1959年
橋本はいいのか悪いのかはっきりしないピッチング。5回で5安打1死球とピンチの連続だった。文字通りよろめきピッチングそれでも結局阪神をシャットアウトしたんだからたいしたもの。最後の打者浅越を三振にして帰ってきたときの橋本の最初の言葉は「あっぷ、あっぷのピッチングでした」ムリもない。鼻の頭にいっぱい汗をかいている。「五回を零点に切り抜けたときやれやれと思った。五回までに交代させられるのはどうもみっともないですからね。ブルペンをみると長谷川さんと備前さんが肩ならしをやっている。シメタ、これでもしあとが悪くなっても代わって投げてくれるだろうと思った」とのんきなことをいっている。「監督に試合前にいわれたようにドロップを多く使った。だからシュートの効果が増したような気がします。五回の二死一、二塁で、大津さんを遊ゴロにしたのもそのシュートです」報道陣にかこまれるのはニガ手らしく、下を向いてボソボソと語る。スキがあれば逃げ出そうとする。通路の方へ歩きだしてまたつかまってもどされたりしている。「打者のコンビネーションとスタミナの配分に気をつけて投げたんです。本当はこの前大洋に打たれたのもそんなに悪い出来じゃなかったんです」と妙なところで大洋戦の話が出てきたり、いささか異音のテイだ。昨年は試合の前半目のさめるようなピッチングをやると思うと、後半はガタガタにくずれたり、コンスタントの出来ではなかった。広島でただ一人といっていいくらいのオーソドックスな力の投手。長谷川、備前など変化球の投手につぐ第三の投手として白石監督は最も期待している。その白石監督は「きょうのハシ(橋本のこと)はうまかった。コンビネーションをかえて、相手の打者にヤマをはらせなかった。もっとも田中のリードがよかったせいもあるんだが・・・」と黒い顔に喜びをいっぱいにしていた。
きょうの橋本はスピードはとび抜けてあったとは思えない。まずふつうのスピードだったろう。しかし直球が低目にきまりドロップのコントロールも非常によかった。だから主な武器のシュートがますます効果をあげていた。広島の投手陣では橋本の体力は図抜けたものだ。昨年はそのスタミナの配分がまだ十分出来なかった。今年はオープン戦でもたしかに試合完投しているし、この日もうまくスタミナを配分して完投した。この調子なら長谷川、備前につぐ投手としてかなりやれそうだ。