老醜の棲める洞窟 まだ死なぬ性なる蛇へ冬の日の射す 薬王華蔵
*
性はすなわち生への執着かもしれぬ。老醜の身のうちに執拗に生きている。ここへ薄ら寒い冬の日が射している。
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醜い。こころの洞窟の中とはいえど醜い。
老醜の棲める洞窟 まだ死なぬ性なる蛇へ冬の日の射す 薬王華蔵
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性はすなわち生への執着かもしれぬ。老醜の身のうちに執拗に生きている。ここへ薄ら寒い冬の日が射している。
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醜い。こころの洞窟の中とはいえど醜い。
手袋を着けたくらいであたたまれるものかと高を括っていたので、それは箪笥の引き出しにしまって置いたままだったのに、今朝思い切ってそれを出して手に嵌めてみると、高を括らなくてもよかったということに行き着いた。あたたまれた。左手は炬燵の中にしまい込んでいるので、手袋は右手だけ。悴(かじか)んでいた指の、霜柱が解けている。
これは3年ほど前の歳末に銀行さんからもらったトムアンドジェリーの手袋である。銀行員さんがとっても親切でその上やわらかでなまめしかったから、その「華やいだ美人さんの手袋」という思い込みにすり替わっているのだろうか。だったら不届き千万ということになる。醜悪な老爺にはあってはならない不届きな、あたたかい思いだ。
冷え込んだ1月の朝。まだとても春とは言いにくい。そこへ太陽の焔(ほのお)の、光が射している。ベランダの自転車にも、洗濯物にも、干し柿にも、前庭にも西の畑にも、それがきっちり届いている。「これで温まれ」というように。室内にいる僕は光に手を差し出せないで、今朝は珍しくトムアンドジェリーの手袋を嵌めて、寒さ対策をしている。太陽の焔は僕より遠いところで、焔の髪を伸ばしている。