1960年
一昨年の大毎がオープン戦で岩国に立ち寄ったことがあった。駅前の化粧品屋さんで買い物したとき、その店の女主人がぼくに気がついて盛んに自分の息子の自慢話をはじめた。立大の野球部にいてやっとレギュラーになったばかりだが、なかなか有望だということで、いい息子だということを盛んにしゃべっていたのを覚えている。いま考えてみるとどうもそれが杉本君のお母さんだったようだ。当時の杉本君はまだリーグ戦に出たばかりでぼくは知らなかった。しかし、そのごの杉本君は神宮でも何回か見たしテレビでもシャープなスイングは知っている。決してホームランをたたくロング・ヒッターではないが、シュアーな中距離打者で、とくにリストが強い。ぼくの母校慶応も彼のばっとでかなり苦しめられて実にいやなヤツだと思ったことも何回かあった。バッティングはまだ未完成だが守備は文句なしに一球品。肩はよし、フット・ワークよし、打球に対するカンもプロではりっぱに通用する。ただ心配なのは本職である三塁を守らしてもらえるかどうかという点だ。ライバル徳武君もはいったことなので三塁徳武、遊撃杉本という布陣が考えられるが、三塁から遊撃に移ることは並たいていのことではない。守備範囲が全然違うし、一塁までの距離も違う。同じ当たりのゴロをとるにしても三塁だったらスリー・バウンドでもとれるゴロも、遊撃の場合は四つバウンドしてからとることになる。二塁ベースを中心にしたプレー併殺、けん制、これがまたやっかいだ。三塁と遊撃ではまず文部大臣と外務大臣くらいの内容の差がある。二塁をやらされるかもしれないという話も聞いたが、そうなるとまたまた面倒だ。しかし杉本君は非常に努力家であること、肩と足がよいことから、案外早く新しいポジションをこなせるようになるのではないだろうか。杉本君にはもう一つめぐまれた点がある。それは徳武君が国鉄に入団したことだ。ライバルが同じチームで技を競り合うことはなによりもはげみになるものだ。キャンプでも練習でもとなりで片方が好プレーをみせればよーしオレもという気持ちになる。ただ一人ポツンととり残されるのにくらべたら相当違う。杉本君のプレーぶりをみていると、一つだけ気になることがある。それは地味な選手ということだ。徳武君の動きがかなりハデで大きく目立つ存在だけによけいに目につくのだろうが、プロの選手は長島をもって代表されるように、ハデな方が得をする。ハデにエラーばかりしていては工合が悪いが、地味な選手は実力相応に評価されない場合が多いし、目立たない。杉本はなるほどよい選手だとファンがいきなり目をつけるようなプロ的ななにものかを早く身につけてほしい。よい意味でのショーマン・シップはプロにはいった以上、これも勉強しなければならないことの一つだと思う。
出身校 岩国高ー立大 身長、体重、きき腕、1㍍76、75㌔、右投右打。
生年月日 昭和十三年七月四日。
現住所 山口県岩国市駅前。
背番号 未定。
一昨年の大毎がオープン戦で岩国に立ち寄ったことがあった。駅前の化粧品屋さんで買い物したとき、その店の女主人がぼくに気がついて盛んに自分の息子の自慢話をはじめた。立大の野球部にいてやっとレギュラーになったばかりだが、なかなか有望だということで、いい息子だということを盛んにしゃべっていたのを覚えている。いま考えてみるとどうもそれが杉本君のお母さんだったようだ。当時の杉本君はまだリーグ戦に出たばかりでぼくは知らなかった。しかし、そのごの杉本君は神宮でも何回か見たしテレビでもシャープなスイングは知っている。決してホームランをたたくロング・ヒッターではないが、シュアーな中距離打者で、とくにリストが強い。ぼくの母校慶応も彼のばっとでかなり苦しめられて実にいやなヤツだと思ったことも何回かあった。バッティングはまだ未完成だが守備は文句なしに一球品。肩はよし、フット・ワークよし、打球に対するカンもプロではりっぱに通用する。ただ心配なのは本職である三塁を守らしてもらえるかどうかという点だ。ライバル徳武君もはいったことなので三塁徳武、遊撃杉本という布陣が考えられるが、三塁から遊撃に移ることは並たいていのことではない。守備範囲が全然違うし、一塁までの距離も違う。同じ当たりのゴロをとるにしても三塁だったらスリー・バウンドでもとれるゴロも、遊撃の場合は四つバウンドしてからとることになる。二塁ベースを中心にしたプレー併殺、けん制、これがまたやっかいだ。三塁と遊撃ではまず文部大臣と外務大臣くらいの内容の差がある。二塁をやらされるかもしれないという話も聞いたが、そうなるとまたまた面倒だ。しかし杉本君は非常に努力家であること、肩と足がよいことから、案外早く新しいポジションをこなせるようになるのではないだろうか。杉本君にはもう一つめぐまれた点がある。それは徳武君が国鉄に入団したことだ。ライバルが同じチームで技を競り合うことはなによりもはげみになるものだ。キャンプでも練習でもとなりで片方が好プレーをみせればよーしオレもという気持ちになる。ただ一人ポツンととり残されるのにくらべたら相当違う。杉本君のプレーぶりをみていると、一つだけ気になることがある。それは地味な選手ということだ。徳武君の動きがかなりハデで大きく目立つ存在だけによけいに目につくのだろうが、プロの選手は長島をもって代表されるように、ハデな方が得をする。ハデにエラーばかりしていては工合が悪いが、地味な選手は実力相応に評価されない場合が多いし、目立たない。杉本はなるほどよい選手だとファンがいきなり目をつけるようなプロ的ななにものかを早く身につけてほしい。よい意味でのショーマン・シップはプロにはいった以上、これも勉強しなければならないことの一つだと思う。
出身校 岩国高ー立大 身長、体重、きき腕、1㍍76、75㌔、右投右打。
生年月日 昭和十三年七月四日。
現住所 山口県岩国市駅前。
背番号 未定。