『華麗なる一族』が第4話にしてだいぶ持ち直してきました。
通産省前での鉄平と岳父・大川代議士とのシーンがこの回の白眉と言っていいでしょう。「鉄平君、私はあんたを本当の息子だと思っておる。子の役に立てるということが、親にとっては一番の喜びだ」は、この作品のテーマを裏から射抜いたとも言える名台詞です。
この場面が感動的な理由は、それだけではないのです。“息子”の窮境を救うために直談判に駆けつけた大川は、医師と看護婦に付き添われ、庁舎玄関から専用車までの僅かな距離も婿の介添えを借りなければならない姿を衆目にさらしたために、実は永田大蔵大臣(津川雅彦さん)と争っている次期総裁選レースから、みずから、たぶん永久に敗退したのです。「あのセンセイは危ないらしい」という噂だけでも、政治家生命には致命傷になり得る。大川ほどの海千山千の政治家が、これを意識しなかったはずはありません。ヤミ献金にまで手を出して必勝を期していた、政治家として最後の天王山をあえて棒に振ってまでも、“息子”の夢を手助けしようとした。舞台は敗戦22年後ですから、大川の年配なら、戦前~戦中の日本の迷走、そして戦後の荒廃をつぶさに見、体験しているはず。鉄平より少し年嵩の実子が居たら、兵隊に徴られて失くしていたかもしれない。彼には鉄平が“自分たちにかなわなかった日本の将来像”の象徴に見えているに違いありません。
車窓越しに大川が手を振ったのは、鉄平への挨拶と言うより、みずからの政治家としての最後の野心への、英雄的訣別でしょう。登りつめようと戦う若者と、若者のために退場する、かつての若者。3話で鉄平と芙佐子が学生時代の回想にひたる場面で流れたときは感傷的で嫌味だった『デスペラード』が、この場面、というより大川という男のキャラにしっくりはまり、さわやかな、勇壮なる哀切さを演出していました。
この場面に先立ち、鉄平が局長席から追い出される寸前「大臣室へ」の声がかかってドアを開けると、いきなり医師と看護婦が控えていて鉄平アレ?→入室するとバツ悪そうな現大臣(坂東英二さんの情けなさナイス)の前に大きな背中が→猪首が振り返ると大川代議士本人、という流れのシークェンスもよかった。大きな上体を半分、テーブルの上に突き出して、いかにも“現大臣にきっついお灸を据えてた最中”という姿勢のまま、もう半身で振り向いて、鉄平に目配せとも言えない“ウンウン、任せたまえ”サインを送る大川、眼の周りには黒々とクマが浮き出ていて、病を押し医師の猛反対をも押し切っての出陣なのは明らか。本当に何度見ても西田敏行さん、入魂の演技です。
椅子の背越しの視線の演技と言えば、最後の場面、先代の十三回忌に赴くため一族が落ち合った万俵家居間、父・大川代議士の新聞沙汰で一族の輪に加われないでいる早苗を見て長女・一子が「早苗さんお気の毒に」とつぶやいたとき、早苗に投げた高須相子(鈴木京香さん)の一瞥にも物凄い迫力がありました。後に続く台詞は「万俵家に恥をかかせたんだから同情の必要はないんじゃありません?自業自得よ、一族から犯罪者を出したんですもの」ですが、あの眼は蔑みや嫌悪感だけをあらわしていたのではない。負け犬になることの怖さを知り、そうなることを憎んでいる者の眼でした。京香さんのあの眼を見ると、相子という女性がどんな出生からどんな縁あって万俵家の家庭教師となり、どうやって女家令兼当主の愛人にのし上がったか、サブストーリーもドラマ化してほしくなります。
ドラマ全体としては相変わらず、製品出荷だ原料到着だ何かっつったら工員が集合してわーわーおーおーメット振るとか、沖仲仕軍団の頭目(六平直政さん)とあわや大乱闘!が鉄平の青い長口舌で「いい根性しとるな」とおさまるなど、“アタマ数出しとけば重厚感、豪華感が出る”と勘違いした演出の空疎さ、他愛無さも払拭し切れていないのですが、やはり力のある俳優さんを脇に惜しげなく投入している強み、ここへ来て役者さんの力量とキャラの読み込みがようやく合致してきました。「次回が楽しみ」…この作品に、やっとこのひと言が心から書けて嬉しい限りです。