やくもあやかし物語・131
緊急なのです! エマージェンシーなのです!
そう言いながら、アカアオメイドはしっかり天蕎麦食べていったし、時間を停めたという割には、戻ってからでも一時間近くたっていたので、明日でもいいだろうと思った。
龍と蛇の業魔は、行きがかり上、すぐに対戦したけど。やっぱ、終わって戻ってみるときついよ。
だからね、明日にしようって思った(^_^;)。
「やくも、こんなの要るかい?」
歯を磨いて寝ようかと廊下に出ると、お祖父ちゃんが、くたびれた紙箱を差し出した。
「なあに?」
「若いころにステレオ買ったら電気屋が、おまけにくれたものなんだけどな……」
「ほお」
手に取ってみると、ずっしりと重い箱の上にはVic□orのロゴがあって、ワンコがお座りして蓄音機に耳を傾けてるイラスト。
「開けていい?」
「うん、確かめて、気に入ったらあげるよ」
「どれどれ…………うわあ」
箱の中にはフワフワの紙にくるまれて、イラストと同じワンコと蓄音機が入っている。
昭和的レトロ、いや、もひとつ前の大正ロマンて感じ。
いっしゅん陶器かと思ったけど、なんか、微妙に柔らかいプラスチックみたいなのでできている。
「ありがとう、めちゃくちゃ気に入ったからもらっておく!」
「そうかそうか、やくもは値打ちの分かる子だから、お爺ちゃん好きだよ」
「えへへ、お爺ちゃん、趣味いいもんね」
「あはは」
お爺ちゃんは、頭を掻きながら部屋に戻って行った。
お爺ちゃん、わたしが歯を磨きに廊下に出るの待ってたんだ。
お爺ちゃん、シャイだから、たとえ孫娘でも、夜中に女の子の部屋を訪ねるのにためらいがあったんだよね。
お婆ちゃんに見せたら「そんなもの、とっとと捨てなさいよ」って言われるの目に見えてる。
不用品はメルカリとかに出せばいいと思うんだけど、お婆ちゃんは断捨離婆さんで、めんどくさがり屋だから、メルカリは嫌いなんだ。
机の上に蓄音機ワンコ、枕もとにはコルトガバメントとメイデン勲章を置いて寝る。
うん、明日はカバンにしのばせて学校に行くつもり。
これまでの経験から言っても、通学の途中で業魔とか現れて戦いになりそうな気がしたからね。
チカコと御息所は両手に握っておこうと思ったけど。「寝ている間にオナラされちゃかなわない」「歯ぎしりがねえ」とか理不尽なこと言って、杖の上でハンカチのお布団被って寝てしまう。
やれやれ。
そう思って眠りに落ちると、二丁目の坂道が夢に出てきた。
坂道下って折り返し。
あれ?
折り返してみると、アキバの駅前広場に下りるエスカレーターだよ。
いっしゅん引き返そうかと思ったけど、振り返るとペコリお化けが『工事中』の看板立てて、済まなさそうに頭を下げる。
仕方ない。
エスカレーターに足を載せると、下の方に、騎士メイドやメイド将軍たちを引き連れたメイド王・アレクサンドラが、その向こうにはアカアオメイドと滝夜叉姫のトラッドメイド……これは、もう逃げられないよ(;'∀')。
せめて朝まで待ってほしかったけど。
ポケットの上から御息所とチカコが居るのを確認。
エイヤ!
残り五段は駆け下りて、メイド王の前に立つわたしだったよ。
☆ 主な登場人物
- やくも 一丁目に越してきて三丁目の学校に通う中学二年生
- お母さん やくもとは血の繋がりは無い 陽子
- お爺ちゃん やくもともお母さんとも血の繋がりは無い 昭介
- お婆ちゃん やくもともお母さんとも血の繋がりは無い
- 教頭先生
- 小出先生 図書部の先生
- 杉野君 図書委員仲間 やくものことが好き
- 小桜さん 図書委員仲間
- あやかしたち 交換手さん メイドお化け ペコリお化け えりかちゃん 四毛猫 愛さん(愛の銅像) 染井さん(校門脇の桜) お守り石 光ファイバーのお化け 土の道のお化け 満開梅 春一番お化け 二丁目断層 親子(チカコ) 俊徳丸 鬼の孫の手 六畳の御息所 里見八犬伝 滝夜叉姫 将門 アカアオメイド アキバ子 青龍 メイド王