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大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

巡(めぐり)・型落ち魔法少女の通学日記・156『お土産を渡しに行くと櫛が居た』

2024-12-05 13:38:15 | 小説
(めぐり)・型落ち魔法少女の通学日記
156『お土産を渡しに行くと櫛が居た』   




 修学旅行明け、最初のアルバイト。


 写真館に出勤するとお土産の八つ橋を「マスターとコミコミなんですけど(^_^;)」とお愛想笑顔で渡し、公民館に着いてから残りのひとつを式場の采女さんに渡しに行く。

 控室をノックしようとしたら話し声。

『それで、わざわざ……』

『うん、ちょっと特別でね……じつは……』

『……え……え……え、そうなの!?』

『うん……あ、外に人が』

 しまった(;'∀')。

『あ、ちょうどいい。入って来てグッチ!』

 見破られてるしぃ。

「失礼しまーす」


 入ってびっくり。

 采女さんは、いつものように巫女服でお茶を飲んでるんだけど、部屋には采女さんひとりだけ。で、テーブルの上には見かけない櫛が載っている。

「紹介するわ、この式場で写真屋さんのアルバイトしてる時司巡さん、慣れたらグッチって呼んであげて」

 なんと、テーブルの上の櫛にわたしを紹介する。

 すると、横になっていた櫛がカタリと直立すると、お辞儀をして口をきいた。

『先日はお参りにきてくださってありがとうございました、時司さん』

「え、はあ……」

「彼女、八坂神社の御祭神のクシナダヒメさん」

『きちんと書くと櫛稲田です』

「クシイナダ?」

『まあ、どっちでもいいんですけどね』

「じつはね…………ヒソヒソヒソ」

「ええ、そうだったんですか!?」

 産寧坂で時間を取ったこともあって八坂神社では、お参りしただけで時間切れ、慌ただしくお守りを買ったら集合時間れになってしまった。

『……ということで。どうかしら、お願いできるかしら?』

 櫛に頼まれては頭を下げるしかない。

「わかりました、なんとかいたします」

『そう! うれしいわ、恩にきます!』

 そう言うと、櫛はペコリと45度のお辞儀をしたかと思うと、ドロンと姿を消した。

「先月は前の月が神無月だったでしょ。神無月は日本中の神さまが出雲に集まって好き勝手に言うわけでしょ。亭主の須佐之男命は武神で偉そうにしてるだけしか能がなくって、実務はみんな女房の彼女が取り仕切って、もう師走だって言うのに手が抜けない様子でねぇ、ここへも櫛の姿でしか来れなかったのよ」

「あ、でも、綺麗でかわいい櫛でしたよ」

「そりゃあ、ヤマタノオロチやっつける時に須佐之男の髪に隠すために変換したアバターだからね。アイコンみたいなもので、同時に何十体もコピーして、あちこちで仕事をしたりお使いに行ったり」

「あ、そうなんだ」

「日中国交回復とかしちゃったでしょ。人の往来はともかく、神さまとかはビザもパスポートも要らないから、どんどん入って来ちゃう。向こうも多神教で神さまも妖も多いからねえ」

「アハハ、妖怪太陽光パネルとか……」

「え?」

「あ、なんでも」

 頼まれた用件は、こうなんだ。

 八坂神社で、我が担任のハナちゃんこと花園先生は縁結びのお守りを買おうとしたら、わたしたちが賑やかにやってきてトチ狂ちゃって、縁結びの横の学業お守りを指さして「これください(;'∀')」と言って言い直しも出来なかったわけなんだ。

 神さまは、そんなこともお見通しなわけで、あらためて、花園先生に授けたいんだけども、本業が忙しいので代わりに渡してくれないだろうかと采女さん(スセリヒメ)に頼みに来たわけ。

「あ、それから」

「なんですか?」

「あなたたちが拾ったのが、ハナちゃん先生のお守りだから」

「え?」

「校内放送は聞こえてないみたいよ」

「あ、ああ……」

 そう言えば、あの後、若杉先生が校内放送でゴニョゴニョ言ってた、あれがそうだったんだ。昼休みの放送って、たいてい聞いてないもんね。

「さあ、次のお式、そろそろだわよ!」

「あ、いっけない!」

 慌てて、それぞれの持ち場に飛んで行ったよ。


 
☆彡 主な登場人物
  • 時司 巡(ときつかさ めぐり)   高校2年生 友だちにはグッチと呼ばれる
  • 時司 応(こたえ)         巡の祖母 定年退職後の再任用も終わった魔法少女 時々姉の選(すぐり)になる
  • 滝川                志忠屋のマスター
  • ペコさん              志忠屋のバイト
  • 猫又たち              アイ(MS銀行) マイ(つくも屋) ミー(寿書房)
  • 宮田 博子(ロコ)         2年3組 クラスメート
  • 辻本 たみ子            2年3組 副委員長
  • 高峰 秀夫             2年3組 委員長
  • 吉本 佳奈子            2年3組 保健委員 バレー部
  • 横田 真知子            2年3組 リベラル系女子
  • 加藤 高明(10円男)       留年してる同級生
  • 安倍晴天              陰陽師、安倍晴明の50代目
  • 藤田 勲              2年学年主任
  • 先生たち              花園先生:3組担任 グラマー:妹尾 現国:杉野 若杉:生指部長 体育:伊藤 水泳:宇賀  音楽:峰岸  世界史:吉村先生  教頭先生  倉田(生徒会顧問)  藤野先生(大浜高校)
  • 須之内直美             証明写真を撮ってもらった写真館のおねえさん。
  • 御神楽采女             結婚式場の巫女 正体は須世理姫 キタマの面倒を見ている
  • 早乙女のお婆ちゃん         三軒隣りのお婆ちゃん
  • 時司 徒 (いたる)         お祖母ちゃんの妹  
  • 妖・魔物              アキラ      
  • その他の生徒たち          滝沢(4組) 栗原(4組) 牧内千秋(演劇部 8組) 明智玉子(生徒会長)
  • 灯台守の夫婦            平賀勲 平賀恵  二人とも直美の友人  
 



 
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巡(めぐり)・型落ち魔法少女の通学日記・155『夢に現れた魔法少女』

2024-12-02 11:35:27 | 小説
(めぐり)・型落ち魔法少女の通学日記
155『夢に現れた魔法少女』   




「ああ、ダイエーホークス……」

 新聞に目を落したまま気のない返事のお祖母ちゃん。

「……え、なにそれ?」

 いっしょにコタツに入ってるんで、気のない返事にもリアクションしておく。

「南海ホークス……昔は、そう言ったんだけどね」

「野球チームのホークスだったら、ソフトバンクホークスだよ」

「え、ああ……21世紀になってから野球って観ないからねえ……」

 そう言いながらコタツの上で手をさまよわせているんで蜜柑を載せてやる。

「あ、ありがと……」

「だから、そのダイエーじゃなくて映画の大映」

「ああ、そうか、メグリが通ってるのは昭和の宮之森だったんだ」

「そうよ、昭和46年」

「1971年、ニクソンショックの年だったねぇ……」

「にくそん?」

「うん、アメリカのニクソン大統領がいきなり北京に飛んで国交を結んじまって、それまで中国を敵認定してた世界中がひっくり返った事件。いきなりすぎたから、魔法少女も混乱してねぇ……危うく台湾の魔法少女と衝突するところだった……懐かしいねえ、霖敬麗って魔法少女と一世一代の大勝負になるとこだったぁ」

 なんか話が横道(^_^;)。

「あ、じゃなくて、大映って映画会社が潰れたみたいなんだけどね」

 昨日、八坂神社のお守りを拾って生指に届けに行ったらテレビがニュース流してて、ロコが『大映解散』のニュースにビックリして、令和女子のわたしは付いていけなかったんだ。修学旅行じゃ、いろいろ喜んだり面白がったりできたんで、ちょっとギャップを感じてお祖母ちゃんに振ってみたわけ。

「大映ってのは、東映・日活と並ぶ映画会社でね……勝新太郎の『座頭市』とか『ガメラ』とか『眠狂四郎』とか『大魔神』とか、けっこうがんばってたんだけどねぇ……」

「ああ、ネムリキョウシロウ以外は知ってるかも」

「眠狂四郎知らないのぉ?」

「あ、うん」

「円月殺法って技でね敵をやっつけて『お前はもう眠ってる』って決め台詞言うと、敵が、そのままグーグー寝ちゃうんだ」

「プ( ´艸`)、それ、北斗の拳」

 アハハハハ( *^▢^*)(´∀`*)

 
 その夜、夢を見た。


『時司応(ときつかさこたえ)そこをどいてもらおうか』

 切れ長の目のまつ毛を浜風に戦がせて霖敬麗が声を震わせる。わたしは、お祖母ちゃんの時司応になっている。

『待って、林さん、話せばわかるわ』

『もう話などしている時ではない、それに、わたしはもう林敬子ではない。中華民国魔法少女の霖敬麗だ!』

 そう言い放つと、彼女の頭の上に『林敬麗』の三文字が中華街の電飾を凌ぐ明るさで明滅する。

『ク……あなたのリンは林では無くて雨冠の霖なのね』

『そうよ、日本の裏切りに遭って、雨のように涙が停まらないのよ』

『そんな、帝国魔法大学でいっしょに机を並べた仲じゃないの!』

『その林敬子は死んだ、いま、ここに立っているのは護国の鬼少女、林敬麗。そこをどいて、このまま東京に駆けこんで、佐藤栄作の首をとるんだから』

『待って、まだ佐藤首相は……』

『何を言う、ニクソンショックに「あまりに突然のことで」と狼狽える総理のどこに理がある! 盟友ならば「なにがあろうとも中華民国を支持する!」と宣言するのがあたりまえだろうが!』

『だって!』

『もう、話など無用だ……通さぬとあれば……』

 ム……円月殺法無刀の構え!

 敬麗の両手が大きく弧を描く、あの両手が頭上で交差すると円月殺法が完成してしまう。

 仕方がない、あれに対抗するのに手加減はできない!

『魔法少女時司応、参る! 時司流奥義、転(まろばし)!』

 言い切ると同時に重心をずらして踏み込む!

 え?

 手応えはあったけど、同時に目の前が暗くなる。

『おまえは、もう眠っている』

 敬麗の後姿が斜めになったかと思うと、そのまま朝まで寝てしまった。

 
 
☆彡 主な登場人物
  • 時司 巡(ときつかさ めぐり)   高校2年生 友だちにはグッチと呼ばれる
  • 時司 応(こたえ)         巡の祖母 定年退職後の再任用も終わった魔法少女 時々姉の選(すぐり)になる
  • 滝川                志忠屋のマスター
  • ペコさん              志忠屋のバイト
  • 猫又たち              アイ(MS銀行) マイ(つくも屋) ミー(寿書房)
  • 宮田 博子(ロコ)         2年3組 クラスメート
  • 辻本 たみ子            2年3組 副委員長
  • 高峰 秀夫             2年3組 委員長
  • 吉本 佳奈子            2年3組 保健委員 バレー部
  • 横田 真知子            2年3組 リベラル系女子
  • 加藤 高明(10円男)       留年してる同級生
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  • 藤田 勲              2年学年主任
  • 先生たち              花園先生:3組担任 グラマー:妹尾 現国:杉野 若杉:生指部長 体育:伊藤 水泳:宇賀  音楽:峰岸  世界史:吉村先生  教頭先生  倉田(生徒会顧問)  藤野先生(大浜高校)
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  • 御神楽采女             結婚式場の巫女 正体は須世理姫 キタマの面倒を見ている
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  • 時司 徒 (いたる)         お祖母ちゃんの妹  
  • 妖・魔物              アキラ      
  • その他の生徒たち          滝沢(4組) 栗原(4組) 牧内千秋(演劇部 8組) 明智玉子(生徒会長)
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巡(めぐり)・型落ち魔法少女の通学日記・154『お守りの落とし物と大映解散』

2024-11-29 11:29:39 | 小説
(めぐり)・型落ち魔法少女の通学日記
154『お守りの落とし物と大映解散』   




 おや?


 学食目指して校舎を出ると、学食横の総合掲示板に新聞部の壁新聞。模造紙三枚のトップの見出しは『実り豊かな修学旅行!』。

 あんまりあか抜けないタイトルで、もう一週間たってしまっては微妙に周回遅れ。でも、新聞部の壁新聞なんて始めて見るし、修学旅行の記事だし、写真とかもけっこう使ってるし『食べたら、もう一度見ましょう!』というロコの意見で、とりあえずは学食。

 ほんの数秒掲示板で立ち止まったために、Aランチが品切れで玉子ドンブリ、ロコはお握りと天ぷらうどん。

 たみ子と真知子は代議会に出るために、今日はお弁当。どうやら、例のタイムカプセルのことを正式に提案するらしい。佳奈子もお弁当持って部室、後輩たちと来年の女バレの話をするらしい。

 MITAKAレギュラーの我々は仲がいいけど、いつでも一緒というわけじゃない。学校のスローガンを踏襲してるわけじゃないけど、自主自立なんだよ。

 あれ?

 食後、掲示板に戻ると、足もとに真新しいお守りが落ちている。まだ授与袋に入ったままで、1/3ほどが袋から出ている。

「八坂神社のだねえ……」「合格祈願ですねえ……」

 瞬間でストーリーが出来あがる。このお守りが、ここに落ちているかのストーリー。

「八坂神社とあるから、修学旅行で買ったものですねえ」

「買った本人が落としたか……」

「誰かにあげて、もらった本人が落っことしたか……」

 合格祈願だ、二年生の女子が三年生の男子に……お守りをあげるような仲だから……ちょっと羨ましい関係に違いない(#*´▢`*#)!

「ちょ、どこいくの!?」

 お守りを手に学食に戻ろうとするロコを呼び止める。

「落とし主は学食に居ます! 呼んで、返してあげなきゃです!」

「ダメよ!」

 ピークの学食で「お守り落した人いませんかあ!」「八坂神社の合格祈願のお守りい!」なんて叫ばれたらぜったい恥ずかしい。わたしらが一瞬で思いついた想像ぐらいは、みんなも思いつく!

「しかたない、生活指導に持って行こう」

 本館一階の生活指導室に向かう。

 生活指導室は無人のことが多い。

 生活指導というのは英語では表現できないらしいけど、意訳すればスクールポリス。学校のもめ事や厄介ごとが持ち込まれる。令和の高校だと、たいてい当番や常駐の先生が居て無人になることはめったにないんだけど、昭和の高校は、そういう面倒なところに先生たちは行きたがらない。

 でもね、二年の二学期ともなると知ってるんだよ。

 若杉先生とかは、お昼ご飯を生活指導の部屋で食べている。生指の部屋は本館の端っこで学食が近い。まあ、二分も有れば、トレーに載せて持って来れるからね。この時間ならきっといる。

「「失礼しまーす」」

「おお」

 予想通り、若杉先生の返事がして、中に入ると若杉先生と現国の杉野がAランチを食っていらっしゃる。わたしたちが食べ損ねたAランチ。

「二年三組の時司です」「同じく宮田です」

「「…………」」

 二人とも、テレビに気を取られて返事もしない。

「あの、学食横の総合掲示板のとこでお守りを拾ったんです」

「新品の八坂神社のです」

「え、ああ、そこに置いとけ……」

 こっちを見もしないで、お箸でテーブルを指す若杉先生。杉野はテレビの画面観てカンムシだし。

「よろしくお願いしまーす」「八坂神社のお守りですからあ」

 いちおう、ささやかに念を押してドアを閉める。

「なんか失礼しちゃうね」

「アハハ……でも、テレビのニュースも、ちょっとビックリでした」

「え?」

 わたしはワイドショー的なのをやってたことしか記憶にない。

「え、なにかやってた?」

「はい、大映が解散したってニュースです」

「え、ダイエー?」

 ダイエーと言われて頭に浮かんだのは、スーパーダイエーのことだった。


☆彡 主な登場人物
  • 時司 巡(ときつかさ めぐり)   高校2年生 友だちにはグッチと呼ばれる
  • 時司 応(こたえ)         巡の祖母 定年退職後の再任用も終わった魔法少女 時々姉の選(すぐり)になる
  • 滝川                志忠屋のマスター
  • ペコさん              志忠屋のバイト
  • 猫又たち              アイ(MS銀行) マイ(つくも屋) ミー(寿書房)
  • 宮田 博子(ロコ)         2年3組 クラスメート
  • 辻本 たみ子            2年3組 副委員長
  • 高峰 秀夫             2年3組 委員長
  • 吉本 佳奈子            2年3組 保健委員 バレー部
  • 横田 真知子            2年3組 リベラル系女子
  • 加藤 高明(10円男)       留年してる同級生
  • 安倍晴天              陰陽師、安倍晴明の50代目
  • 藤田 勲              2年学年主任
  • 先生たち              花園先生:3組担任 グラマー:妹尾 現国:杉野 若杉:生指部長 体育:伊藤 水泳:宇賀  音楽:峰岸  世界史:吉村先生  教頭先生  倉田(生徒会顧問)  藤野先生(大浜高校)
  • 須之内直美             証明写真を撮ってもらった写真館のおねえさん。
  • 御神楽采女             結婚式場の巫女 正体は須世理姫 キタマの面倒を見ている
  • 早乙女のお婆ちゃん         三軒隣りのお婆ちゃん
  • 時司 徒 (いたる)         お祖母ちゃんの妹  
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巡(めぐり)・型落ち魔法少女の通学日記・153『魔法少女のわがままランチ』

2024-11-27 08:39:07 | 小説
(めぐり)・型落ち魔法少女の通学日記
153『魔法少女のわがままランチ』   





 平日の昼間から志忠屋に来ている、今日は修学旅行の回復休日だ。


 志忠屋は令和の宮之森にあるんだけど、妖や魔法使いたちのお店。

 パスタとシチューのお店で、注文すればたいていのものは作って出してくれる。


「はい、魔法少女のわがままランチ」


 ペコさんが、特製ランチのプレートを置いてくれる。

 ランチは、その昔、お祖母ちゃんの無茶な注文を受けて発案した特製ランチ。

 今まで、何度かオーダーしたんだけど「あれは、やめとき」とか「大人になってからにせい」とかもったいを付けて出してくれなかったメニュー。

 トンカツにイモサラダ、キャベツの千切りの横にはパスタのナポリタンとレモンが添えてあって、お椀のお味噌汁。トンカツのサイズが違うけど、学食のA定食と変わりがない。

 カウンターのソースをかけて、お箸でトンカツの一切れを口に運ぶ。

「うう~ん、肉厚で美味しいトンカツだ!」

「そうかぁ、ほんなら、最後までそう思て食え」

 タキさんが憎たらしいことを言う。

 まあ、この愛想の無さも志忠屋の値打ちで、それをペコさんが、こんな(^○^;)顔してフォローしてくれるのも、この店の味わいなんだ。
 ペコさんは、こないだ来た時よりもスレンダーで、いっそう可愛く美しくなっている。この不愛想で口ぎたないタキさんと働いていて美貌に磨きをかけているのは大したもんだ! とにかくトンカツが美味しい!

「ううん、やっぱりトンカツは脂身が入ってないと美味しくないですねえ」

 正直に誉め言葉が出る。

「その脂身はな、ペコがダイエットして減らしよった肉や」

「え、嘘ですよ(>_<。) 」

 一番テーブルにランチを届けてるペコさんが顔を赤くして否定する。

「それは、マスターの腹の肉だわよ」

 ランチを受け取ったつくも屋のマイさんが、混ぜっ返してMS銀行のアイさん、寿書房のミーさんが耳をヒクヒクさせる。

 三人のランチはエビフライ定食だ。マイさんがフォークを入れると、香ばしい海老とタルタルソースの匂いがする。

「ハ~ム……!?」

 二切れ目のトンカツを口に運ぶとエビフライになっている。

 あれ、ミックスフライ定食だったっけ?

 そう思って三口目に箸を付けるとアイさんのカキフライ定食が目に入って、三口目のそれはプリプリのカキフライになっている。

 ええ!?

 次にお味噌汁をすすると、ビーフシチュウ( ゚Д゚)。アイさんはビーフシチュウだったし!

 その後も、他のお客さんの料理が運ばれたり、その料理から、他のメニューを連想すると、自分のプレートの料理がコロコロと変わっていく!

「あ、面白くてお得感がハンパないです!」

 喜んで箸をつけるたびにコロコロ変わるランチを楽しむ。

「え、う、フググ!」

 ついに、口の中でメニューが入れ替わるようになってビックリ( ゚Д゚)。

 フライを食べたつもりがサビ抜きの中トロに変わり、もう一度咀嚼するとカラシを思い切り効かせたオデンになって、お水をすすると強炭酸のコーラ!

 ウ! 

 堪えたら、思い切り鼻からコーラが噴き出て死ぬような目に遭った。

「なあ、せやから言うたやろがぁ(๑ ิټ ิ) 」

「い、いや、コーラじゃ不覚をとったけど、分かってたし。な、なかなかなメニューだと思うしぃ(''◇'')」

「意地張ってんと、これにしとき」

 魔法少女のわがままランチが、いつものパスタセット大盛りに変わった。

「まあ、慣れたら、最初の直感で安定して変わらなくなるからね(^_^;)」

 暖かい笑顔を向けると、別の『魔法少女のわがままランチ』を岡持ち(出前箱)に入れるペコさん。

「じゃ、出前行ってきます」

 カランコロンとドアベルを響かせて出前に行った。

「出前始めたんですか?」

「ああ、年に何回かだけやけどな。それよりも、メグリ、修学旅行に行ってきたんやてなあ」

「あ、うん。いろいろ面白かった!」

「万博のタイムカプセル見に行ったんやろ?」

「うん、地上に出てるモニュメントだけだけどね」

「2000年に一個掘り出して、点検したんやてなあ」

「うん、5000年も待てないからね。あ、その時、赤松の種を植えて、ちゃんと芽を出すか実験したらしいです」

「ああ、これやなあ」

 タキさんが菜箸を振ると、カウンターの上に3D映像が映った。

 天守閣を背景に、半分だけ見えてるモニュメントの横に、わたしの背丈よりも大きく、でも、まだ幼木の雰囲気のアカマツがスックと立っていた。


 家に帰って調べると、例のアカマツは万博記念公園のほか三か所に植えられて、大阪城には無かった。根付かなかったのか、最初から植えられていないのか。

 調べてみようと思ったけど、歴史には微妙な分岐がある。

 未熟な能力で調べると、今日の『魔法少女のわがままランチ』みたいなことになる。

 そっ閉じにして、学校でやってみるタイムカプセルのことを考えてるうちに寝てしまった(^_^;)。

 
☆彡 主な登場人物
  • 時司 巡(ときつかさ めぐり)   高校2年生 友だちにはグッチと呼ばれる
  • 時司 応(こたえ)         巡の祖母 定年退職後の再任用も終わった魔法少女 時々姉の選(すぐり)になる
  • 滝川                志忠屋のマスター
  • ペコさん              志忠屋のバイト
  • 猫又たち              アイ(MS銀行) マイ(つくも屋) ミー(寿書房)
  • 宮田 博子(ロコ)         2年3組 クラスメート
  • 辻本 たみ子            2年3組 副委員長
  • 高峰 秀夫             2年3組 委員長
  • 吉本 佳奈子            2年3組 保健委員 バレー部
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巡(めぐり)・型落ち魔法少女の通学日記・152『修学旅行・四日目・3(大阪城)』

2024-11-23 17:37:16 | 小説
(めぐり)・型落ち魔法少女の通学日記
152『修学旅行・四日目・3(大阪城)』   




 お城と言えば地元の宮之森城しか知らないわたしらに大阪城は巨大に映る。

 
「すごい堀ですねえ……」

 大手門から入る時にロコが呟く。

 確かに、渡っている外堀はグランドキャニオンかっちゅうくらいに深くて幅が広い。

「信長も、ここを攻めるのは苦労したみたいです。ほら、大手門の脇にあるのが千貫櫓なんですけどね、攻めあぐねた信長は『あれを落した奴には千貫文の銭をやるぞ!』ってはっぱをかけたって言います」

「え、信長が大阪城攻めたの?」

 小学6年で歴史知識の停まったわたしが質問。

「元々は、石山本願寺ってお城みたいなお寺があって、信長に楯突いてたんです。そのころからの櫓なんです。けっきょくは交渉で立ちのかせるんですけど、本能寺の変になって。その後秀吉が大坂城を作って、江戸幕府に受け継がれるんですけど、有名な櫓だったんで、同じ場所に建てた櫓には同じ『千貫櫓』と名付けたんです」

 最終日に来て、ロコの頭はますます冴えてきてるようだ。

 蛸石とか振袖石とかの巨石に目を丸くして大手門を潜ると「バレーコートが四面はとれる!」と佳奈子が驚くぐらいに石垣やら多門櫓とかで囲まれた空間。

「この空間を枡形って言うんですけど、日本一なんですよ」

 ほうほう……多門櫓門を潜ると、うちの高校を敷地ぐるみ入れてもお釣りが出そうな、もうここだけで十分お城ができそうなくらいのところに出る。

「秀吉の頃は……と言っても秀吉の死後なんですけど、五大老の一人だった家康は、この西の丸に天守閣を築いたんです」

「ええ、一つの城に二つの天守閣? ちょっと反則っぽい」

「佳奈ちゃんの言う通りです。諸大名たちは、本丸の秀頼に挨拶する前に、こっちに足が向いてしまうんですよね」

「なるほどぉ、それで、ちょっとずつ『儂こそが天下人』って印象付けていくのねえ」

「さすが家康」

 感心する真知子とたみ子。

 しかし、これだけの情報を持ってるロコは、えらい奴だ!

 西の丸を横目に進むと、またもグランドキャニオンかっちゅうくらいの内堀が見えて、桜門を潜って、いよいよ本丸。

 ここでも、桜門を潜るや否やロコのバスガイドさん顔負けの解説。

 ロコには悪いんだけど、我々は本丸広場の真ん中に向かった。

「ああ、これこれ、次に案内しようと思っていたタイムカプセルですよ!」

 ああ、予定に入っていたんだ(^_^;)

 まだ設置されたばかりのタイムカプセル……と言っても、実物は地中深くに埋められて、地上に出てるのはステンレス製の丸ボタンというか、大きな中華ねべをひっくり返して底が見えてるって感じのモニュメント。

「5000年後に開けるんだねぇ」

 たみ子が跪いて、スリスリ撫でる。わたしたちも倣って、スリスリペチャペチャ。

「懐かしいですね、去年の万博」

「そうねぇ、万博そのものも面白かったけど、船場の古いお店で泊めてもらったこととか」

「みんなで炊事したり」

「銭湯にも行ったよね」

「なんか、シンミリしちゃうねえ」

「あ、知ってます? カプセルは二個あって、一個は2000年に開封して点検するんですよ!」

「2000年かぁ……」

「あと、29年かあ……」

 たみ子が呟いて、みんな遠い目になる。

「46歳になってるんですねえ……」

「立派なオバハンだねえ……」

 2000年かぁ……わたしが生まれるのは、さらにその7年後なんだけどね(^_^;)。

「中にアカマツの種が入れられてましてね、2000年にはその種を、この横に植えて発芽するかどうか実験するんだそうですよ」

「ああ、それ、楽しみだなあ!」

「ねえ、あたしたちも卒業の時にタイムカプセル作って埋めてみない!?」

 え?

 佳奈子の突然の提案、数秒遅れて、みんなの心に灯が点いた!

「やっぱり、開封は5000年後ですかねえ(^_^;)」

 ロコのツッコミに、みんな大笑いして、学校に帰ったらMITAKAや生徒会で相談してみようということになった。


 その後、天守閣の前でクラス写真。そして直美さんの提案で学年全部の自由な集合写真。

「さすがに収まらないなあ(^_^;)」

 そう言うと、直美さんは天守台の階段っを上って、石垣の上からカメラを構えた。

「手伝いましょうかぁ!?」

 手をメガホンにして聞いて見たら「今日はバイトじゃないでしょ!」と返事、みんなにも笑われる。

 天守台は校舎の四階ぐらいの高さがあって、余裕で全員が収まったみたい。

 ハイ、チーズ!!

 カシャ!



 わたしたちの修学旅行はめでたくお開きになった。



 こぼれ話を一つ



 集合写真のあと、午前の宝塚と同様に各自で自由行動にした。

 わたしは天守閣に上って、最上階の展望階に行ってみた。

 ロコの姿も見えたので声をかけようかと思ったら、外回廊の手すりに腕を置いて景色を見ている牧内さんが目に留まった。

「なんか、シミジミしてるね」

「ああ、グッチ」

 時司ではなくてグッチと呼んでくれるのが嬉しい。

「あそこ、なんだか分かる?」

「ええとぉ……」

 六階建てのビルで、屋上に塔があって、いくつもアンテナが立っている。

 ちょっと佇まいが警視庁に似ている。

「あ、大阪府警!?」

「ううん、NHK」

「あ、ああ」

「コールサインはJOBK。なんでか分かる?」

「ええと……」

「ジャパン、オオサカ、バンバチョウ、の、カド」

「え、ああ……」

「いやだ、冗談よ(^_^;)、NHKはJOで始まって設立の順番にABCなの。東京はJOAK」

「ああ、そうなんだ!」

「来年ね、あそこの放送劇団受けようかと思ってるの」

「え、そうなの!?」

「地理的には東京の方が近いんだけど、大阪に親類がいるし……」

「え、そうだったんだ」

「東京は劇団も多いし、放送劇団も規模が大きいんだけどね」

「あ、うん、そうでしょうねえ……」

「東京じゃ埋もれてしまう……というか、自信がね……なんか、ちょっと弱気かなあ」

「え、あ……どうだろ」

 牧内さんは同い年とは思えないくらいしっかりしている。去年からフォークの集いやら文化祭やらで世話になってるし、学校とも交渉して、シブチンの学校から階段下とは言え、部室も作らせたし。

「県の演劇研究会もね、なんとか連盟にできそうだし……」

 そうだ、この人は、演劇部の組織を教師中心の高校演劇連盟にするのにも尽力してたんだ。

「…………………」

 決めたように言ってるけど、やっぱり悩んでいるんだ。

 たった一回の青春だもんね。

「演劇のことはよく分からないけど、牧内さんは……突破力のある人だと思う」

「うん……そうだよね、うん、ありがとう、やっぱり受けてみる!」

 明るく笑ってリュックから取り出して見せてくれた。

 放送劇団研究生募集要項

「え、いつの間に?」

「自由時間にね、ちょっとひとっ走り(^_^;)」

「ひとっ走り」

「そう、ひとっ走り」

 そう言うと、牧内さんは何かにアッパーカットを食らわせるように握りこぶしを突き出した。

 天守の屋根に停まっていたハトたちがビックリして飛んで行った。



 
☆彡 主な登場人物
  • 時司 巡(ときつかさ めぐり)   高校2年生 友だちにはグッチと呼ばれる
  • 時司 応(こたえ)         巡の祖母 定年退職後の再任用も終わった魔法少女 時々姉の選(すぐり)になる
  • 滝川                志忠屋のマスター
  • ペコさん              志忠屋のバイト
  • 猫又たち              アイ(MS銀行) マイ(つくも屋) ミー(寿書房)
  • 宮田 博子(ロコ)         2年3組 クラスメート
  • 辻本 たみ子            2年3組 副委員長
  • 高峰 秀夫             2年3組 委員長
  • 吉本 佳奈子            2年3組 保健委員 バレー部
  • 横田 真知子            2年3組 リベラル系女子
  • 加藤 高明(10円男)       留年してる同級生
  • 安倍晴天              陰陽師、安倍晴明の50代目
  • 藤田 勲              2年学年主任
  • 先生たち              花園先生:3組担任 グラマー:妹尾 現国:杉野 若杉:生指部長 体育:伊藤 水泳:宇賀  音楽:峰岸  世界史:吉村先生  教頭先生  倉田(生徒会顧問)  藤野先生(大浜高校)
  • 須之内直美             証明写真を撮ってもらった写真館のおねえさん。
  • 御神楽采女             結婚式場の巫女 正体は須世理姫 キタマの面倒を見ている
  • 早乙女のお婆ちゃん         三軒隣りのお婆ちゃん
  • 時司 徒 (いたる)         お祖母ちゃんの妹  
  • 妖・魔物              アキラ      
  • その他の生徒たち          滝沢(4組) 栗原(4組) 牧内千秋(演劇部 8組) 明智玉子(生徒会長)
  • 灯台守の夫婦            平賀勲 平賀恵  二人とも直美の友人  
 
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巡(めぐり)・型落ち魔法少女の通学日記・151『修学旅行・四日目・2(宝塚ファミリーランド)』

2024-11-22 13:32:33 | 小説
(めぐり)・型落ち魔法少女の通学日記
151『修学旅行・四日目・2(宝塚ファミリーランド)』   





「宝塚歌劇団の公演が観られたらよかったんですけどねえ……」

 ゲートを入って間もなく大劇場の屋根を見つけたロコが不満を言う。

 天下に名の轟いた宝塚歌劇団は遊園地に入らないとたどり着けない構造になっている。令和の時代は、遊園地が廃業になっていて遊園地があったことすら忘れられているんだけどね。

 歌劇団も遊園地も阪急電鉄を作った小林一三さんが、宝塚温泉のお客さんを増やそうと総合開発したもの。それも本業の阪急電車のためで、沿線の総合開発コミコミで事業を立ち上げるという先見の明。

 そう思うと意義深いんだけど、大阪のテーマパークはUSJとインプットされてる二十一世紀少女には、ちょっとショボい。

「まあ、童心に帰って遊ぶとするかぁ」

 佳奈子がバスの中でもらったチケットをヒラヒラさせる。

 このチケットでジェットコースターをはじめ五個のアトラクションに乗れる。

「ジェットコースターと観覧車は外せないねえ」

 女バレで元気の余っている佳奈子はアグレッシブだ。

「じゃあ、スカイウェイってのに乗って全体を見るところからにしようか」

 たみ子の意見で遊園地を斜めに通ってるロープウエーに乗る。

「ああ、どれもちょっと楽しむにはいいスケールですねえ」

「個人的には、ほら、あっちのヘルスセンターとか展望台で、ボーっとしていたいわねえ」

「ちょっと、なんか食べたいかなあ」

 修学旅行も最終日、いつも一緒の五人も、微妙に意見が合わなくなる。

「じゃあ、時間決めて、観覧車の前で待ち合せない?」

 わたしが提案して、みんなで眼下のアトラクションを見定める。

 遊園地の真ん中を本物の阪急電車が走って、その横を遊園地を周回する豆電車。対比が面白い。

 敷地はディズニーリゾートには及ばないけど、大正時代に作られて今に至っている思うとなかなかのもんだ。料金も普通に入って800円だとか、普通に一万円を超えようかという令和のディズニーを思うと、これでいいんだとも思ってしまう。

「ジェットコースターは……」

「あ、あそこだ」

「観覧車は……」

「え、あれ!?」

「ええ、変わってる!」

「二重反転観覧車ですよ!」

「スカイワープっていうらしい!」

 観覧車と言えば自転車の車輪みたいなのを思っていたんだけど、ここのは、十字のアーム、十字の先には八つのゴンドラリングについていて、それもグルグル回って、本体の十字もグルグル回ってる。それほど大きなものじゃないけど、動きが面白い。いやいや、昭和の遊園地も侮りがたし!

「あ、国産初の旅客機、YS11が保存されてますぅ!」

「ロコはオタクだなあ」

「え?」

「あ、マ、マニア!」

 ヤバイ、この時代にオタクは通じない(^_^;)。

「ね、あそこ歩いてるのタカラジェンヌじゃない!?」

 たみ子が嬉々として指さした先には、グレーの制服制帽の、正しく言えば宝塚音楽学校の生徒さんたちが歩いている。

「姿勢いいわねえ!」

 なんだか、背中に定規でも入ってるんじゃないかと思うくらいにシャキッとしてキビキビしてる。

「宝塚は別名宝塚士官学校っていうくらい、厳しいんですよ。学年の初めには自衛隊から教官が来て、行進の練習とかやるらしいですよ!」

「うう、憧れるわねえ(^▽^)」

 たみ子は意外にヅカファンなんだ。

 タカラジェンヌに見惚れてるうちに、ロープウェーはあっという間に終点。

 
 たみ子は「せめて外観を!」と⇒大劇場、真知子は⇒人形館、ロコは⇒YS11、佳奈子は⇒冒険パノラマレールウェイ。と、バラバラに散っていった。

 
 わたしは、昆虫館の横で変な虫みたくジッとしているあいつを見つけてオチョクリに行く。


「ねえ、なにタソガレてんのよ」

「え、あ、メグリか」

「あ、分かった。バスガイドさんも言ってたけど、万博観れなく残念なんでしょ。留年さえしてなかったらって」

 ちょっとえぐるような言い方になったのは、修学旅行の持ってる異次元性なのかもしれない。でも、まあ、こいつは将来は徒(いたる)大叔母のダンナになってもらわなくちゃならないからね。

「あんなものに興味はない。ハンパクには行ったしな」

「ハンパク?」

「反戦のための万国博。万博と同じ時期に大阪城公園でやったんだ」

「あ、ああ……」

 そう言えば、去年万博を見に行った時に、そんな話題が出たっけ。

「それより……」

「なに?」

「……なんでもない」

「そ……じゃ、わたしから聞いていい?」

「ああ、いいぞ」

「前から聞こうと思ってたんだけどぉ……」

「ん?」

「去年のぉ、合格者説明会の前後、よく宮之森の駅でいっしょになったじゃない」

「そ、そうか、よく覚えてねえけど」

「あの時、毎回改札の駅員に呼び止められて10円払ってたけど」

 こいつには10円男という二つ名を進呈してる。付けた本人が言うのもなんだけど、その理由を聞いたことがない。

「ああ、あれはな……笑うなよ」

「あ、うん」

「夢にローザ・ルクセンブルグが現われてな『初志貫徹しなさい!』って言ったんだ」

「ロ、ローザ・ルクセンブルグがぁ?」

 言いながらローザ・ルクセンブルグ分かってない。

「運賃値上げには反対だったからな」

「それで?」

「ああ、ローザは、銃のケツで殴り殺され川に放り込まれて半年も放置された、革命の殉教者なんだ」

「そ、そうなんだ」

「つまらん話だろ」

「ハハ、ちょっとむつかしいかなぁ。あ、でも、ありがとう、入学以来の謎が解けたよ」

「そ、そうか」

「…………」

「あ、さっきの『タソガレてる』は、いい表現だと思うぞ、言い得て妙だと思った!」

 なんだか、思いきるようにして立ち上がる。

「あ、なんか乗りに行くの?」

「ああ、ジェットコースターでも……いっしょに行くか?」

「え、ああ……あとで真知子たちと乗る約束してるから」

「そ、そうか、じゃあな」

「う、うん、またね」

 ……メリーゴーランドぐらいなら付き合ったんだけどね。


 それから、約束通りお仲間とジェットコースターと独特の観覧車に乗った。


 それから、園内のヘルスセンターで8クラスそろって昼食をとって、修学旅行最後の目的地、大阪城に向かった。



☆彡 主な登場人物
  • 時司 巡(ときつかさ めぐり)   高校2年生 友だちにはグッチと呼ばれる
  • 時司 応(こたえ)         巡の祖母 定年退職後の再任用も終わった魔法少女 時々姉の選(すぐり)になる
  • 滝川                志忠屋のマスター
  • ペコさん              志忠屋のバイト
  • 猫又たち              アイ(MS銀行) マイ(つくも屋) ミー(寿書房)
  • 宮田 博子(ロコ)         2年3組 クラスメート
  • 辻本 たみ子            2年3組 副委員長
  • 高峰 秀夫             2年3組 委員長
  • 吉本 佳奈子            2年3組 保健委員 バレー部
  • 横田 真知子            2年3組 リベラル系女子
  • 加藤 高明(10円男)       留年してる同級生
  • 安倍晴天              陰陽師、安倍晴明の50代目
  • 藤田 勲              2年学年主任
  • 先生たち              花園先生:3組担任 グラマー:妹尾 現国:杉野 若杉:生指部長 体育:伊藤 水泳:宇賀  音楽:峰岸  世界史:吉村先生  教頭先生  倉田(生徒会顧問)  藤野先生(大浜高校)
  • 須之内直美             証明写真を撮ってもらった写真館のおねえさん。
  • 御神楽采女             結婚式場の巫女 正体は須世理姫 キタマの面倒を見ている
  • 早乙女のお婆ちゃん         三軒隣りのお婆ちゃん
  • 時司 徒 (いたる)         お祖母ちゃんの妹  
  • 妖・魔物              アキラ      
  • その他の生徒たち          滝沢(4組) 栗原(4組) 牧内千秋(演劇部 8組) 明智玉子(生徒会長)
  • 灯台守の夫婦            平賀勲 平賀恵  二人とも直美の友人  
 
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巡(めぐり)・型落ち魔法少女の通学日記・150『修学旅行・四日目・1(万博跡地を横に見て)』

2024-11-21 17:22:58 | 小説
(めぐり)・型落ち魔法少女の通学日記
150『修学旅行・四日目・1(万博跡地を横に見て)』   




 四日目の最終日は大阪だ。


 基本的に去年といっしょらしいんだけど、去年は大阪を二日目に持ってきていた。

 理由は簡単、大阪万博があったから。

 つまり、三年生は修学旅行に万博を組み込んでいた。

 万博も終わったんだから、大阪でもないと思うんだけど、すぐに代案も浮かばないので、最終日に持ってきた以外はそのまんま。学校というのは、なかなか慣習というか前例というものは変えられないんだね。

 奈良を出発して程なく生駒山を超える。

 おおぉ……!

 意外に歓声が起こる。

 目の前に大阪平野が広がり、手の届きそうなところに大阪湾。その向こうに淡路島、その右手には青々と六甲山脈と神戸の街も霞んで見えて、けっこう雄大な景色だ。

 湘南の海も雄大で好きだけど、言ってみりゃ見渡す限り太平洋で水平線が見えるばかり。それが、この景色は日本地図でお馴染みの近畿地方の中心部が全部見えている。

「こんなに澄み渡って一望に見えるのはとても珍しいですねえ、きっとみなさんの普段の行動がいいからでしょう(^▽^)。左手に小さな森のように見えておりますのが仁徳天皇陵で、正面に見えております緑が大阪城で……」

 バスガイドさんも職業意識に目覚めて、数分で、このパノラマのおおよそをガイドしてくれる。

「……大阪の端から端まで見えてるんだねえ」

「大阪は、日本一狭い自治体ですからねぇ」

 真知子が呟いてロコが補足する。

 日本は狭い国だけど、山越えの峠道程度のところから全景が見える都府県は、そんなには無い。こっそりスマホで検索すると、二十何年かすると関空が出来て、日本一は香川県に譲るみたい。

 たまたまなのか、気をきかせたのか、バスは万博会場のど真ん中、万博会場とエキスポランドの間を通る。

「惜しかったですねぇ、去年でしたら本番に間に合いました。万博会場はほとんどのパビリオンが取り壊され、現在は、万博記念公園に生まれ変わるために工事中でございます。また、左側も一部設備をリニューアルして来年には新エキスポランドとして営業再開となっております。チラリと見えておりますのが五つのコースを持ち、その総延長は2340メートルと世界最長を誇りますジェットコースター、ダイダラザウルスでございます」

 オオ…………!

「その向こうは観覧車ワンダーホイール、高さは40メートルですが、この北摂の地では一番の高さを誇ります。また、右手に見えますのが太陽の塔、大屋根は撤去されますが、岡本太郎の作になりますこの塔は永久保存が決まっております」

 オオ…………!

「歓声は二種類ですねえ」

 ロコが声を潜める。

「二種類?」

「はい、じっさいに行って懐かしんでいるのと、行けなくて残念がってるのとです」

「あぁ、そうだねぇ……」

 行けなかった子には申し訳ないので、小さな声で賛意を表しておく。

 10円男が小学生みたいに腰を浮かせてガイドさんの言う通り、ロコが指摘した通りの表情で見ているのが可笑しかった。

 バスは、その10円男の残念を癒すように、宝塚ファミリーランドを目指すのだった。

 

☆彡 主な登場人物
  • 時司 巡(ときつかさ めぐり)   高校2年生 友だちにはグッチと呼ばれる
  • 時司 応(こたえ)         巡の祖母 定年退職後の再任用も終わった魔法少女 時々姉の選(すぐり)になる
  • 滝川                志忠屋のマスター
  • ペコさん              志忠屋のバイト
  • 猫又たち              アイ(MS銀行) マイ(つくも屋) ミー(寿書房)
  • 宮田 博子(ロコ)         2年3組 クラスメート
  • 辻本 たみ子            2年3組 副委員長
  • 高峰 秀夫             2年3組 委員長
  • 吉本 佳奈子            2年3組 保健委員 バレー部
  • 横田 真知子            2年3組 リベラル系女子
  • 加藤 高明(10円男)       留年してる同級生
  • 安倍晴天              陰陽師、安倍晴明の50代目
  • 藤田 勲              2年学年主任
  • 先生たち              花園先生:3組担任 グラマー:妹尾 現国:杉野 若杉:生指部長 体育:伊藤 水泳:宇賀  音楽:峰岸  世界史:吉村先生  教頭先生  倉田(生徒会顧問)  藤野先生(大浜高校)
  • 須之内直美             証明写真を撮ってもらった写真館のおねえさん。
  • 御神楽采女             結婚式場の巫女 正体は須世理姫 キタマの面倒を見ている
  • 早乙女のお婆ちゃん         三軒隣りのお婆ちゃん
  • 時司 徒 (いたる)         お祖母ちゃんの妹  
  • 妖・魔物              アキラ      
  • その他の生徒たち          滝沢(4組) 栗原(4組) 牧内千秋(演劇部 8組) 明智玉子(生徒会長)
  • 灯台守の夫婦            平賀勲 平賀恵  二人とも直美の友人  
 
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巡(めぐり)・型落ち魔法少女の通学日記・149『修学旅行・三日目・4(志賀直哉旧居と新薬師寺)』

2024-11-20 15:46:59 | 小説
(めぐり)・型落ち魔法少女の通学日記
149『修学旅行・三日目・4(志賀直哉旧居と新薬師寺)』   




 あたりは百坪を超えるお屋敷が並んでいて、その割には道幅が狭い。

 志賀直哉旧居は、そういうお屋敷の一つで、幼稚園ぐらいなら余裕で開けそうなくらいに広い。

「あ、今は大学の持ち物なんだね」

 看板の横に〇〇大学のセミナーハウスと書いてある。

「学校の施設だと税金とか安くなりますからねえ」

「なるほどぉ」

 
 順路は二階からで、二階には書斎と客室がある。


「ここで、かの文豪は『暗夜行路』を書いたんだねえ」

 机を撫でながら真知子が感心する。

「真知子、詳しいんだね!」

 佳奈子が感心すると「いやいや、当てずっぽう。志賀直哉って『暗夜行路』と『小僧の神さま』しか知らないしぃ(^_^;)」

「『小僧の神さま』は小学校で習ったよね、中身忘れたけど……ああ、春日大社の森とか若草山とか、よく見えるんだあ」

 たみ子は窓からの景色に感動。

「こんなとこなら、勉強はかどるんでしょうねえ」

「あはは、あたしは五分で寝ちゃうねえ」

「あ、それもいいですねえ、リフレッシュして部活に打ち込めそうです」

「人間、やっぱり環境ですよね……」

「そうだねえ……」

 ロコと佳奈子はタイプが違うけど、しみじみリラックスするポイントは同じみたい。あ、かくいうわたしも……というか、五人とも同じ。一年で同じクラスになったことが始まりなんだけど、いい仲間だよ。

 一階に下りると、志賀直哉の自室、奥さんの部屋。子ども部屋は、なんと床がコルク張り!

「すごい、ここなら回転レシーブの練習でもできそう!」

「志賀直哉の子どもに生まれたかったです!」

「そうね、子供部屋の隣は志賀直哉の寝室だし、よくできたお父さんだったんだねえ」

「ねえ、台所すごいよ!」

「声、大きいよ!」

 台所に感動したらたみ子に怒られる。

「ちゃんとガスだし」

「え、元々?」

「元々ですよ!」

「うちにガスが来たの幼稚園のころだよ」

「ああ、うちも」

「NHKで『水道完備ガス見込み』ってやってたじゃない。あれ見て、わが横田家のことだと思ったもん」

「うんうん、『バス通り裏』とかも親近感だった」

 アハハハハ((´∀`*))

 付き合いで笑っておくけど、そのドラマは知らないよぉ(^_^;)。

「あ、これ冷蔵庫ですよ!」

「あ、備え付けなんだ!」

 壁に木製のハッチが付いていて、正直わたしは分からないんだけど、お仲間四人はソッコーで気が付いている。

「お祖母ちゃんちにあったけど、もっと小さい木の箱だった」

「一番上に氷を入れるんだよね」

「そうそう、氷屋さんが配達に来るんだ」

「大きなのこぎりでザクザク切ってくれるんだよね」

 氷の配達……? ウウ、令和少女のわたしには想像つかない(^_^;)。

「ねえ、食堂もすごいですよぉ」

 隣りは教室の2/3くらいの広さに、9人掛けのテーブルが据えてあって、壁沿いにも長椅子やら小テーブルやら。ちょっと模様替えをしたらキッチンと合わせてけっこうなレストランや喫茶店が開けそう。

「パフレットにも書いてあったけど、志賀直哉って人は人を集めて賑やかにやるのが好きだったのね」

「うん、いい意味でサロンだったんだね……こんなところでMITAKAやれたらいいわよねえ……」

 パンフ見ながらため息つくMITAKAの創始者は、雰囲気的にはサロンのマダムの雰囲気。

「あっち、サンルームじゃない?」

「あ、ほんとだ」

 佳奈子につられて移動すると、てっきりベランダかと思ったところは、大小の丸テーブルが置かれたサンルーム。

 天井に大きな天窓、庭に面してはガラス張りの大窓なんで、ダイニングの方から見ると、ベランダに見える。広さはダイニングと合わせると教室の倍近いかもしれない。

「窓の外は芝生の庭ですよぉ」

「おお、余裕でバレーコートがとれる!」

「ね、あっちにはプールとかもあるみたい」

「「「「ほおおおおおお」」」」

 間抜けな歓声をあげると、後ろで人の気配……というか、クスクス笑われてるし。

 振り返ると、草色のカーディガンがよく似合うロン毛の美人さんが壁際のテーブルに着いていらっしゃる。

「あ、すみません、自分たちだけかと騒いでしまって」

 真知子が代表して頭を下げると、美人さんはワイパーみたいに手をハタハタさせる。

「こちらこそ、不躾に笑ってしまって。あなたたち、修学旅行?」

「はい、湘南の方の、宮之森高校っていいます」

「そう、ゆかし気な名前ね。志賀直哉は好きなの?」

「「「「あ……」」」」

「学校で『小僧の神様』を習って『暗夜行路』はタイトルを知ってる程度ですぅ」

 言い淀んでいると、ロコが正直、かつ簡潔に我々のレベルをばらしてしまう。

「そうよね、戦前の作家だし、それだけ知ってるだけで優秀よ」

「どーも……」

「あ、でも、この家は、みんな感心しました」

「品があって、そんなに奢った風もなくって」

「人を迎えて、人生を豊かに楽しもうって感じがとてもいいです」

「あてられちゃダメよ」

「え、そうなんですか?」

「戦争に負けた時、志賀直哉は『あんな戦争を始めたのは漢字や日本語を使ったせいだ』って言ったのよ」

 え?

「不完全で不便で、そのために文化の進展が阻害されて、あんな戦争をやってしまった。これからはフランス語を公用語にすべきだって」

 ええ!?

「太宰治とかは畏れ入ってたけど、そういう危ういオッチョコチョイな人」

 アハハハ(^_^;)

「あら、つい余計なこと言っちゃったわね。まあ、ここの雰囲気が気に入ってくれたのなら嬉しいわ。この先、東の方に行くと新薬師寺とか柳生街道とか、よかったら……あら、こんな時間。じゃ、わたしはお先に」

 心憎いほどの笑顔を残して草色カーディガンは行ってしまった。

 さて、も少し時間があるから、美人さんの言っていた新薬師寺の方に足を延ばそうと外に出る。

 歩いていると、ふと横っちょの家が気になって目を向ける。

 え?

 屋根の上にさっきの美人さん! 

 つるりと手で顔を撫でると安倍晴天……またやられた(-_-;)。


 新薬師寺は、薬師寺のイメージが頭にあったんで、拍子抜けがするくらい小さなお寺。

「ウウ、志賀直哉の家より狭いかも」

 さっきは歓声あげた佳奈子も、ちょっと萎れている。

 建物もお寺というよりは、天平時代の倉庫というような感じ。石の壇の上に体育館のステージにソックリおさまってしまいそうな小さい本堂。
 
 お寺の本堂にはたいていある縁側が無いし、観音開きの扉が三つあるんだけど窓が一つも無くて、まるで倉庫。

 せっかくなので中に入ると、大仏をそのまま縮小したようなご本尊の周囲を十二体の十二神将という、ちょっとおっかないナンチャラ大将という像が取り巻いている。

「あ、思い出しました」

 ロコが閃いた。

「お寺の寺っというのは、元々は『役所の建物』っていう意味なんですよ」

「建物?」

「はい、中国に仏教が伝わったころ、いきなりは立派なものを建ててもらえなくて、古い役所の建物を流用したんですよ。それで、いつの間にか『寺』っていうのが、いわゆるお寺になったんです! だから、唐招提寺とかは、その役所の建物だった名残りが残ってるっていいます」

「あ、なるほどぉ、じゃあここも?」

 あらためてパンフを読むと、元は400メートル四方もあるような立派なお寺で、ちゃんとした金堂とかがあったらしいけども、戦乱とかで焼けたり縮小したりで今の大きさ。金堂も焼け残った建物らしくて、ザックリ言うとロコの説明通り。

 金堂を出たところの茶店でお抹茶をいただいて、三日目の締めにした。

 
 その夜、夢に十二神将の宮毘羅(くびら)大将が出てきた。

 新薬師寺は草色カーディガン(おそらく安倍晴天)に勧められて 見に行って、疲れていたこともあってよく覚えてないんだけどもね。やっぱ晴天のオッサンにおちょくられているのかもしれない。


☆彡 主な登場人物
  • 時司 巡(ときつかさ めぐり)   高校2年生 友だちにはグッチと呼ばれる
  • 時司 応(こたえ)         巡の祖母 定年退職後の再任用も終わった魔法少女 時々姉の選(すぐり)になる
  • 滝川                志忠屋のマスター
  • ペコさん              志忠屋のバイト
  • 猫又たち              アイ(MS銀行) マイ(つくも屋) ミー(寿書房)
  • 宮田 博子(ロコ)         2年3組 クラスメート
  • 辻本 たみ子            2年3組 副委員長
  • 高峰 秀夫             2年3組 委員長
  • 吉本 佳奈子            2年3組 保健委員 バレー部
  • 横田 真知子            2年3組 リベラル系女子
  • 加藤 高明(10円男)       留年してる同級生
  • 安倍晴天              陰陽師、安倍晴明の50代目
  • 藤田 勲              2年学年主任
  • 先生たち              花園先生:3組担任 グラマー:妹尾 現国:杉野 若杉:生指部長 体育:伊藤 水泳:宇賀  音楽:峰岸  世界史:吉村先生  教頭先生  倉田(生徒会顧問)  藤野先生(大浜高校)
  • 須之内直美             証明写真を撮ってもらった写真館のおねえさん。
  • 御神楽采女             結婚式場の巫女 正体は須世理姫 キタマの面倒を見ている
  • 早乙女のお婆ちゃん         三軒隣りのお婆ちゃん
  • 時司 徒 (いたる)         お祖母ちゃんの妹  
  • 妖・魔物              アキラ      
  • その他の生徒たち          滝沢(4組) 栗原(4組) 牧内千秋(演劇部 8組) 明智玉子(生徒会長)
  • 灯台守の夫婦            平賀勲 平賀恵  二人とも直美の友人  
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巡(めぐり)・型落ち魔法少女の通学日記・148『修学旅行・三日目・3』

2024-11-19 17:24:07 | 小説
(めぐり)・型落ち魔法少女の通学日記
148『修学旅行・三日目・3(ささやきの小道)』   




 安倍晴天かと思ったオニイサンは一瞬しゃがんだかと思うと、それっきりになり、鹿の集団も磁石を遠ざけたパチンコ玉みたく結合が緩くなって、飛火野のあちこちに散っていった。不思議と、こっち側にやって来る鹿は居なかった。

 まあ、昨日からずっと鹿なんで、ちょっと飽きてもきてる。興福寺でいっぱい鹿煎餅やったしね。


「さあ、午後の部いこうか!」


 こちらも真知子の声でお昼を終えて出発する。

「あ、ささやきの小道ですぅ!」

 ロコが参道脇の道しるべを指さす。

「京都の哲学の小道と並んで、有名な散歩道なんですよ、ここを抜ければ志賀直哉旧居にも近いです!」

「ああ、そうね。哲学の小道には行けなかったし」

 たみ子の一言が続いて、道を南にとる。

 道幅はほんの二三メートル。それで両側は一メートルちょっとの土手になってて飛火野からは地続きなんだけど、丈の低い木がいい感じの密度で茂っている。ボンヤリ歩いてると、ただの林の中の道なんだろうけど、これは違う。

 林の中は草とか蔦はほとんどなくて、その気になれば林の中だって歩ける。以前、富士の樹海の動画を観たけど、木々は乱雑に生えているし、草も蔦もボウボウ。踏み込むとしたら、ちゃんと足もとを固め、鉈とか装備を整えなければ入れるもんじゃない。だから、人生をお仕舞にする目的で踏み入った人たちは道路からそんなに離れていないところで亡くなっている。

 でも、ここは意識して見れば分かるほどに整っている。

「真ん中に小川が流れてたら、南禅寺の……ほら、水路閣の奥のやつに似てるね」

 表現は違うけど、佳奈子が同じ意味のことを言う。みんな「ああ……」と半分景色に見惚れながら返事をする。

「盆景って知ってる?」

 たみ子がむつかしいことを言う。

「ボンケイ?」

 馬鹿なわたしは、クリラクガンの時みたいに聞いてしまう。

「知ってます! 本物の木や苔やらを使って、お盆や鉢植えの中に景色を作るやつですよね?」

「うん、お祖父ちゃんがやってたんだけどね……プ、ププ(〃艸〃)」

「え、なによ」

「盆景って、焼き物の人形とかを置いたりするんだけどね」

「ああ、その盆景の人形みたいなのね、わたしたち」

「なんだか、侘び寂びの世界ですねえ(^▽^)」

「でも、なんで噴き出すの?」

 すぐ後ろで笑われたせいか、少し不機嫌そうに佳奈子が振り返る。

「お祖父ちゃん、人形は信楽焼で揃えてたの」

「信楽焼がおかしいの?」

「あ、それってタヌキでしょ!?」

 三軒隣りの玄関わきに置いてあるのを思い出した。信楽焼と言えばタヌキだ!

「ええ、あたしタヌキなのお!?」

「ううん、ちょうどタヌキが五匹並んでるの思い出したから」

「そうか、全員ならいいか」

「そうだ……」

 リュックから文庫を取り出すロコ、どうやら、これがネタ本みたい。チラリと見えた拍子は岩波文庫! わたしは『ガガガ』とか『電撃』とかがヘッドにくるのしか読んだことない。

「ここいらの木は、みんなアセビですよ」

 アセビ?

 あんまり馴染みのない植物だ。

「冬から春にかけて、白い花を付けるんだそうです」

「ああ、それは見事かも」

「……あ、分かりました! アセビの実は鹿には毒なんで、鹿は寄り付かないんだそうですよ!」

「「「「ああ」」」」

 納得した、それで、ここいらには鹿が居ないんだ。

「でも、なんで、こんな林の中に鹿よけ?」

「この先の高畑ってところに、春日大社の祢宜たちが住んでたんですけどね」

「ネギ?」

「ああ、神社に仕える男の人で神主のいっこ下の役職」

 稚児舞をやっただけあって、たみ子はよく知ってるようだ。

「フフ、神のお使いでも、しょっちゅう付きまとわれたらかなわんということですねえ」

「うん、鮮やかな紅葉もいいけど、こういう地味な草木もいいもんね」

「ちなみに、アセビは馬酔木とも書いて、馬も苦手みたいです」

「え、馬と鹿が……」

「あ、馬鹿除けになるのかも!」

 プ( ´艸`)

「いま、特定の人物が浮かんだ人は反省しましょう!」

 
 馬鹿なお喋りをしているうちに、アセビの林もぬけて、文豪の旧居が見えて来た。

 

☆彡 主な登場人物
  • 時司 巡(ときつかさ めぐり)   高校2年生 友だちにはグッチと呼ばれる
  • 時司 応(こたえ)         巡の祖母 定年退職後の再任用も終わった魔法少女 時々姉の選(すぐり)になる
  • 滝川                志忠屋のマスター
  • ペコさん              志忠屋のバイト
  • 猫又たち              アイ(MS銀行) マイ(つくも屋) ミー(寿書房)
  • 宮田 博子(ロコ)         2年3組 クラスメート
  • 辻本 たみ子            2年3組 副委員長
  • 高峰 秀夫             2年3組 委員長
  • 吉本 佳奈子            2年3組 保健委員 バレー部
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  • 加藤 高明(10円男)       留年してる同級生
  • 安倍晴天              陰陽師、安倍晴明の50代目
  • 藤田 勲              2年学年主任
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巡(めぐり)・型落ち魔法少女の通学日記・147『修学旅行・三日目・2(蘭陵王)』

2024-11-18 21:01:54 | 小説
(めぐり)・型落ち魔法少女の通学日記
147『修学旅行・三日目・2(蘭陵王)』   




「運がいいです(^▽^)!」

 遅れて駆けこんだ学食で諦めていたAランチがまだ残っていたみたいに歓声を上げ、石段を駆け下りるロコ。

 つられてみんなも駆け下りて、先着の観光客の人たちが振り向く。

 あ、すみません!

 声にこそ出さないけど、体中で『すみませんオーラ』が出てるんだろう、修学旅行生だと見抜かれて微笑みと共に鑑賞の輪の中に入れてもらう。

「あ……蘭陵王だ(‘‘艸‘‘)」

 たみ子も口を押えて感激。

 ランリョウオウ?

 たみ子以外は「え?」なんだけど、さすがに声は出さない。

 階段の下はテニスコートほどの白砂の庭で、五月人形的なのが怖い面を付け、バチというか指揮棒みたいなので空を指している。すぐに、舞楽の調子が変わって、クル、クルっとアクセントを付けて半回転し、その都度、地面を踏み固めるような仕草、飛び降りるような仕草、片足をトンと前に出すと床を真横に拭うような所作、力士の土俵入りみたいな所作。その度に下あごがブラブラして、少しコミカル。

 舞楽っていうんだろうけど、神社の巫女舞さえまともに見たことないんだけど、不思議に辛気くさいという感じはしない。

 衣装は朱色や金色、お面はサル? と思ったら耳の横に扇子みたいなエラとかが見えて、どうやら竜のお面みたい。

 四股を踏むような仕草があって、両手を腰骨のとこらへんに収めてシズシズと帰って行き、観客の人たちからめでたい拍手が沸き起こった。

 パチパチパチパチパチパチ

「いやあ、春日大社の舞楽って、決まった日にしかやってないですから、ほんとうに運がよかったです(^▽^)/」

「あれ、ランリョウオウって言うのねぇ」

「たみ子さんは、知ってたみたいですねえ」

「あ、うん、うちの田舎の神社でもやってるの。わたしも稚児舞で出たことあるんだよ」

「え、そうなの!?」

「あ、いま、電信柱みたいなノッポの子が稚児舞やってるの想像したでしょ!」

「あ、いやそれはぁ(;'∀')」

「わたし、子どもの頃は小っちゃい方だったんだからね」

「ああ、きっと可愛いお稚児さんだったんでしょうねえ」

「そりゃ~もう!」

「あ、わたしだって、小さいころにベールガールやって評判だったんだから」

「ベールガールって?」

 常識のないわたしは素直に質問してしまう。

「え、結婚式場でバイトしてて知らないんですかぁ?」

「あ、写真撮ってるだけだから(^_^;)」

「花嫁のベールの端っこ持って後ろからついていくやつよ」

「あ、ああ」

 数は少ないけどキリスト教式のやつで見たことがある。

「あ、それでランリョウオウって?」

「ああ、むかし、中国の斉って国があってね。そこの王子さまがあまりに男前で、素顔で戦いに出たら敵味方共にその二枚目ぶりに戦うことを忘れてしまうんで、その王子さまは醜い竜のお面を付けて戦ったって伝説」

「へえ、そんなのあるの!?」

「二枚目すぎて戦いにならないって、なんだかマンガみたいね」

「あ、佳奈子も知ってるよ!」

「え、バレーボールでですか?」

「うん、先輩から聞いたんだけど、大浜高校の男子バレーでね、女の子みたいに可愛いセッターが居てね、その子がトスあげると敵は見とれて、必ず負けちゃったって!」

「ええ、ほんと?」

「フフ、それって敵の方にホモもっけがあったとかぁ(* ´艸`)」

「え、敵って、うちの男バレ……プ(〃艸〃)」

「「「「アハハハハハハハ(>∀<)( ^o^) (˃᷄ꇴ˂᷅ )  (ᵔᗜᵔ* ) 」」」」

 みんなで、うちの男子バレーを思い浮かべて笑いながら参道を戻って行った。

 笑い出したら止まらなくって、すれ違う観光客の人たちもビックリしたり笑ったり、飛火野まで戻ってお弁当にした。

 プォ~~~~ン

 なんだか金管楽器の音がしたかと思うと、鹿たちがいっせいに歩いたり駆けたりして一カ所の集まり出した!

 見ると、青い半纏を着た男の人がホルンを吹いて鹿を集めている。

「あ、鹿寄せですねえ」

「ああ、なんか奈良の風物って感じねエ」

 みんなで、鹿寄せに見惚れていると、ホルンを吹いているオニイサンが、一瞬こっちに向いた。


 え、安倍晴天?



 
☆彡 主な登場人物
  • 時司 巡(ときつかさ めぐり)   高校2年生 友だちにはグッチと呼ばれる
  • 時司 応(こたえ)         巡の祖母 定年退職後の再任用も終わった魔法少女 時々姉の選(すぐり)になる
  • 滝川                志忠屋のマスター
  • ペコさん              志忠屋のバイト
  • 猫又たち              アイ(MS銀行) マイ(つくも屋) ミー(寿書房)
  • 宮田 博子(ロコ)         2年3組 クラスメート
  • 辻本 たみ子            2年3組 副委員長
  • 高峰 秀夫             2年3組 委員長
  • 吉本 佳奈子            2年3組 保健委員 バレー部
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  • 御神楽采女             結婚式場の巫女 正体は須世理姫 キタマの面倒を見ている
  • 早乙女のお婆ちゃん         三軒隣りのお婆ちゃん
  • 時司 徒 (いたる)         お祖母ちゃんの妹  
  • 妖・魔物              アキラ      
  • その他の生徒たち          滝沢(4組) 栗原(4組) 牧内千秋(演劇部 8組) 明智玉子(生徒会長)
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巡(めぐり)・型落ち魔法少女の通学日記・146『修学旅行・三日目・1』

2024-11-17 15:35:24 | 小説
(めぐり)・型落ち魔法少女の通学日記
146『修学旅行・三日目・1』   




 興福寺は八角形の南円堂に「お伽話に出てきそうなフォルムねえ」とおもしろがり。五重塔を仰ぎ見て「よくぞお風呂屋さんの焚きつけにならなかったねえ」と運の強さを喜んであげる。

 あれからMJスマホで調べたら五重塔は国宝だし、興福寺そのものが1998年に世界文化遺産になってるよ(^_^;)。

 あ、MJスマホって魔法少女スマホで、昭和に来てても使えるんだ。

 
 ここで時間を食っては予定をこなせないんで、鹿せんべい買って、鹿との約束を果たしただけで東大寺へ。

 
「……やっぱり大きいねえ( ゚Д゚)」

「三回目ですよぉ(^_^;)」

 佳奈子が感嘆してロコが付け加える。

 仁王門の仁王、仁王門潜って大仏殿、そして中に入って大仏様を拝んで三回目の感嘆。ほかの四人も「へえ」とか「ほお」とか声を上げてるんだけどね。

「でも、この大仏って三代目なんだよね」

「はい、初代のは平重衡が、二代目は戦国時代に松永久秀が焼いてしまって、今のは江戸時代に作られた三代目です」

「じゃあ、鎌倉の大仏の方が年季が入ってるんだ」

 湘南地方の我々としては地元に近い鎌倉の大仏を贔屓にしたくなる。

「でもでも、足の一部とか蓮の葉のところは初代のままなんですよ」

 ロコが公正に指摘する。

「あ、柱の穴潜りだ!」

 佳奈子が声を上げて、大仏様の右ひざ方向に走る。

「子どもの頃に読んだ『弥次喜多道中』の書いてあったんだけど、ほんとにあるんだ!」

「ああ、弥二さんが引っかかって抜けなくなるってやつ!」

 面白そうなので、スカートの真知子以外の四人でやってみる。

 案内を読んでみると、鬼門封じのためとか厄除けのためとか説明があったけど、高校生はおもしろればOKなんだ(^▽^)/

 あらためて大仏様に手を合わせ、大仏殿を出てからロコがこっそり注釈。

「あのう、弥次喜多が潜ったのは京都の大仏なんですよね(^_^;)」

「「「「え?」」」」

「あ、まあ、おもしろかったし、いいんですけどね」

「京都に大仏あったの?」

「あ、落雷で焼けたみたいです。木造だったみたいです」

 道理で、年配の参拝客の人たちが笑っていたけど、考え過ぎなのかもしれない。


 来た道を少し戻って春日大社を目指す。

 
 少し登りの参道を人の流れにのって進む。参道脇には千年以上の歴史の中で献納された石灯籠がいっぱい並んでいて、その背後には今を盛りの紅葉が栄えてとっても雰囲気。学校のある宮之森の町自体が、奥宮と呼ばれる神社と宮之森城址があって紅葉が素晴らしいんだけど、やっぱり千年の都のはすごいよ。木々の背の高さが違うし、奥行きも深いしね。
 
 ちなみに、奈良の鹿は、この春日大社の神さまのお使いだということで大事にされているらしい。

 社殿は、どこか八坂神社に似ていて朱塗りの柱が女性的。

「すごいぃ」「雰囲気ぃ」「ほう……」「おお……」「いいねえ……」

 高校生らしく五文字にもならない感嘆の声をあげながらお参りを済ませて、石段を下りると雅な雅楽の音が聞こえて来た。

 

 
☆彡 主な登場人物
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  • 滝川                志忠屋のマスター
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  • 猫又たち              アイ(MS銀行) マイ(つくも屋) ミー(寿書房)
  • 宮田 博子(ロコ)         2年3組 クラスメート
  • 辻本 たみ子            2年3組 副委員長
  • 高峰 秀夫             2年3組 委員長
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巡(めぐり)・型落ち魔法少女の通学日記・145『修学旅行・二日目の残り』

2024-11-16 14:49:00 | 小説
(めぐり)・型落ち魔法少女の通学日記
145『修学旅行・二日目の残り』   




 奈良は壮大な田舎だ。

 四方を山に囲まれてるんだけど、ついさっきまで居た京都よりも広い。

 でもね、京都はお寺や神社だけでなく、ビルもけっこうあった。五階建てぐらいのね。駅前ビルやらデパートやら大学やらホテルやら、少しは会社とかも。そういうものの間にはビッシリと平屋や二階建ての瓦屋根が、それこそ甍の波で、その点ではけっこうな大都会。

 だけど、奈良は一面の田んぼや畑やら。そういう田畑の中にお寺の大屋根がや塔が覗いている。奈良の主役は田んぼと畑。宮之森や大浜くらいの家並も見えて、ガイドさんの説明だと奈良市の中心らしい。
 うちの街をそれほどの田舎とは思わないけど、奈良を田舎と感じてしまうのは、元々は平城京という日本の都だったという知識があるからなのかもしれない。

 いや、高校生の気まぐれな印象です。気に障ったらごめんなさい(^_^;)。

「でもさぁ、京都ほど人が多くないのは嬉しいかな」

 東大寺近くの駐車場にバスが停まって呟いたら、みんな「うんうん」と頷いた。

 その京都でも、令和の半分ほどの混雑でしかないんだけど、それでも京都はくたびれた。令和のインバウンド爆発の京都に行ったら死んじゃうね。

「うわあ、鹿ですよ、鹿の団体ですよ!」

 駐車場を出ると、もう鹿が列をなして歩いていて、感動!

「鹿と遊ぶのは明日、今日はこのまま宿舎だからね!」

 花園先生に叱られて、そのまま興福寺近くのホテル。


「おお、奈良盆地が一望できるよぉ!」


 真知子が声を上げ、みんなで窓辺に寄ってみた。

「ああ、ほんの三階なのにねえ」

「でも、宮之森も三階の教室から街の向こうまで見えますよぉ」

「そうだけど、なんだか落ち着くわねえ……」

「あ、佳奈子、なに食べてんのぉ!?」

「あ、お茶うけ置いてあるよ」

「あ、お茶淹れます!」

 京都のホテルにお茶うけは無かった。ここもホテル形式だけど旅館の雰囲気がある。

「落雁だねぇ」

 ラクガン? 

 イミフだけど、下手に聞いたら昭和人間でないことを疑われるような気がして止しておく。

 ラクガンをポリっとかじる、口の中に栗の味わいと控えめな甘さが広がって、ほうじ茶によく合う。

「ねえ、五重塔も雰囲気だけど、興福寺って全体としては取り留めないねえ」

「うん、京都のお寺って塀で囲まれててまとまりがあったのにね。興福寺は町との境目が分かりにくいねえ」

 真知子とたみ子は高尚だ。

「それはですね、廃仏毀釈の影響ですよ」

「え」「ああ」

 ロコが入るとさらに高尚になる。

「明治の初めに神仏分離令が出て、お寺や仏像がずいぶん壊されたんです。京都はそれほどじゃなかったみたいですけど、奈良は、けっこうやっちゃったみたいで、興福寺はあれこればら売りされましてね。あの五重塔も町の風呂屋さんが焚きつけ用に買ったんですけど、大きすぎて壊せないんで、しばらく放っておいたら神仏分離令が撤回されて、ああやって無事に立ってるんですよ」

「「「「ほお」」」」」

 ロコの取材能力はますます冴えてきてる。

「あ、なんか香ばしい……」

 たみ子がほうじ茶のことを言ったのかと思ったら、わら焼きの匂いがほのかにしてくる。

「なんだかうっすらと霞が漂って来ましたよぉ」

 若草山や、その向こうの山々がシルエットになって、興福寺の伽藍もこころなし霞んできたような気がする。

 どこかで、稲刈りの後の藁を焼いてるんだ。

「なんだか万葉の昔から漂ってきたみたいねぇ」

「雰囲気ですねえ」

 ラクガンとほうじ茶にわら焼きが加わって、五人揃って時空を超えそうと思ったら、館内放送。

『ええ、夕食の準備が整いましたので、宮之森高校の生徒さんは一階の大宴会場までお集まりください』

 万葉の昔から引き戻されて、なんだかおかしくなってクスクス笑いながら、みんなで大宴会場に向かった。


 その夜は、布団を☆形に並べ、いろいろ来し方行く末について話したんだけど、長くなるから、またいずれ。


 明くる三日目は、地図とスタンプカードをもらってグループ単位で周る。それぞれのポイントには先生が立っていて、スタンプを押してくれる。

 移動手段は歩くかバスかタクシー、場所によっては電車という手もある。

 うちのグループは話題になった興福寺から始めて、東大寺、春日大社、志賀直哉旧居とかを周る。


☆彡 主な登場人物
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  • 宮田 博子(ロコ)         2年3組 クラスメート
  • 辻本 たみ子            2年3組 副委員長
  • 高峰 秀夫             2年3組 委員長
  • 吉本 佳奈子            2年3組 保健委員 バレー部
  • 横田 真知子            2年3組 リベラル系女子
  • 加藤 高明(10円男)       留年してる同級生
  • 安倍晴天              陰陽師、安倍晴明の50代目
  • 藤田 勲              2年学年主任
  • 先生たち              花園先生:3組担任 グラマー:妹尾 現国:杉野 若杉:生指部長 体育:伊藤 水泳:宇賀  音楽:峰岸  世界史:吉村先生  教頭先生  倉田(生徒会顧問)  藤野先生(大浜高校)
  • 須之内直美             証明写真を撮ってもらった写真館のおねえさん。
  • 御神楽采女             結婚式場の巫女 正体は須世理姫 キタマの面倒を見ている
  • 早乙女のお婆ちゃん         三軒隣りのお婆ちゃん
  • 時司 徒 (いたる)         お祖母ちゃんの妹  
  • 妖・魔物              アキラ      
  • その他の生徒たち          滝沢(4組) 栗原(4組) 牧内千秋(演劇部 8組) 明智玉子(生徒会長)
  • 灯台守の夫婦            平賀勲 平賀恵  二人とも直美の友人  
 
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巡(めぐり)・型落ち魔法少女の通学日記・144『修学旅行・三日目だけど二日目のこと』

2024-11-15 11:58:41 | 小説
(めぐり)・型落ち魔法少女の通学日記
144『修学旅行・三日目だけど二日目のこと』   




 二日目の昨日は嵐山・嵯峨野を経巡って、お昼を挟んで京都御所と二条城だった。

 バスを降りたら、まずは嵐山でクラス写真。

「え、直美さん!?」

 びっくりした。ガイドさんに案内された撮影場所には、我が雇い主の直美さんがカメラを構えて待っていた。

「忘れてもらっちゃこまるなあ、うちは宮之森御用達だぞ」

 直美さんは後半クラスに付いていたんで二日目まで見かけなかったんだ。

「東山界隈じゃ場所が無くてねぇ、最初から集合写真は嵐山って決まってたんだよ」

 ああ、そうだろうねえ、あのあたりで撮れるのは平安神宮か丸山公園だろうけど、8クラス500人近くを待たせておけるスペースは無い。

「バスの都合で後半クラスからだけど、前半もすぐだから、そのへんに居ててね」

「はーい」

 と返事しながらも佇んでしまう。他の子たちもそうなんだけど、松尾山、桂川とそれに掛かっている渡月橋、嵯峨野のお寺やお屋敷を一望にした中の島は絶景だ。
 令和のここいらは京都どころか日本観光のメダマになっていて、インバウンドの外国人でいっぱい。昭和の嵐山は、賑わっているとはいえ、まだまだ余裕で、すっかり寛いでしまう。

「あ、六組……」

 真知子が撮影準備の整った六組に目をとめた。

「「「「あ……」」」」

 わたしたちも声が揃った。最前列でしゃがんでいる子が佐伯さんの写真を構えている。

 そうなんだ、佐伯さんの命が助かったことは、まだ知らされていないんだ。

 助かったとはいえ、元通りに回復するかどうかは未知数だし、やっぱりあの話は校長先生と教頭先生のところで停めてあるんだ。

 何も言わないで三組の番がまわってくるのを待った。

「ほんとうは、お父さんが来るはずだったんだけどね……まあ、秋の関西も写真にはいい季節だからねぇ」

 うちのクラスを撮り終えると、フィルムを巻きながらポツリと直美さん。

 マスターは大正一桁生まれで、戦争で具合を悪くしたみたいで無理がきかない。まあ、だからこそ、わたしが雇われてるわけだけどね。

「まあ、わたしも楽しんでるから、グッチも楽しんできな」

「はい!」


 というわけで、お仲間と一緒に嵯峨野散歩。


「大覚寺の方まで行くと空いてますよ」

 ロコの提案で松尾山を左に見ながら北に向かう。

「左に行くと常寂光寺や野宮神社に落柿舎、見どころはいっぱいですが、人もいっぱいなんで、こっちが断然いいです!」

 他のグループたちが左右に散っていくのは、ちょっと心細いけど、ロコの調査能力には一目も二目も置いているので安心して進む。

「ほら、あれです!」

「「「おお……」」」

 わたしを除く三人がオッサンみたいな歓声を上げる。

「水戸黄門とかでよく出てくるよぉ~このへん~」

 たみ子が小手をかざして首を振る。

「そうねぇ、時代劇の定番ロケーションだねえ」

「ねえ、このアングルなんて旗本退屈男!」

「眉間の傷が目に入らぬかぁ」

「よ、早乙女主人之介!」「市川歌右衛門!」

「ああ、もう、さっさと入りますよぉ!」

 拝観料を払うと、清水寺とかとは違って靴を脱いで上がれる。

「ああ、なんか感激ねぇ、靴を脱いで上がれるなんて……」

「あちこちにお花が活けてあるょ~」

 佳奈子が指差した方を見ると、廊下や、開け放した畳の部屋やらに素人のわたしが見てもイカシタ生け花がある。

「これ、計算されてるねえ……思わない?」

 ナゾをかけるたみ子。

「え……あ、そうか」

 真知子が納得するけど、他の三人は???

「あちこちにあるけど、視界に入るのは一つだけになってる」

「うん」

「「「あ、ああ」」」

「さすがに、嵯峨御流の家元ですぅ!」

 ロコが感嘆の声を上げるけど、たみ子が言わなきゃ気が付かなかっただろうね。

 理論家のたみ子や真知子が感覚的に感心して、感覚派のロコが後れを取るのは見ていて面白い。

「寝殿造りで言ったら渡殿だよね」

 生け花に感心した建物から屋根付きの廊下かカギ状に向こうとあっちの建物に繋がっていて、女子高生の知識では寝殿造り。

 なんだか源氏物語の中にいるみたいな感じで渡殿を進んで行くと、ほんとうに寝殿造りのところに出てきた!

「「「「「おお……( ゚Д゚)!」」」」」

 またも五人で感動。

 縁側も軒も思い切り広くて深くて、建物と縁側は壁とか障子とかじゃなくて……なんといったかなぁ、これは?

「半蔀(はじとみ)ですよぉ!」

 そう、上下に分かれていて、上は車のハッチバックみたくに上下にスィングして、下の方は取り外しができるようになっている。

 なんだか、紫式部とかが出てきそうな設えだよ。

「金閣寺も半蔀だよね」

「おお、左近の橘、左近の梅ですよぉ!」

 庭には白砂が敷いてあり、正面には檜皮葺のごっつい門がある。

「ええとぉ……」

 すごい勢いでノートを繰るロコ。

「ここは宸殿と言って、後水尾天皇から下賜された本物ですよ! あっちの門は勅使門と言って、天皇か天皇のお使いをお招きする時以外はひらかれないんですよ」

「なるほど、それで菊の御門が付いてるんだ」

「「「「なるほどぉ」」」」

 なっとくして、それから、しみじみする。

「半蔀に蝉の金具がついてる」

「え……ほんとだ」

 半蔀は金箔が貼ってあって、どの半蔀にも二匹ずつ金の蝉が付いている。

 さすがのロコでも、これは分からないようだ。

 昨日の疲れもあって、いつの間にかコクリコクリとしてきた。

 すると、目の端っこに見えていた勅使門が音もなく開いてくるではないか!

 ちょ、ちょ(''◇'')。

 わたしの興奮が伝わって、みんなも目を覚まして、開き始めた勅使門に釘付けになった。

 そして、現れたのは……黒の半纏にちり取りと竹ぼうきを持った掃除のおじさんだった(^_^;)。

 無敵のおじさんに感動して大覚寺を後にする。

 お昼は大覚寺の東にある大沢の池のほとりで、配給されたお弁当を広げる。

 お弁当はアイデアだ。

 観光地だから食堂とかにはことかかないんだけど、どこに行ってもけっこうな人。それに、みんな仲間同士で食べたいから探すだけで時間がかかる。

 帰りは野宮と常寂光寺、竹林を抜けて大河内山荘に足を延ばし、芝生に座って眼下の桂川や京都の景色を見て過ごした。


 一時半に集合場所に戻ってバスに乗車。


 そして、金閣寺と二条城……も話したいんだけど、またこんどね(^_^;)。



☆彡 主な登場人物
  • 時司 巡(ときつかさ めぐり)   高校2年生 友だちにはグッチと呼ばれる
  • 時司 応(こたえ)         巡の祖母 定年退職後の再任用も終わった魔法少女 時々姉の選(すぐり)になる
  • 滝川                志忠屋のマスター
  • ペコさん              志忠屋のバイト
  • 猫又たち              アイ(MS銀行) マイ(つくも屋) ミー(寿書房)
  • 宮田 博子(ロコ)         2年3組 クラスメート
  • 辻本 たみ子            2年3組 副委員長
  • 高峰 秀夫             2年3組 委員長
  • 吉本 佳奈子            2年3組 保健委員 バレー部
  • 横田 真知子            2年3組 リベラル系女子
  • 加藤 高明(10円男)       留年してる同級生
  • 安倍晴天              陰陽師、安倍晴明の50代目
  • 藤田 勲              2年学年主任
  • 先生たち              花園先生:3組担任 グラマー:妹尾 現国:杉野 若杉:生指部長 体育:伊藤 水泳:宇賀  音楽:峰岸  世界史:吉村先生  教頭先生  倉田(生徒会顧問)  藤野先生(大浜高校)
  • 須之内直美             証明写真を撮ってもらった写真館のおねえさん。
  • 御神楽采女             結婚式場の巫女 正体は須世理姫 キタマの面倒を見ている
  • 早乙女のお婆ちゃん         三軒隣りのお婆ちゃん
  • 時司 徒 (いたる)         お祖母ちゃんの妹  
  • 妖・魔物              アキラ      
  • その他の生徒たち          滝沢(4組) 栗原(4組) 牧内千秋(演劇部 8組) 明智玉子(生徒会長)
  • 灯台守の夫婦            平賀勲 平賀恵  二人とも直美の友人  
 


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巡(めぐり)・型落ち魔法少女の通学日記・143『修学旅行・二日目』

2024-11-14 16:25:46 | 小説
(めぐり)・型落ち魔法少女の通学日記
143『修学旅行・二日目』   




 初日の昨日は南禅寺の他にも定番のコースを回った。

 八坂神社、産寧坂、清水寺と定番の観光コースなんだけど、全員京都は初めてだったので面白かった。

「坂の向こうに見える八坂の塔、素敵ねえ……」

「写真撮ろ……ワ( ゚Д゚)!」

 カメラを構えた真知子がファインダーを覗いてつんのめった!

「危ない!」

 佳奈子が持ち前の運動神経で支えて事なきを得る。

「ありがとう、佳奈子。危うくお父さんのカメラ落とすところだった(^_^;)」

「いやあ、この坂で転んだら三年寿命が縮まるっていいますからねぇ」

「お産が軽ぅに済むとも言いいますねんよぉ(^○^)」

 ロコの脅かしをお土産屋のオバチャンが打ち消してくれる。

「アハハ、お産はまだまだ縁が無いですけどねえ(^_^;)」

「ほんなら、縁結びのお土産とかどないどすぅ」

 オバチャンのうまい営業に載って、お守り風の土人形やら清水焼の湯呑なんかを買ってしまう。


 日本人が思いきる時の引き合いというか代名詞の清水の舞台では「校舎の屋上ぐらいだねぇ」と夢のないことを佳奈子が言う。

「でも、ここからの景色は一級品だねえ」

「ほんとねえ、京都って空襲に遭ってないから、雰囲気よねえ」

 なるほどぉ……お寺とかの瓦屋根が多くて、目に見える範囲で高いのは京都駅近くの京都タワーぐらい。家並の向こうには西山がちょうど頃合いの背景になって、さすが千年の都。

「夕方になったら、この向こうに夕日が沈んで絶景なんだろうねえ」

「でもさ、ここは舞台なんだろうけど、ここで舞とかやっても、下からじゃぜったい見えないよね」

 たみ子が現実的なことを言う。

「それは、きっと、お日さまに見せるんですよ。一日無事に都を照らしてくれたお日さまに感謝の舞を捧げたんですよ。如来さまの偉いのを大日如来とか言いますからねえ」

「おお、さすがロコ、よく調べてるねえ」

「あ、いえ、これは単なる想像なんですけどね(^_^;)」

 これには斟酌せずに、みんなで傾き始めたお日さまと京都の景色を見ながら、思わず合掌してしまった。


 夜の宿舎でもいろいろあったんだけど、それはまたいずれ機会があったらね。


 今日は、北山の金閣寺や嵐山から嵯峨野に行ったんだけど、昨日のことを書いたらいっぱいになってしまった。

 では、また明日(^_^;)



☆彡 主な登場人物
  • 時司 巡(ときつかさ めぐり)   高校2年生 友だちにはグッチと呼ばれる
  • 時司 応(こたえ)         巡の祖母 定年退職後の再任用も終わった魔法少女 時々姉の選(すぐり)になる
  • 滝川                志忠屋のマスター
  • ペコさん              志忠屋のバイト
  • 猫又たち              アイ(MS銀行) マイ(つくも屋) ミー(寿書房)
  • 宮田 博子(ロコ)         2年3組 クラスメート
  • 辻本 たみ子            2年3組 副委員長
  • 高峰 秀夫             2年3組 委員長
  • 吉本 佳奈子            2年3組 保健委員 バレー部
  • 横田 真知子            2年3組 リベラル系女子
  • 加藤 高明(10円男)       留年してる同級生
  • 安倍晴天              陰陽師、安倍晴明の50代目
  • 藤田 勲              2年学年主任
  • 先生たち              花園先生:3組担任 グラマー:妹尾 現国:杉野 若杉:生指部長 体育:伊藤 水泳:宇賀  音楽:峰岸  世界史:吉村先生  教頭先生  倉田(生徒会顧問)  藤野先生(大浜高校)
  • 須之内直美             証明写真を撮ってもらった写真館のおねえさん。
  • 御神楽采女             結婚式場の巫女 正体は須世理姫 キタマの面倒を見ている
  • 早乙女のお婆ちゃん         三軒隣りのお婆ちゃん
  • 時司 徒 (いたる)         お祖母ちゃんの妹  
  • 妖・魔物              アキラ      
  • その他の生徒たち          滝沢(4組) 栗原(4組) 牧内千秋(演劇部 8組) 明智玉子(生徒会長)
  • 灯台守の夫婦            平賀勲 平賀恵  二人とも直美の友人  
 
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巡(めぐり)・型落ち魔法少女の通学日記・142『修学旅行・一日目』

2024-11-13 09:49:18 | 小説
(めぐり)・型落ち魔法少女の通学日記
142『修学旅行・一日目』   




 毎朝、戻り橋を渡って昭和の宮之森に通っている。もう慣れっこになったけど、十秒ちょっとで五十年以上の時間を超えてしまうのはすごいことだ。

 京都駅で新幹線を下りて、二年生全員で改札に向かっているのは、ちょっとそれに似ている。

 乗ってきたのは0系で、テッチャンとかマニアが見たら大感激なんだろうけど、鉄道趣味じゃないわたしには普通の新幹線。ちゃんとホームドアもあるし、素っ気ないけど普通の新幹線ホーム。

 ところが階段を下りて跨道橋を中央改札に向かうと、あたりまえだけど昭和だよ。

 去年、万博で行った新大阪駅はあまり違和感は無かった。

 でも、京都駅は違う。

 ホームから駅ビルまでの跨道橋を渡る。床はコンクリ、壁と屋根は木造で鉄骨が剥き出しで、幅が宮之森の三倍ほどあるところを除けば同じコンセプト。

「あ、みんな、あれですよ、日本一長いプラットホーム!」

 ロコが窓の外を指さす。

「おお、果てしないねえ!」「うわあ!」「あれがぁ!」「すごいぃ!」

 富士山が雲に隠れて見えなかった反動なのか、みんな跨道橋の窓から見える日本一のプラットホームに感嘆の声を上げる。

「全長は558メートルもあって、列車が二編成並ぶことができるんです」

「「「「ホーー」」」」

「それで、あのホームは京の都を取り巻いた城壁の上にできてるんですよぉ」

「え?」「平安京に城壁?」

 たみ子と真知子が振り返る。歴史とか社会とかにかけては、この二人は姉妹みたいに反応する。

「ええ、文禄の駅で中国から来た使いに『なんだ、日本の都は羅城もないのか』って言われて、羅城っていうのは城壁のことなんですけど、それで、秀吉が一念発起して、都に羅城を作らせたんです『御土居』って言うんですけど、その名残です」

「へえ、昔のバレーに9人制があったぐらい不思議な話ねぇ」

「ええ、バレーって9人でやってたんですか!?」

「え、知らないの?」

「アハハ、スポーツの方は(^_^;)」

 佳奈子とロコは住んでる世界が違うんだけど、違っていても友だちでいられる。きっと、入学以来の付き合いだからだ。

『ちょっとぉ、あんたたちぃ!』

 花園先生が、いつになくおっかない声で注意する。

「いけない、みんな集合してる!」

 慌てて改札を出て集合場所へ。

 
 つつがなく点呼が終わると、とりあえずホテルに入ってお昼ご飯をいただいた。わたしたち前半組はホテルだったけど、後半組は少し離れた旅館。旅館組の方はバスの駐車場からけっこう歩かされたとか。

 お昼ご飯は、京都らしいものが食べられるかと思ったけど、ふつうのランチだった。


 昼からはバスを連ねて東山。


「あれですよ、石川五右衛門が『絶景かな絶景かなぁ~』ってやったのぉ」

 南禅寺の山門で、またもハイテンションのロコ。

「ええ、あれって創作じゃなかったんだ」

「いやあ、創作だと思いますけど、実在の南禅寺にしたところが観光誘致もかねていたというか、昔の歌舞伎もなかなかなんですよねえ」

「ええと、ごっつい煙管持ちながら言うんだよね、……世に盗人のネタはつきまじぃ。だったっけ?」

 う、佳奈子でも知ってるっぽい。つまり、わたしは知らん。

「石川やぁ、浜の真砂は尽きるともぉ~」

「世に盗人の種は尽きまじぃ~」

 アハハハハ(((´∀`)))

 歌舞伎風にやるので、他のクラスの子にも笑われる。

「ああ、これこれ、水路閣っていうんでしょぉ!?」

「え、お寺の中でしょ?」

 たみ子が指差したのは、レンガ造りのローマの水道橋みたいなの。

 苔むして時代がかっているんだけど、お寺にはちょっと似つかわしくはない。

「これは、明治になって、琵琶湖の水を京都市内に取り入れるために作られた水道橋なんですよ。雰囲気があるんで『ザ ガードマン』とか『忍者部隊月光』とか、映画やらテレビのロケでも使われるんですよ」

「そういや、タイガーズのレコードジャケットにもあったみたいな」

「エメロンシャンプーのCMでも使ってた!」

 うう、令和のJKはついていけん。


 こっそりスマホで『水路閣』を検索……なるほどぉ、令和の時代でもいろんな映画やアニメに使われている。大好きな京アニの『けいおん!』とかにも使われてるけど、さすがに言えない。

 でも、スクロールすると、さらにいろいろと……。


「ね、すごいでしょ!」

「「「「うわぁぁぁぁぁぁぁ!」」」」


 みんなに「もっといいところがあるよ!」と、水路閣の奥、水が送られてくる水路にみんなを案内。

 そこは、うっそうとした森の小道で、小道の中央をレンガ造りの水路が走っていて、なんだか、ドイツかイギリスの油絵の中の景色みたい。

 スマホには、逢坂山を抜けた京都疎水の分水と出ていて、インクラインという。船を市内の水路の高さまで引き上げるごっついレールや、日本最古の発電所とかがある。すごく雰囲気なんだけど、許された行動半径を超えるので行かなかった。

「すごいよ、グッチ、来たことあるの!?」

 みんなに感心されたけど、さすがに「まあね(^_^;)」としか言えない。

 どうやら、このコースは、この時代では、あまり紹介はされてないみたいだ。あまり見栄を張って墓穴を掘らないようにしないと。

 

 
☆彡 主な登場人物
  • 時司 巡(ときつかさ めぐり)   高校2年生 友だちにはグッチと呼ばれる
  • 時司 応(こたえ)         巡の祖母 定年退職後の再任用も終わった魔法少女 時々姉の選(すぐり)になる
  • 滝川                志忠屋のマスター
  • ペコさん              志忠屋のバイト
  • 猫又たち              アイ(MS銀行) マイ(つくも屋) ミー(寿書房)
  • 宮田 博子(ロコ)         2年3組 クラスメート
  • 辻本 たみ子            2年3組 副委員長
  • 高峰 秀夫             2年3組 委員長
  • 吉本 佳奈子            2年3組 保健委員 バレー部
  • 横田 真知子            2年3組 リベラル系女子
  • 加藤 高明(10円男)       留年してる同級生
  • 安倍晴天              陰陽師、安倍晴明の50代目
  • 藤田 勲              2年学年主任
  • 先生たち              花園先生:3組担任 グラマー:妹尾 現国:杉野 若杉:生指部長 体育:伊藤 水泳:宇賀  音楽:峰岸  世界史:吉村先生  教頭先生  倉田(生徒会顧問)  藤野先生(大浜高校)
  • 須之内直美             証明写真を撮ってもらった写真館のおねえさん。
  • 御神楽采女             結婚式場の巫女 正体は須世理姫 キタマの面倒を見ている
  • 早乙女のお婆ちゃん         三軒隣りのお婆ちゃん
  • 時司 徒 (いたる)         お祖母ちゃんの妹  
  • 妖・魔物              アキラ      
  • その他の生徒たち          滝沢(4組) 栗原(4組) 牧内千秋(演劇部 8組) 明智玉子(生徒会長)
  • 灯台守の夫婦            平賀勲 平賀恵  二人とも直美の友人  
 
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