地方議会の議員は、地方議会議員年金を掛けている。この年金制度は掛け金(保険料)と公費(税金)で運営されており、その割合は6:4となっている。現役の地方議会議員が議員報酬の中から保険料を払い、3期12年以上勤めて引退した元議員が年金を受け取る仕組みだ。
さて。
平成10年の段階では、市町村の現役議員が60,004人、年金受給者が79,232人だった。ところが、平成21年には市町村の現役議員が33,614人、年金受給者が90,795人となった。保険料を払って制度を支える現役世代が大幅に減る一方で、年金受給者は増えている。
なぜか。
背景には、平成の大合併がある。1市5町が合併し、議員総数が110人から30人に減少・・・なんてことが全国で起きた。同時に、合併市町村であるか否かを問わず、行財政改革の一環として議員数を削減し議員報酬を減額する動きが各地であった。合併で自治体数が減り、議員数が激減し、議員一人当たりの報酬も減る。保険料収入は減る一方だ。
平成10年には、市議会議員共済会・町村議会議員共済会の二つ合わせての積立金が1,913億円あった。しかし、保険料収入の減少と年金受給者の増加で赤字に転落。ここ数年は200億円近い赤字を出し続けた。その赤字を埋めるために積立金を取り崩し続けた結果、平成23年度の途中で積立金はゼロになる見込みだ。
このままいけば、来年には確実に破綻する。政府は選択に迫られている。保険料率を上げるか、公費負担を上げるか、年金支給額を下げるか、制度を廃止するか。廃止する場合には、払い込んだ保険料総額の何割を一時金として払い戻すか、一時金支払いのために公費をどのくらいつぎ込むか。
地方議会議員や市議会議員共済会の反応は、
「今まで払った分はもう捨てたものとして我慢する。しかし、破綻すると分かっている年金制度に、来月以降も破綻する瞬間まで払い込みを続けなければいけないというのは我慢できない。」
「破綻前に駆け込みで議員辞職し、駆け込みで年金受給資格を得ようとする者も出てくるのではないか。」
「合併は国策で行われたのだから、合併による影響分は全て国が公費で負担せよ」
「特権的と批判されている議員年金は廃止すべき」
と様々だ。
市議会議員共済会には、「強制加入となっているが、保険料の払い込みを止めたい。どうすれば良いか」といった問い合わせが結構あるらしい。市議会議員共済会は「強制加入となっていますので、議員は保険料を払わなければいけません。法律にもそう書いています」と説明しているが、「法律は破ってナンボ」で有名な阿久根市では、実際に保険料の支払いを拒否した議員が出現。
○阿久根 議員年金支払い拒否 市長派市議4人 制度廃止求める 2010/07/29付 西日本新聞朝刊
保険料率は年々引き上げられ、現在は16%。報酬月額が42万円の場合、掛金として毎月67,200円払うことになる(加えて、6月と12月は特別掛金あり)。年間にして100万近い金を払うだけ払って、自分は受給できなくなる可能性が濃厚、となれば、早く地方議会議員年金制度なんて廃止して、自分で老後の積み立てをした方が良い、と思う人がいても無理はない。
さてさて。
地方議会議員年金の話は、私たちにとって「対岸の火事」だろうか。
私はそうは思わない。
現役世代が減り、年金受給者が増えるという基本的な構図は、地方議会議員年金も他の公的年金も同じだ。国民年金や厚生年金が来年破綻するということはないだろうが、緩やかに、しかし確実に、破綻への道を進んでいる。少子高齢化が進む中で破綻を回避し年金制度を維持しようとすれば、保険料を上げるか、年金支給額を下げるか、公費(税金)負担を増やすか、のいずれかを選択しなければならない。しかし、際限無く保険料を上げ続けることはできないし、公費負担を増やし続けることもできない。どこかで行き詰まる。
少子高齢社会が続く限り、問題は解決しない。だいたい、少子化の解消をあてにした制度設計が間違っている。年金制度を維持するために子供を生む、そんな母親がどこにいるというのだ。子供を生む・生まないは夫婦の選択に委ねられるものであって、「少子化の解消・年金制度維持のため、子供を持つ夫婦には補助金を出します。子供のいない人の負担で。」なんてのは要らざる介入の典型。
(こうした補助金を出すことによって、「補助金を廃止されたら子供を持てない」「政府の支援がまだまだ足りないから子供を生めない」なんて風潮を招き、かえって少子化に拍車をかけているのではないか?)
政府のいう少子化の解消はあてにならないし、あてにしてはならない。少子高齢が続く中でも無理なく維持できる制度でなければならないが、これは極めて難しい。その時代の現役世代と受給者の比率、経済状況や財政状況、その時の政権与党の都合で、保険料率や受給額はいかようにも変更される。「100年安心」はおろか、10年後でさえどうなるかは誰にも分からない。年金制度を継続するために現役世代の負担が増え続ける一方で、「あなたは確実に○○円受け取れます」なんて保証はどこにもない。
いっそのこと廃止・清算するのが良い。それも、出来るだけ早く。その方が傷が浅くて済む。積立金が残っているうちなら、公費(税金)投入額がその分少なくて済む。続ければ続けるだけ、傷が大きくなる。積立金を使い切った後に廃止・清算しようとすると、清算のための一時金を全て税金で賄わなければならなくなってしまう。
議員年金は、現在年金を受け取っている人を見る限り、特権的な制度だなぁという印象を受ける。しかし、破綻間際に現役世代として保険料を払わされている人を見ていると、まるで懲罰のようだとさえ思える。同じことは公的年金制度全般についても当てはまる。破綻間際に保険料を払わされる現役世代は払い損。罰金みたいなものだ。破綻の瞬間が5年後か10年後か50年後か・・・は分からないが。
(ちなみに、野口悠紀雄氏の試算では、2029年に破綻する・・・とか。)
○「100年安心年金」の戦慄の未来図 - にっぽん改国(田中康夫) - BLOGOS(ブロゴス) - livedoor ニュース
さて。
平成10年の段階では、市町村の現役議員が60,004人、年金受給者が79,232人だった。ところが、平成21年には市町村の現役議員が33,614人、年金受給者が90,795人となった。保険料を払って制度を支える現役世代が大幅に減る一方で、年金受給者は増えている。
なぜか。
背景には、平成の大合併がある。1市5町が合併し、議員総数が110人から30人に減少・・・なんてことが全国で起きた。同時に、合併市町村であるか否かを問わず、行財政改革の一環として議員数を削減し議員報酬を減額する動きが各地であった。合併で自治体数が減り、議員数が激減し、議員一人当たりの報酬も減る。保険料収入は減る一方だ。
平成10年には、市議会議員共済会・町村議会議員共済会の二つ合わせての積立金が1,913億円あった。しかし、保険料収入の減少と年金受給者の増加で赤字に転落。ここ数年は200億円近い赤字を出し続けた。その赤字を埋めるために積立金を取り崩し続けた結果、平成23年度の途中で積立金はゼロになる見込みだ。
このままいけば、来年には確実に破綻する。政府は選択に迫られている。保険料率を上げるか、公費負担を上げるか、年金支給額を下げるか、制度を廃止するか。廃止する場合には、払い込んだ保険料総額の何割を一時金として払い戻すか、一時金支払いのために公費をどのくらいつぎ込むか。
地方議会議員や市議会議員共済会の反応は、
「今まで払った分はもう捨てたものとして我慢する。しかし、破綻すると分かっている年金制度に、来月以降も破綻する瞬間まで払い込みを続けなければいけないというのは我慢できない。」
「破綻前に駆け込みで議員辞職し、駆け込みで年金受給資格を得ようとする者も出てくるのではないか。」
「合併は国策で行われたのだから、合併による影響分は全て国が公費で負担せよ」
「特権的と批判されている議員年金は廃止すべき」
と様々だ。
市議会議員共済会には、「強制加入となっているが、保険料の払い込みを止めたい。どうすれば良いか」といった問い合わせが結構あるらしい。市議会議員共済会は「強制加入となっていますので、議員は保険料を払わなければいけません。法律にもそう書いています」と説明しているが、「法律は破ってナンボ」で有名な阿久根市では、実際に保険料の支払いを拒否した議員が出現。
○阿久根 議員年金支払い拒否 市長派市議4人 制度廃止求める 2010/07/29付 西日本新聞朝刊
保険料率は年々引き上げられ、現在は16%。報酬月額が42万円の場合、掛金として毎月67,200円払うことになる(加えて、6月と12月は特別掛金あり)。年間にして100万近い金を払うだけ払って、自分は受給できなくなる可能性が濃厚、となれば、早く地方議会議員年金制度なんて廃止して、自分で老後の積み立てをした方が良い、と思う人がいても無理はない。
さてさて。
地方議会議員年金の話は、私たちにとって「対岸の火事」だろうか。
私はそうは思わない。
現役世代が減り、年金受給者が増えるという基本的な構図は、地方議会議員年金も他の公的年金も同じだ。国民年金や厚生年金が来年破綻するということはないだろうが、緩やかに、しかし確実に、破綻への道を進んでいる。少子高齢化が進む中で破綻を回避し年金制度を維持しようとすれば、保険料を上げるか、年金支給額を下げるか、公費(税金)負担を増やすか、のいずれかを選択しなければならない。しかし、際限無く保険料を上げ続けることはできないし、公費負担を増やし続けることもできない。どこかで行き詰まる。
少子高齢社会が続く限り、問題は解決しない。だいたい、少子化の解消をあてにした制度設計が間違っている。年金制度を維持するために子供を生む、そんな母親がどこにいるというのだ。子供を生む・生まないは夫婦の選択に委ねられるものであって、「少子化の解消・年金制度維持のため、子供を持つ夫婦には補助金を出します。子供のいない人の負担で。」なんてのは要らざる介入の典型。
(こうした補助金を出すことによって、「補助金を廃止されたら子供を持てない」「政府の支援がまだまだ足りないから子供を生めない」なんて風潮を招き、かえって少子化に拍車をかけているのではないか?)
政府のいう少子化の解消はあてにならないし、あてにしてはならない。少子高齢が続く中でも無理なく維持できる制度でなければならないが、これは極めて難しい。その時代の現役世代と受給者の比率、経済状況や財政状況、その時の政権与党の都合で、保険料率や受給額はいかようにも変更される。「100年安心」はおろか、10年後でさえどうなるかは誰にも分からない。年金制度を継続するために現役世代の負担が増え続ける一方で、「あなたは確実に○○円受け取れます」なんて保証はどこにもない。
いっそのこと廃止・清算するのが良い。それも、出来るだけ早く。その方が傷が浅くて済む。積立金が残っているうちなら、公費(税金)投入額がその分少なくて済む。続ければ続けるだけ、傷が大きくなる。積立金を使い切った後に廃止・清算しようとすると、清算のための一時金を全て税金で賄わなければならなくなってしまう。
議員年金は、現在年金を受け取っている人を見る限り、特権的な制度だなぁという印象を受ける。しかし、破綻間際に現役世代として保険料を払わされている人を見ていると、まるで懲罰のようだとさえ思える。同じことは公的年金制度全般についても当てはまる。破綻間際に保険料を払わされる現役世代は払い損。罰金みたいなものだ。破綻の瞬間が5年後か10年後か50年後か・・・は分からないが。
(ちなみに、野口悠紀雄氏の試算では、2029年に破綻する・・・とか。)
○「100年安心年金」の戦慄の未来図 - にっぽん改国(田中康夫) - BLOGOS(ブロゴス) - livedoor ニュース