大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

やくもあやかし物語・131『Vic□orの蓄音機ワンコ』

2022-03-29 09:57:32 | ライトノベルセレクト

やく物語・131

『Vic□orの蓄音機ワンコ』 

 

 

 緊急なのです! エマージェンシーなのです!

 

 そう言いながら、アカアオメイドはしっかり天蕎麦食べていったし、時間を停めたという割には、戻ってからでも一時間近くたっていたので、明日でもいいだろうと思った。

 龍と蛇の業魔は、行きがかり上、すぐに対戦したけど。やっぱ、終わって戻ってみるときついよ。

 だからね、明日にしようって思った(^_^;)。

 

「やくも、こんなの要るかい?」

 

 歯を磨いて寝ようかと廊下に出ると、お祖父ちゃんが、くたびれた紙箱を差し出した。

「なあに?」

「若いころにステレオ買ったら電気屋が、おまけにくれたものなんだけどな……」

「ほお」

 手に取ってみると、ずっしりと重い箱の上にはVic□orのロゴがあって、ワンコがお座りして蓄音機に耳を傾けてるイラスト。

「開けていい?」

「うん、確かめて、気に入ったらあげるよ」

「どれどれ…………うわあ」

 箱の中にはフワフワの紙にくるまれて、イラストと同じワンコと蓄音機が入っている。

 昭和的レトロ、いや、もひとつ前の大正ロマンて感じ。

 いっしゅん陶器かと思ったけど、なんか、微妙に柔らかいプラスチックみたいなのでできている。

「ありがとう、めちゃくちゃ気に入ったからもらっておく!」

「そうかそうか、やくもは値打ちの分かる子だから、お爺ちゃん好きだよ」

「えへへ、お爺ちゃん、趣味いいもんね」

「あはは」

 お爺ちゃんは、頭を掻きながら部屋に戻って行った。

 お爺ちゃん、わたしが歯を磨きに廊下に出るの待ってたんだ。

 お爺ちゃん、シャイだから、たとえ孫娘でも、夜中に女の子の部屋を訪ねるのにためらいがあったんだよね。

 お婆ちゃんに見せたら「そんなもの、とっとと捨てなさいよ」って言われるの目に見えてる。

 不用品はメルカリとかに出せばいいと思うんだけど、お婆ちゃんは断捨離婆さんで、めんどくさがり屋だから、メルカリは嫌いなんだ。

 机の上に蓄音機ワンコ、枕もとにはコルトガバメントとメイデン勲章を置いて寝る。

 うん、明日はカバンにしのばせて学校に行くつもり。

 これまでの経験から言っても、通学の途中で業魔とか現れて戦いになりそうな気がしたからね。

 チカコと御息所は両手に握っておこうと思ったけど。「寝ている間にオナラされちゃかなわない」「歯ぎしりがねえ」とか理不尽なこと言って、杖の上でハンカチのお布団被って寝てしまう。

 やれやれ。

 

 そう思って眠りに落ちると、二丁目の坂道が夢に出てきた。

 

 坂道下って折り返し。

 あれ?

 折り返してみると、アキバの駅前広場に下りるエスカレーターだよ。

 いっしゅん引き返そうかと思ったけど、振り返るとペコリお化けが『工事中』の看板立てて、済まなさそうに頭を下げる。

 仕方ない。

 エスカレーターに足を載せると、下の方に、騎士メイドやメイド将軍たちを引き連れたメイド王・アレクサンドラが、その向こうにはアカアオメイドと滝夜叉姫のトラッドメイド……これは、もう逃げられないよ(;'∀')。

 せめて朝まで待ってほしかったけど。

 ポケットの上から御息所とチカコが居るのを確認。

 エイヤ!

 残り五段は駆け下りて、メイド王の前に立つわたしだったよ。

 

 

☆ 主な登場人物

  • やくも       一丁目に越してきて三丁目の学校に通う中学二年生
  • お母さん      やくもとは血の繋がりは無い 陽子
  • お爺ちゃん     やくもともお母さんとも血の繋がりは無い 昭介
  • お婆ちゃん     やくもともお母さんとも血の繋がりは無い
  • 教頭先生
  • 小出先生      図書部の先生
  • 杉野君        図書委員仲間 やくものことが好き
  • 小桜さん       図書委員仲間
  • あやかしたち    交換手さん メイドお化け ペコリお化け えりかちゃん 四毛猫 愛さん(愛の銅像) 染井さん(校門脇の桜) お守り石 光ファイバーのお化け 土の道のお化け 満開梅 春一番お化け 二丁目断層 親子(チカコ) 俊徳丸 鬼の孫の手 六畳の御息所 里見八犬伝 滝夜叉姫 将門 アカアオメイド アキバ子 青龍 メイド王
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やくもあやかし物語・130『天蕎麦で今度の敵は戌』

2022-03-22 12:26:34 | ライトノベルセレクト

やく物語・130

『天蕎麦で今度の敵は戌』 

 

 

 やくもさまやくもさま

 

 アカアオメイドが声をそろえる。

 二人は、いつもポーカーフェイスなので、呼びかけられただけでは何の用事なのか分からない。

 ここは御息所の館なので、ひょっとしたら、滝夜叉姫もお呼ばれしていて、二人は、その先ぶれのためにやってきた?

 いや、ひょっとしてひょっとしたら、将門さまが回復されて、その知らせにやってきた?

 そうだよ、将門さまは神田明神で、関東の総鎮守さま。体力も回復力もずば抜けていて、わたしが蛇(巳)と龍(辰)をやっつけたから、早々と回復した!?

 それとも苦労人の御息所だから、将門さまの下で働いているトラッドメイド(滝夜叉姫)のそのまた下で働いているアカアオメイドさんを慰労するために呼んだとか?

 そうだよ、御息所が、わたしに仕掛けたドッキリなのかも!?

「いえ、そのいずれでもありません」

「頭から否定するのは、ちょっと失礼かもですよ、アオ」

「いえ、ことは緊急を要するのです」

「そうだった。でも、親しき中にもということもあるじゃない」

「緊急なのです、エマージェンシーなのです」

「そうね」

「そうよ」

「あ、え……で、なんの御用なのかなあ(^_^;)?」

「「病魔です、業魔です」」

「え、もう次の!?」

「はい」

「今度は、戌です」

「犬です」

「西の方角です」

「白くて長い布切れを従えて、ちょっと難儀な犬なのです」

「白い布切れ?」

「蛇の抜け殻」

「一反木綿よ」

「どっちなの?」

「「とにかく敵!」」

「ただちに!」

「出撃!」

「わ、分かった分かった、分かったから」

「あら、ちょっと、あなたたち!?」

 メイドたちを従えて、御息所が目を三角にして現れた。

「「あ、御息所!」」

「なんで、あなたたちが断りもなく入ってきてるのよ!?」

「緊急なのです!」

「エマージェンシーなのです!」

 今度は、分かりやすく赤メイドの頭が赤く明滅し始め、アオメイドが「ピーポーピーポー」と警笛の真似をしながらクルクルと回り始める。

「そ、そう、じゃあ、仕方がないわね」

「あ、その匂いは?」

「天蕎麦の匂いですね!」

「蕎麦の香りが爽やか」

「エビ天二個」

「ハモ天一個」

「よく分かるわね」

「わたしたちも」

「メイドですから」

「じゃあ、いってらっしゃいね」

 御息所の言葉に合わせて、お付きのメイドたちも手を振る。

「「仕方ありません」」

 そうだよね……そう観念して、わたしも立ち上がる。

「「天蕎麦いただいてからにします」」

「え?」

「時間が無いのであろう?」

「「時間を停めます」」

「「ええ!?」」

「こういう閉鎖空間でしたら……」

「一時間以内なら、わたしたちでも……」

「「時間を停められます」」

 アカアオメイド二人そろって右手を上げる

「「えい!」」

 小鳥のさえずりも館の上を流れる雲もピタリと動きを停めてしまった。

「それでは」

「頂戴いたします」

 二人は手際よく静止したメイドさんたちが持っている箱膳を寝殿に並べ、四人揃って天蕎麦を頂いた。

 でも、よく考えたら、最初から箱膳は四人分用意されていて、ヤラセだったのかなあと思ったけど、追及はしなかったよ。

 

☆ 主な登場人物

  • やくも       一丁目に越してきて三丁目の学校に通う中学二年生
  • お母さん      やくもとは血の繋がりは無い 陽子
  • お爺ちゃん     やくもともお母さんとも血の繋がりは無い 昭介
  • お婆ちゃん     やくもともお母さんとも血の繋がりは無い
  • 教頭先生
  • 小出先生      図書部の先生
  • 杉野君        図書委員仲間 やくものことが好き
  • 小桜さん       図書委員仲間
  • あやかしたち    交換手さん メイドお化け ペコリお化け えりかちゃん 四毛猫 愛さん(愛の銅像) 染井さん(校門脇の桜) お守り石 光ファイバーのお化け 土の道のお化け 満開梅 春一番お化け 二丁目断層 親子(チカコ) 俊徳丸 鬼の孫の手 六畳の御息所 里見八犬伝 滝夜叉姫 将門 アカアオメイド アキバ子 青龍 メイド王

 

 

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やくもあやかし物語・129『御息所のひろ~い館』

2022-03-17 13:20:25 | ライトノベルセレクト

やく物語・129

『御息所のひろ~い館』 

 

 

 わたしの家は一丁目にある。

 

 一丁目を西に突き当たると左に道が曲がって二丁目。

 曲がったところからは坂道で、100メートルほど下って折り返して、さらに100メートルほどの下り坂。

 下りきって西に折れて、二丁目を通った先の三丁目に学校がある。

 学校から帰って来る時は、遠目に坂の上の一丁目が見える。

 その坂の上の一丁目は比較的大きな家が多くて、我が家は、その中でも一回り大きい。

 漠然と二百坪くらいかと思っていたら「う~ん……四百坪くらいかなあ」と、お爺ちゃんはこともなげに言う。

「敷坪四百、建坪二百ってとこかなあ……」

「よんひゃくに、にひゃく!?」

「古いだけさ」

 そう言うと、そのまま膝の上の新聞を広げて自分の世界に潜っていくお爺ちゃん。

 新聞ばかり読んでると情弱のバカになってしまうと思うんだけど、まあ、新聞読んでるときとお風呂に入ってるときが一番リラックスできると言うんだから仕方がない。

 子どものころ、お母さんが教えてくれた。

「一坪って言うのは畳二枚分。だから、六畳は三坪。覚えやすいでしょ」

「うん……じゃあ、百坪は?」

 百と言うのは、大きくてお目出度い数字って感じがする。子どもの基準って、テストの点みたく百点でしょ。

 だから、百坪って聞いてみたのよ。

「うん、プールの水面くらいかなあ」

「おおー!」

 ほとんどカナヅチだったわたしにとって、学校のプールの水面は湘南海岸から見渡す太平洋と変わりが無かったから、とてつもない広さに感じた。

 それが四つ分と言うのだから、ほんとうにぶっ飛んだ広さ。

 

 その我が家が小さく見えるくらいだから、よっぽどのよっぽどよ。

 

「おお、よう参ったのう」

 御息所が門の前で、エッヘン顔して立っている。

「すごいねえ……!」

 建物の周囲は京都御所みたいな塀が取り巻いているんだけど、両端は絵巻物の雲みたいなのに隠れていて見渡すこともできない。

「チカコはいっしょではないのか?」

「どうせ寝殿造りでしょって」

「チカコめぇ……」

「あははは(^_^;)」

 どうも、チカコと御息所は、仲がいいのか悪いのか。

 今日はね、御息所がメイデン勲章のおまけにもらった館を見せたいというので来てみたわけなの。

 アキバのメイド王がくれたものだから、VRとかのバーチャルじゃないかと思ったんだけどね。

 それがどうして、京都御所も真っ青ってぐらいに立派な寝殿造り。

 むろん、電車や車で来たわけじゃないのよ。

 メイデン勲章の真ん中を見つめながら――御息所の館――と念ずると、ここに来れるわけ。

「まあ、ゆるりと過ごすがよいぞ」

 御息所が鷹揚に指し示すと、メイドさんや執事さんがズラリと現れて、館の中に招いてくれる。

「最初は平安風俗でないのが、ちと不満であったが、いやはや、やくもの家の生活が慣れたせいであろうな。なかなかのものであると満足いたしたぞ」

 なるほど、階(きざはし)を上がると、廊下には緋色の絨毯が敷かれていて、わたしの歩く前をお掃除ロボットが恭しく埃を払ってくれる。照明だってLEDの間接照明だったりする。

「この渡殿(わたどの)を過ぎると寝殿じゃ。ここからの庭の眺めは格別じゃぞ」

「おお!」

 右近の橘左近の……なんだったけ?

 とにかく、国語便覧とかで見た寝殿造りの姿が、何倍かの規模で広がってる。

 白砂の庭の向こうは……池?

「池のはずなのじゃが果てが見えん。ひょっとしたら海なのかもしれんなあ……ほれ、あの渡殿の先が釣殿になっておるじゃろ。あそこから釣竿をさせば、クジラが釣れそうじゃ」

 おほほほほ

 控えているメイドさんたちが手の甲を口にもってきて上品に笑う。

 メイドさんというのは、主人やお客さんの前では喜怒哀楽を見せないものかと思っていたけど、これも御息所の趣味なんだろうねえ。

「さあ、ここが、わらわの常の間である寝殿じゃ。今日は風もなく良い日よりじゃ、エアカーテンはオフにしてよいぞ」

「はい、ご主人さま」

「ご主人ではない。わらわのことは御息所と呼べと申したであろう」

「しつれいいたしました、御息所さま」

 少し頬を染めて一礼すると、担当のメイドさんはポケットからリモコンを取り出してエアカーテンのスイッチを切った。

「こだわるんだね(^_^;)」

「ここの主は東宮さま。ここは、その東宮さまの休憩所。一息つかれる憩いの場所なのじゃ、それゆえ、わらわの名乗りは『御息所』なのじゃぞえ」

「そうなんだ……そんなところに、わたしが呼ばれてよかったのかなあ?」

「目的を持った場所というのは、使ってみないと善し悪しが分からぬものじゃによって……むろん、やくもへの感謝もあるしのう。さ、そちらのカウチでくつろぐがよいぞ」

「うん、ありがとう」

「本来ならば、三日はかけて歓迎の宴を開きたいところじゃが、晩御飯は家族と食べるのがやくものコンセプト。軽く天ソバなどを作らせておるゆえ、しばらく待て」

「あ、おかまいなく(^_^;)」

「いや、構うぞ、そうじゃそうじゃ、とりあえずはお茶にしよう……」

 担当のメイドに命じようと御息所が、わたしは恐縮して振り向くと、そこに立っていたのは将門さんちのアカ・アオメイドだった……。

 

☆ 主な登場人物

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やくもあやかし物語・128『八房のお礼』

2022-03-09 11:33:22 | ライトノベルセレクト

やく物語・128

『八房のお礼』 

 

 

 

 窓を開けると、八房が宙に浮いていた。

 

「あら、八房って宙に浮けたの?」

「はい、脚はまだ直りませんが、やくもさんたちが二匹も妖を退治してくださいましたので、心が軽くなり、これくらいの高さなら浮いていられるようになりました」

 なるほど、腰を落としたお座りの姿勢だ。

「伏姫さまもお喜びになって、これは、直ぐにでもお礼を申し上げねばとうかがったしだいなのです」

「まあ、それはそれはご丁寧に」

「つきましては、ほんの気持ちばかりなのですが、お礼のしるしとして、これをご笑納くださいませ」

 スっと八房が横滑りすると空中に洗面器ほどの桶が現れた。

「まあ!?」「檜のお風呂じゃないの!?」

 左右の肩に乗ってきて、チカコと御息所が感激する。

「はい、実は、今の今まで悩んでいたのです。里見家にはもう昔の勢いがございません。それで、取り急ぎお礼をと、伏姫さまがお渡しになったのが……」

「このお風呂なのね!」

「なんて気が利いているんでしょ!」

「そうね、ついさっきまで二人とも言ってたものね」

「いえ、実は、姫さまから預かったのはこけしほどの原木なのです。いえ、原木と言っても、甲斐の山奥で御神木と崇められていた由緒のあるものでして」

「原木がお風呂に?」

「はい、御神木には霊力がございます。不肖、八房にも少しばかりの呪の力もございますので、みなさんのお声を漏れ聞いて、ついさっきお風呂に変化(へんげ)させた次第なのです」

「まあ、そうだったの!」

「いやはや苦肉の策、お恥ずかしゅうございます」

「ううん!」

「そんなことはない!」

「あ、ちょ……うわ!」

 スッテーーン

 二人が身を乗り出したので、わたしはバランスを崩して、スノコに尻餅をついてしまった。

「あいたた……」

「あら、ごめん」

「だいじょうぶ?」

 ちょっとおざなりだけども、二人も窓枠から下りてきて腰をさすってくれる。

「あ、八房は?」

「ああ、帰ったわ」

「八房も、長い時間は浮いていられないみたい」

「そう、こっちこそ、きちんとお礼を言いたかったのに」

「でも、これで三人揃ってお風呂に入れるね」

「うん、さっそく入ろう!」

「ダメだよ、一番風呂はお爺ちゃんなんだから」

「ちぇ」

「年寄りの一番風呂は体に悪いぞよ」

「はいはい、今度は夕飯のお手伝いするから、あんたたちは部屋に帰りましょうね」

「むー」

「仕方ない、やくもにも立場があるよね」

 むくれる御息所をチカコがなだめてくれる。

 なかなかいいコンビになった。

 

 部屋に帰ると、お湯も張っていないお風呂に入ってニコニコの二人。

 なんか、子どもじみてるって思ったけど、顔を近づけてみると、檜のいい香りがして、なるほどと思う。

 これで、お素麺とかいただいたら美味しいかも……思ったけど、二人のお風呂と共用じゃねえ(^_^;)。

 それから、ちゃんと晩御飯もいただいて、後片付けも手伝って、三人でお風呂に入ったよ。

 

 あ~~ごくらくごくらく(^▽^)/

 

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やくもあやかし物語・127『みんなでお風呂掃除』

2022-03-04 11:33:48 | ライトノベルセレクト

やく物語・127

『みんなでお風呂掃除』 

 

 

 ええ、まだコタツに入ってんの!?

 

 帰るやいなや、御息所がチカコを叱る。

「だって、寒いもん」

 コタツの上に顎を載せたまま上目遣いにプーたれるチカコ。

「まあまあ御息所はアキバで大活躍した後で体も心も温まってるから、そう感じるんだよ」

「で、どうだったのよ首尾は?」

「そりゃあもう、ねえ、やくも」

「あ、うん。大変だったけど、なんとかやっつけられたよ」

「そうよ、蛇と龍、二つも化け物やっつけてきたのよ。なんとか、わらわの力でやっつけられたけどね、もう、ひどい戦い。早くひとっ風呂浴びて、晩酌の二合もやってお休みしたいわ」

「もう、なによ偉そうに。お風呂とか入りたかったら、さっさとお風呂掃除してきなさいよ、もう三十分もしたらお爺ちゃん、お風呂入るわよ」

「わらわたちは茶碗のお風呂であろうが」

「あのね、ここの主はやくもなんだから。やくももバキバキに戦ってきたんだろうから、少しは手伝ってあげようって気にはならないのかしら?」

「あんただって、コタツで丸くなってるだけじゃない。まるでネコよ。あんたって猫系だけど、ほんと猫にメタモルフォーゼしてしまうわよヽ(`Д´)ノ」

「ふん、わたしはとっくにね……ジャーーン!」

「「おお!」」 

 コタツから飛び出たチカコは、ジャージに短パン、足は潔く裸足で、手にはデッキブラシを握っている。

「さあ、とっとと行くわよ!」

 そう言うと、デッキブラシを棒高跳びの棒のようにして、エイヤっとあたしの肩の上に乗ってきた。

 

 ほんとは、お茶の一杯もいただいてからにしたかったんだけど、勢いなんだから仕方がない。

 ジャージに着替えただけで、二人を両肩に載せて風呂場に急いだ。

 

 ゴシゴシ ゴシゴシ

 

「やっぱり、檜ぶろっていいわよね」

「御息所、あなた、このお風呂に入りたいの?」

「まさか、このお風呂じゃ溺れてしまうわよ。わらわの身長は三寸五分しかないんだから」

「あ、その五分っていうところに『あんたよりも高いんだけど』って嫌味を感じるんだけれど」

「もう、被害妄想なんだから」

「まあ、依り代が1/12フィギュアだから仕方ないけど、さすがにお椀のお風呂に二人はきついかもしれないわね」

「そうよ、チカコって、すぐにお椀のへりに寄り掛かって『ごくらくごくらく』ってやるじゃない」

「それがなにか? あなただって、反対側に寄り掛かって、手ぬぐい頭に載せてるじゃない」

「あれはね、ああしないと、チカコの体重でお椀がひっくり返るからよ。ほんとは、お椀の真ん中でゆっくりしたいわよ」

「そうだったの、だったら、これからはジャンケンでもして、別々に入る?」

「でも、それって、後に入る時、お湯が冷めてしまう。お椀には追い炊き機能ってついてないわよ」

「そうね、やくもの仕事を増やしてしまうわよね」

「ちょっと、二人とも、お喋りするだけなら、部屋に帰ってくれる!」

「「アハハ、ごめんごめん」」

 手伝いと言っても、二人は歯ブラシみたいなモップだから、いくらもハカが行かないんだけど、こういう賑やかなのもいいかなあ。

 ゴシゴシ ゴシゴシ ゴシゴシ

 なんとかブラシの音が揃い始めた時、お風呂の小窓を叩く音がした。

 コンコン

「だれ!?」

「なにやつ!?」

「…………」

 二人と違って、根が臆病なわたしは、とっさには声が出ない。

 ピョン

 二人は、ササッと、わたしの肩に乗る。

 ブラシを構えているところを見ると、わたしを守ろうという姿勢なんだろうけど。なんだか、小動物がビビって木の上に上ってきただけのようにも思える。

「え、えと……だれですかあ?」

 間の抜けた質問をしてしまう。

 すると、窓を叩く音がピタリと止んで、聞いたことのある声がした。

 

『わたしです、わたしです、里見家の八房でございます』

 

 八房……?

 ちょっと待って、里見さんちの八房は脚を痛めて犬用の車いす……お風呂の窓は大人の頭の高さぐらいだよ。

 とても、手というか前脚が届く高さじゃないよ……

 

☆ 主な登場人物

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やくもあやかし物語・126『凱旋』

2022-02-24 10:40:42 | ライトノベルセレクト

やく物語・126

『凱旋』 

 

 

 気が付くと、アキバの駅前広場。

 

 屋根付きエスカレーターがアキバブリッジに繋がって、その向こうにUDX。アキバの駅を出たら最初に目にする光景だけど、どれも、ちょっと背が高い。

 と思ったら、わたしは、ベッドみたいなのに寝かされている。

「お目覚めになりましたあ!」

 聞き覚えのある声に目を向けると、ラム、いや赤メイドが量の手の平をメガホンにして叫んでる。

 青メイドが涙ぐんで、その後ろにはティアラを煌めかせてメイド将軍たちが取り巻いている。

 タタタタタ

 焦っているけども品のいい靴落とさせて迫ってきたのは滝夜叉姫。

「お見事!お見事でした! 神田川の蛇に続いて、青龍もやっつけられました。これで、父の将門に巣くっていた業魔を二つも退治されたんです。やっぱりやくもさんのチームは最強です!」

 ガチャガチャ

 金属音がしたかと思うと、こんどは黄金のティアラと甲冑を身にまとった、ひときわ偉そうなメイド将軍だ。

 遠くからだと厳めしいんだけど、迫ってきた顔は、瞳爽やかな、昔懐かしい『ベルばら』のキャラが務まりそうな男前のメイドさんだ。

「メイド王のアレクサンドラだ。アキバ防衛のためとは言え、門前払いを食らわせてしまった。それにも関わらず、果敢にもブルードラゴンに立ち向かい、これを撃破した。その無礼を詫びるとともに、その栄誉を称え、お礼を述べたい。ほんとうにありがとう」

「あ、いえ。無我夢中でした。結果的に将門さまやアキバのみなさんのお役に立てたのでしたら光栄です」

「なんという謙虚! なんという寛容! 貴殿の好意と功績に応えるには足りないかもしれないが、我々の感謝の徴だ、これを受け取ってくれたまえ」

 メイド王が目配せすると、騎士メイドが小さな座布団みたいなものを捧げ持って現れた。

 座布団の上には、ハートの上に飾り文字のMをデザインした勲章が載っている。

「メイデン勲章、アキバ軍事部門の最高栄誉賞だ。これを身に着けていれば、世界中のどこからでもアキバにリープできるし、アキバ軍一個連隊の指揮権が与えられる」

「す、すごい……でも、軍隊の指揮なんて、とてもわたしには」

「ハハハ、やくもには名参謀が付いているではないか」

「え?」

「そのポケットに」

「あ、ああ……」

 ポケットから御息所が顔をのぞかせた。

「わらわにもくれると言うのか?」

「勲章の中には、ささやかだが館がひとつ入っている。日ごろは、そこで過ごせばよいであろう」

「そ、そうなのか? それなら、窮屈なポケットの中に入っていなくても済むんだな」

「いかにも、これからもアキバをよろしくな」

「陛下」

 騎士メイドが、小さく声を掛ける。

「なんだ、騎士メイド?」

「それはメイデン勲章改ですので、もうひとつ機能が……」

「ああ、そうであった。これにはコスプレ機能も付いている。勲章に手を当てて念ずれば、たいていのコスプレができるようになる」

「あ、ありがとうございます」

 どうしよう、コスプレなんて、恥ずかしくってできないけど、まあ、この状況ではお礼を言わなくっちゃね。

 それと、もうひとつお願いして置かなくっちゃ……そう思って胸に手を当てたけど……気配が無い。

「じゃ……えと、もう遅いから、学校もあるし、そそそろ帰ります」

「あ、そうか、やくもには学校もあるのだな」

「あ、それは休みだからいいんだけど、お風呂掃除とか……お爺ちゃん、夕食前にお風呂に入るから」

「おお、それは感心なことだ」

「では、これで失礼します」

 メイデン勲章に手を当てて――お家に帰る――と念ずる。

 

 ……あれ?

 

 ちっともリープできる気配が無い。

「ハハハ、念じて効果があるのはアキバに来る時で、戻る時は、あちらのエスカレーターからなのだよ」

 メイド王が、アキバブリッジのエスカレーターを指した。

「アハハ、なんだ、そうだったんだ(^_^;)」

「あと十体の退治が残っていますが、まずはお身体を休めてください」

 滝夜叉姫も優しく言ってくれる。

「「やくもさま、やくもさま」」

「あ、なにかなアカアオさん」

「こんど神田明神にお越しの時は……」

「よろしければ、この駅前広場で、お出迎え……」

「「いたします」」

「次には、馬車で」

「うん、ありがとう」

 馬車ということは、それだけ、将門さんも滝夜叉姫も回復しますよっていう決意表明だから、とても嬉しい。

「じゃあ、みなさん、失礼します」

 エスカレーターが上って行くと、アキバのメイドさんやメイド将軍、メイド王、滝夜叉姫、アカアオメイドさんたちが集まって手を振って名残を惜しんでくれる。

 そして、エスカレーターが上がっていくにしたがって風景はおぼろになって、一瞬真っ白くなったかと思うと、次には明るくなってエスカレーターは終わりになった。

 振り返ると、家の門の前だった。

 

☆ 主な登場人物

  • やくも       一丁目に越してきて三丁目の学校に通う中学二年生
  • お母さん      やくもとは血の繋がりは無い 陽子
  • お爺ちゃん     やくもともお母さんとも血の繋がりは無い 昭介
  • お婆ちゃん     やくもともお母さんとも血の繋がりは無い
  • 教頭先生
  • 小出先生      図書部の先生
  • 杉野君        図書委員仲間 やくものことが好き
  • 小桜さん       図書委員仲間
  • あやかしたち    交換手さん メイドお化け ペコリお化け えりかちゃん 四毛猫 愛さん(愛の銅像) 染井さん(校門脇の桜) お守り石 光ファイバーのお化け 土の道のお化け 満開梅 春一番お化け 二丁目断層 親子(チカコ) 俊徳丸 鬼の孫の手 六畳の御息所 里見八犬伝 滝夜叉姫 将門 アカアオメイド アキバ子 青龍 メイド王

 

 

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やくもあやかし物語・125『アキバ上空青龍戦・3』

2022-02-17 13:57:35 | ライトノベルセレクト

やく物語・125

『アキバ上空青龍戦・3』 

 

 

 ズザザザザザザザザザ!!

 

 ハートの上で思いっきり頭を下げたわたしの上を幾百幾千のウロコをそよがせながら青龍は通過していった。

「あ、危ないところでした。やくもさんが、もうちょっと頭を下げるのが遅れたら、あのウロコが擦れてギトギトにされるところでした(;'∀')」

 口から上だけを覗かせたアキバ子が声を震わせた。

「わたしには見えた」

 え?

 胸ポケットにいたはずの御息所の声が頭の上からした。

「いつのまに頭の上に?」

「ひょっとしたらと思ってね」

「なにが?」

「ひょっとしたんですか?」

「逆鱗よ」

「「げきりん?」」

「そう、逆鱗。聞いたことない?『逆鱗に触れてしまう』とかって慣用句があるでしょ」

「ああ、聞いたことある。そこに触ったらおとなしい人でも、ぶちぎれてしまうって、激おこスイッチ!」

「龍にスイッチがあるんですか?」

「タトエだと思う。そもそもゲキリンて絵とかで見たことないし」

「顎の下に、逆さまに生えてるウロコのことよ。ほんの0.1秒だったけど見えた。やくも、逆鱗を撃つのよ!」

「そんな!?」

「そんなとこ撃ったら、青龍、激おこぷんぷん丸になってしまう!」

「怒るってことは、最大の弱点なのよ!」

「でも、だって、ここは青龍の夢の中なんでしょ? 勝てっこないし!」

「わたしを誰だと思ってるの! この千年、夢を戦場にしてきた夢狩りの戦士、六条御息所よ!」

「そ、それは分かってるけど」

「ええ、まどろっこしい!」

 スポン

 ポケットから飛び出した御息所は、わたしの目の前でバク転すると等身大になって、わたしの前に立った。

「やくもは、しゃがんでガバメントを構える!」

「は、はい!」

「まず、その目で逆鱗を見て」

「う、うん」

「尻尾の方から喉元を見ていくから、しっかり、その目で見て!」

「うん」

「見たら、撃つ! いいわね!」

「う、うん」

「がんばってください、やくもさん(;'∀')」

「いくよ!」

 ギュィーーーーーーーーーン!

 ハートは、レーシングカーみたいな音をさせて、青龍の背後に回っていく。

「「ウワアアアアアアアア(@゜Д゜@)」」

 アキバ子と二人叫ぶのも構わずに、操縦権を握った御息所はハートを青龍の背後に寄せていく。

 ズザザザザザザザザザ!!

 頭の上数センチのところを、それ自体が生き物のように青龍のウロコがそよいでいく!

 げきりーーーーーーーん!

 ガバメントを構え、怖いのも我慢してゲキリンを探すけど「どれがゲキリーーン!?」とパニクッテいるうちに通過してしまう。

「チ」

「あ、舌打ちすることないでしょ!」

「頼りなさすぎ!」

「こんどは、この目で教えてやるから」

「ヒ(°д°)!」

 御息所の目がストロボ写真のようなレッドアイになったかと思うと、レーザー光線みたく二筋の光を放ち始めた。

「この光が点滅してグリーンになったらロックオンだから、直に撃って!」

「う、うん!」

 ギュィーーーーーーーーーン!

 ズザザザザザザザザザザザ!!

 再び増速したハートは、空中で二回転して青龍のお腹に迫った。

 そして、二筋の光が点滅したかと思うと……グリーンになった!

 

 ズッゴーーーーーーーン!

 

 ひときわ大きな発射音がしたかと思うと、周囲が真っ白になり、青龍は無数のポリゴンみたくなって消えていった。

 

 わたしたちも……乗っているハートもろとも消えてしまった……。

 

☆ 主な登場人物

  • やくも       一丁目に越してきて三丁目の学校に通う中学二年生
  • お母さん      やくもとは血の繋がりは無い 陽子
  • お爺ちゃん     やくもともお母さんとも血の繋がりは無い 昭介
  • お婆ちゃん     やくもともお母さんとも血の繋がりは無い
  • 教頭先生
  • 小出先生      図書部の先生
  • 杉野君        図書委員仲間 やくものことが好き
  • 小桜さん       図書委員仲間
  • あやかしたち    交換手さん メイドお化け ペコリお化け えりかちゃん 四毛猫 愛さん(愛の銅像) 染井さん(校門脇の桜) お守り石 光ファイバーのお化け 土の道のお化け 満開梅 春一番お化け 二丁目断層 親子(チカコ) 俊徳丸 鬼の孫の手 六畳の御息所 里見八犬伝 滝夜叉姫 将門 メイド将軍 アキバ子 青龍

 

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やくもあやかし物語・124『アキバ上空青龍戦・2』

2022-02-12 17:45:48 | ライトノベルセレクト

やく物語・124

『アキバ上空青龍戦・2』 

 

 

 見渡す限りの闇なんだけど、ところどころボンヤリと薄明るくなっているところがある。

 そのボンヤリは、息づくようにフワフワと大きくなったり小さくなったり、明るくなったり暗くなったり。

 まるで、そのボンヤリに命があるような感じさえする。

「青龍の夢は、まだ形にはなっていないようね」

 わたしもアキバ子も薄気味悪さに息を飲むだけなんだけど、さすがは御息所。

 人の夢に中に潜り込んで、人を呪い殺すだけのことはあって、平然と観察している。

「いま、不届きなこと思ってたでしょ(*`へ´*)」

「ううん、そんなことない。頼もしいって思ったんだから(^_^;)」

「あのボンヤリしてるのは、青龍の願望よ……衝動と言ってもいい。でも、まだハッキリしてないのよ。いずれ、色を持って明るく輝きだして形ある夢になっていく……でもね、青龍って名乗るぐらいだから、自分の姿かたちにはハッキリしたイメージを持っているはずよ。それを見つけて」

「見つけたら、どうなるんですか?」

「見れば、あいつも自信をもって形にするわ。夢は、人に見られて成長するものなのよ」

「なんとなく分かるような気がします。アキバもそうです。人に見てもらって、認め合ってテンション上がっていくもんですから」

「そうよね、コスプレのレイヤーさんたちって、もろ、そうだし。同人誌とかゲームとか、そうだよね」

「そう、承認欲求! それは、妖のなかにもある! しっかり探して!」

「うん!」

「はい!」

「あ、あれだ!」

 探せと言う割に、いちばん最初に見つけたのは御息所だ。

 さすがに夢のエキスパート! 褒めてあげようかと思ったけど、御息所にとっては触れてほしくないところでもあるんだろうと思ったので止める。

 そのボンヤリは薄青く明滅しているんだけど、明滅の真ん中に糸くずみたいなのがあって、それがウネウネしている。

 理科の実験で見たミジンコや青虫のイメージなんだけど、三人で見ているうちに姿がハッキリしてきた。

 先っちょが膨らんで頭になり、手足のようなものも出てきて、頭には角が生えて、小っちゃな龍になった。

 ピカ!

 まぶしい( >д<)!

 アノマロカリスが気が付いて、そのボンヤリを体で隠そうと突進してきて、重なったところでスパークが起こって、周囲が真っ白になってしまう。

「やっぱり龍だったな」

 御息所は平気で目を開けていたので、悠然と腕組みしたままだ。

 アノマロカリスは、元の十倍はあろうかという立派な青龍に変貌を遂げていた。

「思っていた通りでしたね」

「で……あれを、どうやってやっつけろって言うの?」

「コルトガバメントでしょ」

「気楽に言わないでよ、第一形態のアノマロカリスで効かなかったのよ」

「だから、本性である青龍の姿にしたんでしょ」

「あ、ああ」

「御息所……ひょっとして、龍の姿にするところまでしか考えてなかった?」

「いや、そんなことはないわよ。本性に変身させれば、やっつけられるんだから、あとは吸血鬼の胸に十字架の杭を打ち込むようなものよ。さっさとやんなさいよ!」

「で、でも……」

 青龍の姿は、大きくて、キラキラ力強くて、とても、コルトガバメントでやっつけられるようには思えなかった。

 ギラ(⚙♊⚙)

 ヒエエエエエエ!

 いっしゅん青龍の目が光って、三人揃って縮みあがってしまった。

「さっさと、やんなさいよ!」

「ああ、こっち見てますよおおおお!」

「早く!」

「う、うん!」

 ドギューーーーーーーン!

 ビビりながらも思いを込めたせいだろうか、銃口から弾丸が飛び出し、真っ直ぐに青龍の眉間に飛んで行くのが見えた。

 シュルルルル

 銃身に刻まれたライフル(線状)によって旋回運動を加えられ、白い煙のエフェクトを纏いながら銃弾は、青龍の眉間に命中!

 チーーーン

 え?

 銃弾は、釣鐘にパチンコ玉が当たった程度の音を響かせてはじき返されてしまった。

 グオオオオオオオオオオオオ!

 真っ赤な口を開けて、青龍は、あたしたちめがけて飛びかかってきた!

 

☆ 主な登場人物

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やくもあやかし物語・123『アキバ上空青龍戦・1』

2022-02-06 14:06:27 | ライトノベルセレクト

やく物語・123

『アキバ上空青龍戦・1』 

 

 

 ヒダヒダのあるオムレツみたいな胴体の両側に13対のヒレがあって、それをウネウネそよがせて推進力にしているアノマロカリス。

 そこだけ見ていると、大人数で漕いでいるボートみたいでのんびりして、尻尾は海老に似ていて美味しそうだったりする。

 わたしは、エビ天とかエビフライの尻尾はガリガリ噛んで『エビセンみたい(^▽^)』と喜んでる子なので、どうってことないんだけど、頭が気持ち悪い。

 突き出た目玉は真っ黒で海老と同じで可愛かったりするんだけど、突き出た触覚みたいな腕みたいなのがカマキリの鎌みたいで、その鎌をシャキシャキ動かして得物を獲る姿は、ほとんど悪魔。

 ソヨソヨ~

 大きさの割には鯉のぼりが風にそよぐような音をさせて頭上を通過する。

「あ、あれも目玉?」

 アキバ子が呆然とする。

「あれは、あいつの口よ……」

 御息所は、ぬいぐるみのアノマロカリスで慣れてるんだけど、アキバ子は不思議みたい。

 アノマロカリスの口はまん丸で、一見目玉のよう。

 近づいてみると、瞳の瞳孔のとこが口で、カメラのシャッターみたく大きくなったり萎んだり。

 こいつがクワーって開いたのが見えたら、もう食べられる寸前!

「ね、だから、口が……開いて、こっち来るー!」

 ヤバイ!

 そう思ったら、わたしを載せたハートがクルンと翻って身を躱す。

「これ、慣れるとスケボーみたいね!」

 ちょっとだけ嬉しい。スケボーなんて乗ったことないけどね。

 ソヨソヨ~

 クルン

 ソヨソヨ~

 クルン

 なんだか楽しくなってきたかも。

「楽しんでいてはダメです。あいつは青龍の幼体なんですから、放っておくと変態して龍になります!」

「そうだね、ごめんごめん(^_^;)」

 わたしは、おもむろにコルトガバメントを取り出して、アノマロカリスに狙いをつける。

 ドギューン ドギューン ドギューン

 立て続けに三発撃ったけど、ヒラリと身を躱されてしまう。

「む、むつかしいわね……」

 ドギューン ドギューン ドギューン

 さらに三発撃ったけど当らない。

「茨木童子は一発で仕留められたのに!」

 ちょっと焦ってきた。

「あ、あいつのお腹が!」

 ウニュン ウニュン

 御息所が指差したお腹がアコーディオンの蛇腹みたいにうねり出した。

 あそこは、ポケットになっていて、うちの縫いぐるみだと妹ニクのフィギュアが入っているところだ。

 しかし、こいつの本性は青龍、そんな可愛げなものが入っているはずはない。

 シュボ シュボ シュボボボ

「あ、鬼だ!」

 お腹のヒダヒダからは、小さな鬼がいっぱい出てきた。

「ちょっとヤバイですねぇ……」

 アキバ子が身を縮める。

「あんなもの!」

 わたしは、ハートの上にスックと立って、両手でコルトガバメントを構えて、波動砲を撃つ時の古代進のように鬼たちが占める空間の真ん中を狙った。

「エネルーギー充填120パーセント、対ショック対閃光防御!」

 アキバ子が調子を合わせてくれる。

「コルトガバメント発射!」

「テーー!」

 ズゴーーーン!

 すごい閃光が解き放たれて、鬼たちが広がろうとしていた空間を白いスパークで満たした。

 わずかに残った鬼たちが拡散して、多方面から攻撃を仕掛けてくる。

 ドギューン ドギューン ドギューン ドギューン ドギューン ドギューン

 動きが速いにも関わらず、わたしは二秒で六匹の鬼を打ち倒す。

「すごい、魔法少女みたいです!」

 シャラーン……☆

 可愛いエフェクトがしたかと思うと、わたしは魔法少女になっている。

「すごい、ほんとうに魔法少女になりましたよ!」

 わたしも、その気になってきた。

「月に代わって押し入れよ!」

「ちょっと違うような(^_^;)」

 ドギューン ドギューン ドギューン ドギューン ドギューン ドギューン

 残った鬼たちも大半やっつけて、それでも残った鬼は、恐れをなして逃げて行った。

「本体は残ってる……」

 御息所が指差した空には、一回り大きくなったアノマロカリスが悠然と飛んでいる。

「わたしは思います」

「なにを?」

「アノマロカリスと思って対応していては、やっつけられないのではないでしょうか」

「そうか、やつの本性である青龍として攻撃しないと……ってことね?」

 御息所の目が座ってきた。

「やつの夢の中に潜り込もう……」

 御息所が印を結ぶと、急速にあたりが暗くなってきた……。

 

☆ 主な登場人物

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やくもあやかし物語・122『裏アキバからアキバの空へ』

2022-02-01 14:04:08 | ライトノベルセレクト

やく物語・122

『裏アキバからアキバの空へ』 

 

 

 しゅんかん夢をみた。

 

 ピンポン玉くらいのハートが何千個も集まって、その上に乗ったわたしは、ホワホワとアキバの上空に浮かんでいく。

 眼下にアキバの街が広がっている。

 最初は、日曜日とあって、アキバの街は人で埋め尽くされて、アニソンやらお店のテーマ音楽、メイドさんたちがお客さんを呼び込む声とかが潮騒のように聞こえる。

「あれえ、やっぱり普通にアキバだよ」

 ポケットから頭を出した御息所が「ちがう」と言う。

「どうちがうの?」

「ようく見てみ」

 言われて目を凝らすと、いわゆるアキバエリアの外周は古代ローマのような石壁に囲まれ、武装したメイドさんたちが手に手に武器を持って石壁の上の配置についていて、東西南北にはティアラを煌めかせたメイド将軍の姿も伺える。

 視線をアキバの街に戻すと、もう日曜のアキバの賑わいは掻き消えてしまって、所どころに予備軍的に控えているメイド部隊が見える。部隊は、兵士の他に白魔導士やら錬金術師の部隊も見えて、なんだか、ゲームの序盤のムービーみたい。

「すごい夢ね」

「いいえ、夢ではありません」

 胸元から声がしたかと思うと、マフラーをかき分けるようにしてアキバ子が現れた。

「あ、そこは特等席、わたしでも遠慮してるのだぞ」

 御息所が苦情を言う。

「慣れないもので、より確実なところから出させてもらいました(^_^;)」

「で、無遠慮なアキバ子が、なんの用だ!?」

「ここからが、御息所さんの出番なんです!」

「「ここから?」」

 御息所と声が揃ってしまう。

「はい、御息所さんは深く夢の中に潜り込む術に長けておられます。自分の夢にも人の夢にも」

「それって、わたしの古傷をえぐってない?」

「その眼で下界のアキバをよく見てください。わたしたちには見えない、アキバに隠れた業魔の姿が見えてくるはずです」

「そうなの?」

「はい、やくもさま」

「しかし、漫然と見るには、広すぎるわよ、アキバは」

「はい、そこで役に立つのは、やはり御息所さんの学識なのです」

「そ、そりゃ、東宮妃にまでなったわたしだから……でも、そんなの千年も昔の話で……」

「御息所さん、ここは神田の東にあたります」

「そうね、それが?」

「最初に退治された業魔は神田の南南東、神田川の主でした。南南東は巳の方角」

「あ、それで蛇の姿!?」

「はい、やくもさま」

「では、東だから……寅……虎?」

「いいえ、アキバは南北の広がりもありますから、丑、虎、卯をも包み込んで超えるものです」

「あ、青龍か!?」

「え、セイリュウ?」

「四神よ。東西南北の四方の守り神。北の玄武、南の朱雀、西の白虎……東の青龍……青龍か!」

「青龍、ブルードラゴン!?」

「青龍相手に戦う力は無いわよ」

「いいえ、まだ将門さんの体から出たばかりの業魔。最終形態の龍にはなっていないと思います。龍を意識していては見落としてしまいます」

 そうか、業魔の正体を見破るのに御息所の力が発揮されるんだ!

「青龍……青龍……」

 その時、ちょっと風が吹いて、わたしたちが乗ったハートが南に向いて、間近に東京湾が広がって見えた。

「そうだ、そうよ、江戸前の海の青龍、青龍蝦……シャコ!」

 

 ズワン

 

 アキバの空に鈍い音が響いたかと思うと、巨大なシャコが現れた。

「「「うわあ……」」」

 ちょっとアノマロカリスに似ていると思った。

 

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やくもあやかし物語・121『アキバ子』

2022-01-26 15:04:21 | ライトノベルセレクト

やく物語・121

『アキバ子』 

 

 

 こっち こっちこっち

 

 メイド将軍に阻まれ、途方に暮れていると、どこからともなく呼ぶ声がする。

「やくもさま、足もとです」

 赤メイドが、口も動かさずに呟く。

「足もと?」

 わたしも、口を動かさずに聞いてみる。

「マンホールです」

「「足もとの」」

 アカ・アオの声が揃って、ソロっとマンホールを視野の端っこに捉える。

「あ、わたしみたいなのが居る!?」

 ポケットから首だけ出した御息所が小さく驚く。

 マンホールの蓋が少しズレていて、御息所と同じくらいの女の子が口の形で『こっちこっち』と言っている。

 え、マンホールの中?

—— はい、マンホールです ――

「これは、裏アキバからのお誘いのようです」

「ラッキーです。裏アキバは、まだお味方のようです」

 アカクロメイドは、そう決めつけると、カゴをマンホールの上に据えて「「お乗りください」」とカゴの簾を上げる。

「う、うん」

 言われるままに乗ろうとしたら、カゴの底が開いていて、その下のマンホールも開いている。

「カゴに乗るふりをして、マンホールに入ってこいってことよ」

 御息所が分析。

「よいしょっと」

 カゴの底経由でマンホールに入ると、ガシャリと音がして、マンホールの蓋がしめられる。

 

 あ、真っ暗!

 

 ちょっとビックリして、よろける。

「おっと」

 声が掛かったかと思うと、誰かが支えてくれる。

 あれ? 御息所もお迎えの子も、1/12くらいの大きさ。わたしを抱きとめるなんてできない。

「ちょっとだけ、お手伝い」

「え?」

 ちょうど非常灯のようなものが点いて、その姿が見える。

「「あ、メイドお化け」」

 御息所と声が揃う。

「説明は後よ、ついて来て」

 足元のお誘いに目配せすると、地下下水道……というにはキレイで、赤じゅうたんが敷かれた地下通路。

 壁や天井も、チェックや水玉や花柄や縦縞、横縞のパッチワーク。

「この柄って……」

「考えない方がいい」

「う、うん」

 地下通路を抜けると、アキバの駅前広場……なんだけど、アニメの背景画のように、よく言うときれい、あからさまに言うと実在感が無い。

「ここが裏アキバ」

「う、うん」

 メイドお化けの短い説明に頷くしかないんだけど、ちっとも釈然としない。

「二丁目でもね、やくもに任せっきりではあんまりだって声があがってね、ま、それで、わたしが、ちょびっとだけ手伝うことになったわけ」

「嬉しい、手伝ってくれるの!?」

 将門さまはあんなだし、アカアオメイドともマンホールで別れてしまうし、正直なところ、どうしようかって思ってたところ。

「手伝うと言っても、この裏アキバに渡りを付けるところまでよ。あ、その子がね……」

「わたし、裏アキバの妖精でアキバ子と言います」

「空き箱?」

「いえ、アキバの子どもで、アキバ子です」

「あ、えと……」

 正直、1/12サイズでは心もとない。

「そのまま業魔と戦っては分が悪いのです。地上では業魔どもに姿を見られっぱなしですし、戦うにしても、御息所さまは、お小さいまま……」

「あんたに言われたかない」

「アハハ、ですよね。でも非力なのは事実でして、万全の力を発揮していただくにはアキバの夢の力を纏っていただかなければなりません」

「アキバの夢?」

「説明していては時間がかかります。わたしの中にお入りください。エイ!」

 そう言うと、アキバ子はグルンとでんぐり返し。

 すると、アキバ子は本当の空き箱になってしまった。

 驚いていると、空き箱の蓋が開いて、中から小さなハートがホワホワ光りながら浮かび上がってきた。

「さあ、そのハートを見つめて!」

「う、うん」

 メイドお化けに言われて、ハートを見つめていると、猛烈な眠気に襲われる。

「じゃ、活躍のほどは二丁目のみんなで観てるから、がんばってねえ(^o^;)!」

 あ、なんだか無責任、なんか言ってやらなきゃ……思っているうちに意識が無くなって……いった……。

 

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やくもあやかし物語・120『アキバ封鎖!?』

2022-01-20 15:40:22 | ライトノベルセレクト

やく物語・120

『アキバ封鎖!?』 

 

 

 エッサホッサ エッサホッサ

 

 ラムレムメイドさんにかごを担いでもらって東に向かう。 

―― あ、アキバ! ――

 神田明神下の交差点まで出てくると、東の方にアキバのビルやらお店がエメラルドの都のように輝いているのが見える。わたしってば、オズの魔法使いのドロシーみたくドキドキしてる。

 いよいよ来たんだ!

 思わず、少女漫画の主人公みたいに胸に手を当ててしまう。

「ちょ、苦しい」

「あ、ごめん」

 ポケットに収まっている御息所を押えてしまっていた(^_^;)

「あれ、なんで停まってるんだろ?」

 信号が青になったのに、ラムレムメイドさんはカゴを進めようとしない。

「申し訳ありません」

「通行止めです」

「え?」

「『霊道工事中』なので」

「迂回しなければなりません」

 わたしには、見えない。普通に行けば、中央通からアキバの駅に向かっているように見える。

「わたしには見える……車止めとかがあって、指示棒持ったメイドたちが済まなさそうにしてる」

「そうなの?」

「やくもさまやくもさま」

「昌平小学校の方から参ることにします」

「あ、はい、お願いします」

 

 エッサホッサ エッサホッサ

 

 北に二百メートルほど進んでから横断歩道を渡る。

 渡ってすぐの左側に小学校。

 都心の小学校なので、六階建てで最上階は、どこかの市民会館というくらいに大きなガラス張り。

 自分の出た小学校とは、ずいぶん違うなア……お上りさんの感覚になるのも嬉しい。

「あら!?」

 御息所が小さく叫んで、再びカゴが停まってしまった。

「「やくもさまやくもさま」」

「また、通行止め……」

 今度のはわたしにも見えた。

 小学校の東側の道は、ここはテキサスの国境かってくらいのフェンスが張り巡らされていて、五メートル間隔ぐらいで、メイドさんが指示棒……ではなくて、銃を持って立っている。

「アキバは封鎖中です!」

「進入禁止です!」

「それ以上近寄ったら……」

「「「撃ちます!」」」

 ズチャ!

 メイドさんたちが、一斉に銃を構えた。

「ちょっと」

「なんなのです?」

「「これは!?」」

 ラムレムメイドさんが腰に手を当てて抗議する。

「わたしたちは」

「神田明神直属のメイドです」

「「無礼ではありませんか!」

 ラムレムメイドさんが詰め寄る。

 あすがに、メイドさんたちは一歩引きさがる。

「わたしが説明しよう」

 メイドさんたちを押しのけて、メイドカチューシャの代わりにティアラを頂いたメイド将軍みたいなのが出てくる。

「将門さんが身の内に引き受けておられた悪鬼どもが解き放たれたので、アキバは閉鎖しております。まして、その神田明神からやってきたあなたたちを通すわけにはいきません!」

 そんな……

「無礼であろう!」

「メイド将軍!」

「なにが無礼か! 関八州を守護するはずの将門が、災厄をまき散らす方が、よっぽど無礼であろうが!」

「「なにを!」」

「待って、ラムレムメイドさん」

「「やくもさま」」

「そこだ!」

 ピシ!

 メイド将軍が音を立てて鞭を突き付けてきた。ひょっとしてSMの方の将軍?

「なぜ『ラムレムメイド』などと名乗る? おまえたちは著作権というものを知らぬのか!?」

「あ、ちがうの! わたしが親しみを込めて言ってるだけで、この二人が自分で名乗ったわけじゃないの!」

「同じことだ、間違った呼び方をされて注意しないのは認めたも同然ではないか!」

「あ、えと、じゃあ、きちんと呼ぶから……えと?」

「アカです」

「アオです」

 あ、見たマンマなんだ(^_^;)

「いまさら言いなおしても遅いわ!」

 ピシ!

「頭に乗るな、メイド将軍!」

「アカ」

「しかし、アオ」

「ごめん、二人とも」

「「いえ、やくもさまのせいではありません」」

「では、どうしても、ここを通してくれないの?」

「あと、十一匹の悪鬼をやっつけてこい! それか……将門みずからが、頭を下げるのなら考えてやらなくもないがな……」

 フハハハ

 メイドたちがバカにしたように笑う。

「貴様たち!」

「なんという無礼を!」

 なんか、大変なことになってきたよ……

 

☆ 主な登場人物

  • やくも       一丁目に越してきて三丁目の学校に通う中学二年生
  • お母さん      やくもとは血の繋がりは無い 陽子
  • お爺ちゃん     やくもともお母さんとも血の繋がりは無い 昭介
  • お婆ちゃん     やくもともお母さんとも血の繋がりは無い
  • 教頭先生
  • 小出先生      図書部の先生
  • 杉野君        図書委員仲間 やくものことが好き
  • 小桜さん       図書委員仲間
  • あやかしたち    交換手さん メイドお化け ペコリお化け えりかちゃん 四毛猫 愛さん(愛の銅像) 染井さん(校門脇の桜) お守り石 光ファイバーのお化け 土の道のお化け 満開梅 春一番お化け 二丁目断層 親子(チカコ) 俊徳丸 鬼の孫の手 六畳の御息所 里見八犬伝 滝夜叉姫 将門 アカアオメイド 
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やくもあやかし物語・119『将門の病室・2』

2022-01-14 11:04:07 | ライトノベルセレクト

やく物語・119

『将門の病室・2』 

 

 

 あ……ありがとうございます……

 意識の戻った滝夜叉姫は、苦しい息を整えながら、まずはお礼を言った。

「お察しの事と思いますが、あの蛇は神田川の主でございます。かねてから、父に成り代わって、関八州を支配しようと……そのために、父将門を亡き者にしようと……警戒はしていたのですが、父の看病中、つい居眠りしてしまった隙に入れ替わられたようです」

「おそらく、滝夜叉さんが、ふと見てしまった夢を突破口にしたんでしょう」

 御息所が言うと、説得力があるよ(^_^;)

「それからは、体内の蛇が次々に病魔を取り込んで、父を、このように……申し訳ありません、父上、滝夜叉が不甲斐ないばかりに……」

「いやいや、千年の月日がたって、儂自身の力も衰えてきている。滝夜叉が悪いわけではない」

 

 あまりのことに言葉も出ないけど、勇気を奮って聞いてみる。

 

「それで、将門さまのお体に入った病魔たちは?」

「……関八州のあちこちに蟠って力を蓄えておりましょう」

「それじゃ……」

「病魔は去ったが、あちこち食い散らかされて、回復には相当の時間がかかりそうでござるよ」

「わたしも、このありさま。あつかましいお願いですが、このまま、あの病魔……外に出てしまっては、もう業魔とでも呼ぶべき魔物になっていると思います。なにとぞ、このまま退治を続けてはいただけないでしょうか」

「承りました」

「あ、ちょ……」

 わたしが返事する前に御息所が応えてしまう。

「だいじょうぶ、この六条の御息所がついています」

 なんで、いきなりアグレッシブ?

「えと、その、病……業魔は?」

「退治してくださるか?」

「あ、はい。引き受けたことですから」

「業魔は干支封じになっています。十二支を支配していますが、蛇は、先ほど退治されました。残りは十一……お待ちください、透視して……」

「「「「あ、姫さま!」」」」

 透視のため印を結ぶが、すぐにぐらついて、メイドさんたちが支えに入る。

「申し訳ありません、まだ、力が戻らないようです……改めて透視したうえでお知らせいたします」

「じゃあ、今日のところは」

「はい、秋葉原まで送らせていただきます。寄るおつもりだったのでしょ?」

「えと、はい」

「では、お送りして」

「「「「はい」」」」

 

 メイドさんたちに案内されて、御殿の前で馬車を待つ。

 

 エッサホッサ エッサホッサ

「え?」

 やってきたのは馬車ではなくて、ラムレムメイドさんが二人で担ぐカゴだ。

「姫さまの力が十分ではありませんので、カゴになります」

「申し訳ございません」

「あ、いえ(^_^;)」

「それから、これは神田明神のお守りでございます」

「将門さまから、お渡しするおように、申し付かりました」

「ありがとう」

 あんなに弱っちゃった将門さまのお守りをもらってもどうかと思うんだけど、気持ちの問題。

 ありがたくいただく。

「では、カゴにお乗りください」

「はい、じゃ、お願いします」

 

 エッサホッサ エッサホッサ

 

 カゴに担がれて、取りあえずは、アキバに向かったのだった。

 

☆ 主な登場人物

  • やくも       一丁目に越してきて三丁目の学校に通う中学二年生
  • お母さん      やくもとは血の繋がりは無い 陽子
  • お爺ちゃん     やくもともお母さんとも血の繋がりは無い 昭介
  • お婆ちゃん     やくもともお母さんとも血の繋がりは無い
  • 教頭先生
  • 小出先生      図書部の先生
  • 杉野君        図書委員仲間 やくものことが好き
  • 小桜さん       図書委員仲間
  • あやかしたち    交換手さん メイドお化け ペコリお化け えりかちゃん 四毛猫 愛さん(愛の銅像) 染井さん(校門脇の桜) お守り石 光ファイバーのお化け 土の道のお化け 満開梅 春一番お化け 二丁目断層 親子(チカコ) 俊徳丸 鬼の孫の手 六畳の御息所 里見八犬伝 滝夜叉姫 将門

 

 

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やくもあやかし物語・118『将門の病室・1』

2022-01-08 13:41:53 | ライトノベルセレクト

やく物語・118

『将門の病室・1』 

 

 

「滝夜叉からもお聞き及びの事とは思うが、儂は病に侵されて居る」

「はい、見た感じ、かなり……」

「さよう、このままでは寝たきりで神としての実態を失う」

「実態を失う?」

「はい『お隠れになる』と世間では申します」

 死ぬのと、どう違うのか分からないけど、重ねては聞かない。それをどうにかしろというのがお願いには違いなさそうだし。

「見ていただこう……これ」

「「はい、将門さま」」

 枕もとのメイドさんを促して、寝間着の上をはだけさせる。

 ワア(>艸<)!

 露わになった身体は、まさに骸骨に渋皮を張ったみたい。

 それに、体のあちこちに貼ってあるのは……。

「伊勢神宮のお札!」

 御息所が目を見張った。

 そう言えば、御息所は斎宮になる娘について伊勢に行っていたはず。間近で神事を執り行う斎宮を見ていて、ピンと来たのに違いない。

「父上の体から病を吸い出した痕に貼ってあるのです」

「吸い出した痕に?」

 ちょっと不思議だ。

「まだ病が体の中にあるのならともかく、吸い出した痕に貼るんですか?」

「不思議に思うのも無理はない。わが身から吸い出された病たちは、すぐに鬼となって散っていったのでござるがな。いつ何時、戻ってきて、この身に入り込むかもしれぬので、滝夜叉が貼ってくれたのでござるよ」

「そうなんだ……」

 なにごとも聞いてみなければ分からないものね。

「お札を貼っていなければ、病たちが再び憑りついて、今ごろはお隠れになっていたでしょう」

「「「いかにもいかにも」」」

 滝夜叉姫がしみじみ言うと、メイドさんたちが、揃って頷く。なかなかの連携ぶり。

「やくも殿、儂の体から出て行った病たちを退治してもらいたいのじゃ」

「は、はい(;'∀')」

「儂の体を出た病たちは、儂の匂いをまとって、関八州で悪さをはたらいております。それが、里見の者たちは『将門が荒ぶる神』となって悪さをしていると思い込んでおるのでござる。この身の潔白を……ゴホンゴホン」

「父上、ご無理をなさっては」

「いや、やくも殿には、きちんと了解してもらわなければならぬ」

「一個、質問いいですか?」

「なんなりと」

「お身体から病を追放して、それでも、良くならないのですか?」

「それは……ゴホンゴホン」

「父上……それは気の問題なのです」

 咳き込んだ将門さまを滝夜叉姫が介抱する、ちょっと長く話しすぎたかな。

「気の問題ですか?」

「はい、御息所さま。父は千年以上も関八州の総鎮守を務めておりますので、責任感が強すぎるのです。大丈夫ですよ、父上、このあとは、わたしが……」

「すまんなあ、滝夜叉……」

「父上のためにも、この関八州のためにも、なにとぞよろしくお願いいたします」

「はい、微力ですが、大阪では酒呑童子もやっつけましたし!」

 思わず、コルトガバメントを構えてしまう。

「おお、これは頼もしい!」

 パチパチパチパチ

 滝夜叉姫がメイドさんたちといっしょに暖かく拍手してくださる(^▽^)。

「あ、やくも、ちょっと構え方が……」

「え、違った?」

「こういうふうに……」

 御息所が、後ろから手を添えて構え方を直してくれ……え?

 ドッキューーン!

 わたしの体ごと銃を向けさせたかと思うと、滝夜叉姫めがけて引き金を引かせた!

 グエ!

 至近距離から心臓をぶち抜かれて、滝夜叉姫はカエルが潰されるような悲鳴を上げて部屋の隅まで吹き飛んだ。他のメイドさんたちは、固まって言葉も出ない。

「「何をなさいます!!?」」

 銃声を聞きつけたラム・レムメイドさんが、武器を手に現れて立ちふさがった。

「おのれえ……!」

「やはり、うぬは悪霊であったか!」

 二人は本性を現すツノまで見せて、牙をむく。

 

「静まれ……みなのもの」

 

 将門さまが、骸骨のような手を挙げて制した。

「なにかお考えがあってのことだろう……御息所の目に邪悪な光は無い」

「みなさん、滝夜叉姫をごらんになって……」

 キャーーー!

 メイドさんたちの悲鳴が響く。

 滝夜叉姫は、体がドロドロになったかと思うと、ヘドロ模様の蛇になって逃げ始めた!

 ドッキューーン!

 今度は、わたしが撃った。

 蛇は頭がグチャグチャになって動きを止め、次の瞬間、無数のポリゴンのようになって消えていってしまった。

「神田川に長年住みついている蛇の妖です。名のある魔物なのでしょう、看病中の滝夜叉姫を襲って成り代わっていたんです」

「よく見抜かれたのう、御息所どの」

「蛇の道は蛇……というところです」

「申し訳ありません」

「たいへん失礼しました」

「「「「失礼いたしました」」」

 ラムレムメイドさんが頭を下げると、他のメイドさんたちもいっせいに頭を下げた。

「ねえ、じゃあ、本物の滝夜叉姫さんは?」

 わたしが聞くと、御息所は、ツカツカと寄って、将門さまの胸のお札を剥がした。

 ペリ

「イテ!」

「お静かに」

 お札を剥がした胸には五円玉のそれぐらいの穴が開いていて、それが、呼吸をするように広がったかと思うと、粘膜でくるまれたモノを吐き出した。

 キャ

 メイドさんたちが遠巻きにする中、御息所がドロドロになるのも構わずに粘膜を引き破る。

 ニュル

 出てきたのは、気を失った滝夜叉姫、その人であった!

 

☆ 主な登場人物

  • やくも       一丁目に越してきて三丁目の学校に通う中学二年生
  • お母さん      やくもとは血の繋がりは無い 陽子
  • お爺ちゃん     やくもともお母さんとも血の繋がりは無い 昭介
  • お婆ちゃん     やくもともお母さんとも血の繋がりは無い
  • 教頭先生
  • 小出先生      図書部の先生
  • 杉野君        図書委員仲間 やくものことが好き
  • 小桜さん       図書委員仲間
  • あやかしたち    交換手さん メイドお化け ペコリお化け えりかちゃん 四毛猫 愛さん(愛の銅像) 染井さん(校門脇の桜) お守り石 光ファイバーのお化け 土の道のお化け 満開梅 春一番お化け 二丁目断層 親子(チカコ) 俊徳丸 鬼の孫の手 六畳の御息所 里見八犬伝 滝夜叉姫 将門

 

 

 

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やくもあやかし物語・117『父上、やくもさまをお連れいたしました』

2022-01-01 12:47:48 | ライトノベルセレクト

やく物語・117

『父上、やくもさまをお連れいたしました』 

 

 

 厳めしい城門を幾つも通って御殿の前に着いた。一ダースほどのメイドさんたちがお出迎え。

「「「「「「「「「「「「いらっしゃいませ」」」」」」」」」」」」

 揃ってお辞儀されると、ちょっと緊張。

 カチャリ

 ラムメイドさんがドアを開けてくれて、滝夜叉姫さんに先導されて馬車を降りる。

 パチン

 レムメイドさんが指を鳴らすと馬車はサッカーボールになってしまい、レムメイドさんが――どうぞ――という感じで、滝夜叉姫を促す。

 セイ!

 バシュ!

 滝夜叉姫さんがシュートして、サッカーボールは城壁の向こうに飛んで行ってしまった!

「「「「「「「「「「「「おお!」」」」」」」」」」」」

 パチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチ

 メイドさんたちがポーカーフェイスのまま拍手。

 馬車がサッカーボールになったのも、滝夜叉姫がきれいにシュートを決めたのも、それに、シュートした時に露わになった滝夜叉姫の脚の美しさにも、メイドさんのシュールな拍手にもビックリした!

「すごい……」

「次はテニスボールぐらいにしといてね、サッカーボールでは、ちょっとお下品です。他の人たちもよろしく」

「「「「「「「「「「「「御意」」」」」」」」」」」」

「その『引用符』の無駄遣いも煩わしいわ」

「『引用符』は勤務評定に影響するのでご寛恕願います」

 ラムメイドが言うと、滝夜叉姫のこめかみがピクリと動いたような気がしたけど、姫は「あ、そ」と小さく返事した。

 メイドさんはラム・レムメイドの二人が先導して、御殿の中に進む。一ダースのメイドさんたちは慇懃に頭を下げて見送ってくれるだけ。たしかに、ちょっと無駄かもね。

 

 御殿は大きな温泉旅館のよう。

 

 唐破風の玄関を入ると長い廊下が続いていて、クネクネ曲がって、観音開きの扉の前に立つ。

「滝夜叉姫さま、お客人をお連れになられましたーー」

 ラムメイドさんが言うと――待ってました――という感じで扉が開く。

 扉の向こうは、さらに廊下が続いているんだけど、ここまでの廊下と違って赤絨毯が敷かれていて、別のメイドさんたちが待機している。

 ラムレムメイドさんは、どうやら、ここまでみたい。さらに奥に進むわたしたちに、ずっと頭を下げて見送ってくれる。

「ここからは奥なんですが、特に畏まることはありません。お楽になさってください」

 そして、何回か角を曲がって、白木に金の金物を打った扉の前にやってきた。

 

「ちょっと待って」

 

 声は、わたしのポケットから。

 大人しいので忘れてたんだけど、御息所が顔を出している。

「ちょっと出してくれる、この姿で会うのは失礼だから」

「あ、そうなの?」

 滝夜叉姫もニコニコ頷くので、ポケットから出して赤じゅうたんの上に置いてやる。

 エイ

 掛け声をかけてでんぐり返ったかと思うと、わたしよりも背の高いセーラー服姿になった。

「あれ?」

 御息所の依り代はあやせのフィギュアだから、てっきり等身大のあやせになるのかと思った。

「さすがは六条御息所さま、聞きしに勝るお美しさです」

「いいえ……でも、将門さまにお会いするのに仮の姿では失礼ですから……では、宜しければお目もじを」

「承知いたしました……それ」

 滝夜叉姫が小さく掛け声をかけると、御付きのメイドさん、パッと光ったかと思うと、鍵穴に収まる。

 カチャリ

 なんと、メイドさんは鍵の化身だったんだ!

 スーーー

 音もなく扉が開く……。

「滝夜叉姫さまー、お客さまー、ごとーーちゃーーく!」

 入ったところのメイドさんが、さらに奥に知らせたかと思うと、それは、鍵穴に入って行ったメイドさん?

 と思ったら、さらに奥、白木のベッドの左右の枕もとには二人のメイドさんが居て、同じ顔をしている。

「父上、やくもさまをお連れいたしました」

「ご、ご苦労であった……」

 左右のメイドさんに解除されて起き上がったのは――え、これが将門さま?――目を疑うような、やせ細ったお爺ちゃんだ。

「は、初めてお目にかかる……わたしが、た、平将門……でござる」

 だけど、目だけはランランとしている。

 ほら、黒澤明の『乱』のお父さんの殿様。息子たちに裏切られてやせ細った、あの感じ。

 数々の妖たちに出会う前のわたしなら、ぜったい気絶してると確信が持てるほどの迫力だよ……(;'∀')

 

☆ 主な登場人物

  • やくも       一丁目に越してきて三丁目の学校に通う中学二年生
  • お母さん      やくもとは血の繋がりは無い 陽子
  • お爺ちゃん     やくもともお母さんとも血の繋がりは無い 昭介
  • お婆ちゃん     やくもともお母さんとも血の繋がりは無い
  • 教頭先生
  • 小出先生      図書部の先生
  • 杉野君        図書委員仲間 やくものことが好き
  • 小桜さん       図書委員仲間
  • あやかしたち    交換手さん メイドお化け ペコリお化け えりかちゃん 四毛猫 愛さん(愛の銅像) 染井さん(校門脇の桜) お守り石 光ファイバーのお化け 土の道のお化け 満開梅 春一番お化け 二丁目断層 親子(チカコ) 俊徳丸 鬼の孫の手 六畳の御息所 里見八犬伝

 

 

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