想風亭日記new

森暮らし25年、木々の精霊と野鳥の声に命をつないでもらう日々。黒ラブは永遠のわがアイドル。

永瀬清子の、愛の詩

2019-08-20 18:28:30 | 
「あけ方にくる人よ」思潮社刊 
永瀬清子の詩集。

〜枕元によみさしの本をがらくたのように積んで
夜中に眼ざめてその一冊をとりあげる
それが時々地くずれするわ蝶がとびたつふうに〜

「黙っている人よ 藍色の靄よ」の一節。
先に逝った想い人への切ない愛の詩だ。

「悪い妻 心なしの私は
 できるだけあなたに尽くしたいとは思っても
つい遠い夢の方へ心がいったわ」

切ないよりもっと深く、
ちぎれようがなく
地の底までつづくように想いは果てしない、
愛するがゆえの悔いは愛を哀しくする

そして、悔いのない愛は愛ではないし。
人を恋いうること 愛することとは
悲しみの縁にいずれいかねばならないが
若く力のある肉体で隠されてしまう

永瀬清子はその上で、さらに書く

「でも世の中の男の人は
どんなに大きな岩みたいな仕事を彫りあげても
そのため妻に不在を詫びようとは思わないのに」

永瀬清子は女であるがために
夢を見つづけた自分を悔いて泣く

「なぜこうも可哀想でたまらないの
あなたの方ばかり私が向いていなかったことが—ー」と
「つまらない女 くず女」と自分を責める

愛はさまざまなかたち、
さまざまな色彩を帯びて表れ、
消え去り、人生を翻弄する。
たとえそこに姿が見えなくなっても
「藍色の靄」として表れる
愛のかなしさ

枕元に本を積んでいるわたしにも
そういうかなしみはあって
かぶりを振って、鍵をかけて
みないようにしても
ふいにやってくる地くずれに
あらがえない。

やっかいな愛
そのいとしさがどうやってこの胸に芽生え根をはってしまったのか
わからない

遠い夢の方を見続けていればわかるというのか
そうだろうか
ときどき重すぎて捨てていきたくなっても
離れないのはわかっている

いつからわかったのかわからないけど
それだけはわかってしまっている

あらがえないことを知っている

写真は川上順一作 「待つ人」








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