「雨の日のできごと」

ざあざあと雨が降っていたから今頃だったろうか・・・

「奥さん、ちょっとつかまらせて」
と、小太りの女性が不意に私の腕をつかんできた。

傘をさしながら並んで歩く道すがら
「悪いねえ、こわくて」

この天気で足腰の具合が悪く
今も整形外科に行ってきた帰りだという。

少し行った先を右に曲がって二軒目の家だから
門のところまでくれば大丈夫だという。

「本当に何とお礼を言っていいか」と言われて
私はもと来た道を引き返した。

　
実は私も必死だった。
けがをして数年たってはいたが
雨の日はことさら調子が悪かった。
足も思うように上がらない。
傘をさせばうまくバランスもとらなければならない。

そこに「むんず」と腕をつかまれて
彼女の体重がぐっとかかってきた。

しっかり支えて歩かなければならない。
下手にふらついたりして
弱さを悟られたりしたら大変だ。

もう少しで家なのに
言うことをきかなくなった身体に
本当にどうしようもなくなって

外見的には「デカイ」体格の私に
とっさにすがってきた彼女を
見捨てるわけにはいかなかった。

それにしても
私の踏ん張りはいつまできくのだろう。

「身の程知らず」

今日はケアマネさんの来る日と
あれこれと食品を詰め込んだリュックを背負い
駅地下でお寿司を買い足すと
実家へとバスに乗り込んだ。

雨は小止みになったがバスの中は蒸し暑い。
少し窓をあける。

とあるバス停で、バスは停車したが
乗客がなかなか乗り込んで来ない
それにしても遅い・・・

どうしたのかしらと気になって
膝上のリュックとお寿司を席に置いて
ドアからのぞきこんだ。
と、歩道にいるおばあさんが
少し離れて止まったバスのステップまでの間を見て
ためらっている。

バスのステップは高いし遠いのだ。
歩道の下に降りるとびちょびちゃだし
ステップはますます高くなる。

手を貸そうと声を掛け
手を上からのばすと
すがってきたが
思うように足が上がらなかったらしく
両手をつかまれて
全体重をかけられてしまった。
そうして逆に
こちらが引っ張られてしまった。

しまったと思った時は
私もドアを降りるはめになり
彼女は元の場所に逆戻り
反動でゆっくりと座り込んだ。

それからが大変
横に抱えて乗るには
身長差がありすぎた。
うまく足も上がらないし曲がらないのだ。
後ろから抱え上げようか
押したらいいのかと
あれこれ試みているところに
別の乗客が荷物を持ってあげるからと
手伝い始めて
運転手さん登場。

運転手さんと押して何とか足も届いて
無事乗車

おばあさんは何度も私たちや運転手さんにお礼を言って
しばらく乗った後にゆっくりと下りて行った。

たぶん私の顔は青ざめていただろう。
夢中でやってしまったこととはいえ
自分はいったい何をやっているんだろうと思った。

運転手さんにもっと歩道にバスを寄せて
止めなおしてもらえばよかったのだ・・・

つい軽い気持ちで
ちょっと手を添えれば上がれるものと思い込んで
浅はかな出しゃばりでやってしまったことなのだが
正直ぞっとした。

まかり間違えば私はこの人を
どうにかしてしまったかもしれないのだ・・・

「身の程知らず」もいいところだ。


自分はもう若くはないし、力も以前のようにはないのだから。


本当に全然わかっていなかったのだ。
思い知れと思った。

後悔しても取り返しのつかないことになってしまっていたかもしれない。

二度と身の程知らずは繰り返さない事を誓った。

「ランチ会で・・・」

先日、ご近所さんたちとランチに出かけた。

歩いて10分ほどの所にある「隠れ家風のイタリアン」

ざあざあ降る雨の中、開店少し前の店になだれ込んだ。

こんな雨でも小さな店はすぐいっぱいになって
予約をしていたことに安堵した。

3回目の私とは違って彼女たちは初めてのお店。
ホロホロどりの前菜や
茄子とみょうがたけの手打ちのパスタに興味しんしんで
味わってはおしゃべりが楽しい。

夏休みを控えて、学校の話題、子どもの習いごと、病院の話、
帰省の話題と尽きない。

子どもさんが急に熱を出したりしたら
キャンセルとなるかもと結構心配したが
無事皆揃ってのランチができたのでほっとした。

それにしてもローンを払いながらの
教育費もこれからという世代なのに
消費税値上げやTPPの話が盛り上がらないのは
何だか不思議だった。

卵の賞味期限が1週間と短いのでスーパーをかえたそうだ。
よほど「卵は2カ月程もつのよ」と言おうと思ったが
そんな気になれなかった・・・

普段から生で食べることもないそうだが
賞味期限の切れた卵はどうしているのだろうか
と、ふと思った。

「梅雨の日々」

６月は晴れの日が多かった。
７月に入って３３度に迫るほど上昇して
「梅雨なのに・・・ねぇ」と言葉をかわしていた。

３０度越えが始まった頃は
前日が２０度に満たなかった日もあって
最高気温だったのが最低気温に変わっていたりと
めまぐるしかった。
「身体がついていかなくって・・・」

今年は「から梅雨」で暑さが続くのではと思いかけたが
雨はしとしと、ざあざあと降り始めて
この頃は開け放しておいた窓から入ってきた冷たい風に
寒気がして思わず閉めてしまうことも多い。


ひと段落ついて銀行にでかけることにした。
これではちょっと寒いかもと
着替えて外にでると
半袖を着ているのは私だけだった。

長袖のカーディガンや上着を着ている人ばかりで
何だか恥ずかしくなった。

足早に用事を済ませて帰る道すがら
黄色い大きなユリが咲いていた。
もう終わりかけだったが、通り過ぎると香りが追いかけて来た。

自転車で追い越して行った女性は
随分と着こんでいる。
ふりかけたように香水が薫って行き過ぎた。

冷房に入っているような肌寒さ。
でも「さむいぼ」ができるほどではないのに
半そで姿が一人もいないなんて・・・

仙台の私の梅雨のイメージは最高気温が１３度

「やませ」が吹いて日本で一番寒い都市だったが

今日はそれより１０度も高いはず
いまだに３３度の体感が残っているせいだろうか