筆者はスペイン語圏が好きだ。つい先ほどニカラグアを旋風訪問してきた。ネットで予約したマナグアのホテルの受付が「首絞め強盗が多いから一人で外に出るな」と言いホテルの車で市内の見所を案内してくれた。だがタクシーの運ちゃんに睡眠薬入りのお茶をご馳走され、身ぐるみ剥がれ経験もある筆者は恐れず、翌日からバックパッカーに戻りグラナダに向かった。
ニカラグアは大変不幸な歴史を持ち経済発展はこれからの課題だ。スペインから独立したのは1821年だが、自由派対保守派の内戦、英国の支配、米国の介入と傀儡政権、サンディーノの戦い、1972年の地震によるマナグアその他の壊滅、ソモサの悪政、国家債務、米国の再度の介入や米国企業の進出等、読むほどにつらくなる歴史を持ち、貧困対策はさぞ難問であろうと思える。どの通りにも痩せ枯れて手を差し出した老人が座っている。いたいけな子どもが逞しく物売りしている。バスに乗り込んで物売りや動物の物まねをする子どもにスナックをあげ、不要なものでも買ってあげた。H1N1はまだ盛んだと外務省の注意にあり、三つの注意を合言葉にしつつ歩いた。「強盗に注意、H1N1に注意、下痢に注意!」。長距離バスは冷房がなく窓から風と埃が入ってくるので花粉症マスクが大変役に立った。消化器系のばい菌を殺そうと食事毎ビールは必ず注文し(Victoria, 70セント)、時にはビールでグラスをこっそり拭いて残りを飲んだ。
グラナダは古い伝統を守っている魅力的な町だ。16世紀のコロニアルスタイルの家並みを見ながらカルサダ通りをニカラグア湖まで歩き、きれいに霞むモンバチョの丘を眺め、2頭立ての馬車に乗り、コロン公園周辺を快適な蹄の音を立てながら優雅に観光した。
その時思い出した。今日は誕生日だ!下痢に注意、と言ったって今日ぐらいは食べなくちゃ。道路端の丸テーブルに座り、ビーフサンドを注文した。すると3歳ぐらいの可愛い顔立ちの女の子がチョコンとテーブルの向かい側に座った。恰も招待されたかのごとく澄ました顔で座り手をさしだした。熱々のフライドオニオンを手に載せてあげるとニッコリして食べ始めた。手も顔も汚れてまっ黒。大きなサンドイッチも半分に分けてお皿に載せてあげた。周囲の食事客たちが筆者たちに微笑んだ。彼女も幸せ、誕生日に食事を分ける相手が現れた筆者もハッピーだった。(彩の渦輪)