1992年
桃太郎侍といわれているのが南海の喜界島からやってきた広島の高橋英樹投手。入団して2年目だが、ようやくプロの投手らしい体付きになって、球に力が加わっている。注目したい投手の一人だ。TVドラマ「桃太郎侍」の主役を演じる、高橋英樹と同姓同名の投手が広島に入団したとき、ずいぶんと話題になった。「名前もいいが、身体もいいし、投手として素晴らしい素材の少年ですよ」広島の関係者からそういう話を聞かされたことがあるが、名前だけが一人歩きをして、体格はよくても体力はなく、技術の方も島のエースに過ぎなかった。彼は昨年一年間を体力づくりに費やした。聞くところによれば、寮の自室にゴムチューブを持ち込み、それを使って肩の筋肉を中心に鍛えてきたという。いまも、これを実行しているそうで、さらに地元にいるときはトレーニング・クラブに通っているそうだ。技術の方はコーチ陣に聞くと「かなりよくなった。この間なんか、安心して見ていられた。いいピッチングをしたんですよ」と。この間のピッチングは8月16日のオリックス戦。一死も取れずに降板した先発の足立のリリーフとして投げ、5イニングを被安打6、自責点2で、勝利投手になった試合。記録を見ると、これが2勝目である。昨年は2試合に投げただけ。今シーズンは8月24日までで18試合にも投げているのだからコーチ陣の期待のほどが分かろう。「ボクの目標はあくまで真っすぐに球の力をつけること。フォーク、スライダーも覚えましたが、いまは、真っすぐとカーブしか投げていない。この二つでいかに打者を抑えるか、を勉強している」と桃太郎投手。山本投手コーチが、そういうアドバイスをしているのだろう。彼のピッチングをじっくりと見せてもらったが、低めに球を持っていく制球力がまだまだという感じがする。投球の際の球離れの位置を、まだしっかりと自分のものにしていないからだろう。とくに投球イニングが長くなるに従って、それが目につく。これは体力面のこともある。コーチ陣の話によれば、2勝目をあげたオリックス戦では4回二死後、打者をカウント2-2と追い込みながら、次の投球が高めに入って本塁打を浴びている。本人は低めのストレートで勝負にいったのが、抑えが効かなかったという。しかし、ここでカーブを投げず、ストレートを投げたことは、山本コーチのアドバイスを守ったのではなかろうか。「高橋には、小細工のピッチングは望んでいない」こう語るコーチ陣の言葉を高橋は忘れず、力で押していくピッチングを、今後とも見せてもらいたい。私もそれを望んでいる。