デカダンとラーニング!?
パソコンの勉強と、西洋絵画や廃墟趣味について思うこと。
 



San Carlo alle Quattro Fontane


現在のローマの街並みは、バロック時代の空間造形が基になっているといっていいだろう。ルネサンスの後、教皇シクストゥス5世は、キリスト教の巡礼者が訪れるべき7つのバジリカを見通しの聞く直線道路で結び、広場にランドマークとして古代の記憶と結び付くオベリスクを立てて、明快な順序をもった巡礼路として整備する大事業を成し遂げた。
その構想はバロック時代の建築家たちによって、実現された。主な建築家を挙げると、16世紀にはドメニコ・フォンターナ、17世紀にはカルロ・ライナルディ、カルロ・マデルノ、ジャン・ロレンツォ・ベルニーニ、フランチェスコ・ボッロミーニ等、どこかで聞いたことのある名前がずらりと登場する。
現地で多くの人が集まる大きなバロック建築といえば、ヴァティカンにあるサン・ピエトロ寺院、トレビの泉、スペイン広場、ナヴォーナ広場などが挙げられ、どこだってすばらしいバロックの「舞台」であるが、それらはバロックうんぬんというより町の大きな目印の役割を担っているように思う。実際そういったところは、宗教上の聖地や映画の名シーンで使われた場所であることが多く、町の歴史など考えずとも、ローマに来たならとりあえず行っておきたいという意図がはたらいて歩いていけるシンボルといえばいいか。
しかし、ローマには町なかの小路を歩いてみて、ふと足を止めたくなるようなバロック時代の息吹を感じられるような雰囲気の建物も多いのだ。町なかにバロック建築の小さい教会を見つけたりしたら、有名な教会でなくとも外観をじっくり眺め、開いているなら入ってみるのがいい。といってはみたが、この記事で紹介するのはガイドブックにもしっかり載っている有名な小さい教会なのだが(笑)。
それはバルベリーニ広場からクァットロ・フォンターネ通りを上って行けば見つけられる聖堂である。大きなシンボルとは正反対な性格を持つといっていいような、注意していないと気づかずに通り過ぎてしまいそうになるほど町に溶け込んでいるサン・カルリーノ・アッレ・クアットロ・フォンターネ聖堂は、町なかで幻想都市を演出してくれている舞台装置的役割を果たしている美しくすばらしい聖堂であった。



床の模様


聖堂は建築家ボッロミーニのその絶頂期に建てられたが、同時に彼が初めて独立した仕事の作品である。冒頭の画像にあるファザードを見ただけで、バロック芸術コテコテの感じというのは分かるだろう。バロックについて書かれた本にはよく見られる記述だが、バロック時代の建物は、見る人を幻惑させるというか一種の陶酔感を与える特徴があるように思う。バロックの、古典的な規範を守りつつかつ崩してなお、ルネサンス芸術を受け継ぎ、それに力強さと曲線をとりいれた流動的な動きとリズム感を与えた清新な表現が、こういった幻惑や陶酔感を与える秘密なのかもしれない。
しかし、サン・カルリーノの魅力はそれらの特徴に加えて、独創的でかつ計算しつくして建てられているところにある。そういう意味でボッロミーニの奇才ぶりが存分に発揮された傑作といえるだろう。



天井は八角形・六角形・十字架の形が組み合わされ楕円で包まれているように見える

 



回廊(中庭)


聖堂自体は驚くほど小規模だが、中に入ってみると、幻想性と力強さを感じさせる演出効果にただ目を見張り、大きさのことなど忘れさせてくれる。抑えられた色調とマッチしている立体幾何学的な格天井は見上げるだけで吸い込まれそうになるし、調和という言葉がぴったり当てはまる回廊(中庭)の細部には独特なこだわりが見られて、見事というほか無かった。
聖堂には、妙な話だが「幻想都市ローマに迷い込みたい」衝動に駆りたたせるものがある。しかし、華やかなローマのなかではとびっきり目立っている存在ではなく、また場所的に少し離れている。にもかかわらず、開館時間は一日3時間程度と、私が思うに謙遜というかちょっぴり自己主張を抑え気味かもしれない。ローマという町を演出するバロック時代一級の舞台装置は、奥まったような場所にあっても訪れる者の目を奪うが、ほんの一時しか幻想を味わうことを許してくれないのであった。



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