1965年
「第三の投手か? うん、まあ小山、坂井につぐ投手といえば、西、妻島、それにこの迫田だ」真田ピッチング・コーチは、大洋打線を四回1安打に押えた迫田をほめていた。迫田七郎といえば、照国高を出たあと、大阪の板谷商店で軟式野球をやっていた時、オリオンズの練習にテスト生として参加、採用された無名投手。昨年入団後、メキメキ腕を上げ、イースタンで最優秀投手、そしてことしのハワイ・キャンプからはローテーションにも加えられた。「シュートはいいし、速球がよく走る。こりゃ小野のあと釜を立派にカバーできる」と本堂監督も大喜び。若さでポンポン投げまくる迫田は、何ともいえない魅力を発散させて、首脳陣は、「いい男なんで、女の子にモテすぎて心配しているんだ」と、今シーズンの迫田への期待が大きいだけに、あれこれと細かい点にまで親心ぶりをみせている。
「もうイースタンのエースだけはこりごり。ことしこそ待望の1勝をあげて見せます」と二年目を迎えた迫田はすごい鼻息だ。すでにオープン戦ではしばしば起用され、大洋戦(十三日・小野田)には初勝利というハッスルぶり。「ことしはリリーフだけじゃなく先発ピッチャーとしても育ててみたい」と首脳部は、このひねくれ球の迫田を、妻島と並んで小山、坂井に次ぐ第三の投手にしようと特別力を入れている。迫田は昨シーズン、イースタンでは12勝4敗と最多勝利をマーク。六月から一軍入りしたが得意のひねくれ球が、「相手の目先をかわすのにいい・・・」ともっぱらリリーフばかり。東映十八回戦(東京)に初黒星をもらっただけで、12試合登板したが全部救援投手で1勝もできなかった。だからことしはなにがなんでもプロ入り1勝目をマークすると迫田は開幕を待ちこがれている。首脳部は「昨年以上にことしの迫田はおもしろい存在になりそう。もう少しスピードさえつけば鬼に金棒だが」と今シーズンの活躍にはタイコ判、妻島につづくピッチャーになれるかどうか、とにかく二年目の迫田の前進は未知数の魅力がいっぱいというところ。
東映戦に完封勝ちした二十才の好成年、シュート、スライダーが意識しなくとも投げられるという便利な男迫田は、「ことしの成長株だ」と、首脳陣も手ばなしだが、彼を真田コーチは「あの顔が気をつけなければならないのだ」と意味深なことをいった。いい男で女でつぶれることはこれまでも何人かあったが、真田コーチの心配もここにある。「ボクみたいな田舎者を相手にする人なんていない」迫田は一笑にふしたが、合宿から下宿にかわったことを知った女性ファンがさっそく球団に「その下宿に行くには、どういったらよいか」と電話してくる仕末。球団職員も、「大切な商品、変な虫がついては困るからね」・・・ともっぱら、かん口令。日本の南端九州鹿児島出身である人気者のお話である。
オールスター前までは池永(西鉄)とともに、新人王の最有力候補だった迫田が、6勝あげてからこの一ヶ月間勝ち星から遠ざかっている。「うちで個人タイトルをねらえる唯一の選手だから」と本堂監督も期待しているが、この迫田は夏に弱いという欠点がある。消火器が弱いためだ。ひまさえあればごろりと横になり、どんな時にも腹まきをして体に気をつけているが、食欲もめっきりと落ちる彼である。「ことしはあまり暑くないのでいいんだが、どうも勝てない」と元気のない迫田には冷夏もあまり役に立ってない。迫田にとっては、いまが一番大切な時だ。池永が着々と勝ち星をあげているのに対し、彼はさっぱり。「ピッチングそのものは悪いわけではないのだが、どうも完投できない。何かスタミナをつける方法はないかね」という。朝鮮ニンジンやニンニクという夏バテ防止法が、球界で行われているが、迫田君一つあなたも、やってみては。一本四千円もする朝鮮ニンジンでも一勝につながれば、安いものだと思うが・・・。
シーズン前半では小山も顔負けの快投で一躍新人王候補と騒がれた迫田も、中半からは鳴りをひそめ、結局6勝に終って、プロのきびしさを味あわされて、いま秋季練習に参加している。「勝てなくなってくると、やれ自信過剰だとか、気合が入っていないかといわれ、まったくいやになった。しかし自分にも反省しなければならないところがあるし、また来年は一年生のつもりでやる」と黙々と練習に打ちこんでいる。
「第三の投手か? うん、まあ小山、坂井につぐ投手といえば、西、妻島、それにこの迫田だ」真田ピッチング・コーチは、大洋打線を四回1安打に押えた迫田をほめていた。迫田七郎といえば、照国高を出たあと、大阪の板谷商店で軟式野球をやっていた時、オリオンズの練習にテスト生として参加、採用された無名投手。昨年入団後、メキメキ腕を上げ、イースタンで最優秀投手、そしてことしのハワイ・キャンプからはローテーションにも加えられた。「シュートはいいし、速球がよく走る。こりゃ小野のあと釜を立派にカバーできる」と本堂監督も大喜び。若さでポンポン投げまくる迫田は、何ともいえない魅力を発散させて、首脳陣は、「いい男なんで、女の子にモテすぎて心配しているんだ」と、今シーズンの迫田への期待が大きいだけに、あれこれと細かい点にまで親心ぶりをみせている。
「もうイースタンのエースだけはこりごり。ことしこそ待望の1勝をあげて見せます」と二年目を迎えた迫田はすごい鼻息だ。すでにオープン戦ではしばしば起用され、大洋戦(十三日・小野田)には初勝利というハッスルぶり。「ことしはリリーフだけじゃなく先発ピッチャーとしても育ててみたい」と首脳部は、このひねくれ球の迫田を、妻島と並んで小山、坂井に次ぐ第三の投手にしようと特別力を入れている。迫田は昨シーズン、イースタンでは12勝4敗と最多勝利をマーク。六月から一軍入りしたが得意のひねくれ球が、「相手の目先をかわすのにいい・・・」ともっぱらリリーフばかり。東映十八回戦(東京)に初黒星をもらっただけで、12試合登板したが全部救援投手で1勝もできなかった。だからことしはなにがなんでもプロ入り1勝目をマークすると迫田は開幕を待ちこがれている。首脳部は「昨年以上にことしの迫田はおもしろい存在になりそう。もう少しスピードさえつけば鬼に金棒だが」と今シーズンの活躍にはタイコ判、妻島につづくピッチャーになれるかどうか、とにかく二年目の迫田の前進は未知数の魅力がいっぱいというところ。
東映戦に完封勝ちした二十才の好成年、シュート、スライダーが意識しなくとも投げられるという便利な男迫田は、「ことしの成長株だ」と、首脳陣も手ばなしだが、彼を真田コーチは「あの顔が気をつけなければならないのだ」と意味深なことをいった。いい男で女でつぶれることはこれまでも何人かあったが、真田コーチの心配もここにある。「ボクみたいな田舎者を相手にする人なんていない」迫田は一笑にふしたが、合宿から下宿にかわったことを知った女性ファンがさっそく球団に「その下宿に行くには、どういったらよいか」と電話してくる仕末。球団職員も、「大切な商品、変な虫がついては困るからね」・・・ともっぱら、かん口令。日本の南端九州鹿児島出身である人気者のお話である。
オールスター前までは池永(西鉄)とともに、新人王の最有力候補だった迫田が、6勝あげてからこの一ヶ月間勝ち星から遠ざかっている。「うちで個人タイトルをねらえる唯一の選手だから」と本堂監督も期待しているが、この迫田は夏に弱いという欠点がある。消火器が弱いためだ。ひまさえあればごろりと横になり、どんな時にも腹まきをして体に気をつけているが、食欲もめっきりと落ちる彼である。「ことしはあまり暑くないのでいいんだが、どうも勝てない」と元気のない迫田には冷夏もあまり役に立ってない。迫田にとっては、いまが一番大切な時だ。池永が着々と勝ち星をあげているのに対し、彼はさっぱり。「ピッチングそのものは悪いわけではないのだが、どうも完投できない。何かスタミナをつける方法はないかね」という。朝鮮ニンジンやニンニクという夏バテ防止法が、球界で行われているが、迫田君一つあなたも、やってみては。一本四千円もする朝鮮ニンジンでも一勝につながれば、安いものだと思うが・・・。
シーズン前半では小山も顔負けの快投で一躍新人王候補と騒がれた迫田も、中半からは鳴りをひそめ、結局6勝に終って、プロのきびしさを味あわされて、いま秋季練習に参加している。「勝てなくなってくると、やれ自信過剰だとか、気合が入っていないかといわれ、まったくいやになった。しかし自分にも反省しなければならないところがあるし、また来年は一年生のつもりでやる」と黙々と練習に打ちこんでいる。