ああ、うつくしいと思う。ことばが絵を描いている。それを僕はこころの目で見ている。ぼんやり者なのに鮮やかに見えている。短歌は読む者のこころのキャンバスに写して描かせる絵なのか。
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最上川の上空にしてのこれるは未だうつくしき虹の断片 斎藤茂吉
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この歌の歌碑が山形県大石田町今宿虹ヶ丘に建っている。昭和21年の作。
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虹が立つには雨がいる。降っていた雨が上がったのだ。雲が晴れ、最上川が爽やかになってそこに光が溢れている。しばらくそうしていても虹の断片は容易に毀されない。空をうつくしく飾っておきたいという善意が、虹をいつまでもそうさせているらしい。季節はやはり夏か。夏に入るころか。空をうつくしくさせている虹は、この時、見上げる者の目をも同時に等しくうつくしくしている。自然のものの意思が放つ光沢に対して人間の佇立が止まない。