1961年
大石が一番最後にロッカーへ帰ったとき河村が声をかけた。「あぶない、あぶない、とられるかと思ったよ」なんのことかと思ったら九回の右中間二塁打がホームランになりそうだったからだ。広島の投手は投手がホームランを打ったら全員が五百円ずつ出し合ってお祝いを贈ることにしている。七、八千円になるそうだ。河村はこれをいったわけだ。「はいると思ったのにな。ヘイの一番上に当ったらしい。ホームランならゼニははいるし、あすの新聞に巨人の11連勝をはばむサヨナラ・ホーマーなどとデカデカ出るのに、惜しいことをした。あのバッティング・フォームをみてくれましたか」とバットを振るマネをみせた。「あありっぱなフォームだったよ。打者に転向したらどうかね」と河村がひやかすと「ぼくも本気でそれを考えているんですよ。はじめの三振以外はみなバットの真シンだったですからね」バッターかピッチャーかわからないような大石の快気炎に河村もへきえきし逃げてしまった。大石は集まった記者団に「だれかタバコをくれませんか」といってハイライトをもらい一服吸ってやっとピッチングのことを話しだした。その腕は汗でドロドロ。顔にまで砂がついている。「スロースライダーがよくきまった。風がライトへ吹いていたでしょう。ギッチョの打者がこわくて。広岡さんのホームランもふつうならはいっていなかったでしょう。王、坂崎は外角ばかりねらい、長島にはむかっていった。ちょっとムキになりすぎるくらいね」六回には2球つづけて長島のアゴのあたりへ投げている。ビーンボールがときかれて「いや、気の弱いぼくになんか投げられませんよ」と一応否定したあと「といっておかないとたいへんだから・・・」と本音を吐いた。昨年はジャイアンツ・キラーといわれた大石もことしはこれが初勝利。「これからどんどん巨人さんに負けてもらいますよ」大石は不敵なことをいった。
大石が一番最後にロッカーへ帰ったとき河村が声をかけた。「あぶない、あぶない、とられるかと思ったよ」なんのことかと思ったら九回の右中間二塁打がホームランになりそうだったからだ。広島の投手は投手がホームランを打ったら全員が五百円ずつ出し合ってお祝いを贈ることにしている。七、八千円になるそうだ。河村はこれをいったわけだ。「はいると思ったのにな。ヘイの一番上に当ったらしい。ホームランならゼニははいるし、あすの新聞に巨人の11連勝をはばむサヨナラ・ホーマーなどとデカデカ出るのに、惜しいことをした。あのバッティング・フォームをみてくれましたか」とバットを振るマネをみせた。「あありっぱなフォームだったよ。打者に転向したらどうかね」と河村がひやかすと「ぼくも本気でそれを考えているんですよ。はじめの三振以外はみなバットの真シンだったですからね」バッターかピッチャーかわからないような大石の快気炎に河村もへきえきし逃げてしまった。大石は集まった記者団に「だれかタバコをくれませんか」といってハイライトをもらい一服吸ってやっとピッチングのことを話しだした。その腕は汗でドロドロ。顔にまで砂がついている。「スロースライダーがよくきまった。風がライトへ吹いていたでしょう。ギッチョの打者がこわくて。広岡さんのホームランもふつうならはいっていなかったでしょう。王、坂崎は外角ばかりねらい、長島にはむかっていった。ちょっとムキになりすぎるくらいね」六回には2球つづけて長島のアゴのあたりへ投げている。ビーンボールがときかれて「いや、気の弱いぼくになんか投げられませんよ」と一応否定したあと「といっておかないとたいへんだから・・・」と本音を吐いた。昨年はジャイアンツ・キラーといわれた大石もことしはこれが初勝利。「これからどんどん巨人さんに負けてもらいますよ」大石は不敵なことをいった。