以前、公契約条例について記事を書いたことがある。あれから3年が経ったが、公契約条例に関しては全国で様々な動きがあっている。
○公契約条例案 札幌市議会委、否決へ 自公会派が反対-北海道新聞[政治]
=====【引用ここから】=====
札幌市議会最大会派の自民党・市民会議と公明党は28日、市発注事業の受注業者で働く労働者の賃金下限額を定める「市公契約条例案」について、29日の財政市民委員会で採決し反対する方針を決めた。建設やビル管理など業界の反対が根強いためで、委員会は賛成少数での否決が確実。両会派は今定例会最終日の31日の本会議の採決も反対の見通しで、可決は極めて厳しい情勢となった。
=====【引用ここまで】=====
○公契約条例はついに廃案に!民意の勝利。官の暴走に終止符が打たれる。: 札幌市議会 金子やすゆき ホームページ
=====【引用ここから】=====
札幌では公務員の給与が民間の中小企業と比べると大幅に高いことが有名です。にもかかわらず、民間の給与が上がったという話は聞いたことがありません。あくまで民間企業の給与は景気動向や企業の収益、労使間交渉で決まりますが、官の給与は自治労の政治力をもとに財源無視の既得権重視型で決定されます。給与がいくら高くても、あとは増税で国民に負担させればよいわけですから、財源を心配する必要がないのです。
つまり公共工事は国民の税金で実施する事業であるにもかかわらず、そのコストを考えることなく、「賃上げ=良」という理念論だけで走っているのが公契約条例です。百歩譲って公務員の給料を上げるのは役所の勝手かもしれませんが、その論理で民間企業に賃上げを無理やり強制するのは官の暴走と言わざるを得ません。
=====【引用ここまで】=====
※この札幌市の金子市議のホームページには、上記記事以外にも公契約条例について分かりやすい記事が多数掲載されている。是非ごらんいただきたい。
さて、公契約条例の目的は、一般的に次のように言われている。
○直方市 |公契約条例
=====【引用ここから】=====
市では、平成26年4月からの施行を目指し「直方市公契約条例(案)」の検討を進めています。
対象
市が発注する公契約等
目的
・契約にともなう業務に従事する人の適正な賃金や労働条件を確保し、生活の安定を図る
・公共工事、公共サービスの質の向上
・過当競争、不当なダンピングの排除
・地域経済、地域社会の活性化
=====【引用ここまで】=====
まず、公契約条例で地域経済が活性化するかどうか、について。
公契約条例で、市が発注する契約に従事する労働者の賃金引き上げが義務付けられる。すると、積算の単価が上昇し、契約金額が上昇する。契約金額が上昇すれば、市が発注する契約件数が減少するか、あるいは教育や福祉、社会保障の予算が圧迫される。
もし仮に、生活保護や障碍者福祉の分野の予算が圧迫されたとしたら、それはどういうことを意味するか。職を持たない生活保護受給者や障碍者から、(低賃金であっても)職に就いて収入を得ている労働者への所得再分配となる。失業者や障碍者の側と労働者の所得格差が、公契約条例によって拡大することとなる。
行政は、税金を集めて一旦プールし、その金を右や左に撒くことしかできない。右に撒く金が増えれば、左に撒く金が減る。それだけである。労働者の賃金が増えて、その人たちが消費する額が増えれば地域経済が活性化する、というのは、一面的なものの見方である。労働者の賃金が増える一方で、何か(保護費や障碍者手当て、給付金など)が減るのであれば、プラスマイナスゼロ。この条例で地域経済は活性化せず、良くて横ばいということだ。
次に、「契約にともなう業務に従事する人の適正な賃金や労働条件を確保」について。労働者に実際に上乗せ賃金が支給されるかどうかは分からない。条例の実効性を担保するために市職員に調査権限を付与するとなれば、事業者側と行政側の双方に、処理しなければならない事務作業が発生する。この分、余計なロスが生じるのだ。上で「良くて横ばい」と書いたが、実際の制度運営にあたってはこうした要らん事務仕事の負担がマイナスとなって現れる。
また、現在職に就いている労働者にとっては、公契約条例で賃金上昇や労働条件改善が図られるかもしれないが、人件費が上昇すれば、将来の人件費負担の増加に憂慮した事業主が新規雇用を抑制するかもしれない。市役所が労働問題に取り組めば取り組むほど、採用数が減少し、失業問題が悪化することにつながってしまうのだ。
次に、「過当競争、不当なダンピングの排除」について。過当競争、ダンピングは、財政状況の悪化により公共事業が減少し、その減少した公共事業に業者が群がり、何とか落札しようとすることから生じる現象。財政状況が劇的に改善することは見込めないため、長期的には、公共事業を受注しようとする業者が減少することでしかダンピングは解決しない。
最後に、「公共工事、公共サービスの質の向上」について。この関係で一般的に主張されるのは、「賃金が低下することで労働者の意欲が低下し、手抜き工事やサービスの悪化が生じる」といった論調である。これは果たして本当だろうか。
サービス業における接客応対で、賃金が下がることで態度が悪くなるというのは、想像はできる。ただ、接客態度の悪い従業員の賃金を上げることで、接客態度が改善するのだろうか。疑問である。
一方、手抜き工事が賃金低下で起こるだろうか。手抜き工事は、無理な工期や低予算のため、工程や資材を省いたりすることで生じると推測するが、この動機は事業者側にある。労働者の低賃金が手抜き工事の直接の原因になるというのは、ちょっと考えにくい。
このように、低賃金による質の低下というのは想像の域を出ない。「公共工事や公共サービスの質の向上」を目的とするのであれば、「低賃金が原因で公共工事の質が落ちた、公共サービスの質が落ちた」といった具体的事例を提示するのが筋だ。納税者の負担による支出を増やすのであるから、根拠を明示すべきである。
これらの観点から、公契約条例は現実の問題解決に有効ではなく、かえって弊害の大きいものであると考えるべきである。そういう意味で、公契約条例を本会議で否決した札幌市議会の判断は、合理的で良識あるものと評価できる。
上記リンク先の直方市では、パブリックコメントが終わっていることから、今後、議会へ条例案が提出されることと思われる。直方市議会でも、必要性と有効性が本当にあるかどうかをしっかり吟味してもらいたい。何ら議論がなされず、市長提出の条例案を丸呑みするだけであれば、地方議会なんて必要ない。
賃金は、市場で決まる。当事者間の合意で決める。
これ以外の行政介入は、歪みを生じるだけ。介入は不要であり有害である。
「格差拡大を放置していいのか!」という批判が出てきそうだが、この公契約条例に関しては、格差を解消するどころか拡大を後押しするというオマケ付きである。救いようが無い。
○公契約条例案 札幌市議会委、否決へ 自公会派が反対-北海道新聞[政治]
=====【引用ここから】=====
札幌市議会最大会派の自民党・市民会議と公明党は28日、市発注事業の受注業者で働く労働者の賃金下限額を定める「市公契約条例案」について、29日の財政市民委員会で採決し反対する方針を決めた。建設やビル管理など業界の反対が根強いためで、委員会は賛成少数での否決が確実。両会派は今定例会最終日の31日の本会議の採決も反対の見通しで、可決は極めて厳しい情勢となった。
=====【引用ここまで】=====
○公契約条例はついに廃案に!民意の勝利。官の暴走に終止符が打たれる。: 札幌市議会 金子やすゆき ホームページ
=====【引用ここから】=====
札幌では公務員の給与が民間の中小企業と比べると大幅に高いことが有名です。にもかかわらず、民間の給与が上がったという話は聞いたことがありません。あくまで民間企業の給与は景気動向や企業の収益、労使間交渉で決まりますが、官の給与は自治労の政治力をもとに財源無視の既得権重視型で決定されます。給与がいくら高くても、あとは増税で国民に負担させればよいわけですから、財源を心配する必要がないのです。
つまり公共工事は国民の税金で実施する事業であるにもかかわらず、そのコストを考えることなく、「賃上げ=良」という理念論だけで走っているのが公契約条例です。百歩譲って公務員の給料を上げるのは役所の勝手かもしれませんが、その論理で民間企業に賃上げを無理やり強制するのは官の暴走と言わざるを得ません。
=====【引用ここまで】=====
※この札幌市の金子市議のホームページには、上記記事以外にも公契約条例について分かりやすい記事が多数掲載されている。是非ごらんいただきたい。
さて、公契約条例の目的は、一般的に次のように言われている。
○直方市 |公契約条例
=====【引用ここから】=====
市では、平成26年4月からの施行を目指し「直方市公契約条例(案)」の検討を進めています。
対象
市が発注する公契約等
目的
・契約にともなう業務に従事する人の適正な賃金や労働条件を確保し、生活の安定を図る
・公共工事、公共サービスの質の向上
・過当競争、不当なダンピングの排除
・地域経済、地域社会の活性化
=====【引用ここまで】=====
まず、公契約条例で地域経済が活性化するかどうか、について。
公契約条例で、市が発注する契約に従事する労働者の賃金引き上げが義務付けられる。すると、積算の単価が上昇し、契約金額が上昇する。契約金額が上昇すれば、市が発注する契約件数が減少するか、あるいは教育や福祉、社会保障の予算が圧迫される。
もし仮に、生活保護や障碍者福祉の分野の予算が圧迫されたとしたら、それはどういうことを意味するか。職を持たない生活保護受給者や障碍者から、(低賃金であっても)職に就いて収入を得ている労働者への所得再分配となる。失業者や障碍者の側と労働者の所得格差が、公契約条例によって拡大することとなる。
行政は、税金を集めて一旦プールし、その金を右や左に撒くことしかできない。右に撒く金が増えれば、左に撒く金が減る。それだけである。労働者の賃金が増えて、その人たちが消費する額が増えれば地域経済が活性化する、というのは、一面的なものの見方である。労働者の賃金が増える一方で、何か(保護費や障碍者手当て、給付金など)が減るのであれば、プラスマイナスゼロ。この条例で地域経済は活性化せず、良くて横ばいということだ。
次に、「契約にともなう業務に従事する人の適正な賃金や労働条件を確保」について。労働者に実際に上乗せ賃金が支給されるかどうかは分からない。条例の実効性を担保するために市職員に調査権限を付与するとなれば、事業者側と行政側の双方に、処理しなければならない事務作業が発生する。この分、余計なロスが生じるのだ。上で「良くて横ばい」と書いたが、実際の制度運営にあたってはこうした要らん事務仕事の負担がマイナスとなって現れる。
また、現在職に就いている労働者にとっては、公契約条例で賃金上昇や労働条件改善が図られるかもしれないが、人件費が上昇すれば、将来の人件費負担の増加に憂慮した事業主が新規雇用を抑制するかもしれない。市役所が労働問題に取り組めば取り組むほど、採用数が減少し、失業問題が悪化することにつながってしまうのだ。
次に、「過当競争、不当なダンピングの排除」について。過当競争、ダンピングは、財政状況の悪化により公共事業が減少し、その減少した公共事業に業者が群がり、何とか落札しようとすることから生じる現象。財政状況が劇的に改善することは見込めないため、長期的には、公共事業を受注しようとする業者が減少することでしかダンピングは解決しない。
最後に、「公共工事、公共サービスの質の向上」について。この関係で一般的に主張されるのは、「賃金が低下することで労働者の意欲が低下し、手抜き工事やサービスの悪化が生じる」といった論調である。これは果たして本当だろうか。
サービス業における接客応対で、賃金が下がることで態度が悪くなるというのは、想像はできる。ただ、接客態度の悪い従業員の賃金を上げることで、接客態度が改善するのだろうか。疑問である。
一方、手抜き工事が賃金低下で起こるだろうか。手抜き工事は、無理な工期や低予算のため、工程や資材を省いたりすることで生じると推測するが、この動機は事業者側にある。労働者の低賃金が手抜き工事の直接の原因になるというのは、ちょっと考えにくい。
このように、低賃金による質の低下というのは想像の域を出ない。「公共工事や公共サービスの質の向上」を目的とするのであれば、「低賃金が原因で公共工事の質が落ちた、公共サービスの質が落ちた」といった具体的事例を提示するのが筋だ。納税者の負担による支出を増やすのであるから、根拠を明示すべきである。
これらの観点から、公契約条例は現実の問題解決に有効ではなく、かえって弊害の大きいものであると考えるべきである。そういう意味で、公契約条例を本会議で否決した札幌市議会の判断は、合理的で良識あるものと評価できる。
上記リンク先の直方市では、パブリックコメントが終わっていることから、今後、議会へ条例案が提出されることと思われる。直方市議会でも、必要性と有効性が本当にあるかどうかをしっかり吟味してもらいたい。何ら議論がなされず、市長提出の条例案を丸呑みするだけであれば、地方議会なんて必要ない。
賃金は、市場で決まる。当事者間の合意で決める。
これ以外の行政介入は、歪みを生じるだけ。介入は不要であり有害である。
「格差拡大を放置していいのか!」という批判が出てきそうだが、この公契約条例に関しては、格差を解消するどころか拡大を後押しするというオマケ付きである。救いようが無い。