1961年
試合前の一塁側ダッグアウト。ある記者が「田宮が二塁とはもったいないねえ」と西本監督に声をかけた。それを聞いた西本監督は「それより一番をみてくれよ。開幕以来連続二本塁打したトップ・バッターをもっているチームなんかあるか」と日ごろ控え目なこの人には珍しい言葉。その柳田がこの日の一回三塁線二塁打を祓川に浴びせ大量点のきっかけをつくり、二度目の打席も足でかせいで二塁打と、大毎の連続安打を引き出した。昨年の暮れー東京有楽町の球団事務所で船田代表の前に立った太いマユ、角ばったアゴのヒゲづらの男。代表が「ねえ君、君は来年が勝負だ。参加報酬は少し低いかもしらんが、もしレギュラー・ポジションを確保したらシーズン中でも月給をあげてやる。いいね」立っていたのがこの柳田だった。これが奮起のきっかけとなった。キャンプ中の人が変わったように練習に励んだ。ゲリ患者が出た大毎で一日も休まなかった。三十三年、当時の白川二軍コーチにすすめられて練習に参加して以来、昨年まで鳴かず飛ばずの生活だったが全く見事の成長だった。第一線対西鉄一回戦九回に代打で出て稲尾からホームランを奪って以来ずっとスタート・メンバーに顔を出すようになったことはもちろんだ。「なんとなく調子がいいんですよ。どんなときでも自信をもってやれば打てますね」心臓の強さでは人に負けないとはっきりいう。「打つ方、走る方はまあまあになったから、あとは守備だけです」この日も一回広瀬の打球を胸にあてて内野安打にし、七回にも一塁に高投しているが「失策の分は打撃でとり返す。一度くらいヘマをしても平気です。これがボクのいいところです」とわりきっている。「今まですくうように打っていたのをかぶせるような打法に変えたら、いい当たりが出るようになった。この調子をくずさず二割八分は打ちたいですね。そのくらいの自信はあります」ともつけ加えた。新星柳田の進境は優勝をねらう大毎にはたのもしいかぎり。「船田さんとの約束が果たせそうです」とよろこんでいた。ビールなら十本は楽に飲めるという。福島県内郷高ー常盤炭鉱。
試合前の一塁側ダッグアウト。ある記者が「田宮が二塁とはもったいないねえ」と西本監督に声をかけた。それを聞いた西本監督は「それより一番をみてくれよ。開幕以来連続二本塁打したトップ・バッターをもっているチームなんかあるか」と日ごろ控え目なこの人には珍しい言葉。その柳田がこの日の一回三塁線二塁打を祓川に浴びせ大量点のきっかけをつくり、二度目の打席も足でかせいで二塁打と、大毎の連続安打を引き出した。昨年の暮れー東京有楽町の球団事務所で船田代表の前に立った太いマユ、角ばったアゴのヒゲづらの男。代表が「ねえ君、君は来年が勝負だ。参加報酬は少し低いかもしらんが、もしレギュラー・ポジションを確保したらシーズン中でも月給をあげてやる。いいね」立っていたのがこの柳田だった。これが奮起のきっかけとなった。キャンプ中の人が変わったように練習に励んだ。ゲリ患者が出た大毎で一日も休まなかった。三十三年、当時の白川二軍コーチにすすめられて練習に参加して以来、昨年まで鳴かず飛ばずの生活だったが全く見事の成長だった。第一線対西鉄一回戦九回に代打で出て稲尾からホームランを奪って以来ずっとスタート・メンバーに顔を出すようになったことはもちろんだ。「なんとなく調子がいいんですよ。どんなときでも自信をもってやれば打てますね」心臓の強さでは人に負けないとはっきりいう。「打つ方、走る方はまあまあになったから、あとは守備だけです」この日も一回広瀬の打球を胸にあてて内野安打にし、七回にも一塁に高投しているが「失策の分は打撃でとり返す。一度くらいヘマをしても平気です。これがボクのいいところです」とわりきっている。「今まですくうように打っていたのをかぶせるような打法に変えたら、いい当たりが出るようになった。この調子をくずさず二割八分は打ちたいですね。そのくらいの自信はあります」ともつけ加えた。新星柳田の進境は優勝をねらう大毎にはたのもしいかぎり。「船田さんとの約束が果たせそうです」とよろこんでいた。ビールなら十本は楽に飲めるという。福島県内郷高ー常盤炭鉱。