想風亭日記new

森暮らし25年、木々の精霊と野鳥の声に命をつないでもらう日々。黒ラブは永遠のわがアイドル。

郷愁のアンダルシア

2019-06-26 21:35:45 | Weblog
スペインはアンダルシア地方の風景を
描き続けている川上順一さんの個展を
今年も訪ねた。

秒刻みの生活に慣れた都会生活者にも
時を刻むことを忘れたようなこの場所
は憧れの地ではないだろうか。

驢馬の背に水桶を積んで丘陵の道を
降りた畑まで運ぶ。そういう暮らしを
今も変わりなく続けるスフレの村を
描いた絵、驢馬がこっちを(画家を)
見ている、ちらりと。



スフレというお菓子の語源はおそらく
この村の名前ではないかという。
グーグルマップには最寄りの観光地
は載っているが驢馬が草を食む光景
はそこに佇まないと出会えない。

なだらかな草地の奥にある城壁の向こう
に村の中心部がある。このあたりは掘れ
ば石ころだらけの土地で耕せるところ
ではなく道路も開けていない。

川上さんはそういう場所を好んで描いて
いるようだ。忘れられていくような土地
には人の営みの原点がある。いくら科学
技術が進んでも変わらないものがある。

それを探そうとはしていたわけではない
人も、この絵に懐かしさややさしさを
感じるかもしれない。



「川辺の風景」にも物語があった。
この近くには伊達藩の慶長遣欧使節団を
率いた支倉常長の銅像が建っている。
支倉は帰国したが、後に残った者がいた。
そしてセビリアの女を妻にし家族と
なった。その末裔が600人もいて、
ハポンという名を持つという。
数百年前、川辺に立った日本人は
遠い故郷の川を懐かしんだだろうか。



これは川上さんの絵では珍しい一枚。
バラは娘さんが持って帰り、キッチン
に置いていったもの。翌日、朝の光を
浴びてとても美しかった。描きたく
なったんだよと川上さんは話していた。
その話のあとに絵を改めて見ると、
たしかに光が描かれているのだった。

知人は「作家にあまり寄りすぎても
絵の解釈はできない」とか言ったが
あらそー、えらそー、って感じで
聞き流した。

今年は川上順一さんの作品集を制作
する計画もあって訪ねたのだった。
ギャラリーの壁に額装されて展示され
た絵をカメラで撮っているわたしが
ガラスに写りこんでいて、本当の絵は
ここでは見ていただくことはできない。
画集にしても本物を伝えることは難しい。
しかし、このなかの一枚の絵に慰め
られたり静かな喜びが湧いたりする
人がきっといるだろうという気持ち
は以前よりも強くなった。

案内のハガキにあった窓辺の花は
個展初日、朝一番で売約済みに
なっていた。自らも絵を描く女性
が買っていったという。


コメント
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