若年寄の遺言

リバタリアンとしての主義主張が、税消費者という立場を直撃するブーメランなブログ。面従腹背な日々の書き物置き場。

正社員―非正規の身分制社会を擁護する労組の御用活動家

2018年11月16日 | 労働組合

【労働問題の根本は解雇規制】

非正規労働者の雇い止めや低賃金、サービス残業、社内失業者の存在と人手不足、介護離職、過労死etc

様々な労働問題に共通する原因の一つが、解雇規制である。

IBMやJALの訴訟でも分かるように、企業は正社員を容易に解雇できない。
しかも、解雇するための条件が明確というわけではなく、
「訴訟をしてみなきゃ分からない」
「担当する裁判官によって左右される」
という曖昧な状態。

このため、
「とりあえず雇ってみて適性を判断する。向いてなかったら解雇」
なんてことはできない。
この解雇規制が引き金となって、

・大学入試時点のポテンシャルで判断する新卒一括採用。
・新卒採用時から定年退職時まで賃金を上げ続ける年功序列賃金。
・解雇できないから新規雇用は減少。
・年功賃金体系に適合しない中途採用の抑制。
・新卒時に正社員になれず、非正規のまま職歴を積めず40代になった氷河期世代。

等の弊害が生じた。
ここから更に、正社員にとっては

・転職、中途採用の途が狭いため、今の会社が自分に合ってないと悩んでも辞めにくい。
・辞められないと足元を見られると、転勤やサービス残業を強いられても拒めない。

と窮屈な状態となり、他方で雇用主側にとっては

・閑散期に正社員を解雇することができないため、繁忙期は正社員の残業か転勤、あるいは非正規の一時的雇用で対応するしかない。
・無能な正社員、向いてない正社員を解雇することができないため、閑職で飼い殺すか、自主的に退職するよう人事配置や業務命令で正社員を追い込まないといけない。

ということになる。

適性のない社員を抱え込むことによる生産性の低下、
正社員の労働環境のブラック化、
正社員と非正規雇用の身分格差の拡大、

・・・等の問題の根本にあるのが、解雇規制である。

日本の解雇規制の下では、『プラダを着た悪魔』のように、中途採用と転職で自分の適職を見つけていくのは困難であろう。

(日本の解雇規制を映画に反映させたら、
「ブラック企業の社長にプライベートな時間までこき使われ、才能の芽が出なくとも、自分に向いた他の仕事に気づいたとしても、退職に踏み切れずひたすら耐え続ける」
という笑えない作品になってしまうだろう。)
たまたま新卒正社員で就職した先が自分に合っていたという人は、ラッキーとしか言いようがない。

【正社員労組・公務員労組は解雇規制を求めている】

このように、解雇規制こそが、日本の労働問題を引き起こした大きな要因となっている。
このことは、多くの人から指摘されているところだ。

他方、解雇規制の強化を求める人も存在する。
身分保障で得をしている正社員・公務員の労働組合だ。
労働組合は、

「賃金上げろ!」
「過労死を許さない!労働環境の改善を!」

といった主張とともに、

「不当解雇は許さない!」

と既得権擁護の立場から解雇規制を強化するよう求めてきた。
そして、この主張に沿って立法や司法も解雇のハードルを上げてきた。
この結果、
「クビになりにくく転職しにくい」
という流動性の低い労働市場が成立した。
流動性の低い労働市場では、正社員は会社に依存しつつも身分を保障され、一方で非正規労働者は不安定・低賃金な待遇に置かれる。

このように、日本の労働問題は、

「資本家 VS 労働者」

という古めかしく信憑性の薄い階級史観で捉えるよりも、

「正社員 VS 非正規労働者」

という身分制の問題として考えた方が理解しやすい。
正社員(特に大企業の)や公務員の身分は解雇規制によって裏打ちされており、
同時に、非正規労働者の数を随時増減することで会社の存続と正社員の身分を支えている。

「資本家が労働者を搾取している」
というよりも、
「正社員保護のしわ寄せが非正規労働者にいっている」
というのが現状だ。

労働者間の身分格差が激しいため、労働問題に関する議論において、
「労働者は~」
という意見を見かけた時は注意しなければならない。「労働者」という主語は大きすぎる。これが正社員を指すものなのか、非正規労働者なのかをその都度考えなければ、意見の内容を把握できない。

【経営側への圧力は】

こうやって書いていると、
「資本家に対して何も圧力をかけなくて良いのか」
「ブラックな経営者を野放しにして良いのか」
という疑問が生じてくる。

対資本家・対経営者への圧力という観点で考えた時、最も有効な手段は
「従業員が辞めていなくなる」
ことだ。
これは「すき家」騒動でも明確に示された事実である。
辞めるために必要なのは、再就職が容易な環境。
雇用の流動性が経営者に労働環境改善を促す有効な手段である。
解雇規制はこれを阻害する大きな要因となっている。

解雇規制をはじめとする労働法制の強化は、資本家・経営者側に

「少々ブラックなことをしても、一度雇われた従業員は容易には逃げない。逃げる先が無い。きちんと規制を守るよりも、規制の抜け道を探して利益をあげろ」

という負のインセンティブを生じさせる。
他方、解雇規制の緩和、撤廃は、

「うかうかしてると転職されてしまう。営業を続けるためには、賃金や休暇日数を増やしてでも人手を確保しなければ」

という方向に作用する。
雇用の流動性、転職市場の活性化は、規制強化路線よりも労働環境を改善する。
「儲けよう」という経営者の意欲と労働環境の改善が同じ方向を目指したものとなるため、無理がない。

他方、規制強化は、規制破りによって得られる利益を増すことになる。
労働環境の改善と経営者の意欲とが対立することになるため、規制による労働環境の改善は遅々として進まない。
さらに、規制の実効性を高めるために公務員の数が増え、手続きや書類の数が増え、生産的な活動からそうでない活動へ人手と時間が奪われてしまう。

【正社員労組・公務員労組との蜜月な関係】

このように、解雇規制が労働問題や格差社会の元凶の一つであり、解雇規制の強化を求める労働組合は、労働問題の解決に寄与していない。
それどころか、労働問題の原因を作り、労働問題を悪化させる主張を繰り返している存在である。
少なくとも、非正規労働者にとって正社員中心の労組は、対立する身分を代表する敵である。

ところが、世の中は不思議なもの。

「格差を是正しよう。貧困問題を解消しよう」
と主張する活動家が、こうした正社員労組・公務員労組とベッタリなのだ。

○貧困問題×労働組合 既存の大企業労働組合はミクロの現場発の政策提言を - 特集 - 情報労連リポート 藤田 孝典・柴田 謙司

○KOKKO - 著者:日本国家公務員労働組合連合会,平野啓一郎,早川征一郎,山﨑正人,竹信三恵子,鎌田一,藤田和恵,渡辺輝人,藤田孝典,熊沢誠,浅尾大輔 | ALL REVIEWS

○ハローワークの明日を考えるシンポジウム | 日本自治体労働組合総連合

○藤田孝典さんのツイート:労働組合の情報労連から30万円、愛恵福祉支援財団から20万円の事業助成・資金助成をいただきました。

労働組合から仕事をもらい、金をもらい、労働組合を擁護する。
「御用活動家」と呼んでいいだろう。

-----(2018.11.18追記)-----
藤田さんは、
「社会保障や福祉が足りてない、もっと富裕層に課税しろ」
と主張している。しかし、その主張に
「社会保障のどの分野が〇円不足している。年収□円以上の人に△%で徴税したらこれを賄える」
という具体性は無さそうだ。
(これを具体的に計算すると、富裕層からの徴税では全然足らず
「現行の社会保障給付を維持するだけでも消費税30%は必要」
といった話になるのだが、彼はこの議論を避けているふしがある。)

彼にとって、富裕層叩きは単なる嫉妬・・・と思っていたが、そうではないかもしれない。

スポンサーである正社員中心の労働組合に呼ばれて講演する時に

「非正規労働者が不安定で低賃金な境遇に置かれているのは、あなた達正社員の雇用を守るためなんですよ」
「講演会場の出口で、『解雇規制を撤廃し同一労働同一賃金を求める署名』をやってるので、ぜひ署名していってください」

とは口が裂けても言えないだろう。
しかし、労働組合主催の講演会で、富裕層叩きは話題として使いやすい。

「ZOZOの社長は月に行く金があるなら従業員に配れ」

といった富裕層叩きは、聴衆のウケも良いのだろう。

そういうことだ。
富裕層叩きは社会問題を解決へ導く方法ではなく、彼個人の飯のタネなのだ。
-----(2018.11.18追記)-----

(この講演料や助成金は、組合員が

「組合費高いよなぁ」
「これが無かったら手取り増えるのになぁ」
「労働問題以外の政治活動が多いよなぁ」

と不満に思いながら給料から天引きされたお金なんだよね。)
コメント
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