家を出た時はかなり激しく降っていた雨も、上まで来ると雨脚はかなり弱まった。こういうことはよくあり、それほど珍しいことではない。心配していた牛たちも囲いの中で、乏しくなった草を元気で食んでいるようだ。ただ、さすがに里よりか1千メートルほど高いだけに、風はかなり激しく吹いている。こうした天候を一向に気に掛けないのか、郭公の声だけがさっきから風の音に混じって聞こえてくる。
昨日、6月はそれほど雨に祟られなかったなどと呟いたから、早速今日のような荒れ模様の天気を見舞うはめになった。しかし、こんなことは予想の範囲、雨でも風でも降りたければ降ればいいし、吹きたければ好きなだけ吹けばいい。こんな人里離れた山の中、それで困る人など数少ない。唯一怖れるのは牛の脱柵。
きょうは霧が深く、第1牧区の全頭確認は困難かと思ったが、車で一巡して2群、10頭を確認、その後は歩きに切り換えさらに一巡、林の中で15頭の無事を確認できた。
第1牧区には「雷電様」と呼ばれる、地元民が雨乞いをした場所があると、すでに何度か呟いた。そこにある祠は江戸時代の作で、高座岩の碑などよりかも古いことも併せて独りごちった。大袈裟になるかも知れないが、稲作伝来より2千数百年、農民はずっと思う通りにいかない天候に苦しみ、翻弄され、そして祈った。祈ることが最後の手段だった。あそこは、そうした当時の人々の必死な思いを伝える場所として、今もそのままになっている。
当時は落葉松の人工林などなく、目の前に「雨乞い岳(入笠山)」が見えていたに違いなく、それなのになぜ雨乞い岳の頂きで雨乞いをしなかったのだろうか。もしかしたら、さすがに山頂で神様を怒らせるのは畏れ多いと憚かり、敢えてあの場所にしたということも考えられなくもない。だが、本当のことはもう分からないだろう。
囲いの中の牛の動きが目立つようになった。草が少なくなったからに違いない。マッキーは仲良し相手を見付けようと熱心だがどうもイマイチで、嗚呼、さっきからずっと一緒だった相手は座ってしまった。それでも傍から離れない。あれ、今度はマッキーまで横に腰を下ろしてしまった。その2頭の後ろ姿は微笑ましいと言えばそうだけど、後でマッキーに八つ当たりされるのだろうか。タマラナイ。
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