入笠牧場その日その時

入笠牧場の花.星.動物

     ’22年「秋」(24)

2022年08月31日 | キャンプ場および宿泊施設の案内など


 8月もきょうで終わる。それについては格別な感慨はない。いつも天気ばかりを気にし、耳にタコができるほど自然災害への注意、備えを聞かされた1ヶ月だったという気がする。
 
 大地の女神であるガイアにしてみれば、体内に侵入したウイルスのような存在がわれわれ人間であり、そのせいで女神・地球は今大変に苦しんでいる・・・、というような考え方にこれだけ不順な天気が続けば頷きたくなる。就中温暖化は、今や北極の氷を融かし、異常気象を頻発させ、それが御年46億歳の女神にすれば、ついこの間生まれたばかりの人間という毒素のせいだと分れば当然、どんな抗体を使うかは知らないが、これを消し去ろうとするだろう。
 人類は結構長く生き続けると考える人もいるが、あるいはそうならないかも知れない。文明は多くの恩恵をもたらしたが、人間の本性はあまり進歩せず、争いは絶えず、地球は宇宙から眺めたような美しい平和な惑星ではなくて、下手をすれば、地球までも死の星にしかねない危うさがある。

 そういう、一介の牛守には手の負えない、難しいことを呟くつもりはなかった。それより昨日、チラッとテレビを見たら、熟年離婚が増えているということを言っていた。夫婦喧嘩の原因について、妻が何でも冷蔵庫に入れるので食品の味が落ちると夫が注意し、それでモメて、ついには離婚に至ったという深遠な夫婦の機微を例にして報じていた。
 そんな高尚な夫婦のことについても何かを呟く資格なぞないのだが、確かに食品によっては冷蔵庫に入れると味が落ちるということは真実だとは思う。会ったこと、見たことのない夫婦の不幸はさて置き、このことはかなり重要なことだと思っている。
 たとえば、アジの干物、焼いたばかりは実に美味い。サケでもそうだ。ところが、これらを冷蔵庫で冷やしてしまうと、佳人はたちまち醜女に変貌してしまう。どうも焼き魚にその傾向が強い。
 かと思えば、キノコは逆に味がよくなるそうだ。これは真実かどうか、今秋に試してみたいと思っているが、今年の春、冷凍庫に仕舞い忘れていたマツタケを天婦羅にしたら意外なほど旨かったと呟いたことがあるように、これも正しいかも分からない。

 最近は雑キノコが不作でなかなか手に入らないと、何でも手に入りそうな松本の友人が語っていた。いけない、ようやく身の丈に合った秋らしい話題になったところで、出掛けなければならなくなった。きょうも曇り空ながら秋らしい日和で助かる。

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 本日はこの辺で。

 
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     ’22年「秋」(23)

2022年08月30日 | キャンプ場および宿泊施設の案内など


 午前8時、曇天、気温18度。牛の声がする。塩を催促しているように聞こえるがどうだろう。ホルスが6頭と和牛が2頭、囲いの中に入ってくるのが見える。昨日も給塩はしてあるが、恐らく和牛の群れに独占されて分け前にはありつけなかったのだろう。同じ和牛の群れに入ろうとしないあの2頭の黒毛も、その部類かも知れない。
 他の和牛たちどこにいるか分からないが、気付かれないうちに配合飼料も混ぜた塩を持っていってやった。ホルスはすぐに塩鉢に群がったが、和牛は直接与えて欲しかったのだろうか、囲いの出口まで後を追いかけてきた。外に出て扉を閉めたら、2頭は踵を返して塩鉢の方へ走っていった。
 霧が深くなってきた。そのうちにまた天は泣きだすだろう。

 雨が降ったら、集計の済んだ今月の売り上げ金を持って高遠支所まで行くつもりだったが、このはっきりしない天気で迷っている。午後からは予定が入っているが、午前中は頭数確認と電牧の点検をすれば、他にどうしてもやらなければならないという仕事はない。時間的には都合が付くが、しかしきょうは下へ行くくらいならここで少し身体を休めていたいという気がしている。
 疲労を特に感じているわけではないが、昨夜はまた10時間近くも眠った。この睡眠時間を大雑把な体調管理の基準にしていて、それからすると、きょうは静かにしていた方がいいということになる。まだ草刈りが残っているが、昨日も右肩が痛むくらいやり「もういい」、という気分だ。天候にもよるが、どうせまたすぐに忙しくなる。

 強いて疲労の原因を挙げれば、昨日は頭数確認に手間取り、しかも小入笠の頭に2度登った。電牧の整備点検を済ませ、最終点で電圧を計ろうとしたら電圧計が作動しない。仕方なく下へきて、電池を新しいのと交換して、今度は防火帯を途中まで軽トラで上がった。
 やはり電池のせいだった。電圧はすぐに最高で6千700ボルトを示してひとまず安心させてくれたが、本当は7千ボルトを越えて欲しかった。それにしてもまったく、この電牧の電圧には常に一喜一憂させられる。まあ、それを計るのが楽しみで、毎日のようにあそこまで登るわけだが。

 霧が一段と深くなってきた。雨は微妙なところで、午前中は保つかも知れないが、午後は確実に駄目だろう。ガイアは涙もろくなるばかりで、今週もまた好天は見込めそうにない。

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 本日はこの辺で。


 
 

 
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     ’22年「秋」(22)

2022年08月29日 | キャンプ場および宿泊施設の案内など


 8月最後の土曜と日曜、年間を通して最も賑わう恒例の「祭り」が終わり、人々は去っていった。前夜の盛況がまるで嘘のようにまたいつもの平穏が戻ってくると、一人だけが取り残された寂寥というのか、アルコールによって増幅されていく孤独感をこんな山の牧で深夜、いつもに増してヒシヒシと感じている。ただ、この水底へでも沈んでいくような感覚も、快感の部類に入れていいだろう。
 
 それにしても真夜中の時間が経つのは早い。いつの間にか1時間が過ぎてしまい、その間に考えていたことといったら、隣の小屋の冷蔵庫にあるビールを取にいこうかどうかと、他愛もない逡巡を重ねていただけだった気がする。管理棟の冷蔵庫は小さ過ぎるのだ。
 
 先程外に出てみたら、薄雲がかかっていて期待したような星空は見えなかったから、それがどうなったのか、ビールもだが、外に出たついでに見ておきたくなってきた。
 で、行ってみた。まずはカシオペアを探し、それから東方向の夜空に目を向けてみると、まるで知らない土地にでも行ったような馴染みのない星々ばかりが見えて、携帯電話の星座表に頼ったり、ついには愛用のカールツアイスまで持ち出してみたが、それでもあまりはっきりしない。
 
 実は惑星や星座の知識はそのくらいでしかない。だからここで次々と星座の名前を挙げ、さらに火星を見たとか冥王星を見たとか、冬の夜空でお馴染みのふたご座までも視界に入れたとか、そういうことを得意気に語る勇気などとてもない。天頂よりか少し西に、とりわけ目立つ明るい星が木星であるかさえも、断言しない方がいいだろう。
 ここにあるタカハシ製の100ミリ屈折望遠鏡も、月を見て、その他は木星と土星を見るくらいが関の山だ。なにしろ、いまだに望遠鏡の取り扱い説明書を開いたこともなければ、極軸望遠鏡の扱い方すら知らないくらいだから。

 午前3時、ようやくオリオン座を東の空に確認した。それでも、あの冬の夜空で主役を張るような輝き、精彩には程遠く、かろうじて脇役で出ることになった化粧前の老女優を見たような気がした。
 いかん、寝よう。今から寝て、普通の時間に起きても寝不足の心配はないはずだ。昨夜は8時に眠った。

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 本日はここまで。

 

 
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     ’22年「秋」(21)

2022年08月27日 | キャンプ場および宿泊施設の案内など


 まだ少し気が早いのは承知で、ツタウルシの色付き始めた1枚の葉、この秋2回目の登場になる。今朝は空の広い範囲で青空が拡がっている。午前8時、気温21度。しかしこの好天も夜には雨になるらしい。



 珍しい物を見付けた、昨日のことだ。追い上げ坂と隣接する第2牧区のススキを刈っていたら、下方の囲い罠の中に幾頭かの乳牛と1頭のジャージー牛が戻っているのが見えた。普段の給塩時には乳牛は和牛に遠慮してしまうから、いい機会だと作業を中止して和牛に気付かれないうちに塩を持っていってやることにした。
 囲いの扉を開けようとしたら泥の中に光る物が見えた。それが、2年前だか3年前だかになくしたナイフだとすぐに分かった。刃はすっかり錆びていたが、柄の部分にステンレスが使われていて、光っていたのはその部分だった。

 あれはどういう理由だったか、もう詳しいことは思い出せないが当時2代目になる種牛がいて、その雄牛が狂暴で、そのことと関係していたことは間違いない。囲いの牧草だけでは足らず、草を乾燥させロール状にしたヘイキューブを下から運び上げ、囲いの中に入れる際に干し草を包んだビニールを切るためにこのナイフを持ち出し、気が付けば行方が分からなくなってしまっていたのだ。
 素晴らしい切れ味で、ナイフのケースを見れば分かるがまだ新品同様だった。確か四国の伝統のある品だったと思う。

「砂山の砂を指で掘ってたら、真っ赤に錆びたジャックナイフが出てきたぜ。どこのどいたが埋めたか、胸にジーンとくる小島の秋だ」なんて古い歌を唄いながら、錆びを落とし、研いでみた。以前のような輝きは無理でも、さすが名のある山刀、刃こぼれはなくて切れ味はそこそこ復活しそうだ。
 鹿の止め射しには刃の長さが少し足りないが、もうそんなことに使うことはないだろう。

 2組、30人くらいの人たちが今週末をここで過ごす。そして恒例の集まりが終われば、またいつもの静かな牧に帰り、本格的な秋が来る。
 ここにはコスモスの花が咲かない。里との往復が間遠くなって、そんなことを今頃になって気付いた。

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 本日はここまで。明日は沈黙します。
 

 
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     ’22年「秋」(20)

2022年08月26日 | キャンプ場および宿泊施設の案内など


 この季節、またススキの穂が目立つようになってきた。特に牛を放牧してない場所は、どんどんと増殖する。春、秋に努めて草刈りをするのだが、実はやればやるほど生育を活性化させてしまうことにもなる。そうだとしても、しかし放置できないから、空しいイタチゴッコを繰り返すことになる。
 かつて牧場だった場所が何とか観光地に変わって命脈を保てても、そんな場所を訪ねてみれば最早ススキに覆われて往時の面影は殆どない。この牧場も牛が来なくなれば、同じ運命を辿ることになるだろう。

 昨日の頭数確認では牧区内を一巡した結果、11頭も未確認の牛が出てしまった。時折流れ込む深い霧のせいもあって、あまり見通しは良くなかった。有難いことに、電牧は無事であったから、柵外に牛が出たという心配はなかった。それでも、これだけの頭数の確認ができないとなると、自分の気が収まらない。
 再度、今度は中心から登り直した。この段階で、すでに映画出演を果たした22番のホルスが未確認なことは分かっていたから、とりあえずこの群れを探した。そして、中断より少し上の落葉松の疎林の中で、一際目立つこの牛と群を発見した。4頭いて、いずれも乳牛だった。
 その後さらに登っていくと、和牛の群れ7頭がいた。その前の乳牛と合わせれば計11頭、未確認の頭数と合致する。ここでさらに牧場の管理番号を確認するため、それぞれの牛に接近する。畜主は同じでも、最初から入牧した牛と、中間検査から来た牛とが混ざっていた。
 やはり、中間から上がってきた35番は警戒心が強く、耳に付けた管理番号をなかなか読ませようとしない。こういう時は「ようし、よし」と声を掛け、さらに背を低く見せるため屈む。すると、6月から入牧して牧守に慣れている牛が近寄ってきて帽子を舐めたり、不細工な顔を近づけてくる。角に気を付けながら鼻の辺りに触れてやったりすると、それを見ていた35番が少しだけ警戒心を解く。

 牛にも個性がある。外見では見分けがつかない牛が多いから、管理番号を頼りにその違いを知ったり、判断をする。数学者だか哲学者だかの和牛の27番は1頭だけ、この頃は畜主が同じホルスと一緒にいて、他の和牛とは相変わらず一線を画している。
 わずかの期間では人間には区別ができずとも、牛たちには同じ蓄舎にいた牛が分かるのだから面白い。珍しく昨日は和牛の34番が1頭だけ、他の畜主の群れの中にいた。人間もそうだが、牛でも鹿でも変わり種はいる、ということだろう。

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