1992年
首位を走るジャイアンツで、今や渡辺、橋本に負けない信頼を得ているのが、3年目の大内貴志投手だ。8月14日現在5勝2敗の成績はチームの勝ち頭。次の目標は完投勝利だ。右の本格派でフォームは教科書通り。無駄がない分、特徴もない投げ方は、よほどのスピードがなければ指導者の目にはとまらない。しかも大内はドラフト外だ。1年目は体作りと割り切っていても、2年目のキャンプ終了後に肩を痛めたのは正直、かなりこたえたはずだ。しかし、結果的に肩の故障が大内には吉と出た。公式戦には出られなかったが、大内は打撃投手としてよく働いた。日に200球投げることもザラである。試合の前は打ちやすいコースへ、練習の時は打たせないつもりで大内は打者と対戦した。これで1年間で、課題だったコントロールがウソのようによくなった。秋にはアリゾナ教育リーグで7試合に登板、MAX144㌔の速球に首脳陣からは「鈴木孝政二世」の声も。今季4月4日、念願の公式戦デビュー。23日に白星を挙げてから、先発のチャンスも回って来た。だが足を痛め、ランニング不足によるスタミナ切れで、どうしても5回2/3の壁が破れなかった。それからの大内は、ガムシャラに練習を続けている。大内は腕の振りが速いので、打者は見た目以上に球が速く感じるはず。また、アウトローのコントロールに加え、インコースにもほうれる度胸がつき、投球が安定して来た。今季15試合に登板して被本塁打が1本は、褒めてやりたい内容だ。これがシーズンを通して持続できればいいのだが、7月12日の米沢での対日本ハム戦に欠点が出てしまった。5連続四球で二死から押し出しの2点献上。普段の美しい大内のフォームが、この日はなぜかバラバラだった。その原因は、着地で左足にブレーキがかかり左尻が落ち体の右側が残ってしまったからだ。このクセさえ出なければストライクが入らぬ状態には陥らないだろう。もう一つ、欲をいえばフォークボールの落ち方に努力がほしい。大内のフォークは、深く指にかけないのでスプリット的に少し沈む程度で、大きく落ちない。今のままでは、直球とスピードの差も少ない。本格派が遅いボールを投げるのは勇気のいることだが、フォークを含めた変化球で、緩急の差をつける工夫が必要だ。「巨人の投手陣の層の厚さは、入った時点で覚悟してます」とキッパリいった大内は向こうっ気が強い。それだけにこのまま伸びてくれれば、満員のドームで登板する日も遠くあるまい。
大内貴志投手 右右 背番号91 1971年6月7日生、21歳
東海大四高ー巨人(90年ドラフト外)
高3の春、センバツに出場し、2回戦まで進出。8月14日現在、14試合に登板し、5勝2敗0S、防御率3.12の成績を残している。