3年もの間行方不明だった夫がある日突然帰ってくる
そうして「俺、死んだよ」という
おまけに
これまでお世話になった人たちを訪ねて歩く旅に行かないかと誘ってくる
歯科医だった夫は自ら命を絶ったのだという
妻は自分のせいだろうかと思いながら3年間を過ごしてきたのだ
空白の時間を取り戻すように二人の旅が続く
誰からも見え、話もでき、食事もおいしそうに食べることのできる幽霊
夢でも幻でもない夫は寝息を立てて眠っている
自分が死んだことにも気づかずに生活している新聞配達の男
幼くして亡くなった妹を傷つけてしまった後悔をずっと引きずったまま生きている女
無理やり妻を引きずり込もうとしている消えかかった男をたしなめながら
自分たちはきちんと区切りをつけたいと思って帰ったきたのだ
あの世とこの世の境をさまよっている死者はいるのだろうか
どろどろした黒くて暗いものを抱え込んで
難解で理解に苦しんで観ていた黒沢清の作品が少しずつ変わってきている
それは年齢を経て培われてきたのだろうか
不可思議な世界はまだまだあるけれど
カンヌ国際映画祭で、ある視点部門で監督賞を受賞
フランス人の感性には琴線が触れたのだろう
私には涙が落ちるシーンは一つもなかった
でも、同じ境遇の人が見たらどんなふうに感じるのだろうか
昨日は彼の命日 明日は彼女の誕生日
死んだのはわかっているけれど
せめてこんな風にゆっくりとお互いの思いを伝えられるような旅ができたなら
どんなにかいいのに