この牛たちに日陰を提供しているミズナラの大木のすぐ近くに、1本の沢が流れている。好きな場所で、きょうは電気牧柵下の草刈りでその沢を何度も渡渉し、行ったり来たりした。そうするとその度に、快い瀬の音が聞こえてきて、気が休まった。
一体、あの沢はどこへ流れ落ちていくのかと2万5千分の1の地図で調べてみたが、よく分からない。その昔、鎌倉幕府が倒れ、その残党が高時の遺児、時行を中心にこの辺りに潜伏していたという話を聞くが、彼らもきっとこの沢の水の世話になっただろうと信じている。
沢は牧場から流れ出ると、その先に行くことを拒むかのように急峻な渓と化し、一度は下ってみたいと思っていながらもその機会は訪れず、今は諦めてしまった。牧場の周囲にはそういう場所が他にもある。
入笠一帯は水が豊富な山で、地質的には表土が薄く、その下は恐らく岩で構成されていて、伊那側も富士見側もそのせいで沢や渓が多いのだろう。
何日もかけた草刈りをきょう終えることができた。それでも達成感は湧いてこなかった。ある人が、鹿対策用の電気牧柵は「やらないよりやった方が良い」と言ったそうだが、その程度の効果のために、随分と手間暇をかけてしまったことになる。
この一周すれば2,3キロはある第1牧区の電気牧柵の電圧を、一定の高さ(例えば6千ボルト)で維持するために、どれほどの労力が求められるか、そういう人は全く分かっていない。当然その効果も知らなければ、実態も分かるまい。確かに牧草の被害は無視できない重要な問題だが、牧守の立場からすれば、それに劣らず牧柵の被害も勝るとも劣らない大きな問題である。
鹿は牛と違って、有刺鉄線の牧柵だろうと、アルミ線の電気牧柵だろうと、とにかく切る。どういうふうにするのか分からないが、その際には犠牲になる鹿が何頭も出るだろう。とにかくその頭数たるや、ここでは少しも減少傾向が見られない。
先程、電圧を計りにいったら6千ボルトあった。3千ボルト程度だったら電気を流すのを止めようかと思っていたが、これならしばらくではあるが、効果が期待できるかも知れない。その程度だ。
きょうで8月も終わる。もう、「秋雨前線」などという言葉が聞こえてきた。このままここの短い夏が終わってしまうのなら、去っていく季節に同情してしまう。牛の下牧は9月の29日と決まった。これもいつもよりか早い。
本日はこの辺で。