イエローフローライトを探して

何度も言うけど、
本当にブログなんかはじめるつもりじゃなかった。

愛人と言われても構わない

2007-02-14 20:37:05 | テレビ番組

やっとノッてきたかなと思った『華麗なる一族』、第5話はちょっと中だるみ。鉄平が岳父の献金スキャンダルリーク元追及に感情的になってた分、小が大を食う銀行合併と高炉建設という、企業もの、謀略サスペンスとしての本筋があんまり進まなかったし、昭和40年代になお色濃い封建的家父長制度に圧し潰されっぱなしな女性キャラ陣の情けなさ、まだるっこしさがここへ来てなんとも目障りになってきました。

豪邸に住んで高い服を着てはいても、結局“女はいい家に嫁いで、夫の出世のために尽くし、跡継ぎを産んでナンボ”という価値観のもと、みんなウジウジ、オドオド、ビクビクしながら暮らしているだけで、贅沢や社会的地位をひとつも楽しんでない感じ。

まぁ当時の“旧家”“名家”と呼ばれる一族の女性は、スケールの大小に応じてみんな多かれ少なかれこんなふうだったのだろうから、ことさら情けなく描写しているわけではないのでしょうけど。

原作にあった万俵家三女・三子が今回のドラマ化では抹消されているのが惜しまれます。上の兄姉たちに比べて躾けも厳しくなかったこともあって、自分の出生や環境をひとつも否定的にとらえず、何不自由ない財閥の娘という立場をエンジョイしているキャラで、我々名もなく貧しい一般庶民がイメージする“金持ちお嬢さん”にいちばん近く、わかりやすい人物。74年版では当時の新人女優・山添多佳子さんがおっとりした雰囲気を出して好演していました。

親世代、兄姉たちのシャレにならない情念シリアス度合いを対照的に浮かび上がらせる意味でも、惜しいキャラをカットしちゃったなと思います。

第5話で独走で輝いていたのは、鈴木京香さん扮する高須相子。“万俵家の閨閥作りは私にオ・マ・カ・セ”状態だけれど、考えてみれば、お妾さんですからね。この日も二子の見合い相手を紹介してもらうために駐仏大使夫人と会う場面がありましたが、もし月河が名家の夫人で、年頃の独身の息子に“家柄育ちのいい娘さんを嫁にもらいたい”と考えていたとして、財閥総帥=都銀頭取の次女と縁が繋がったらそりゃ嬉しいけど、どうぞどうぞと引き会わせてくれるのが、頭取の奥さんでも姉妹でも、伯父伯母でもなく“頭取のお妾”だったら、そんな家で育った女の子じゃちょっと…って引くと思うんですけど。

大蔵省次長である美馬(=万俵長女の嫁ぎ先)とも懇意(夫の東大後輩?)らしき駐仏大使小泉夫人、相子に「あなたも大したものね、頭のいい女性はワタクシ、嫌いじゃありませんわよ」って、聞きようによってはえらい皮肉とも取れる言い方をしてましたが、ラマンの国・フランス生活が長いからそういうことにはさばけているセレブを取っ掛かりに選んだ相子の眼力、政治力恐るべし、ってことなのか。

こうなったら、…さぁ万俵家の閨閥プロジェクト発動!と同時にBGMを007のOPテーマ、もしくは『ミッション・インポッシブル』のテーマにして、相子が脳内の電話帳のページをサァ~と繰って「奥様はご在宅でいらっしゃいますか」「折り入ってお願いがございますの」と電話かけまくったり、クロゼットをバーン開けてVIP夫人と会談のためのスーツを選んだり、パンプスカッカッ言わせて見合い場所の下見に赴いたり、呉服屋を座敷に呼んで「違うわね」「もっと格調の高い柄ゆきはないの」「これでは先様に釣り合わないわ」と駄目出ししながら着物見立てさせたり…という1分30秒ぐらいのシークエンスが欲しいですね。

企業の買収だ合併だより、ずっとサスペンスフルで華もある知略ドラマになるじゃないですか。

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豊民類(ほうみんるい)

2007-02-14 00:21:59 | テレビ番組

昨日『わるいやつら』と『美しい罠』の符合を軽く考察してみましたが、テレ朝清張シリーズ前作の『けものみち』(本放送06年1~3月)も、かなり『美罠』との共通項を持っていました。

①主謀者たる男(『けもの』では小滝=佐藤浩市さん)が、係累なく将来の希望もない貧しい女をスカウトしてみずからの野心の手先に。

②送り込む先は莫大な富、もしくは裏社会への圧倒的な影響力を持つ容貌魁偉な老人(『美罠』では不破=麿赤兒さん、『けもの』では鬼頭=平幹二朗さん)。

③主たる任務の第一はセックスの提供で歓心をかうこと。

④任務成功、あるいは進捗により、女は夢のような贅沢と地位を手に入れる。

⑤女は主謀男に好意を持っており、それが④と同列もしくはむしろ④より強力な、任務承諾の主動機に(『わるいやつら』にも共通)。

⑥女の好意に対し、男も気がなくはない素振りを随所で覗かせるが、真偽は不明、もしくは(真であっても)女に伝わらない(同じく『わるやつ』も)。

⑦派遣先の老人は女のカラダに完コロとなるも、一度は(もしくは一貫して)送り込んできた主謀男との仲を疑い問い詰める。

⑧…しかし老人は、やがて女の精神面の非凡さへのリスペクトも持つようになって行き、最終的には男女関係や欲得を超えて互いに一種の誠意が通いあう。

…再放送の録画を見返しながらざっと拾っただけでもこんな按配。

ただ『けもの』の小滝は、いくらなんでも民子(米倉涼子さん)に対して、本心がわからないにもほどがあるってぐらいわからなかった上、「一見、敵と見えて、実は惚れてる?」のポジションをあらかた久恒(仲村トオルさん)に持って行かれてしまったので、現在進行で(再放送だったけど)観ている時は『美罠』との重層を強くは感じませんでした。

どれかがどれかをパクってる?なんて放送時期の前後関係などを邪推してもムダで、『美罠』はカトリーヌ・アルレー(『わらの女』)、『わるやつ』『けもの』はもちろん松本清張と、別々の原作から発しています。

あるいは、TVに似合う悪女像”のひとつの規範、クラシックが、三作品に通底しているのかもしれません。

そこで、名づけてみたのがこの↑↑↑↑記事タイトル。

もちろん『わるやつ』美、『けもの』子、『美罠』子の名前から一字ずつ頂戴しました。

今後、この三作品と共通のモチーフ(看護師、夢希望ない女、悪い色男に惚れ共謀、老人たらし込み、離反して重犯阻止、実は純愛な老人…etc.)を幾つか共有するドラマや映画が現われたら、ヒロインを「これ、ホーミンルイだね」と呼びましょう。

20世紀ベトナムの民族主義政治家とは関係ありません(それはホーチミン)。

(………………)

ちなみに、『けもの』再放送に続いて『わるやつ』にも嵌まった時点で、ようやく決心がつき、先日『美しい罠』完全版DVD購入予約を済ませました。こうして別建て、別路線の作品を解釈する際にも基幹ソフト、パラダイムとなり得る、“骨密度の高い”ドラマはたぶん後にも先にも『美罠』だけだろうという確信が得られたからです。

コメント (2)
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