大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

やくもあやかし物語・146『まだひとりぼっち』

2022-07-02 09:28:33 | ライトノベルセレクト

やく物語・146

『まだひとりぼっち

 

 

 ……あんがい広いんだ。

 

 ベッドと机の間の、ちょっと谷間のような床に転がっている。

 いつもはね、一人用の座卓っていうかテーブルがあって、テーブルの上には、宿題とか読みかけのラノベや、ちょっとだけ残ったスナックとか。

 座卓で勉強やら読書やら、ただボーっとしていたりする。

 ときどき横を向くと、目の高さの机の上にチカコと御息所のコタツがあって、二人も、ボーっとしてたり、なんかしてたり。

 で、ときどきのときどき、なにしてんの? とか声を掛ける。

 ときどきのときどきには、わたしの座卓に移ってきて話しかけてくる。逆に、わたしが机のへりにアゴを載せて「ねえ、なにしてんの?」とか声を掛ける。

 その周りには、アノマロカリスやら黒電話やら他のいろいろのフィギュアやらグッズやら、そういうのが、チョッカイ出したり出されたり。

 けっこう賑やかで、ちょっと前までは「もう、うるさいなあ」と感じるほどで、部屋は狭く感じたもんですよ。

 それが、みんな神保城に行っちゃって、チカコにいたっては行方不明……ううん、チカコのやつ、本当は皇女和宮だった。

 正確には、和宮の左手首。

 将軍様にお嫁に来る時に、左手に願掛けして――せめて、左手首だけでも青春させて欲しい――とお願いした。

 ちょうど二丁目断層のところだったんで、二丁目断層が聞きいれて、百六十年ほどして、わたしのところに来た。

 そのチカコも行っちゃって、わたしの部屋は、ちょっと寂しいよ。

 

 むう

 

 アニメの甘えん坊キャラみたく口を尖らせてみる。

 なにもリアクション返ってこない。「こどもみたい」とか「あれで可愛いつもりよ」とか「アハハ(^_^;)」とか、わたしの部屋の住人は返してくれたもんだけどね……。

 メイデン勲章改・Ⅱを睨んでみる。こないだも試してみたけど……今回もダメだ。わたし一人神保城には行けない。

 グーーーー

 おなかが鳴った。

 どっこいしょ……舌切り雀のお婆さんが、つづらを背負う時みたいに掛け声かけて起き上がる。

「ええと……」

 八犬伝カップ麺を漁ってみる。

 まだ五個残ってる。

 賞味期限は切れてないんだけど、蓋に書かれた文字が薄れて、ほとんど読めない。

 仁  義  礼  智  忠  信  孝  悌

 仁と義は食べたから……ま、いいや。

 お湯をかけてメイデン勲章改・Ⅱをのっける。スマホのタイマーを4分に設定。

 カップ麺の蓋を押えるためのフィギュアがMamazonに出ていたのを思い出す。

 面白いけど、あれを考えた人は、きっと私以上に部屋を広く感じる人だったんだろうなあ……とか思う。

 

 コンコン

 

 あと10秒というところで、窓ガラスを叩く音がする。

 こういう場合は、たいていあやかしで、めんどくさいこと持ちかけられる。

 でも、この時は、ちょっとだけドキドキして窓辺によってみる。

 

 こんにちは

 

 窓の向こうで、口の形で挨拶してくれたのは……え、だれだっけ?

 色白、黒髪の美人さん……あ、里見さんのお嬢さんだ!

 いつもは、飼い犬の八房が来るので、すぐにはピンとこなかった。

 それに、里見さんのお嬢さんと目を合わせるのは初めてだったしね……。

 

☆ 主な登場人物

  • やくも       一丁目に越してきて三丁目の学校に通う中学二年生
  • お母さん      やくもとは血の繋がりは無い 陽子
  • お爺ちゃん     やくもともお母さんとも血の繋がりは無い 昭介
  • お婆ちゃん     やくもともお母さんとも血の繋がりは無い
  • 教頭先生
  • 小出先生      図書部の先生
  • 杉野君        図書委員仲間 やくものことが好き
  • 小桜さん       図書委員仲間
  • あやかしたち    交換手さん メイドお化け ペコリお化け えりかちゃん 四毛猫 愛さん(愛の銅像) 染井さん(校門脇の桜) お守り石 光ファイバーのお化け 土の道のお化け 満開梅 春一番お化け 二丁目断層 親子(チカコ) 俊徳丸 鬼の孫の手 六条の御息所 里見八犬伝 滝夜叉姫 将門 アカアオメイド アキバ子 青龍 メイド王

 

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やくもあやかし物語・145『日曜の朝 突然のひとりぼっち』

2022-06-20 08:58:29 | ライトノベルセレクト

やく物語・145

『日曜の朝 突然のひとりぼっち

 

 

 目が覚めると、ちょこっとだけ体に力が入る。

 

 起きて学校に行かなきゃと思うんだ。

 あ

 そうだ、今日は日曜日……とたんに、少しだけ入れた力が抜ける。

 目玉を動かして机の上を見る。

 1/12サイズの六畳の上にはコタツがあって、御息所の脚が覗いている。

 いつもだったら、チカコと二人で首だけ出して寝てるんだけどね。

 チカコがいないもんだから、御息所は悶々として、まるでコタツ被ったみたいにして寝てる。

 

 オズの魔法使いにあったよね、こういうの。

 

 ドロシーが、竜巻に巻き込まれて家ごと吹き飛ばされて、ドスンと落ちたら、それが悪い魔法使いの真上。

「キャ、どうしよう、人を押しつぶしてしまった!」

 ところが、マンチキンの住人やら南の魔女のブリンダとかがやってきて教えてくれる。

「それは、みんなが困っていた西の悪い魔女ですよ。ドロシーがやっつけてくれたんでみんな喜んでるわ」

 それで、今度は東の悪い魔女をやっつけに行くってドラマが始まる

 そのとき、ドロシーの家に押しつぶされた西の悪い魔女みたいだ。

 

「だれが、魔女だってぇ?」

 

 御息所がぶちゃむくれの首を出して文句を言う。

「寝れなかったんだね」

「フン、お前こそ……」

 そう言うと、完全にコタツの中に潜ってしまった。

 

 コタツの向こうには、チカコが依り代にしていた『妹が憎たらしいのには訳がある』の幸子。

 命の灯が消えて、ほんとうにただのフィギュアに戻っている。

 

 プルルルル

 

 黒電話が鳴って、ビックリして受話器を取る。

「もしもし……」

『交換手です、やくもさん、お城の方に来ませんか?』

 そうだ、部屋の中の仲間は、みんな神保城に行ってるんだ。交換手さんも紺の制服で実体化していたんだ。

「うん、すぐに行く!」

 電話を切るとコタツを持ち上げて、本格的に御息所を起こす。

 あれ?

 御息所の姿が無い。

 ウ~~ン(*≧m≦*)

 コタツをひっくり返すと、コタツの脚に両手両足を突っ張らかして御息所が貼り付いている。

「お城に行くよ」

「わらわは、行かぬ」

「勝手にしなさい!」

 ドスン

 乱暴にコタツを置くと、メイデン勲章改・Ⅱを取り出す。

 

 ジィーーーーーーーーーーーーー

 

 あれ?

 いくら見つめても、お城に行ける兆しがない。

 なんで?

 

 ジッィーーーーーーーーーーーーー!

 

 穴のあくほど睨んでもダメだ。

 

「ねえ、ちょっと!」

 コタツの御息所に声を掛ける。

 え……?

 気配がしないので、もう一度コタツを持ち上げる。

 コタツの敷布団にも、ひっくり返したコタツの裏側にも、御息所の姿が無い。

 

 え……どうしよう……

 

 部屋のグッズたちは、みんな神保城の方に行ってしまってるよ。

 部屋は、まるで越してきた時みたいに寂しくなってしまった。

 

☆ 主な登場人物

  • やくも       一丁目に越してきて三丁目の学校に通う中学二年生
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やくもあやかし物語・144『チカコ』

2022-06-14 10:23:20 | ライトノベルセレクト

やく物語・144

『チカコ』   

 

 

 またわたしの姿で……

 ちょっと辟易、ちょっと親しみ……そんな感じで、のっけに言ってしまった。

 

 夢の中に、二丁目断層がやってきたのだ。

「また、いずれって言ってただろ」

「でも、わたしと同じ姿かたちは気持ちが悪い」

「この姿が、いちばん気持ちが伝えやすい。我慢しろ」

「で、なんなの? あしたは一時間目が体育だから、しっかり寝ておきたいのよ」

「時間はとらせない」

「……チカコのことなの?」

「ああ、そうだ。これを見ろ……」

 断層が指を回すと、立派なお墓が並んでいるところに来た。

 重々しい塀で囲まれていて、広さは、小学校のグラウンドほどもあるんだろうか……御霊屋って言うの? 神社のお社みたいなのや、お墓を並べた石段みたいなの、その間には、古い公園みたいに木々が茂っていて全体の様子が知れない。

 お墓には、文字の刻まれたのや、石碑が付属していたりするんだけど、字が難しい。

 ~院とかが多いんだけど、~院なんて、病院とか修道院とかしか浮かんでこないし。

「こっちこっち!」

 断層は、さっさと行っちゃって、木とお墓の向こうから手を振ってる。

「ここって、歴史上の人物とかのお墓?」

「うん、徳川家累代のお墓」

「徳川!?」

「えと……これだ、これ」

 断層が指差したのは、石段の上、神社の玉垣みたいなのに囲まれた二つのお墓。

「向かって右側が、家茂(いえもち)くん、左側が奥さんの和宮さん」

「ああ、なんか歴史で習ったかも(^_^;)」

 徳川さんなんて、家康と水戸黄門ぐらいしか知らないし。

「和宮は、天皇さんの娘で、京都から嫁いできたんだよ」

 なんか、呼び捨てしてるし。

「すでに婚約者がいたんだけどね、婚約破棄させられて十四歳で江戸にやってきた」

「十四歳……わたしと同い年だ」

 結婚は法律的にも、たしか十六からだよ。十四なんてありえない。

「だよね、和宮自身、そう思ってた」

「いやいやお嫁さんになったの?」

「まあね……明日は江戸に入るという前の日に、ボクの目の前で休憩したんだ。ほら、ペコリお化けが出るあたり」

「ああ、坂を上りきったところ」

 越してきたころ、大きな家が取り壊し中で、ガードマンの格好したペコリお化けに会ったのが、あやかし付き合いの始まりだった。

 

 ちょっと懐かしい。

 

「ちょっと可哀そうに思ってな、助けてやることにしたんだ」

「婚約破棄とか!?」

「それはできない。天皇が決めたことだからな」

「じゃあ?」

「ちょっと、お墓を透視しよう……」

 断層といっしょにお墓を見ると、お墓の中で左側を下にした和宮さんが見えた。

 とっくに骨になってるけどね(^_^;)。

 あれ?

「気が付いた?」

「うん……左手首が無い……え!?」

「そうだよ」

「でも、でもでも、うちのはチカコだよ、和宮じゃないよ!」

「和宮の真名は親子と書いてチカコなんだ。皇族のお姫様って、いまでも~宮~子だろ。秋篠宮真子とかさ」

「あ、ほんとだ……」

 そうだよ、チカコが最初に現れた時って、左手首だけだった!

「左手に思いを込めて、それを預かったんだ。左手に青春させてやることにしたんだ。それで百ン十年後の去年、やくもに預けたってわけさ」

「で……どうするの?」

「ありがとう……やくもは、十分親子に青春させてやってくれたよ」

「それって、つまり……」

「うん、帰してやっておくれ」

 断層は、とっても思いやり深い笑顔で、やさしくお願いするように首を傾げた。

 わたしと同じ顔で……でも、わたしには、まだできない笑顔で……。

 

 あくる朝、目が覚めると、机の上のコタツには、御息所だけが寝息を立てていて、チカコの姿は無かったよ。

 

☆ 主な登場人物

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やくもあやかし物語・143『お客は二丁目断層』

2022-06-08 09:55:48 | ライトノベルセレクト

やく物語・143

『お客は二丁目断層』   

 

 

 応接室のソファーに座っていたのは、同じ中学、後姿の女生徒。

「やあ、久しぶり」

 そう言って振り返った顔は、あたしだ。

「ゲ」

「アハハ、『ゲ』はないだろう」

 そう、そいつは、外見的には、あたしとソックリな二丁目断層だよ。

 断層のくせに妖で、目の前に現れる時は、いつもあたしソックリに化けている。

 本性は、神さまがインクを落としてできた染みみたいなまっくろくろすけ。

 わたしと同じ能力者の教頭先生が「けして直に見ちゃいけない」と言って、体育館の鏡に映してしか見せなかった、ご近所きってのあぶない奴。

 アカメイドさんも、二丁目断層だって言ってくれればいいのに。

「言ったら、会ってくれなかっただろ。それに、メイドさんには違う姿見せてたし」

「むー」

「いいお城じゃないか、ほら、新築祝い」

「え……てか、新築じゃないよ。もらったもんだし……なんなの?」

 断層が取り出したのは小さな紙箱。お祖父ちゃんが通販で買った腕時計が入っていたくらいの黒い箱。

「開けてごらんよ」

「う、うん……」

 なんかパンドラの箱めいてるんだけど、教頭先生が――直に見ちゃいけない!――というほど悪い奴じゃないというのは分かっている。

 断層の頼みで預かったチカコは、とっつきは悪いけど、いい子だしね。ひょっとしたら、うちの家だけの超局地的地震とか起こして意地悪するかと思ったけど、そういうこともなかったし。

 パカ

 開けると、ほとんど透明な霧みたいなのが立ち上って、あっという間に窓から出て行った。

「……なに?」

「ボクの気だよ」

「ゲ、あんたの気!?」

「もう、ゲって言うなよ。あれは、ボクと同じ力で外敵から城を守ってくれるんだぞ」

「バリア的な?」

「アキバは夢はあるけど、守りに弱くってさ、まだ歴史が浅いし。このお城も、やくもがアキバを護ってやったお礼だろ?」

 それもそうだよね……納得してどうすんのよ、あたし。

「で、なんの御用なの?」

「ご挨拶だなあ……まあいいや。実は親子(ちかこ)のことなんだ」

「チカコ?」

「やくものお蔭で、ずいぶん明るくなった。積極的になったし、口数も多くなった……ほら、あんなに元気に……」

 ドタドタドタ!

 窓の下、庭を走る音がする。「待てえ!」とか「コラー!」とか言ってチカコが御息所を追いかけまわしている。

「やくもに預ける前は、あんな元気に走り回るような子じゃなかった」

「あれはね、御息所が、チカコをからかったのよ。御息所は気に入ってるみたいだけど、チカコは、あんまりお城が好きじゃないみたいで」

「昔は、あんなに好き嫌いが言える子じゃなかった、元気になったんだよ……」

 なんか、しみじみと愛しむような目でチカコの姿を見る二丁目断層。

 なんか……やだ。

「そうか……やくもは、親子を実の姉妹のように思ってくれているんだ」

「え、あ、それは……(;'∀')」

 こいつ、人の心を読むんだ。

「ボクは、断層が好きでね……」

 そりゃ、あんた自身リアル断層だもん。

「断層というのは、相反するものがせめぎ合って困っている状況なんだよ……放っておくと、いつか『せめぎ合い』が溜まっちゃって、ドッカーン! グラグラってきちゃう。中には押しつぶされるのもいたりして……そうだね、ボクは親子に思い入れがきつすぎたから、つい出しゃばっちゃった。こういうことは、やっぱり本人が出てこなくっちゃね……あとで、もう一度連絡するよ。じゃあね」

 そう言うと、二丁目断層は無数のポリゴンみたいに細かくなって消えて行った。

 キャー ドタドタドタ キャー ドタドタドタ

 あいかわらず、庭ではチカコが御息所を追いかけまわし、アノマロカリスや、他のフィギュアたちも加わっていたよ。

 

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やくもあやかし物語・142『神保城・2』

2022-06-02 07:45:32 | ライトノベルセレクト

やく物語・142

『神保城・2』   

 

 

 どこかで見たことがある……

 

 神保城のあちこちを探検して思ったよ。

 大きなお城なんだけど、窓とかバルコニーから見える尖塔とか櫓とか。大手門入ったとこの広場の具合。全体としてコの字型に配置されてる建物とか。

 それに、なによりお城から見える景色っていうかロケーション。

 お城は独立した峰の頂にあるんだけど、峰は背後にも繋がって大きな山になって、そこから滝が流れてて、お城を取り巻く天然の堀になってる。

 堀は、お城を取り巻いたあとは下流に流れて、ふもとの街を潤して湖に流れ込んでいる。

 

 これって、ノイシュバンシュタイン城だ。

 

 ちょっと舌を噛みそうな名前なんだけど、わたしは正確に覚えてる。

 だって、ノイシュバンシュタイン城は、ディズニーのシンデレラ城のモデルなんだよ。

 子どもの頃、ディズニーランドに行きたくって、絵本とか動画とかをよく見ていた。

 ディズニーランドっていえば、ゲートを入ったらワールドバザールを抜けて正面に見えてくるシンデレラ城だよ。

 それで、シンデレラ城のことをいろいろ調べた。

 そしたら、シンデレラ城は、本当は眠れる森の美女のお城がモデルだって分かった。

 それが、なんでシンデレラ城になったか? 多分ね、眠れる森の美女よりもシンデレラの方がメジャーだから。

 それに、眠れる森の美女城って言いにくい。シンデレラ城の方がだんぜん言いやすいでしょ。

 そのシンデレラ城のモデルになったのがノイシュバンシュタイン城って言われてる。

 それを知ってからね、ノイシュバンシュタイン城の写真を学校の図書室で発見した。

 それは、二か月で一枚めくる式のカレンダーだったから、図書の先生に「つぎ、めくる時にください!」ってお願いしといた。

 そして、お城の写真のとこだけにして机の前に貼っておいたんだ。

「やくも、ドイツに行きたいの?」

 お母さんが、笑いながら聞いた。

「あ、とってもファンタジーだから、図書の先生に言って、もらったの!」

 シンデレラ城にしなくてよかったと思ったよ。

 だってさ、シンデレラ城を張っていたら「やくも、ディズニーランド行きたいの?」ってお母さんは聞いてくる。

 ほとんど鍵っ子だったわたしに、お母さんは引け目感じてて、ちょっと無理してもディズニーランドに連れてってやろうと思うよ。

 ディズニーランド行ったら、親子二人の一か月分の食費代が飛んで行ってしまう。

 

 だから、ノイシュバンシュタイン城。

 

 それが自分のものになったんだから、これは、もう興奮ですよ。

 どこに行くにも、長い廊下とか階段とかがあるんだけど、それはそれで3Dラビリンスって感じでおもしろい。

 部屋の仲間たちも等身大になったり擬人化したりして、好き好きにお城の中を歩き回ってるし。

 アノマロカリスは立派な鎧を着た将軍みたいだし、交換手さんは女逓信大臣とか言って、城内に電話回線張り巡らすのに熱中している。イモニク(妹が憎たらしいのには訳がある)のキャラたちもあちこちに散らばって自分の部屋を確保して、御息所は、勝手に二部屋ぶち抜いて平安時代風にしてしまうし。

 

 あら?

 

 ちょっとくたびれて、尖塔に登ってみると、凸凹の胸壁に頬杖付いてチカコがタソガレてる。

「チカコ、くたびれた?」

「ちょっと、お城って苦手」

「そうなんだ……」

 いつもは1/12のフィギュアの姿だから気にならなかったけど、等身大になると、なんだかリアルにアンニュイってか、寂しそう。

「ちょっと、遊び過ぎたから、もう家に帰ろうか?」

「いいわよ、みんな楽しそうだし」

「だって、だいぶ時間もたっちゃったし」

「やくも、聞いてなかったの?」

「なにを?」

「神保城にいる間は、リアルの世界では時間は経たないのよ」

「え、そうなの?」

「ハハ、もう、ここに三日もいるのよ」

「ええ! そうなの!?」

「フフ、ほら、やくもだって楽しいから時間のたつのも忘れてる」

「アハハ、そうなんだ」

 

 その後は、なんとなく話が途切れてしまって、わたしは階段を下りて広間に戻る廊下に出たよ。

 

「やくもさま」

 メイドさんがうやうやしく頭を下げる。

「あら、アカメイドさん」

「はい、本日より、神保城に出向するように仰せつかってまいりました」

「あ、そうなんだ(^_^;)」

 なんか、至れり尽くせりで、ちょっと怖くなってきたかも。

「アオメイドさんは?」

「はい、来客がありましたので対応して……あ、参りました」

 アオメイドさんが、ちょっと急ぎ足でやってきた。

「やくもさま、お客さまでございます。第一応接室にお運びください」

「あ、ありがとう。どなたのなの?」

「一丁目のご近所の方です」

「あ、うん」

 それだけを聞いて、それ以上は気いちゃいけない感じがして、第一応接室に向かったよ。

 

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やくもあやかし物語・141『神保城』

2022-05-27 12:54:37 | ライトノベルセレクト

やく物語・141

『神保城』   

 

 

 意外にかわいい顔をしている……メイド王さんだよ。

 

 仮にも王様だし、遅れたのはわたしの方だし、起こしちゃ悪いって思った。

 取次のメイドさんだって立ったまま居眠りしてたしね。

 ここは、お目覚めになるまで待っているしかないと思うわけですよ。

 衣装がね、王様らしいローブなんか着て、首には貂かなにかの襟巻みたいなの巻いて、頭には略式の王冠。

 略式と言っても、王様だから、そこらへんの王女様のティアラなんかよりもゴッツいよ。

 

 カクン

 

 なにか夢でもみたのか、体かカクンとして襟巻がズレて喉元から鎖骨にかけて露わになる。

 その露わになったところが白くて華奢でね。ちょっと感動。

 なんというか、宝塚音楽学校の娘役の生徒さんが、文化祭で無理して王さま役をやっているような感じ。

 ちょっと倒錯したような可愛さに、思わず見とれてしまう。

 

 コンコン

 

 謁見室のドアがノックされて「はい」って応えたら、メイドさんが六人も入ってきた。

 二人がテーブル、もう二人が一脚ずつ椅子、もう一人がトレーにティーセット載せたのを捧げ持ってる。

 あ、一人はメイド長って感じで、ツカツカと王さまの横に行くと、なにか囁いた。

「あ、これはすまん。あまりの心地よさに、ちょっと居ねむってしまったようだな。よく来たな、やくも。そちらの椅子に掛けられよ。あとは、わたしがやる。下がってよいぞ」

「では、失礼いたします」

 メイド長が言うと、五人のメイドさんたちも頭を下げて謁見の間を出て行った。

「すみません、わたしの方こそ遅れてしまって、お待たせしてしまいました」

「この城は険しい峰の上にあるからなあ、初めての者は、たいてい時間がかかる。わたしの方も、それを見越していたところがあるんだよ。やくもを待つという口実で、少し寛ぐことができた。メイドたちも心得ていて、みな適当に休んでいたよ。取次はいわば貧乏くじで起きていなければならなかったのだが、あまりの心地よさに立ったまま舟をこいでおったとか。まあ、このわたしが居ねむっていたのだから許してやっておくれ」

「いえいえ、そんなことを言われると身の置き所がありません(^_^;)」

「だから、この城がそなたの身の置き所……ちょっとひっかけてしまったかな(^_^;)」

「はあ」

「この城は『ジンボウ城』という名前なんだ」

「ジンボウ?」

「漢字で書けば『神保城』だ」

 神保……聞いたことがある。

「うん、神田の神保町だ」

「あ、ああ、古本屋さんがいっぱいあるんですよね」

「ほう、神田の古書店街を知っているのか?」

「あ、お母さんが、ときどき仕事で本とか探しに」

「じゃあ、やくももいっしょに行くのか?」

「いえ、あそこだけは一人で行ってました『やくもはチョロチョロして目が離せないから』って」

「ハハハ、気持ちは分かるぞ」

「わたし、そんなにチョロチョロしません」

「あそこは、一人で行って、じっくりと本を探す街だ。どんな大人しい者でも連れて行くと集中できないんだよ」

「はあ、そうなんですか」

「なんで『神保町』と云うか分かるかな?」

「え?」

「一般には、江戸の昔に神保という旗本の屋敷があったからということになっているがな。実は、神の力を保つで『神保町』なのだよ」

「神の力?」

「これをご覧」

 王さまが指を振ると千代田区とその周辺の地図が現れた。

「この丸で囲んだところが、時計回りに上野寛永寺、アキバ、神田明神だ。結ぶと縦に長い三角形になる」

「あ、ほんとだ」

「で、いずれも皇居の丑寅、つまり鬼門にあたるわけさ。もともと、神田明神は、その目的で祀られたし、上野の寛永寺は家康が江戸の鬼門封じにその外側に補強の意味で作った。そして、さらに発展して大きくなった東京の守護として、アキバが発展した」

「アキバが鬼門封じなんですか!?」

「ああ、そうだ。邪気から大切なものを護るには『気』が必要なんだ。大勢の人の『大切なものを求める気』『大切なものを護る気』が必要なのだ。しかし、上野と神田だけでは追いつかず、昭和の後半からアキバに力が注がれるようになった」

「なるほど……」

「しかし、二十一世紀になると、それでも追いつかず。ついには、神田川に蛇の妖が住み着くようにさえなってしまった」

「あ、それが!?」

「そうそう、やくもが退治してくれた蛇やら龍だ。明治からこっち、将門さんは、その責任感の強さから、ほとんどお一人でやってこられたが、今の状況は、やくもが経験したとおりなんだ」

 言葉を濁しているけど、将門さんとアキバの連携はうまく行ってないところがあるんだ。

「上野・神田・アキバを結ぶ三角形は、いわば鬼門を護るための刀なのだよ。そして、その刀の柄にあたるところが、この神保町なのだ」

 ちょっと怖くなってきたよ……御息所がもらった寝殿造りみたいに、気楽に天蕎麦楽しむってわけにはいかないかも(;'∀')。

「あ、これは怖がらせてしまったな、すまんすまん。要は、ここでやくもが楽しく過ごしてくれたらいいんだ。やくもが、のんびりしたり楽しんでくれれば、それだけで、この神保城の気が上がって、守れることになっているから。まあ、とりあえず、新しい城主を迎える宴会をやろう!」

 チリンチリン

 メイド王が指を振ると、どこかで連動しているんだろう、気持ちのいい鈴の音がして、城内のあちこちで宴会の準備をする音やら声々が湧き上がった。

「ああ、やっと着いたあ!」

「ああ!?」

 声に振り向くと、チカコと御息所が、いつもの1/12ではなくて、等身大になって現れた。

「どうも、洋風というのは落ち着かぬのう」

「フフ、自分のよりも立派だからやっかんでるのね」

「そ、そんなんじゃないわ!」

「アハハハ」

 チカコと御息所が追いかけ合いを始めると、入り口には、紺の制服……あ、交換手の制服着た黒電話さん! 他にも半人化したアノマロカリスやら、フィギュアたち、普段は本棚に収まってるラノベやマンガたちも、手足が生えてメイドさんたちに案内されてる。

 謁見室は、壁が取り払われて大広間になって、あっという間に大宴会になってしまった!

 みんな、わたしの部屋のグッズたち。

 できたら、他のあやかしたちや、お爺ちゃんお婆ちゃん、お母さんたちも呼べたらいいなあと思ったよ。

 まあ、これからの課題だね。

 

☆ 主な登場人物

  • やくも       一丁目に越してきて三丁目の学校に通う中学二年生
  • お母さん      やくもとは血の繋がりは無い 陽子
  • お爺ちゃん     やくもともお母さんとも血の繋がりは無い 昭介
  • お婆ちゃん     やくもともお母さんとも血の繋がりは無い
  • 教頭先生
  • 小出先生      図書部の先生
  • 杉野君        図書委員仲間 やくものことが好き
  • 小桜さん       図書委員仲間
  • あやかしたち    交換手さん メイドお化け ペコリお化け えりかちゃん 四毛猫 愛さん(愛の銅像) 染井さん(校門脇の桜) お守り石 光ファイバーのお化け 土の道のお化け 満開梅 春一番お化け 二丁目断層 親子(チカコ) 俊徳丸 鬼の孫の手 六畳の御息所 里見八犬伝 滝夜叉姫 将門 アカアオメイド アキバ子 青龍 メイド王

 

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やくもあやかし物語・140『頂いたお屋敷はお城だった』

2022-05-21 11:37:48 | ライトノベルセレクト

やく物語・140

『頂いたお屋敷はお城だった

 

 


 霧だか霞の中に坂道だけが浮かび上がってる。ほら、グーグルアースとかで、都合の悪い家とか景色とかボカシてる、あんな感じ。佇まいは二丁目の坂道に似ている。

 100メートルほど行ったところで右に曲がっていて、道幅も二丁目のと同じくらいで舗装道路。


 でも、逆なんだよ。


 二丁目の坂道は下りの坂道で、突き当たったところで右に曲がる。

 目の前の坂道は登りの坂道で、突き当たったところで右に曲がる。

 曲がると、まだ上りで、50メートルほど進んで、アーチ形の門。

 門扉は赤っぽい茶色で、駅のシャッターみたいに上下に動いて開くみたい。


 え~どうしよう……どこかにスイッチがあるのか、それとも「開けてください!」とか「かいも~ん!」とか言わなきゃならないのか。言うとしたら、どの程度の声を出せばいいのか、ひょっとしたら、そこらへんにインタホンとがあって、そこで言わなきゃならないのか、人感センサーとかがあるのか……怖がりで人見知りなわたしは悩むわけですよ。

 悩んでいると、道以外は霧か霞みたいなので見えなかったところが、ちょっとずつ見えてくる。

 立ち眩みが治る時に似ている。

 立ち眩みって、視野の周囲が鉛色に溶けていて、景色がよく見えないじゃない。

 その逆で、ちょっとずつ見えてくる。


 …………あ、お城なんだ!


 アスファルトの坂道を上がってきたから、近所と同じ住宅街かと思っていたら、なんだか山の中。

 その山の峰の一つみたいで、峰一つがまるまるお城になってる。

 シンデレラ城みたいで、壁は白っぽいクリーム色。

 門の向こうには、青っぽい塔がいくつも覗いていて、とっても雰囲気。

 
 ギギギギ……


 城門が開いていく。ひょっとしたら、足もとの敷石のどれかがスイッチになっていて、それを踏んだのかもしれない。

 左から八個、城門の前から十個目くらい……うん、覚えた。

 門を潜ると、石畳の広場。前後左右に建物があって、城門を破って突入しても、あっちこっちから弓や鉄砲を撃ちかけられてしまいそう。

 ええと……どっち行ったらいいんだろう?

 左右の建物には、木製の片開きのドア。

 正面は二階に上るくらいの石段があって、その向こうに大きい建物……窓を数えたら五階くらいありそうで、屋根の上には塔が立ってる。日本のお城で云ったら天守閣になるところっぽい。

 石造りだし、ドアはみんな閉まってるし。入り口とかエントランスとかの表示も無いし……。

 
 そうだ、こういうところって受付とか切符売り場とかがあるよね。

 そういうのって、入ってすぐの右だか左だかの受付って感じになってるはず。

 もう一度、門の所に戻って確かめてみたけど、それっぽいのは見当たらない。

 スマホで検索!

 あ、スマホは棚の上で充電中だ。

 取りに戻るには、門を出て、合わせて200メートル近くはある坂道を下らなきゃならない。

 どうしよう……戻ったら、もう来ようって気にならないよ。

 五分ほど悩んで、正面の石段を上がる。

 上がったところはテラスっぽくって、正面に観音開きの扉。

 どの石畳踏むのかなあ……ウロウロしているうちにドアが開く。

「こんにちは」「ごめんください」「ごきげんよう」

 どの挨拶にしようか困ってしまう。

 えと……あ、ごきげんようは、お別れの時の挨拶だった!

 それだけで、胸がドキドキしてしまう。

 キョロキョロしていると、正面の階段に小さな注意書きの看板があるのに気付く。

『二階の謁見の間にお越しください』

 そうか、二階なんだ。

 おっと!

 一歩足を出して、立ち止まる。

 上履きに履き替えなくてもいいのかなあ……見回しても、それっぽいのは見当たらないので、そのまま失礼する。

 ホールから控えの間を通って、いよいよ謁見の間。

 ハ!?

 ビックリしたような気配がして、そっちを向くとメイドさんが目をこすっている。でも、0・5秒でメイドらしい笑顔になって応えてくれる。

「あ、申し訳ありません。つい……」

「えと……ここでいいんですよね?」

「はい、こちらでございます……陛下……あ、寝てしまわれました(^_^;)」

 わたしがモタモタしている間に、メイド王は玉座に座ったまま寝てしまっている。

「ああ……寝起きの悪いお方ですので、しばらくお待ちくださいませぇ~」

「アハハ、そうですか……(^_^;)」

 
 メイデン勲章改・Ⅱを見つめて、メイド王からもらった屋敷を見ておこうと思って、愚図で怖がりのわたしは、ちょっと時間がかかり過ぎてしまったみたい。

 どうしようかと思ったら、控えの間に案内されて、メイドさんに紅茶を淹れてもらって、メイド王が起きるのを待ちましたよ。

 

 

☆ 主な登場人物

  • やくも       一丁目に越してきて三丁目の学校に通う中学二年生
  • お母さん      やくもとは血の繋がりは無い 陽子
  • お爺ちゃん     やくもともお母さんとも血の繋がりは無い 昭介
  • お婆ちゃん     やくもともお母さんとも血の繋がりは無い
  • 教頭先生
  • 小出先生      図書部の先生
  • 杉野君        図書委員仲間 やくものことが好き
  • 小桜さん       図書委員仲間
  • あやかしたち    交換手さん メイドお化け ペコリお化け えりかちゃん 四毛猫 愛さん(愛の銅像) 染井さん(校門脇の桜) お守り石 光ファイバーのお化け 土の道のお化け 満開梅 春一番お化け 二丁目断層 親子(チカコ) 俊徳丸 鬼の孫の手 六畳の御息所 里見八犬伝 滝夜叉姫 将門 アカアオメイド アキバ子 青龍 メイド王

 

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やくもあやかし物語・139『蓄音機から聞こえてくるもの』

2022-05-16 10:35:45 | ライトノベルセレクト

やく物語・139

『蓄音機から聞こえてくるもの

 

 

 Vic〇orの犬が聴いているのは何なんだろう?

 

 白虎にのせられていたっぽいと言っても、将門さまやメイド王が困っていたワンコ妖怪。

 そいつが本家のVic〇or犬といっしょに大人しく耳を傾けるんだから、そうとう良いものが聞こえていたはずだ。

 蓄音機は、相当にレトロなもので、そこいらへんのトラッドを気取った喫茶店のディスプレーって感じじゃない。

 

 う~~ん

 

 日本で言えば、明治か大正か……100年は経っているに違いない。

 ラジオ放送が始まったころだよね? テレビとかはまだ無かっただろうし。

『蓄音機でラジヲは聴けませんよ』

 え?

 いっしゅんビックリしたけど、黒電話が喋っているのに気付く。

 受話器が少し上がっていて、そこの送話口から交換手さんの声が聞こえてくるんだ。

 チカコと御息所も気づいたようで、コタツに足を突っ込んだまま首を伸ばして聞いている。

『蓄音機は、レコードしか聴けませんよ』

「あ、そうか」

 むかし、お母さんと行った喫茶店に蓄音機があって、そのラッパからはFM放送が聞こえていた。あれは、蓄音機型のレトロラジオ……ひょっとしたら、CDとかUSBとかからも聞けたかも。

『昔は78回転でしてね……』

「78回転?」

『あ、一分間にターンテーブル……レコード載せた円形の台が、一分間で78回回るんです』

「なんだか、目が回りそう(^_^;)」

『フフフ、子どもなんか目を回してましたね』

「あ、わかる! 子どもって、動くものとか回るものって見ちゃうのよね( ´∀` )」

「わらわの娘も、水車が回るのを見て目を回しておった……かわいいものであったのう……」

「あたしは、自分の運命が回るのに目を回していたよ……」

『昔は、街の高級カフエや、学校にも一台あるかどうかという高級品でした』

「ああ、ちょっと昔のコンピューターみたいなものだったんだね……」

『真岡は北の田舎町でしたから、本土の事はよく分からないんですけど、たぶん、クラシックとかの西洋音楽とか聴いていたんじゃないでしょうか?』

「あ、うん。そういうクラシック音楽似合うかも……でも、犬がクラシックなんて聞くかなあ?」

「ググればよいではないか、こういう時のためにスマホとかパソコンであろうが」

「やくも、お爺さんに聞いてみるといいわよ」

『あ、それがいいですね。疑問・質問は最高のコミニケーションツールですよ!』

 

 で、リビングに行って、お爺ちゃんに聞いてみた。

 

「ああ、あれはね、亡くなった飼い主の声を聴いてるんだよ」

「飼い主?」

「うん、外国じゃ、昔からカセットテープとかMDの感覚でレコードに録音することが流行っていてね、それで、飼い主が生前吹きこんでいた声を流してやると、側に寄ってきて、いつまでも聴いていたってエピソードはあるんだ。Vic〇orっていうのは、その犬の名前でね。だから、下の方に『ヒズ マスターズボイス』って書いてある。やくもにあげたフィギュアにも書いてあると思うよ」

「え、あ、あ、そうなんだ。ありがとうお爺ちゃん!」

 Vic〇orを持っておいでと言われたら困るので、そそくさと自分の部屋に帰ったよ。

 

 コンコン コンコン

 

 お昼ご飯も棲んで、部屋でウトウトしていたら、ガラス窓を叩く音がした。

「あ、アキバ子?」

 わたしの声でチカコも御息所も窓に首を向ける。

「いや、アキバに戻ったら叱られましてね(^_^;)」

「あ、ごめん」

 アキバでは、また凱旋セレモニーの用意がしてあったんだろう。

「それで、お渡しするはずだったお品のあれこれを預かってきました」

 そう言って、空き箱の中から、立派なケースに入ったメイデン勲章改を渡してくれる。

「メイデン勲章は、この前にももらったよ」

「これは、メイデン勲章改・Ⅱだよ」

「改・Ⅱ?」

「うん、コスの種類が増えてるし、今度は、お屋敷も入ってるし」

「え、わたしにもお屋敷!?」

 ちょっと申し訳ない。

「アハハ、今度ね、メイド王自身がやくもの家に行きたいって……やくもの家も広いけど、メイド王がお供を連れてやってくるには、ちょっと狭いから。まあ、自分が来る時のためのものだから気を遣わなくってもいいよ。一段落したけど、まだまだあやかし退治は残ってるから。じゃあね」

 そう言うと、目の前で空き箱はワープして消えてしまった。

 時計を見ると、そろそろお風呂掃除の時間。

 みんなでお風呂掃除やって、晩ご飯の後は、迫ってきた中間テストの準備をしたよ。

 え、勉強じゃないのかって?

 机の上を片付けたり、本やノートを眺めて……そういうこと!

 明日からはやるからね。

 そうそう、メイデン勲章改・Ⅱのお屋敷も探検したんだけど、それは、また次ね。

 

☆ 主な登場人物

  • やくも       一丁目に越してきて三丁目の学校に通う中学二年生
  • お母さん      やくもとは血の繋がりは無い 陽子
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  • お婆ちゃん     やくもともお母さんとも血の繋がりは無い
  • 教頭先生
  • 小出先生      図書部の先生
  • 杉野君        図書委員仲間 やくものことが好き
  • 小桜さん       図書委員仲間
  • あやかしたち    交換手さん メイドお化け ペコリお化け えりかちゃん 四毛猫 愛さん(愛の銅像) 染井さん(校門脇の桜) お守り石 光ファイバーのお化け 土の道のお化け 満開梅 春一番お化け 二丁目断層 親子(チカコ) 俊徳丸 鬼の孫の手 六畳の御息所 里見八犬伝 滝夜叉姫 将門 アカアオメイド アキバ子 青龍 メイド王

 

  

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やくもあやかし物語・138『残され犬がウロウロ』

2022-05-12 10:21:37 | ライトノベルセレクト

やく物語・138

『残され犬がウロウロ

 

 

 ちょっと、あれを見てください……

 

 白虎をやっつけて、空き箱の中でグッタリしていると、アキバ子が声を上げた。

「……なに?」「……なによ?」「……なんじゃ?」

 ノロノロと三人、空き箱の縁から首を出してアキバ子の指の先を見る。

 指先の『あれ』は、高速移動しているようで、アキバ子の指がせわしなく動く。動きに従って、三人の首も動くので、動物園のペンギンが餌につられて集団で首を動かすのに似ていると思ったよ。

「「「あ」」」

 同時に気付いた。

 犬が、ウロウロオロオロと相棒の白虎を探しているのだ。

「気が付いていないんですね……」

「ククク……バカな犬よのう、土星の輪に溶けてしまったことが理解できないのじゃなあ」

「意地が悪いわよ、御息所」

「何を言う、わらわたちを、あそこまで苦しめた片割れじゃぞ。あれくらいの報いは受けてよいのじゃ」

「載せられていたんじゃないかな……」

「やくもまでが何を言う、乗っていたのは犬の方であろうが」

「だって、あんなに耳も尻尾も垂れて、かわいそうじゃない」

 クーーーン クーーーン

「ほら、悲しそうに鳴いている……」

「ゲ、やくも、そなた犬を連れて帰るつもりではあるまいな?」

「それは止めた方がいい。ただでも、アノマロカリスとかフィギュアとか黒電話とか……居るのよ」

「チカコ、なぜわらわを見る?」

「たまたまよ、たまたま」

 クーーーン クーーーン

 悲しそうに、ウロウロと歩き回る犬。

「あの、スピードじゃ土星の輪とも同化しませんね……」

「そのうち、衛星の一つになるであろう、捨て置けばよい」

「「「薄情~~~」」」

「ふん!」

 ソッポを向いてしまう御息所。

 そういうわたしたちも、空き箱の縁に掴まって見ているしかないんだけどね……あ……思いついた!

 ガサゴソ ガサゴソ

「ちょ、狭いんだから、ゴソゴソしないでよね」

「ごめん……あった!」

 それは、お祖父ちゃんからもらったVic〇orの犬だ。

「二人で、仲良く聴くのよお!」

 そう言って、犬の傍に放ってやる。

「あ、犬が寄ってきましたよ(^▽^)」

 最初はためらいがちにまわりを周って、遠慮というか警戒している犬だったけど、先客の犬が耳を動かして『そっちならいいよ』って感じで促すと、蓄音機を挟んで狛犬のように並んだよ。

「おお、おお、仲良く耳を傾けておるわ」

「一件落着ね」

「チームワークの勝利ね(^_^;)」

「ちょっと大変でしたけど、そのお蔭で、犬までやっつけなくて済みましたね」

「そうだよね、無駄な殺生しなくて済んだ」

「じゃ、アキバにもどりましょうか、みなさんお待ちかねです」

「そうじゃそうじゃ、今度も勲章をもらわなくてはな」

「えと、そういうの、ちょっと苦手だし……ちょっと、疲れたしね(^_^;)」

「そうですか……よし、ではお家までお送りします」

「え、アキバのエスカレーターでなくてもいいの?」

「アハハ、裏アキバのアキバ子ですから、裏技でいきます。プチワープしますから、箱の中に収まって、シートベルトをしてください」

「心得た」「うん」「はい」

 三人三様に声を上げて、空き箱は土星軌道からワープしたよ。

 ピューーーン

 でも、ワープしながら思った。

 あの蓄音機から聞こえてくるのは、いったいなんだったんだろうね?

 

☆ 主な登場人物

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やくもあやかし物語・137『白虎はお祭りでひっかけろ!』

2022-05-06 13:27:23 | ライトノベルセレクト

やく物語・137

『白虎はお祭りでひっかけろ!

 

 

 白虎って言えば……白虎隊よね……

 

 白虎の姿が地平線の向こうに見えなくなると、遠くを見るような目になってチカコが呟いた。

「「「白虎隊?」」」

 御息所もアキバ子も、むろんわたしも直ぐにはピンとこないで、ギョッとする。

 今まさに白虎に追いかけられてるところだから、白虎に隊が付いてしまうと、白虎が団体で追いかけてくるみたい。

 ちょっと恐怖。

「幕末にね、会津藩が最後まで官軍に抵抗するんだけど、お城の西側を護っていた少年隊よ」

「西を護っていたから白虎なのじゃな」

「うん、他にも朱雀隊とか玄武隊とかもあって、白虎隊は西からやってくる官軍と戦っていたの……お昼ごろに丘の上まで退却してお城の方を窺うと、お城の方からモクモクと煙が上がっているのが見えて『あ、お城が落ちた!』と落胆して、みんなで刺し違えて死んじゃったのよ」

「健気な話よのう……」

「それ、聞いたことがあります」

「アキバ子、知ってるの?」

「ええ、無双系で幕末を舞台にしたゲームがあって、白虎隊も出てきましたよ」

「でもね、白虎隊は早とちりだったのよ」

「「「早とちり?」」」

「実は、燃えていたのはお城の手前の街で、その炎と煙が天守閣と被ってしまって、お城が落ちたと勘違いしたのよ」

「勘違いとはいえ、憐れよのう……」

「そうそう、他の玄武隊とかは、無事にお城に戻ってますよね」

「「「そうなの?」」」

「ゲームでは、そうなってます。途中の村でお神輿とかの村祭りグッズを見つけて、お祭りを装って賑やかにお城に向かったら、官軍も呆気に取られて、無事に戻れるんです」

「そうか、お祭りがひっかけフラグになっていたのだな」

「あ! それ使えるかも!?」

「なんじゃ、土星の軌道でお祭りをやるのか?」

「ううん、でもひっかけることには違いない……みんなでお祭りのコスを着るのよ!」

 アキバ子はアキバの妖精なので、箱の中にいろいろのアイテムを持っている。

「ありますあります!『アキバ大好き祭り』とか『電気店街祭り』とか!」

 

 というので、箱の中に潜って適当なお祭りコスを着て、四人で囃し立てるんだ!

 

「わっしょいわっしょい!」

「アキバ大好き!」

「ソイヤソイヤ!」

「わっしょいわっしょい!」

「「「「わっしょいわっしょい!」」」」

 四人で大きい声で囃し立てるので、地平線の向こうの白虎にも聞こえて、どんどん地響きとかが聞こえてくる。

 ドドドドドド!

「ソーレ!」

 わたしが掛け声をかけると、四人揃って重心を右っかわにかける。

 グィーーン

 わたし達を載せた空き箱は、グインと右に曲がる。

 白虎は図体が大きいので小回りが利かなくって、グルーーっと大回り。

 その分、スピードも落ちて、そのたびにわたしたちを見失う。

 つまりは、土星の表面で鬼ごっこ!

「で、いつまでやるのかしら(;'∀')?」

 いちばん体力のないチカコが五回目くらいで顎を出す。

「もうちょっと、白虎の怒りがマックスになった時にね……」

 ガオオオオオオオ!!

「おお、早くも激おこぷんぷん丸であるぞ!」

「アキバ子、ダッシュよ!」

「ラジャー!」

「最大戦速ゥーーーー!!」

 ビューーーン!!

 それまでの倍くらいの速度を出すと、だんだん強い遠心力が働いて、空き箱のわたしたちより何十倍も重たい白虎は溶け始め、白い光を曳きながら上昇していく。

「もう、ちょっとよ!」

 ビュビューーン!!

 グオオオオオオオオ!!

 白虎は、さらにスピードを上げて、その分、どんどん上昇していって、ついには土星の輪の、いちばん内側に接触するところまで来てしまった。

 ピシャーーーーーン!

 溶けかかっていた白虎は火花を上げてショートしたかと思うと、土星の輪に吸収されてしまった……。

 

☆ 主な登場人物

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やくもあやかし物語・136『白いモヤモヤの正体は白虎』

2022-04-30 10:11:20 | ライトノベルセレクト

やく物語・136

『白いモヤモヤの正体は白虎』

 

 

 ホワイトタイガー!?

 アキバ子が空き箱の隙間から目だけ覗かせて叫んだ。

 犬だと思っていたのが虎だったのだから、アキバ子でなくても驚く。

「いや、あれは犬を載せていた白いモヤモヤであるぞよ!」

「犬がやっつけられたんで、姿を現したんだ!」

 そうか、犬と虎でワンセットだったんだ……でも、なんで虎と犬の組み合わせ?

「「どうしてだろ?」」

 チカコとアキバ子は首をひねる。

「犬は十二支で戌の刻、戌の刻は10時の方向。10時は西方の白虎が支配する……だから、犬と虎の二段構えなのよ!」

「御息所さん、頭いいですぅ」

 アキバ子が感心するのを謙遜もせずに御息所は続ける。

「わらわは、東宮の妃じゃぞ。今風に言えば皇太子のお妃じゃ。学識がそなたらとは違うぞえ」

「ふん、女の子しか産めなくて、御所を放り出されたくせに」

「チカコこそ、東エビスの嫁に……」

「ワーー、それ言うなあ!」

「痛い、髪を掴むな!」

「こら、ケンカしてる場合か!」

 パチン!

「「いて!」」

 二人同時にデコピンを食らわせてやる。

「おのれ、連発デコピンを会得しおったな!」

「やくものくせに、生意気よ!」

「まあまあ(^_^;)」

「いい加減にして! 白虎がこっち睨んでる!」

 

 ガオオオオオオ!

 

「吠えた!」「こっち来る!」「逃げましょう!」

 ピューーーーーー!

 あんまりのスピードで逃げるので、四人の悲鳴がホイッスルの音みたくなってしまう。

 ガオオオオオオオ!

 白虎も追いかけてくる。図体が大きいくせにスピードはほとんどいっしょ!

「あ、なんか、曲がっていくよ(;'∀')」

 真っ直ぐ飛んでいるつもりなのに、しだいに左に寄っていく。

「土星の引力に引っ張られてるんです!」

「やくもがノロマだからじゃ」

「御息所喋り過ぎ!」

 バタン

「「「フギャ!?」」」

 うるさいので箱のふたをしめてやる。

 そうだ、コルトガバメントを撃たなきゃ!

 パン パン パン パン

「うう、ダメだ……」

 土星は丸いので、後ろに撃った弾は、丸みのスレスレ向こうを追いかけてくる白虎の頭上を掠めて宇宙空間の彼方に消えていく。

『スピードを落とせ!』

『少し近くなれば水平になって当たりやすくなるわよ!』

『お二人とも、ここは、やくもさんにまかせましょう!』

 もう、三人は無視! ひたすら逃げる!

 ピューーーーーー!!

 しかし、相変わらず、白虎の頭は丸みの向こうに見え隠れしている。距離が開かないよ!

『わたしたちもお手伝いしましょう!』

『どうやって?』

『やくもはフタをしてしまいおったのじゃぞ』

『やくもさん、少しフタを開けてください』

「どうすんの?」

『わたしたちも、ピューって息を噴いて推進力の助けになります!』

「え、息で?」

『三人の息ぐらいではどうにもならないでしょ』

『気は心というやつか?』

『いえ、宇宙空間では、ちょっとした力でも大きな結果を産みます。ボイジャーの推力なんて、ほとんど人の鼻息ほどなんですから。それで、太陽系を飛び出せるんですから!』

『そうなの?』

『はい』

「じゃ、やってみる?」

『『『おお!』』』

 フタを少し開けてやると、三人の口が仲良く揃って息を噴きだす。

 フーー! フーー! フーー!

「おお………」

 やってみるもんね、白虎の姿は、少しずつ丸みの向こうに消えていく。

 フーー! フーー! フーー!

 フーー! フーー! フーー!

 フーー! フーー! フーー!

 フーー フー フ…………………

「ちょっとどうしたの?」

「ちょっと……」

「頭がクラクラ……」

「……してきました」

 ちょっと頼りない……よし、わたしも頑張らなくちゃ!

 わたしも、コルトガバメントを撃つだけじゃなくて、いっしょに後ろに向かって息を噴く!

 フーー! フーー! フーー! フーー!

 パン パン パン パン

 やってみるものね、空き箱のスピードは目に見えて速くなってなってきたよ!

 

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  • 杉野君        図書委員仲間 やくものことが好き
  • 小桜さん       図書委員仲間
  • あやかしたち    交換手さん メイドお化け ペコリお化け えりかちゃん 四毛猫 愛さん(愛の銅像) 染井さん(校門脇の桜) お守り石 光ファイバーのお化け 土の道のお化け 満開梅 春一番お化け 二丁目断層 親子(チカコ) 俊徳丸 鬼の孫の手 六畳の御息所 里見八犬伝 滝夜叉姫 将門 アカアオメイド アキバ子 青龍 メイド王

 

 

 

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やくもあやかし物語・135『なんとか犬をやっつける』

2022-04-23 10:03:38 | ライトノベルセレクト

やく物語・135

『なんとか犬をやっつける』 

 

 

 自信を持ってください!

 

 石ツブテに怯むわたしを叱咤するアキバ子。

 でも、目だけ箱の隙間から覗かせて言ってるだけだから説得力がない。

 それに、いつのまにかロケットの外に放り出されてるし。

「いえ、繋がってますし!」

 アキバ子の言葉に振り返ると、アキバ子から伸びたか細い糸みたいなものがロケットに繋がっている。

 でも、それだけ(;'∀')。

「なんか、アリバイで繋がってるだけみたい」

「サッサとしなさいよ!」

「あ、いつの間に!?」

 わたしの胸元から抜け出して、御息所は空き箱の中から顔を覗かせる。ほとんど閉じられた箱の奥にもう一人分の瞳。

 あ、チカコも!

「「ガバメントよ、ガバメント!」」

 えらそうに言う二人。

 こないだ観たアニメの『平家物語』を思い出す。

 都落ちする平家を『はやくやっつけろ!』と源氏に催促する都の貴族みたいで、感じ悪い。

 わたしは木曽義仲でも九郎義経でもないよ……建礼門院徳子ならいいかなあ、最後まで生き残るし、CVも贔屓の清楚系声優さんだったし。

 ひとり洛北に庵を結んで亡き人たちの菩提を弔って、訪れた後白河法皇に反省させるのよ、ちょっとカッコいい。

 いたい!

 ほんのちょっと夢想している隙に石ツブテが当たった。

 石ツブテは堅めの発泡スチロールみたいで怪我はしないみたいなんだけど、ちょっと痛いし、屈辱感。

「このーーー!!」

 ガバメントをオートにして撃ちまくる。

 ハンドガンのオートだから機関銃のようにはいかない。

 機関銃は引き金ひいてる間、弾丸は出っ放し。

 ダダダダダダダダって感じ。

 ハンドガンは、引き金一回ひいて一発の弾。

 パン パン パンという感じ。

 リアルガバメントは八発しかマガジンに入ってないけど、わたしのは『義』のソウルがこめられているから、何発でも撃てる。

 パン パン パン パン パン パン パン パン パン パン パン パン

 青龍戦でも慣れていたので、十発も撃つと命中率が高くなる。

 ガルル……

 犬は、自分の体を庇うのが大変そうで、飛ばしてくる石ツブテの量が減ってきた!

「励め、やくも! 敵は、もう壇ノ浦の平家みたいよ!」

 御息所が拳を振り上げる。

 とうとうツブテを投げることを諦めた犬は、土星の向こう側に回ったきり出てっこなくなった。

 

 やっつけたぁ? 仕留めた? 討ち取ったのか?

 

 三人囁くけど、箱は閉まったまんま。

 これで片付いたら、片付いてほしい……状況判断というよりは願望。

 そんなの分かってるから、両手で銃を構えたまま大きく深呼吸。

 目蓋の端っこがピクピクする。

 小学一年以来の発作だよ。

 極度に緊張して、それが続くと、こうなるんだ。

 三歳くらいにもピクピクになって、そのあとひきつけ起こしてひっくり返って、お母さん必死で看病してくれた。

 突然記憶が蘇る。

 でも、いまは、自分でなんとかしなきゃ。

 チラ

 土星の陰から、犬が顔を出す。

 今だ!

 ズキューーーン!

 エアガンのはずなのに、すごい音、すごい反動で、宇宙空間でバク転してしまう。

 キャイーーン!

 渾身の一発は、犬の眉間に命中して、犬は再び土星の陰に……勝った!

 

 そう思ったら、反対側の陰から犬を載せていた白いモヤモヤだけが現れた。

 

 あれは…………? なに? なんじゃ? なんでしょう?

 

 四人、呆然と見ていると、そのモヤモヤは、しだいに形を成して正体を現した。

 

「「「「虎だ(*゚◇゚*)!」」」」

 

 驚く声だけは揃う四人だったよ。

 

☆ 主な登場人物

  • やくも       一丁目に越してきて三丁目の学校に通う中学二年生
  • お母さん      やくもとは血の繋がりは無い 陽子
  • お爺ちゃん     やくもともお母さんとも血の繋がりは無い 昭介
  • お婆ちゃん     やくもともお母さんとも血の繋がりは無い
  • 教頭先生
  • 小出先生      図書部の先生
  • 杉野君        図書委員仲間 やくものことが好き
  • 小桜さん       図書委員仲間
  • あやかしたち    交換手さん メイドお化け ペコリお化け えりかちゃん 四毛猫 愛さん(愛の銅像) 染井さん(校門脇の桜) お守り石 光ファイバーのお化け 土の道のお化け 満開梅 春一番お化け 二丁目断層 親子(チカコ) 俊徳丸 鬼の孫の手 六畳の御息所 里見八犬伝 滝夜叉姫 将門 アカアオメイド アキバ子 青龍 メイド王
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やくもあやかし物語・134『土星の輪から石ツブテ』

2022-04-18 10:39:14 | ライトノベルセレクト

やく物語・134

『土星の輪から石ツブテ』 

 

 

 わたしの生活圏はめちゃめちゃ狭い。

 

 家は三百坪もあるんだけど、ふだんの生活は自分の部屋とリビングぐらいで済んでしまう。

 外に出ても、一丁目と二丁目と三丁目で済んでしまう。

 一丁目が自分の家で、学校が三丁目。二丁目は、その途中で、折り返しの坂道と、その前後の道。

 まあ、中学生の生活圏って、基本的に家と学校だもんね。

 図書委員仲間の小桜さんや杉野は部活とかもやってるみたいで、わたしよりは世界が広いかも。

 たまに、図書室の窓からグラウンド見ると、小桜さんや杉野が部活やってるのが目に入る。

 二人とも、図書委員の時とは別人。元気に走ったり球を投げたりして、学校のホームページに『生徒の日常』とか『スクールライフ』の見本の写真に使えそう。

 わたしは、自分の姿を写真とかに撮って愛でる趣味は無いけど、自分の部屋でくつろいでいる姿は、グラウンドの二人に負けていないと思う。それくらいの自負はある。

 でも、八畳に満たない部屋でくつろいでるのと、グラウンドで元気に部活してるのとでは、次元が違って比較にならないよね。

 

 そんなわたしが、ロケットに乗って土星に向かってる。

 

 火星でロケットのAIが『エマージェンシ―エマージェンシー!』って叫んで、アキバからいっしょに乗ってくれていたみんなが二段目に移動。わたしも、避難しようと思ったら、ハッチが閉まってしまって、わたしだけが三段目に残されてしまった。

 チカコと御息所はポケットにすっこんでしまっているし、アキバ子はふたを閉めてるし。ほんとに、わたし一人だよ。

「イザとなったら言ってください、空き箱の中に入れば、とりあえずアキバにはテレポできますから」

 責任を感じたのか、フタをちょこっと開けてアキバ子が言う。

「う……うん」

 あいまいな返事。

 自分の部屋まで戻れて知らんふりしてられるならいいんだけどね、みんなが待ってる駅前広場になんか戻れないよ。

 ああ、なんか、ゲロ出てきそう。

 生唾呑み込んでゲロっ気を誤魔化す。

 すると、耳の奥がグチュって言って、シューって音がしてきた。

 鼓膜が裏返って、自分の血の流れる音が聞こえたみたいな(;'∀')。

 

 シューーーーーシューーーーーシューーーーー

 

 あ、これは土星の輪が回る音だ!

 真空の宇宙空間で音が聞こえるってあり得ないかもしれないんだけど、ぜったいそうだ。

 だって、音に合わせて土星の輪からツブテみたいなのがロケット目がけて飛んでくる。

「目をつぶらないで避けてく! 当たったら、ロケットなんかいっぱつだから!」

「避けるって……ワ!」

 危ないと思ったら、ロケットが自分の体みたくツブテを避けた。

「ね、できるでしょ!」

「う、うん……」

 ヒョイ  ヒョイ  ヒョイヒョイ  ヒョイ

 なんとか避けるんだけどらちが明かない。

 ツブテは土星と土星の輪の遠心力で飛んでくるんだよ。

 だったら、土星自体の回転を停めないとツブテは止まない!

 百回くらい避けていると、土星の回転するのよりも速い力でツブテが飛んできていることに気が付いた。

 思ったとたんに、土星の輪の上に犬が乗っているのに気が付いた!

 

 犬は人間みたいに二本足で立っていて、輪の中に無尽蔵にある石ころを掴んではツブテにして投げてきているんだ。

 土星の輪が回転して、向こう側に行ってしまいそうになると、反対側にテレポしてツブテを投げるって動作を繰り返している。

 き、キリが無いよ……

 

☆ 主な登場人物

  • やくも       一丁目に越してきて三丁目の学校に通う中学二年生
  • お母さん      やくもとは血の繋がりは無い 陽子
  • お爺ちゃん     やくもともお母さんとも血の繋がりは無い 昭介
  • お婆ちゃん     やくもともお母さんとも血の繋がりは無い
  • 教頭先生
  • 小出先生      図書部の先生
  • 杉野君        図書委員仲間 やくものことが好き
  • 小桜さん       図書委員仲間
  • あやかしたち    交換手さん メイドお化け ペコリお化け えりかちゃん 四毛猫 愛さん(愛の銅像) 染井さん(校門脇の桜) お守り石 光ファイバーのお化け 土の道のお化け 満開梅 春一番お化け 二丁目断層 親子(チカコ) 俊徳丸 鬼の孫の手 六畳の御息所 里見八犬伝 滝夜叉姫 将門 アカアオメイド アキバ子 青龍 メイド王

 

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やくもあやかし物語・133『エマージェンシー!』

2022-04-11 09:42:10 | ライトノベルセレクト

やく物語・133

『エマージェンシー!』 

 

 

 あ、カップ麺忘れた!?

 

 思い出したのは火星の脇を抜けて木星軌道に向かっている時。

 コルトガバメントには仁義礼智信のカップ麺のエッセンスを装填しなきゃならないんだ。

 夢見てる間に来てしまったから、そういう準備をする余裕もなかった。

 どうしようとアセアセになっていると、チカコと御息所がポケットの中でゴソゴソ。

「ちょ、なによ、くすぐったいよ(#^O^#)」

「「ほれ!」」

 ふたり同時に飛び出て示したものは……ドングリ?

「なに言ってんのよ!」

「コルトガバメントの弾に込めておいたわ!」

「「義のエッセンス!」」

「あ、ありがとう!」

 カチャ カチャ

 弾倉に弾を込めていると、アキバ子が想念で語り掛けてくる。

―― じつはね、夜中におなかの空いた二人が、こそっとカップ麺を開けてしまったんですよ ――

「え!?」

―― 心で話して、二人に聞こえるから ――

―― それで、弾が入っていたの? ――

―― ま、そういうわけです ――

―― でもさ、なんでアキバ子が知ってるわけ? ――

―― わたしはアキバ子です。空き箱さえあれば、どこからでも覗けます(^_^;) ――

―― あなたって、ひょっとしてアキバの妖精じゃなくて空き箱の妖精なんじゃない? ――

―― アハハ、アキバはなんでも詰め込める巨大な空き箱です ――

 なんか、ちょっと哲学的かも。

 アキバ子と心の会話をしていると、胸元でゴニョゴニョと声。

『やくもの胸が大きかったら、弾なんか持ち込めないとこよ』

『そもそも、わらわや、チカコが潜り込むこともできなかったぞえ』

『そうよね』

『やくもも第二次性徴期、対策を考えなくてはならないかも』

『それは大丈夫、やくものは、これ以上大きくはならないし』

『そんなことは無いぞよ』

『え、どうして?』

『どんなペチャパイでも、子を授かれば、天然自然に大きくなるものよ』

『え、そうなの!?』

『そうじゃ、あたりまえじゃろうが。あ……すまぬ(;'∀')、チカコは結婚はしたが、子はなしておらなかったなあ』

『ちょ、御息所(;`O´)o!』

 なんかすごい話になってきたので怒るのも忘れてしまった。

 

『エマージェンシー! エマージェンシー!』

 

 ロケットのAIが警報を告げる。土星にはまだ間があるのに、なんだろう? キャビンのみんながコンソールを注目する。

『ロケットのバランスが崩れてきています、乗員のみなさんは、二段目のキャビンに移ってください』

 みんな一段目のキャビンに入ったものだから、ロケットの頭が重くなって軌道を離れ始めているんだ。

「すぐに移りましょう」

 トラッドメイド(滝夜叉姫)が立ち上がる。赤メイドは二段目へのハッチを開け、青メイドはアキバ子を抱えてくれる。やっぱり明神さまのメイドなので、テキパキと連携がとれている。

 わたしは、カバンを抱え、チカコと御息所が落ちないように気を付けながら、遅れてハッチに向かう。

 ガシャン!

 ええ!?

 ハッチの向こうとこっちで声が上がる。

 わたしが、ハッチに入ろうとしたら、いきなり閉じてしまったんだ!

『二段目を切り離します 二段目を切り離します 危険ですのでシートについてください』

 AIが、ことさら機械じみた警告をする。

「ちょ、ちょっと!」

 ハッチの向こうとこっちで抗議の声を上げるけど、それには応えないで、無情にも二段目が切り離される。

 

 ああああ!

 

 切り離された二段目がみるみる小さくなっていき、わたしは、胸ポケットのチカコと御息所といっしょに、速度を増して土星へと飛んでいく!

 みるみる赤茶けた火星が小さくなっていった……。

 

☆ 主な登場人物

  • やくも       一丁目に越してきて三丁目の学校に通う中学二年生
  • お母さん      やくもとは血の繋がりは無い 陽子
  • お爺ちゃん     やくもともお母さんとも血の繋がりは無い 昭介
  • お婆ちゃん     やくもともお母さんとも血の繋がりは無い
  • 教頭先生
  • 小出先生      図書部の先生
  • 杉野君        図書委員仲間 やくものことが好き
  • 小桜さん       図書委員仲間
  • あやかしたち    交換手さん メイドお化け ペコリお化け えりかちゃん 四毛猫 愛さん(愛の銅像) 染井さん(校門脇の桜) お守り石 光ファイバーのお化け 土の道のお化け 満開梅 春一番お化け 二丁目断層 親子(チカコ) 俊徳丸 鬼の孫の手 六畳の御息所 里見八犬伝 滝夜叉姫 将門 アカアオメイド アキバ子 青龍 メイド王

 

 

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やくもあやかし物語・132『AKIBA-01発射!』

2022-04-03 11:45:01 | ライトノベルセレクト

やく物語・132

『AKIBA-01発射!』 

 

 

 今度は犬だ!

 

 凛とマナジリを上げるメイド王・アレクサンドラ!

「は、はい……」

 アカアオメイドから聞いてますって言おうと思ったけど、そういうのは許さない雰囲気がみなぎっている。

「これを見てくれ!」

 メイド王が右手を上げると、秋葉原クロスフィールドのディスプレーが、ズビーーーーンて感じで大きくなって、ついに壁面一杯になる。

 大昔の映画みたく、カウントダウンの数字が表れて、5、4、3、2、1……ジャーーーン!!

 ディスプレーいっぱいに3Dのワンコが現れる。

 ワンコは、白いモヤモヤの上に、サーフボードに跨ったみたいに突っ張って、目はらんらんと広場のみんなを睨み据えている。

 オオオオオオオオオオオ(꒪ȏ꒪)

 広場のみんなが、恐れて一歩引きさがる。

 無理もないよ、壁面いっぱいの3D映像で、ワンコはゴジラとでも格闘できそうな大きさだからね。

「こんなにおっきいのと戦うんですか!?」

「これはディスプレーに映しているからだ、じっさいは見ての通りの中型犬。ただし、動きは素早い。心してかかってくれ」

「わ、分かりました…………」

「なにかな?」

「え、いえ、実物はどのあたりにいるのかと……」

 広場の大きな空をキョロキョロするけど、ワンコの姿は見えない。

「今は土星軌道のあたりを周回している」

「ど、土星!?」

「ワープすれば、あっという間に目の前だ。地球の周回軌道に入るまでにやっつけて欲しい。よろしく頼んだぞ」

「ハ、ハヒ……でも、どうやって土星軌道までいけばいいんですか?」

「それは、あの者たちに……」

 メイド王が目配せすると、アカアオメイドを従えて滝夜叉姫のトラッドメイドが進み出る。

 三人は、それぞれ大きさの違う段ボール箱を抱えている。

「その箱は?」

「アキバ子が用意してくれましたものです」

 そろって段ボール箱を回すと、お馴染みのネット通販のニヤついたマークが付いている。

 トラッドメイドのが一番大きく、次にアカメイド、そしてアオメイド。

 ポン ポン ポン

 手際よく積み重ねると、グングン大きくなって、あっと言う間に三段ロケットになった。

「ひょっとして、あれに乗っていくの?」

「ちょっと、用事を思い出し……」「わたしも……」

 パフ!

 ポケットから逃げようとしたチカコと御息所をポケットごと押さえ込む。

 ムギュ!

「えと、どこから乗ればいいのかしら?」

「エスカレーターを上ります」

 トラッドメイドが示すと、アカアオメイドがササッと動いて、エスカレーターの登り口で上を指し示す。

「わ、わかったわ!」

 もう、こうなったら、矢でも鉄砲でも持ってこい!

 今までも、数々のアヤカシをやっつけてきたんだ、なんとかなるさ!

 トラッドメイドに先導されてエスカレーターに足を載せると、アキバマーチングバンドが聴いたことのあるアニソンマーチを演奏。

「わたしたちもお付き合いします」

「ほんと!?」

「「わたしたちもです」」

 アカアオメイドも後ろに付いてくれていて、頼もしいことを言ってくれる。

 う、うれしい!

 ロケットの方を見上げると、ロケットの二段目のところが開いて、ラッタルがスルスルと下りてくる。

 あっと思って見上げると、ハッチの所からアキバ子が身を乗り出して手を振ってくれている。

「やくもさま、わたしもお供いたします!」

 嬉しいことを言ってくれる。

 やっぱり、青龍と共に戦っただけのことはある!

 ガシャン

 ハッチが締められて、みんなでシートに着いてベルトを締める。

「発射します!」

 操縦席のコンソールに秒読みの数字が現れ、モニターには秋葉原クロスフィールドの屋上に据えられたと思えるカメラの映像が映っている。ボディーにはニヤリマークとAKIBA-01のしるし!

 白い煙がもうもうとあがる。

 ロケットのボディーに描かれたニヤリマークが縦になって……ニヤリが真っ直ぐに伸びて……矢印に……いや、これってロケットが飛んでいく姿だ!

 ドドドドドドーーーーーーーーーーーン

 AKIBA-01は、はるか土星軌道を目指して飛び立った!

 

☆ 主な登場人物

  • やくも       一丁目に越してきて三丁目の学校に通う中学二年生
  • お母さん      やくもとは血の繋がりは無い 陽子
  • お爺ちゃん     やくもともお母さんとも血の繋がりは無い 昭介
  • お婆ちゃん     やくもともお母さんとも血の繋がりは無い
  • 教頭先生
  • 小出先生      図書部の先生
  • 杉野君        図書委員仲間 やくものことが好き
  • 小桜さん       図書委員仲間
  • あやかしたち    交換手さん メイドお化け ペコリお化け えりかちゃん 四毛猫 愛さん(愛の銅像) 染井さん(校門脇の桜) お守り石 光ファイバーのお化け 土の道のお化け 満開梅 春一番お化け 二丁目断層 親子(チカコ) 俊徳丸 鬼の孫の手 六畳の御息所 里見八犬伝 滝夜叉姫 将門 アカアオメイド アキバ子 青龍 メイド王

 

 

 

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