れに訪れた場合の一例であり、季節によっても、時間によっても、新たな異なった感動や感慨を味わい、抱くことが必ずやできるだろう。

 入場料は頂戴する。ビール、ワイン、チーズくらいは下の小屋で販売し、そこからは歩行者専用の山道を登る。20分くらいだろうか。その案もある。
 人が自然と無理なく共存できる場所を少しづつ探り、立ち止まり、振り返り、長い時間をかけて牧場を新たな方向へと改革を進めていく。観光客が増え溢れ、地元に金が落ち、活性化云々という従来の観光に対する考え方や策とは違う新しい方向、牧場の行先が見付かるかも知れない。
 そうでなければやがてここは荒れ、ススキや落葉松が放埓を極めた自然に帰っていくだろう。それも選択肢の一つではあろうが、いずれの結果であれ、それを目にすることはないだろう。

 近いうちにまた映画の撮影が決まっている。それに必要な鹿を1頭捕獲しなければならないが、頼める人が思い付かない。大型の囲い罠は誘引を続けているものの、これも仕掛けはまだだ。下からは催促されているし、鹿の鳴き声はよく耳にしても、アイツらの間にはこの罠にだけは近付かないようにとお触れでも出ているのか、まったく接近の気配がない。
 週末は2組、7,8人のキャンパーが来る。そうなれば余計に鹿は近付くまい。昨夜もそうだったが、山は寒くなる一方で、鹿の行動も変わってくる。里に向かう頭数も増えるだろう。最悪の場合でも1頭だけは確保できるよう、その策を考えておかねば。
 
 初夏のころに伐り倒したコナシの木をチェーンソーを使って整理していたら、昨夜の寒さが嘘のように、すっかり汗をかいてしまった。本日はこの辺で、明日は沈黙します。
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     ’21年「秋」(45)

2021年10月29日 | キャンプ場および宿泊施設の案内など


 今晩は。こんな山の牧にある小屋から、しかも夜中に、久しぶりに一筆いたします。その後久しくお会いしてませんし、消息も耳にしてませんが如何ですか。紅葉の時季には是非また訪れたいと仰っていましたが、そんなことはもう忘れてしまったでしょうか。
 
 暮れなずむ第1牧区から、貴方は黙ってゆっくりと西の山に落ちていく赤い夕陽を見ていましたね。あの時、何を思い、何を考えていたのでしょうか。現実の暮らしと、目の前に見えている壮麗な自然とのあまりに非情な乖離、そんなことを感じていたのではないでしょうか。風は落ち、物音は絶え、空が次第に闇の領域に入っていくのをじっと許しながら。
 本当に不思議です。自然は、誰よりも多くを語り、またじっくりと聞いてくれます。しかしそれは饒舌というのではなく、また押し付けがましくもありません。自然からの返答は、人の言葉に翻訳するのが難しいのですが、誠実さに欠けることはありません。そう思います。
 残照が消えかけ、空が溶暗されていく。その一瞬は儚く、それでいて永遠にも繋がる気きがします。まるでそう、10の33乗年ほどにも及ぶような。

 昨日里に帰ったとき、日よけの帽子は家に置いて毛糸の帽子を持って来ました。以前に、オーストラリア製だと自慢したら、貴方は大人が子供を見るような目で笑っていましたね。セーターやフリースも、羽毛服も、古着屋でも閉口しそうなシロモノになってしまいました。いたしかないことで、それらを身に付ける本人が、すっかりポキンポキの枯れ枝に似てきたのですから。
 いや、正確に言うなら、まだ生渇きです。幾つになっても人はそうだと思います。悟ったようなことを言ったり、分別を誇示したりするのは虚勢であり演技です。だから、と言ったらよいのかこんな詮のない、伝わるかどうか分からない気持ちまでも、架空の貴方に今夜は吐露したのです。強い酒のせいにしておいてください。
 夜が明けてきました。何卒お元気で。

 本日はこの辺で。
 
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     ’21年「秋」(44)

2021年10月28日 | キャンプ場および宿泊施設の案内など

                                   Photo by Ume氏

 文句のない秋日和。演出に苦慮していた様子の自然が、ようやくにして見せてくれた色彩の見事さを褒めたい。案じていたモミジやカエデはまだしばらく気を揉み続けることになりそうだが、栗やクヌギ、ナラの葉は夏の間の不愛想で鬱陶しい深緑の色が、白色と黄色が混入されて明るい黄緑色に変わっている。森や林全体の色調は黄色が主体でも、そこに太陽の光を吸った薄い朱の色が混ざり、さっきの明るい緑の色もそれなりに所を得て、それにきょうのような青一色の空の下では、モミの巨木の深緑色もいい引き立て役になっている。
 視界の拡がる所までさらに上っていくと、それだけ落葉が進んでいる証拠に、ダケカンバや白樺の白い樹幹が目立つようになり、谷の向こうの縞状に見えているコナシも遠目には大分葡萄酒色になってきた。初の沢が削った深い谷の一画を占める落葉松の人工林の色も、大分赤黒い濁りが取れつつあるようだ。
 午後になって空の青さが一段と深まり、そのせいでか平面的であった空が穹を感じさせるようになってきた。静かだ。

 滅多にないことだが、昨日は1日中里にいた。今夜からまた山の暮らしに戻る。里にいても上にいても2、3日もすれば、どちらであれ、そこが本来自分の生活する場所だと思うようになるのだから面白い。まだ少し里の気分を引き摺ってはいるけれど、すでに新米は焚いてあるし、今夜は例のごとく熱燗にビール、そしておでん、塩気の効いた鮭、オニオンスライスには特製の極辛の酢、もう一品は焼野菜などでもとを考えている。
 程よい酔いは、はて、これからどこへ連れて行ってくれるのか。鹿が鳴いている。
 本日はこの辺で。


 

 
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     ’21年「秋」(43)

2021年10月26日 | キャンプ場および宿泊施設の案内など

                                   Photo by Ume氏
 
 昨夜から今朝にかけての雨、1,700㍍のこの辺りでは雪、少なくとも霙だったようだ。昨日は第4牧区は小入笠まで、第1牧区は半分ほど牧柵の補修などをして少し雨に濡れ、風呂に入りたい気持ちを抑え難く、また山を下った。
 管理棟内にある風呂は、先日の零下4度の寒さであえなく故障、それに昨夏燃焼方式を石油からガスに切り替え追い焚きができなくなったため、この風呂を利用する機会はすっかり減ってしまった。里にいれば、暇つぶしを兼ねて日に2度、3度入ることもある者にとってこれはかなりの苦痛で、唯一の楽しみである晩酌を医者や暴妻に止められたようなもの、かも知れないと想像したりする。



 ともかくも、ド日陰の大曲がりに差し掛かったところで路肩に白いモノを見た。明らかに霜とは違っていた。さらに上に来ると、最早疑いもなく白いモノは雪が降った跡だと分かった。
 まだ10月である。気象予報は、悪天候の場合はそれを強調する傾向があり、きょうは「北風で体感ダウン」とか「沿岸部は暴風警報」などの言葉が見えたものの、昨日の雨の予報で「高い所では雪になる」というような警報はなかったと思う。
 どうも気象予報の悪口を言うと快く思わない者が約1名ほどいて、(「済まんな」)、それにこんな山の上の気象についてまで正確な予報を期待するのは無理だとは分かっている。しかしそれでも、昨夜のような霙交じりの雨は、厳冬期の湿度の低い雪に比べても厄介で、より危険でもある。2000㍍にも満たない山にこの時季に、霙であっても雪が降るというのはかなり珍しいことで、紅葉を求めて入山する人も多いだけに情報発信の価値はあったと思う。

 囲い罠の中に鹿が2頭入っている。罠は作動してないから出ようと思えば出れるはずなのに、さっきから入り口の数メートル手前で引き返すことを繰り返している。いざとなれば有刺鉄線や電牧を切る鹿が、上から落ちてくる罠のゲートの仕組みまでは知らないはずなのに、どうして怖れるのか不思議だ。

 Ume氏のきょうの写真は初の沢の大曲がり付近で撮ったもの。マユミの桃色がまた一段と濃くなった。山道には落葉が目立ち、紅葉もそれなりに始まった。本日はこの辺で。
 
 


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     ’21年「秋」(42)

2021年10月25日 | キャンプ場および宿泊施設の案内など


 今朝9時の気温4度、今にも雪でも降ってきそうな曇り空だった。今は雨が降っている。少し気が早いかも知れないが、きょうの天気からは初冬を思わせるような侘しさを感じている。

 紅葉に関しては昨日もUme氏と、いつもの年とは大分様子が違いはしないかと話したばかりで、初の沢の大曲がりの紅葉や、オトトイタ氏が鹿の観察にしている場所から見える7,8本のカエデだかモミジも赤茶けてしまい、今年はいつもの紅葉を諦めることになるのだろうか。
 きょうの写真はつい最近撮ったもので、この木は例年と変わらず期待通りの紅葉を見せてくれている。しかし、幾つか指標にしている牧場の内外のモミジやカエデは、艶やかな色合いを見せられぬまま落葉を迎えそうで気になる。
 
 花札ではないが、モミジとくれば鹿のことも呟いておきたい。まず誘引を続けている囲い罠については、牛が下牧してからほぼ1ヶ月近くになるのに、鹿が中に進入している形跡はない。やはり、牛と一緒に罠の中に迷い込んだあの5頭の鹿のせいだろうか。注目している。
 牛の放牧を控えた第3牧区は、常に100頭から時には200頭を超える鹿によって牧草は食べ尽くされてしまった。その他の牧区にも多数の鹿が里に下らずにいまだに繁殖を兼ねて居残っている。あの数の雌鹿が来春に子を出産すると考えれば、空恐ろしくなる。
 先日テレビで南米のどこかの国で、外来種のカバがたくさん住み着くようになってしまって、取り敢えずは個体数をそれ以上増やさないための対策として、何と「ゴナコン」という避妊薬がカバの身体に撃ち込まれている映像を見た。大いに驚いた。
 カバに使う避妊薬があるなら、鹿にも使える薬がありそうなものだが、ないというのだから不思議だ。あの避妊薬は液体で、注射器のような形状の物が腿の辺りに刺さっていた。液体の薬を粉末状にすることはそれほど難しいのだろうか。あるいは鹿に応用することが。
 粉末の避妊薬についてはその使用方法案をすでに呟いてあるが、とにかく入笠牧場についてはもう、鹿対策として銃や罠で駆除する段階はとっくに過ぎている。国にも県にも獣害対策室はある。行政はどこまで実態をつかみ、その対策に努めているのか、いろいろなややこしい事情もあるのだろうが、是非とも聞いてみたい。

 M田さん久しぶり、元気にしてますか。本日はこの辺で。
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