おもひおくことはない ゆふべの芋の葉がひらひら 種田山頭火
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後生の一大事を思っているのであるが、もう思ってしまったので落ち着いた。この先思いおくことはない、と言っているようでもあるが、「おもい置くことはほんとうにないのか」と自らへ疑問を呈しているようでもある。執着はなかなかに切り離せない。惑いに惑う。切り離したと思っているといつのまにかまたべったりとへばりついている。夕べの涼しい風が吹いて里芋の葉はひらひらしている。まるで執着がない。どうでもいいことをどうでもいいことにしていられる芋の葉の前で、山頭火が乱れている。文学などと言うものはみなこころの乱れの表現である。乱れていなければ何も筆を起こして語ることはないだろう。後生の一大事とは、我が死の一大事である。死んでしまうまではこれが重たい。