1992年
1年生とベテランばかりが目立つ日本ハムファイターズのファームの中で、一軍首脳陣が待ち望んでいる左腕が、2年目の中山大輔投手だ。昨年後半からメキメキと力をつけ、秋季キャンプでは監督賞をもらうほどに成長した。何とか一人前にという計らいで、今年はベテラン柴田投手の行う自主トレに参加。夜のミーティングでは精神論を学んだものの、ガンバリ屋が災いし、飛ばし過ぎてアキレス腱を痛め、結局、春のキャンプを脱落、スタートは出遅れてしまった。何とか這い上がって、開幕当初はリリーフで結果を出したものの、その後は、もらった二度の先発のチャンスに早い回に点を取られて降板、という悪いパターンの繰り返しだった。中山のデータを調べてみると被本塁打は0。しかし、与四球が奪三振の約3倍。日本ハムの左投手中、一番のスピードボールを投げるにしては惜しい内容であるが、この四球は、闘争心がないから与えてしまうとは決めつけられない。持ち前の負けず嫌いが、逆に作用してテークバックで力が入り過ぎ、リリースポイントが不安定。そのため、球が散ってしまうようなのだ。球種はまだ、ストレート、カーブと時々投げるシュートと少ないが、中山の潜在能力からすれば現段階では十分である。課題のコントロールについては、筋力強化がポイントとなりそうだ。芝草が開花した例から考えても、彼は昨年の一年間で随分、タフな肉体に成長している。キャンプが満足に出来なかった中山は、実質2年目とはいえない。体はまだ時間がかかるが、投手として必要な筋肉を強化すれば、ど真ん中めがけて投げ込んでも打たれはしない。そうなれば、力むことも逃げることもあるまい。中山には、コースをつくだけの小さな投球や、小手先だけのコントロールを身につけるなど、若い魅力に欠ける投手になってほしくない。とはいえ、あの西崎でさえマウンドでは緊張する。この若さでリラックスして投げろなどと無理な注文はしないが、今は結果を考えず、自分のすべてを出して試合経験を積むことだ。近藤二軍監督が「コントロールがこれだけ悪いと、使い方に苦労する」と言いながら、中継ぎに先発に起用するその期待を忘れないでもらいたい。本人も「足を痛める前は、開幕一軍が目標でしたが、今はその夢より体づくりです」とランニングでもヒザが開かないよう、来年につながる細心の注意を払う中山の胸の中には、自主トレで柴田が話した「ベテランが10やったら、お前は20の努力をしろ」という言葉が、深く刻まれているようだ。