大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

巡(めぐり)・型落ち魔法少女の通学日記・147『修学旅行・三日目・2(蘭陵王)』

2024-11-18 21:01:54 | 小説
(めぐり)・型落ち魔法少女の通学日記
147『修学旅行・三日目・2(蘭陵王)』   




「運がいいです(^▽^)!」

 遅れて駆けこんだ学食で諦めていたAランチがまだ残っていたみたいに歓声を上げ、石段を駆け下りるロコ。

 つられてみんなも駆け下りて、先着の観光客の人たちが振り向く。

 あ、すみません!

 声にこそ出さないけど、体中で『すみませんオーラ』が出てるんだろう、修学旅行生だと見抜かれて微笑みと共に鑑賞の輪の中に入れてもらう。

「あ……蘭陵王だ(‘‘艸‘‘)」

 たみ子も口を押えて感激。

 ランリョウオウ?

 たみ子以外は「え?」なんだけど、さすがに声は出さない。

 階段の下はテニスコートほどの白砂の庭で、五月人形的なのが怖い面を付け、バチというか指揮棒みたいなので空を指している。すぐに、舞楽の調子が変わって、クル、クルっとアクセントを付けて半回転し、その都度、地面を踏み固めるような仕草、飛び降りるような仕草、片足をトンと前に出すと床を真横に拭うような所作、力士の土俵入りみたいな所作。その度に下あごがブラブラして、少しコミカル。

 舞楽っていうんだろうけど、神社の巫女舞さえまともに見たことないんだけど、不思議に辛気くさいという感じはしない。

 衣装は朱色や金色、お面はサル? と思ったら耳の横に扇子みたいなエラとかが見えて、どうやら竜のお面みたい。

 四股を踏むような仕草があって、両手を腰骨のとこらへんに収めてシズシズと帰って行き、観客の人たちからめでたい拍手が沸き起こった。

 パチパチパチパチパチパチ

「いやあ、春日大社の舞楽って、決まった日にしかやってないですから、ほんとうに運がよかったです(^▽^)/」

「あれ、ランリョウオウって言うのねぇ」

「たみ子さんは、知ってたみたいですねえ」

「あ、うん、うちの田舎の神社でもやってるの。わたしも稚児舞で出たことあるんだよ」

「え、そうなの!?」

「あ、いま、電信柱みたいなノッポの子が稚児舞やってるの想像したでしょ!」

「あ、いやそれはぁ(;'∀')」

「わたし、子どもの頃は小っちゃい方だったんだからね」

「ああ、きっと可愛いお稚児さんだったんでしょうねえ」

「そりゃ~もう!」

「あ、わたしだって、小さいころにベールガールやって評判だったんだから」

「ベールガールって?」

 常識のないわたしは素直に質問してしまう。

「え、結婚式場でバイトしてて知らないんですかぁ?」

「あ、写真撮ってるだけだから(^_^;)」

「花嫁のベールの端っこ持って後ろからついていくやつよ」

「あ、ああ」

 数は少ないけどキリスト教式のやつで見たことがある。

「あ、それでランリョウオウって?」

「ああ、むかし、中国の斉って国があってね。そこの王子さまがあまりに男前で、素顔で戦いに出たら敵味方共にその二枚目ぶりに戦うことを忘れてしまうんで、その王子さまは醜い竜のお面を付けて戦ったって伝説」

「へえ、そんなのあるの!?」

「二枚目すぎて戦いにならないって、なんだかマンガみたいね」

「あ、佳奈子も知ってるよ!」

「え、バレーボールでですか?」

「うん、先輩から聞いたんだけど、大浜高校の男子バレーでね、女の子みたいに可愛いセッターが居てね、その子がトスあげると敵は見とれて、必ず負けちゃったって!」

「ええ、ほんと?」

「フフ、それって敵の方にホモもっけがあったとかぁ(* ´艸`)」

「え、敵って、うちの男バレ……プ(〃艸〃)」

「「「「アハハハハハハハ(>∀<)( ^o^) (˃᷄ꇴ˂᷅ )  (ᵔᗜᵔ* ) 」」」」

 みんなで、うちの男子バレーを思い浮かべて笑いながら参道を戻って行った。

 笑い出したら止まらなくって、すれ違う観光客の人たちもビックリしたり笑ったり、飛火野まで戻ってお弁当にした。

 プォ~~~~ン

 なんだか金管楽器の音がしたかと思うと、鹿たちがいっせいに歩いたり駆けたりして一カ所の集まり出した!

 見ると、青い半纏を着た男の人がホルンを吹いて鹿を集めている。

「あ、鹿寄せですねえ」

「ああ、なんか奈良の風物って感じねエ」

 みんなで、鹿寄せに見惚れていると、ホルンを吹いているオニイサンが、一瞬こっちに向いた。


 え、安倍晴天?



 
☆彡 主な登場人物
  • 時司 巡(ときつかさ めぐり)   高校2年生 友だちにはグッチと呼ばれる
  • 時司 応(こたえ)         巡の祖母 定年退職後の再任用も終わった魔法少女 時々姉の選(すぐり)になる
  • 滝川                志忠屋のマスター
  • ペコさん              志忠屋のバイト
  • 猫又たち              アイ(MS銀行) マイ(つくも屋) ミー(寿書房)
  • 宮田 博子(ロコ)         2年3組 クラスメート
  • 辻本 たみ子            2年3組 副委員長
  • 高峰 秀夫             2年3組 委員長
  • 吉本 佳奈子            2年3組 保健委員 バレー部
  • 横田 真知子            2年3組 リベラル系女子
  • 加藤 高明(10円男)       留年してる同級生
  • 安倍晴天              陰陽師、安倍晴明の50代目
  • 藤田 勲              2年学年主任
  • 先生たち              花園先生:3組担任 グラマー:妹尾 現国:杉野 若杉:生指部長 体育:伊藤 水泳:宇賀  音楽:峰岸  世界史:吉村先生  教頭先生  倉田(生徒会顧問)  藤野先生(大浜高校)
  • 須之内直美             証明写真を撮ってもらった写真館のおねえさん。
  • 御神楽采女             結婚式場の巫女 正体は須世理姫 キタマの面倒を見ている
  • 早乙女のお婆ちゃん         三軒隣りのお婆ちゃん
  • 時司 徒 (いたる)         お祖母ちゃんの妹  
  • 妖・魔物              アキラ      
  • その他の生徒たち          滝沢(4組) 栗原(4組) 牧内千秋(演劇部 8組) 明智玉子(生徒会長)
  • 灯台守の夫婦            平賀勲 平賀恵  二人とも直美の友人  
 
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巡(めぐり)・型落ち魔法少女の通学日記・146『修学旅行・三日目・1』

2024-11-17 15:35:24 | 小説
(めぐり)・型落ち魔法少女の通学日記
146『修学旅行・三日目・1』   




 興福寺は八角形の南円堂に「お伽話に出てきそうなフォルムねえ」とおもしろがり。五重塔を仰ぎ見て「よくぞお風呂屋さんの焚きつけにならなかったねえ」と運の強さを喜んであげる。

 あれからMJスマホで調べたら五重塔は国宝だし、興福寺そのものが1998年に世界文化遺産になってるよ(^_^;)。

 あ、MJスマホって魔法少女スマホで、昭和に来てても使えるんだ。

 
 ここで時間を食っては予定をこなせないんで、鹿せんべい買って、鹿との約束を果たしただけで東大寺へ。

 
「……やっぱり大きいねえ( ゚Д゚)」

「三回目ですよぉ(^_^;)」

 佳奈子が感嘆してロコが付け加える。

 仁王門の仁王、仁王門潜って大仏殿、そして中に入って大仏様を拝んで三回目の感嘆。ほかの四人も「へえ」とか「ほお」とか声を上げてるんだけどね。

「でも、この大仏って三代目なんだよね」

「はい、初代のは平重衡が、二代目は戦国時代に松永久秀が焼いてしまって、今のは江戸時代に作られた三代目です」

「じゃあ、鎌倉の大仏の方が年季が入ってるんだ」

 湘南地方の我々としては地元に近い鎌倉の大仏を贔屓にしたくなる。

「でもでも、足の一部とか蓮の葉のところは初代のままなんですよ」

 ロコが公正に指摘する。

「あ、柱の穴潜りだ!」

 佳奈子が声を上げて、大仏様の右ひざ方向に走る。

「子どもの頃に読んだ『弥次喜多道中』の書いてあったんだけど、ほんとにあるんだ!」

「ああ、弥二さんが引っかかって抜けなくなるってやつ!」

 面白そうなので、スカートの真知子以外の四人でやってみる。

 案内を読んでみると、鬼門封じのためとか厄除けのためとか説明があったけど、高校生はおもしろればOKなんだ(^▽^)/

 あらためて大仏様に手を合わせ、大仏殿を出てからロコがこっそり注釈。

「あのう、弥次喜多が潜ったのは京都の大仏なんですよね(^_^;)」

「「「「え?」」」」

「あ、まあ、おもしろかったし、いいんですけどね」

「京都に大仏あったの?」

「あ、落雷で焼けたみたいです。木造だったみたいです」

 道理で、年配の参拝客の人たちが笑っていたけど、考え過ぎなのかもしれない。


 来た道を少し戻って春日大社を目指す。

 
 少し登りの参道を人の流れにのって進む。参道脇には千年以上の歴史の中で献納された石灯籠がいっぱい並んでいて、その背後には今を盛りの紅葉が栄えてとっても雰囲気。学校のある宮之森の町自体が、奥宮と呼ばれる神社と宮之森城址があって紅葉が素晴らしいんだけど、やっぱり千年の都のはすごいよ。木々の背の高さが違うし、奥行きも深いしね。
 
 ちなみに、奈良の鹿は、この春日大社の神さまのお使いだということで大事にされているらしい。

 社殿は、どこか八坂神社に似ていて朱塗りの柱が女性的。

「すごいぃ」「雰囲気ぃ」「ほう……」「おお……」「いいねえ……」

 高校生らしく五文字にもならない感嘆の声をあげながらお参りを済ませて、石段を下りると雅な雅楽の音が聞こえて来た。

 

 
☆彡 主な登場人物
  • 時司 巡(ときつかさ めぐり)   高校2年生 友だちにはグッチと呼ばれる
  • 時司 応(こたえ)         巡の祖母 定年退職後の再任用も終わった魔法少女 時々姉の選(すぐり)になる
  • 滝川                志忠屋のマスター
  • ペコさん              志忠屋のバイト
  • 猫又たち              アイ(MS銀行) マイ(つくも屋) ミー(寿書房)
  • 宮田 博子(ロコ)         2年3組 クラスメート
  • 辻本 たみ子            2年3組 副委員長
  • 高峰 秀夫             2年3組 委員長
  • 吉本 佳奈子            2年3組 保健委員 バレー部
  • 横田 真知子            2年3組 リベラル系女子
  • 加藤 高明(10円男)       留年してる同級生
  • 安倍晴天              陰陽師、安倍晴明の50代目
  • 藤田 勲              2年学年主任
  • 先生たち              花園先生:3組担任 グラマー:妹尾 現国:杉野 若杉:生指部長 体育:伊藤 水泳:宇賀  音楽:峰岸  世界史:吉村先生  教頭先生  倉田(生徒会顧問)  藤野先生(大浜高校)
  • 須之内直美             証明写真を撮ってもらった写真館のおねえさん。
  • 御神楽采女             結婚式場の巫女 正体は須世理姫 キタマの面倒を見ている
  • 早乙女のお婆ちゃん         三軒隣りのお婆ちゃん
  • 時司 徒 (いたる)         お祖母ちゃんの妹  
  • 妖・魔物              アキラ      
  • その他の生徒たち          滝沢(4組) 栗原(4組) 牧内千秋(演劇部 8組) 明智玉子(生徒会長)
  • 灯台守の夫婦            平賀勲 平賀恵  二人とも直美の友人  
 
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巡(めぐり)・型落ち魔法少女の通学日記・145『修学旅行・二日目の残り』

2024-11-16 14:49:00 | 小説
(めぐり)・型落ち魔法少女の通学日記
145『修学旅行・二日目の残り』   




 奈良は壮大な田舎だ。

 四方を山に囲まれてるんだけど、ついさっきまで居た京都よりも広い。

 でもね、京都はお寺や神社だけでなく、ビルもけっこうあった。五階建てぐらいのね。駅前ビルやらデパートやら大学やらホテルやら、少しは会社とかも。そういうものの間にはビッシリと平屋や二階建ての瓦屋根が、それこそ甍の波で、その点ではけっこうな大都会。

 だけど、奈良は一面の田んぼや畑やら。そういう田畑の中にお寺の大屋根がや塔が覗いている。奈良の主役は田んぼと畑。宮之森や大浜くらいの家並も見えて、ガイドさんの説明だと奈良市の中心らしい。
 うちの街をそれほどの田舎とは思わないけど、奈良を田舎と感じてしまうのは、元々は平城京という日本の都だったという知識があるからなのかもしれない。

 いや、高校生の気まぐれな印象です。気に障ったらごめんなさい(^_^;)。

「でもさぁ、京都ほど人が多くないのは嬉しいかな」

 東大寺近くの駐車場にバスが停まって呟いたら、みんな「うんうん」と頷いた。

 その京都でも、令和の半分ほどの混雑でしかないんだけど、それでも京都はくたびれた。令和のインバウンド爆発の京都に行ったら死んじゃうね。

「うわあ、鹿ですよ、鹿の団体ですよ!」

 駐車場を出ると、もう鹿が列をなして歩いていて、感動!

「鹿と遊ぶのは明日、今日はこのまま宿舎だからね!」

 花園先生に叱られて、そのまま興福寺近くのホテル。


「おお、奈良盆地が一望できるよぉ!」


 真知子が声を上げ、みんなで窓辺に寄ってみた。

「ああ、ほんの三階なのにねえ」

「でも、宮之森も三階の教室から街の向こうまで見えますよぉ」

「そうだけど、なんだか落ち着くわねえ……」

「あ、佳奈子、なに食べてんのぉ!?」

「あ、お茶うけ置いてあるよ」

「あ、お茶淹れます!」

 京都のホテルにお茶うけは無かった。ここもホテル形式だけど旅館の雰囲気がある。

「落雁だねぇ」

 ラクガン? 

 イミフだけど、下手に聞いたら昭和人間でないことを疑われるような気がして止しておく。

 ラクガンをポリっとかじる、口の中に栗の味わいと控えめな甘さが広がって、ほうじ茶によく合う。

「ねえ、五重塔も雰囲気だけど、興福寺って全体としては取り留めないねえ」

「うん、京都のお寺って塀で囲まれててまとまりがあったのにね。興福寺は町との境目が分かりにくいねえ」

 真知子とたみ子は高尚だ。

「それはですね、廃仏毀釈の影響ですよ」

「え」「ああ」

 ロコが入るとさらに高尚になる。

「明治の初めに神仏分離令が出て、お寺や仏像がずいぶん壊されたんです。京都はそれほどじゃなかったみたいですけど、奈良は、けっこうやっちゃったみたいで、興福寺はあれこればら売りされましてね。あの五重塔も町の風呂屋さんが焚きつけ用に買ったんですけど、大きすぎて壊せないんで、しばらく放っておいたら神仏分離令が撤回されて、ああやって無事に立ってるんですよ」

「「「「ほお」」」」」

 ロコの取材能力はますます冴えてきてる。

「あ、なんか香ばしい……」

 たみ子がほうじ茶のことを言ったのかと思ったら、わら焼きの匂いがほのかにしてくる。

「なんだかうっすらと霞が漂って来ましたよぉ」

 若草山や、その向こうの山々がシルエットになって、興福寺の伽藍もこころなし霞んできたような気がする。

 どこかで、稲刈りの後の藁を焼いてるんだ。

「なんだか万葉の昔から漂ってきたみたいねぇ」

「雰囲気ですねえ」

 ラクガンとほうじ茶にわら焼きが加わって、五人揃って時空を超えそうと思ったら、館内放送。

『ええ、夕食の準備が整いましたので、宮之森高校の生徒さんは一階の大宴会場までお集まりください』

 万葉の昔から引き戻されて、なんだかおかしくなってクスクス笑いながら、みんなで大宴会場に向かった。


 その夜は、布団を☆形に並べ、いろいろ来し方行く末について話したんだけど、長くなるから、またいずれ。


 明くる三日目は、地図とスタンプカードをもらってグループ単位で周る。それぞれのポイントには先生が立っていて、スタンプを押してくれる。

 移動手段は歩くかバスかタクシー、場所によっては電車という手もある。

 うちのグループは話題になった興福寺から始めて、東大寺、春日大社、志賀直哉旧居とかを周る。


☆彡 主な登場人物
  • 時司 巡(ときつかさ めぐり)   高校2年生 友だちにはグッチと呼ばれる
  • 時司 応(こたえ)         巡の祖母 定年退職後の再任用も終わった魔法少女 時々姉の選(すぐり)になる
  • 滝川                志忠屋のマスター
  • ペコさん              志忠屋のバイト
  • 猫又たち              アイ(MS銀行) マイ(つくも屋) ミー(寿書房)
  • 宮田 博子(ロコ)         2年3組 クラスメート
  • 辻本 たみ子            2年3組 副委員長
  • 高峰 秀夫             2年3組 委員長
  • 吉本 佳奈子            2年3組 保健委員 バレー部
  • 横田 真知子            2年3組 リベラル系女子
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  • 先生たち              花園先生:3組担任 グラマー:妹尾 現国:杉野 若杉:生指部長 体育:伊藤 水泳:宇賀  音楽:峰岸  世界史:吉村先生  教頭先生  倉田(生徒会顧問)  藤野先生(大浜高校)
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  • 早乙女のお婆ちゃん         三軒隣りのお婆ちゃん
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巡(めぐり)・型落ち魔法少女の通学日記・144『修学旅行・三日目だけど二日目のこと』

2024-11-15 11:58:41 | 小説
(めぐり)・型落ち魔法少女の通学日記
144『修学旅行・三日目だけど二日目のこと』   




 二日目の昨日は嵐山・嵯峨野を経巡って、お昼を挟んで京都御所と二条城だった。

 バスを降りたら、まずは嵐山でクラス写真。

「え、直美さん!?」

 びっくりした。ガイドさんに案内された撮影場所には、我が雇い主の直美さんがカメラを構えて待っていた。

「忘れてもらっちゃこまるなあ、うちは宮之森御用達だぞ」

 直美さんは後半クラスに付いていたんで二日目まで見かけなかったんだ。

「東山界隈じゃ場所が無くてねぇ、最初から集合写真は嵐山って決まってたんだよ」

 ああ、そうだろうねえ、あのあたりで撮れるのは平安神宮か丸山公園だろうけど、8クラス500人近くを待たせておけるスペースは無い。

「バスの都合で後半クラスからだけど、前半もすぐだから、そのへんに居ててね」

「はーい」

 と返事しながらも佇んでしまう。他の子たちもそうなんだけど、松尾山、桂川とそれに掛かっている渡月橋、嵯峨野のお寺やお屋敷を一望にした中の島は絶景だ。
 令和のここいらは京都どころか日本観光のメダマになっていて、インバウンドの外国人でいっぱい。昭和の嵐山は、賑わっているとはいえ、まだまだ余裕で、すっかり寛いでしまう。

「あ、六組……」

 真知子が撮影準備の整った六組に目をとめた。

「「「「あ……」」」」

 わたしたちも声が揃った。最前列でしゃがんでいる子が佐伯さんの写真を構えている。

 そうなんだ、佐伯さんの命が助かったことは、まだ知らされていないんだ。

 助かったとはいえ、元通りに回復するかどうかは未知数だし、やっぱりあの話は校長先生と教頭先生のところで停めてあるんだ。

 何も言わないで三組の番がまわってくるのを待った。

「ほんとうは、お父さんが来るはずだったんだけどね……まあ、秋の関西も写真にはいい季節だからねぇ」

 うちのクラスを撮り終えると、フィルムを巻きながらポツリと直美さん。

 マスターは大正一桁生まれで、戦争で具合を悪くしたみたいで無理がきかない。まあ、だからこそ、わたしが雇われてるわけだけどね。

「まあ、わたしも楽しんでるから、グッチも楽しんできな」

「はい!」


 というわけで、お仲間と一緒に嵯峨野散歩。


「大覚寺の方まで行くと空いてますよ」

 ロコの提案で松尾山を左に見ながら北に向かう。

「左に行くと常寂光寺や野宮神社に落柿舎、見どころはいっぱいですが、人もいっぱいなんで、こっちが断然いいです!」

 他のグループたちが左右に散っていくのは、ちょっと心細いけど、ロコの調査能力には一目も二目も置いているので安心して進む。

「ほら、あれです!」

「「「おお……」」」

 わたしを除く三人がオッサンみたいな歓声を上げる。

「水戸黄門とかでよく出てくるよぉ~このへん~」

 たみ子が小手をかざして首を振る。

「そうねぇ、時代劇の定番ロケーションだねえ」

「ねえ、このアングルなんて旗本退屈男!」

「眉間の傷が目に入らぬかぁ」

「よ、早乙女主人之介!」「市川歌右衛門!」

「ああ、もう、さっさと入りますよぉ!」

 拝観料を払うと、清水寺とかとは違って靴を脱いで上がれる。

「ああ、なんか感激ねぇ、靴を脱いで上がれるなんて……」

「あちこちにお花が活けてあるょ~」

 佳奈子が指差した方を見ると、廊下や、開け放した畳の部屋やらに素人のわたしが見てもイカシタ生け花がある。

「これ、計算されてるねえ……思わない?」

 ナゾをかけるたみ子。

「え……あ、そうか」

 真知子が納得するけど、他の三人は???

「あちこちにあるけど、視界に入るのは一つだけになってる」

「うん」

「「「あ、ああ」」」

「さすがに、嵯峨御流の家元ですぅ!」

 ロコが感嘆の声を上げるけど、たみ子が言わなきゃ気が付かなかっただろうね。

 理論家のたみ子や真知子が感覚的に感心して、感覚派のロコが後れを取るのは見ていて面白い。

「寝殿造りで言ったら渡殿だよね」

 生け花に感心した建物から屋根付きの廊下かカギ状に向こうとあっちの建物に繋がっていて、女子高生の知識では寝殿造り。

 なんだか源氏物語の中にいるみたいな感じで渡殿を進んで行くと、ほんとうに寝殿造りのところに出てきた!

「「「「「おお……( ゚Д゚)!」」」」」

 またも五人で感動。

 縁側も軒も思い切り広くて深くて、建物と縁側は壁とか障子とかじゃなくて……なんといったかなぁ、これは?

「半蔀(はじとみ)ですよぉ!」

 そう、上下に分かれていて、上は車のハッチバックみたくに上下にスィングして、下の方は取り外しができるようになっている。

 なんだか、紫式部とかが出てきそうな設えだよ。

「金閣寺も半蔀だよね」

「おお、左近の橘、左近の梅ですよぉ!」

 庭には白砂が敷いてあり、正面には檜皮葺のごっつい門がある。

「ええとぉ……」

 すごい勢いでノートを繰るロコ。

「ここは宸殿と言って、後水尾天皇から下賜された本物ですよ! あっちの門は勅使門と言って、天皇か天皇のお使いをお招きする時以外はひらかれないんですよ」

「なるほど、それで菊の御門が付いてるんだ」

「「「「なるほどぉ」」」」

 なっとくして、それから、しみじみする。

「半蔀に蝉の金具がついてる」

「え……ほんとだ」

 半蔀は金箔が貼ってあって、どの半蔀にも二匹ずつ金の蝉が付いている。

 さすがのロコでも、これは分からないようだ。

 昨日の疲れもあって、いつの間にかコクリコクリとしてきた。

 すると、目の端っこに見えていた勅使門が音もなく開いてくるではないか!

 ちょ、ちょ(''◇'')。

 わたしの興奮が伝わって、みんなも目を覚まして、開き始めた勅使門に釘付けになった。

 そして、現れたのは……黒の半纏にちり取りと竹ぼうきを持った掃除のおじさんだった(^_^;)。

 無敵のおじさんに感動して大覚寺を後にする。

 お昼は大覚寺の東にある大沢の池のほとりで、配給されたお弁当を広げる。

 お弁当はアイデアだ。

 観光地だから食堂とかにはことかかないんだけど、どこに行ってもけっこうな人。それに、みんな仲間同士で食べたいから探すだけで時間がかかる。

 帰りは野宮と常寂光寺、竹林を抜けて大河内山荘に足を延ばし、芝生に座って眼下の桂川や京都の景色を見て過ごした。


 一時半に集合場所に戻ってバスに乗車。


 そして、金閣寺と二条城……も話したいんだけど、またこんどね(^_^;)。



☆彡 主な登場人物
  • 時司 巡(ときつかさ めぐり)   高校2年生 友だちにはグッチと呼ばれる
  • 時司 応(こたえ)         巡の祖母 定年退職後の再任用も終わった魔法少女 時々姉の選(すぐり)になる
  • 滝川                志忠屋のマスター
  • ペコさん              志忠屋のバイト
  • 猫又たち              アイ(MS銀行) マイ(つくも屋) ミー(寿書房)
  • 宮田 博子(ロコ)         2年3組 クラスメート
  • 辻本 たみ子            2年3組 副委員長
  • 高峰 秀夫             2年3組 委員長
  • 吉本 佳奈子            2年3組 保健委員 バレー部
  • 横田 真知子            2年3組 リベラル系女子
  • 加藤 高明(10円男)       留年してる同級生
  • 安倍晴天              陰陽師、安倍晴明の50代目
  • 藤田 勲              2年学年主任
  • 先生たち              花園先生:3組担任 グラマー:妹尾 現国:杉野 若杉:生指部長 体育:伊藤 水泳:宇賀  音楽:峰岸  世界史:吉村先生  教頭先生  倉田(生徒会顧問)  藤野先生(大浜高校)
  • 須之内直美             証明写真を撮ってもらった写真館のおねえさん。
  • 御神楽采女             結婚式場の巫女 正体は須世理姫 キタマの面倒を見ている
  • 早乙女のお婆ちゃん         三軒隣りのお婆ちゃん
  • 時司 徒 (いたる)         お祖母ちゃんの妹  
  • 妖・魔物              アキラ      
  • その他の生徒たち          滝沢(4組) 栗原(4組) 牧内千秋(演劇部 8組) 明智玉子(生徒会長)
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巡(めぐり)・型落ち魔法少女の通学日記・143『修学旅行・二日目』

2024-11-14 16:25:46 | 小説
(めぐり)・型落ち魔法少女の通学日記
143『修学旅行・二日目』   




 初日の昨日は南禅寺の他にも定番のコースを回った。

 八坂神社、産寧坂、清水寺と定番の観光コースなんだけど、全員京都は初めてだったので面白かった。

「坂の向こうに見える八坂の塔、素敵ねえ……」

「写真撮ろ……ワ( ゚Д゚)!」

 カメラを構えた真知子がファインダーを覗いてつんのめった!

「危ない!」

 佳奈子が持ち前の運動神経で支えて事なきを得る。

「ありがとう、佳奈子。危うくお父さんのカメラ落とすところだった(^_^;)」

「いやあ、この坂で転んだら三年寿命が縮まるっていいますからねぇ」

「お産が軽ぅに済むとも言いいますねんよぉ(^○^)」

 ロコの脅かしをお土産屋のオバチャンが打ち消してくれる。

「アハハ、お産はまだまだ縁が無いですけどねえ(^_^;)」

「ほんなら、縁結びのお土産とかどないどすぅ」

 オバチャンのうまい営業に載って、お守り風の土人形やら清水焼の湯呑なんかを買ってしまう。


 日本人が思いきる時の引き合いというか代名詞の清水の舞台では「校舎の屋上ぐらいだねぇ」と夢のないことを佳奈子が言う。

「でも、ここからの景色は一級品だねえ」

「ほんとねえ、京都って空襲に遭ってないから、雰囲気よねえ」

 なるほどぉ……お寺とかの瓦屋根が多くて、目に見える範囲で高いのは京都駅近くの京都タワーぐらい。家並の向こうには西山がちょうど頃合いの背景になって、さすが千年の都。

「夕方になったら、この向こうに夕日が沈んで絶景なんだろうねえ」

「でもさ、ここは舞台なんだろうけど、ここで舞とかやっても、下からじゃぜったい見えないよね」

 たみ子が現実的なことを言う。

「それは、きっと、お日さまに見せるんですよ。一日無事に都を照らしてくれたお日さまに感謝の舞を捧げたんですよ。如来さまの偉いのを大日如来とか言いますからねえ」

「おお、さすがロコ、よく調べてるねえ」

「あ、いえ、これは単なる想像なんですけどね(^_^;)」

 これには斟酌せずに、みんなで傾き始めたお日さまと京都の景色を見ながら、思わず合掌してしまった。


 夜の宿舎でもいろいろあったんだけど、それはまたいずれ機会があったらね。


 今日は、北山の金閣寺や嵐山から嵯峨野に行ったんだけど、昨日のことを書いたらいっぱいになってしまった。

 では、また明日(^_^;)



☆彡 主な登場人物
  • 時司 巡(ときつかさ めぐり)   高校2年生 友だちにはグッチと呼ばれる
  • 時司 応(こたえ)         巡の祖母 定年退職後の再任用も終わった魔法少女 時々姉の選(すぐり)になる
  • 滝川                志忠屋のマスター
  • ペコさん              志忠屋のバイト
  • 猫又たち              アイ(MS銀行) マイ(つくも屋) ミー(寿書房)
  • 宮田 博子(ロコ)         2年3組 クラスメート
  • 辻本 たみ子            2年3組 副委員長
  • 高峰 秀夫             2年3組 委員長
  • 吉本 佳奈子            2年3組 保健委員 バレー部
  • 横田 真知子            2年3組 リベラル系女子
  • 加藤 高明(10円男)       留年してる同級生
  • 安倍晴天              陰陽師、安倍晴明の50代目
  • 藤田 勲              2年学年主任
  • 先生たち              花園先生:3組担任 グラマー:妹尾 現国:杉野 若杉:生指部長 体育:伊藤 水泳:宇賀  音楽:峰岸  世界史:吉村先生  教頭先生  倉田(生徒会顧問)  藤野先生(大浜高校)
  • 須之内直美             証明写真を撮ってもらった写真館のおねえさん。
  • 御神楽采女             結婚式場の巫女 正体は須世理姫 キタマの面倒を見ている
  • 早乙女のお婆ちゃん         三軒隣りのお婆ちゃん
  • 時司 徒 (いたる)         お祖母ちゃんの妹  
  • 妖・魔物              アキラ      
  • その他の生徒たち          滝沢(4組) 栗原(4組) 牧内千秋(演劇部 8組) 明智玉子(生徒会長)
  • 灯台守の夫婦            平賀勲 平賀恵  二人とも直美の友人  
 
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巡(めぐり)・型落ち魔法少女の通学日記・142『修学旅行・一日目』

2024-11-13 09:49:18 | 小説
(めぐり)・型落ち魔法少女の通学日記
142『修学旅行・一日目』   




 毎朝、戻り橋を渡って昭和の宮之森に通っている。もう慣れっこになったけど、十秒ちょっとで五十年以上の時間を超えてしまうのはすごいことだ。

 京都駅で新幹線を下りて、二年生全員で改札に向かっているのは、ちょっとそれに似ている。

 乗ってきたのは0系で、テッチャンとかマニアが見たら大感激なんだろうけど、鉄道趣味じゃないわたしには普通の新幹線。ちゃんとホームドアもあるし、素っ気ないけど普通の新幹線ホーム。

 ところが階段を下りて跨道橋を中央改札に向かうと、あたりまえだけど昭和だよ。

 去年、万博で行った新大阪駅はあまり違和感は無かった。

 でも、京都駅は違う。

 ホームから駅ビルまでの跨道橋を渡る。床はコンクリ、壁と屋根は木造で鉄骨が剥き出しで、幅が宮之森の三倍ほどあるところを除けば同じコンセプト。

「あ、みんな、あれですよ、日本一長いプラットホーム!」

 ロコが窓の外を指さす。

「おお、果てしないねえ!」「うわあ!」「あれがぁ!」「すごいぃ!」

 富士山が雲に隠れて見えなかった反動なのか、みんな跨道橋の窓から見える日本一のプラットホームに感嘆の声を上げる。

「全長は558メートルもあって、列車が二編成並ぶことができるんです」

「「「「ホーー」」」」

「それで、あのホームは京の都を取り巻いた城壁の上にできてるんですよぉ」

「え?」「平安京に城壁?」

 たみ子と真知子が振り返る。歴史とか社会とかにかけては、この二人は姉妹みたいに反応する。

「ええ、文禄の駅で中国から来た使いに『なんだ、日本の都は羅城もないのか』って言われて、羅城っていうのは城壁のことなんですけど、それで、秀吉が一念発起して、都に羅城を作らせたんです『御土居』って言うんですけど、その名残です」

「へえ、昔のバレーに9人制があったぐらい不思議な話ねぇ」

「ええ、バレーって9人でやってたんですか!?」

「え、知らないの?」

「アハハ、スポーツの方は(^_^;)」

 佳奈子とロコは住んでる世界が違うんだけど、違っていても友だちでいられる。きっと、入学以来の付き合いだからだ。

『ちょっとぉ、あんたたちぃ!』

 花園先生が、いつになくおっかない声で注意する。

「いけない、みんな集合してる!」

 慌てて改札を出て集合場所へ。

 
 つつがなく点呼が終わると、とりあえずホテルに入ってお昼ご飯をいただいた。わたしたち前半組はホテルだったけど、後半組は少し離れた旅館。旅館組の方はバスの駐車場からけっこう歩かされたとか。

 お昼ご飯は、京都らしいものが食べられるかと思ったけど、ふつうのランチだった。


 昼からはバスを連ねて東山。


「あれですよ、石川五右衛門が『絶景かな絶景かなぁ~』ってやったのぉ」

 南禅寺の山門で、またもハイテンションのロコ。

「ええ、あれって創作じゃなかったんだ」

「いやあ、創作だと思いますけど、実在の南禅寺にしたところが観光誘致もかねていたというか、昔の歌舞伎もなかなかなんですよねえ」

「ええと、ごっつい煙管持ちながら言うんだよね、……世に盗人のネタはつきまじぃ。だったっけ?」

 う、佳奈子でも知ってるっぽい。つまり、わたしは知らん。

「石川やぁ、浜の真砂は尽きるともぉ~」

「世に盗人の種は尽きまじぃ~」

 アハハハハ(((´∀`)))

 歌舞伎風にやるので、他のクラスの子にも笑われる。

「ああ、これこれ、水路閣っていうんでしょぉ!?」

「え、お寺の中でしょ?」

 たみ子が指差したのは、レンガ造りのローマの水道橋みたいなの。

 苔むして時代がかっているんだけど、お寺にはちょっと似つかわしくはない。

「これは、明治になって、琵琶湖の水を京都市内に取り入れるために作られた水道橋なんですよ。雰囲気があるんで『ザ ガードマン』とか『忍者部隊月光』とか、映画やらテレビのロケでも使われるんですよ」

「そういや、タイガーズのレコードジャケットにもあったみたいな」

「エメロンシャンプーのCMでも使ってた!」

 うう、令和のJKはついていけん。


 こっそりスマホで『水路閣』を検索……なるほどぉ、令和の時代でもいろんな映画やアニメに使われている。大好きな京アニの『けいおん!』とかにも使われてるけど、さすがに言えない。

 でも、スクロールすると、さらにいろいろと……。


「ね、すごいでしょ!」

「「「「うわぁぁぁぁぁぁぁ!」」」」


 みんなに「もっといいところがあるよ!」と、水路閣の奥、水が送られてくる水路にみんなを案内。

 そこは、うっそうとした森の小道で、小道の中央をレンガ造りの水路が走っていて、なんだか、ドイツかイギリスの油絵の中の景色みたい。

 スマホには、逢坂山を抜けた京都疎水の分水と出ていて、インクラインという。船を市内の水路の高さまで引き上げるごっついレールや、日本最古の発電所とかがある。すごく雰囲気なんだけど、許された行動半径を超えるので行かなかった。

「すごいよ、グッチ、来たことあるの!?」

 みんなに感心されたけど、さすがに「まあね(^_^;)」としか言えない。

 どうやら、このコースは、この時代では、あまり紹介はされてないみたいだ。あまり見栄を張って墓穴を掘らないようにしないと。

 

 
☆彡 主な登場人物
  • 時司 巡(ときつかさ めぐり)   高校2年生 友だちにはグッチと呼ばれる
  • 時司 応(こたえ)         巡の祖母 定年退職後の再任用も終わった魔法少女 時々姉の選(すぐり)になる
  • 滝川                志忠屋のマスター
  • ペコさん              志忠屋のバイト
  • 猫又たち              アイ(MS銀行) マイ(つくも屋) ミー(寿書房)
  • 宮田 博子(ロコ)         2年3組 クラスメート
  • 辻本 たみ子            2年3組 副委員長
  • 高峰 秀夫             2年3組 委員長
  • 吉本 佳奈子            2年3組 保健委員 バレー部
  • 横田 真知子            2年3組 リベラル系女子
  • 加藤 高明(10円男)       留年してる同級生
  • 安倍晴天              陰陽師、安倍晴明の50代目
  • 藤田 勲              2年学年主任
  • 先生たち              花園先生:3組担任 グラマー:妹尾 現国:杉野 若杉:生指部長 体育:伊藤 水泳:宇賀  音楽:峰岸  世界史:吉村先生  教頭先生  倉田(生徒会顧問)  藤野先生(大浜高校)
  • 須之内直美             証明写真を撮ってもらった写真館のおねえさん。
  • 御神楽采女             結婚式場の巫女 正体は須世理姫 キタマの面倒を見ている
  • 早乙女のお婆ちゃん         三軒隣りのお婆ちゃん
  • 時司 徒 (いたる)         お祖母ちゃんの妹  
  • 妖・魔物              アキラ      
  • その他の生徒たち          滝沢(4組) 栗原(4組) 牧内千秋(演劇部 8組) 明智玉子(生徒会長)
  • 灯台守の夫婦            平賀勲 平賀恵  二人とも直美の友人  
 
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巡(めぐり)・型落ち魔法少女の通学日記・141『朝礼とゼロックス』

2024-11-10 10:27:44 | 小説
(めぐり)・型落ち魔法少女の通学日記
141『朝礼とゼロックス』   




 タタタタ パタパタパタ タタタタ…………

 
 一時間目の教科書やらノートを揃えていると廊下を走る音がする。

「時雨みたいですねぇ(^_^;)」

 いっしょに一時間目の用意をしているロコがうまいことを言う。

 時雨のいくつかはうちの教室にも入って来て、照れくさいような当惑したような顔をしながらも、席に着いたりロッカーの出し入れをやったり。

 わたしたちの『お願い』や教頭先生の『先生方へのお願いのプリント』の効き目があって、1/3くらいのクラスで朝礼をやるようになった。

 朝礼をやると、当然、同時に出席もとるわけで、遅れてくると遅刻を取られる。それがかなわないので、朝礼を始めたクラスの生徒は廊下を走るわけ。

「これで不満が出ないというのは、つくづくうちの生徒は羊だなあ」

 ガチャン

「加藤君、行儀悪い」「「アハハハ」」

 足でロッカーを閉めた10円男が佳奈子に叱られて、後ろのたみ子と真知子に笑われる。

「たしかにね、クラスによってバラバラだと不満が出るかもね」

「まあ、半歩前進。変化があるというのはいいことでしょ」

 キンコーン カンコーン……

 たみ子と真知子がまとめたところでチャイムが鳴る。

 パタパ パタパ パタパ パタパ……

 上履きの音だけでそれと知れる我らが担任がやってきて、きょうも一日が始まる。

「……よし、全員出席。ということで連絡なんだけど、明後日からの修学旅行、健康保険証の番号、必ず控えてきてね。ゼロックスしてもらえるといいんだけど、高いし、とれるところも少ないからね。番号写す時は、二三度確認。間違えたら、いざって時に保険効かなくなっちゃうからね。それから、明日は四時間目全体の説明会が体育館であって、午後は下校して旅行の準備。じゃ、今日も元気でねぇ」

 早口で説明すると、そそくさと出ていく花園先生、一時間目はよそのクラスで授業だから急いでいるんだ。で、先生の説明で分からないところを横の佳奈子に聞く。

「ねえ、ゼロックスってなに?」

「え?」

 女バレの名セッターは、審判がホイッスル吹いた時みたいに固まってしまう。

「あ、えと……複写のことよ。大きな文具屋とかでやってくれる。高いから、あんまり使ったこと無いけど」

「あ、ああ、そうだったそうだった(^_^;)」

 この時代、コピーの事をゼロックスって言うんだ。

 でも、なんでゼロックス? ガンダムのロボットみたい。

 で、ちょっと困った。

 この時代で使える健康保険証なんてうちの家には無いよ。

 休み時間にお祖母ちゃんに電話したら『ああ、それなら、メグリのカバンにコピー入れといたから。ちゃんと、昭和46年仕様だから、安心して提出しな』と返事。

 次の休み時間に提出しにいくと、メチャクチャきれいなゼロックスだと職員室で評判になってしまった(^_^;)。

 
☆彡 主な登場人物
  • 時司 巡(ときつかさ めぐり)   高校2年生 友だちにはグッチと呼ばれる
  • 時司 応(こたえ)         巡の祖母 定年退職後の再任用も終わった魔法少女 時々姉の選(すぐり)になる
  • 滝川                志忠屋のマスター
  • ペコさん              志忠屋のバイト
  • 猫又たち              アイ(MS銀行) マイ(つくも屋) ミー(寿書房)
  • 宮田 博子(ロコ)         2年3組 クラスメート
  • 辻本 たみ子            2年3組 副委員長
  • 高峰 秀夫             2年3組 委員長
  • 吉本 佳奈子            2年3組 保健委員 バレー部
  • 横田 真知子            2年3組 リベラル系女子
  • 加藤 高明(10円男)       留年してる同級生
  • 安倍晴天              陰陽師、安倍晴明の50代目
  • 藤田 勲              2年学年主任
  • 先生たち              花園先生:3組担任 グラマー:妹尾 現国:杉野 若杉:生指部長 体育:伊藤 水泳:宇賀  音楽:峰岸  世界史:吉村先生  教頭先生  倉田(生徒会顧問)  藤野先生(大浜高校)
  • 須之内直美             証明写真を撮ってもらった写真館のおねえさん。
  • 御神楽采女             結婚式場の巫女 正体は須世理姫 キタマの面倒を見ている
  • 早乙女のお婆ちゃん         三軒隣りのお婆ちゃん
  • 時司 徒 (いたる)         お祖母ちゃんの妹  
  • 妖・魔物              アキラ      
  • その他の生徒たち          滝沢(4組) 栗原(4組) 牧内千秋(演劇部 8組) 明智玉子(生徒会長)
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巡(めぐり)・型落ち魔法少女の通学日記・140『先生方へのお願いのプリント』

2024-11-08 11:17:37 | 小説
(めぐり)・型落ち魔法少女の通学日記
140『先生方へのお願いのプリント』   




 それでも教頭先生は小さな手を打ってくれた。

『先生方へのお願い』と題したB5の小さなプリント。

――一時間目の授業に行かれた先生は出席簿をもとに呼名点呼をしていただけると助かります。呼名点呼で心身に不安を感得できる生徒がおりましたら、授業終了後担任または当該分掌長までお知らせください――

 という穏やかな内容。

 あのあと教室に戻って真知子たちと話して、MITAKAで話してくれた6組の小野さんに「6組だけでもやったらどうでしょう」と担任の田辺先生に提案してもらったんだ。

「俺たちも着いて行こうか」

 10円男とかが言ったけど、徒党を組んでると思われると逆効果(先生たちも学園紛争にはヘキエキしてたしね)なので、あえて小野さん一人に行ってもらった。

「それはいい考えだね」

 田辺先生は共鳴してくれて6組が始めることになって、うちの花園先生も加わってくれたんだけど、いつも始業時間ギリギリに出勤してる先生は気持ちがあってもなかなか実行できないみたい(^_^;)

 それで、教頭先生が『先生方へのお願い』という緩いプリントを配ったというわけ。


「なんだ、まだ来てないのかぁ」


 一時間目、教室を覗いて声をかけてきたのはグラマーの妹尾先生。

 一時間目は原告の杉野先生なんだけど、例によって顔を出さない。予備校でバイトしてて、それで朝は来れない。で校長先生からも注意されたって、これも噂だけどね。

「じゃあ、僕が出席をとろう、出席簿は……」

 出席簿は日直が取りに行くか一時間目の先生が持ってくるかだけど、二年になってからは先生が持ってくることが多い。

「無いか、じゃあ……そうか、3組は座席表があるんだった」

 座席表を見ながら取り始めた。

「井上……辻本……」

 と出席簿を見ながら出席をチェック「ああ、ここはMITAKAのメンバーが多いんだ」と途中で脱線する。

「学園紛争はろくでもなかったけど、ああいう自主的な仲間というか集まりはいいもんだね。僕らが旧制高校にいたころと同じ気風を感じるよ、加藤」

「は(''◇'')!?」

 いきなり呼ばれてオタつく10円男。

「君も、以前とはちがっていい目をするようになったな」

「は、は……」

 あんまりいじらないでやってほしい……と思ったら次の点呼に移る。

 そのあとも、メンバーのところにくると、いろいろ脱線。とうとう一時間かけて出席点呼して帰って行った。

 最後にひとこと呟いた「杉野もいいかげんにしなくちゃな……」というのが不気味だった(^_^;)

 
 
☆彡 主な登場人物
  • 時司 巡(ときつかさ めぐり)   高校2年生 友だちにはグッチと呼ばれる
  • 時司 応(こたえ)         巡の祖母 定年退職後の再任用も終わった魔法少女 時々姉の選(すぐり)になる
  • 滝川                志忠屋のマスター
  • ペコさん              志忠屋のバイト
  • 猫又たち              アイ(MS銀行) マイ(つくも屋) ミー(寿書房)
  • 宮田 博子(ロコ)         2年3組 クラスメート
  • 辻本 たみ子            2年3組 副委員長
  • 高峰 秀夫             2年3組 委員長
  • 吉本 佳奈子            2年3組 保健委員 バレー部
  • 横田 真知子            2年3組 リベラル系女子
  • 加藤 高明(10円男)       留年してる同級生
  • 安倍晴天              陰陽師、安倍晴明の50代目
  • 藤田 勲              2年学年主任
  • 先生たち              花園先生:3組担任 グラマー:妹尾 現国:杉野 若杉:生指部長 体育:伊藤 水泳:宇賀  音楽:峰岸  世界史:吉村先生  教頭先生  倉田(生徒会顧問)  藤野先生(大浜高校)
  • 須之内直美             証明写真を撮ってもらった写真館のおねえさん。
  • 御神楽采女             結婚式場の巫女 正体は須世理姫 キタマの面倒を見ている
  • 早乙女のお婆ちゃん         三軒隣りのお婆ちゃん
  • 時司 徒 (いたる)         お祖母ちゃんの妹  
  • 妖・魔物              アキラ      
  • その他の生徒たち          滝沢(4組) 栗原(4組) 牧内千秋(演劇部 8組) 明智玉子(生徒会長)
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巡(めぐり)・型落ち魔法少女の通学日記・139『校長室の前で能力を使う』

2024-11-06 11:47:07 | 小説
(めぐり)・型落ち魔法少女の通学日記
139『校長室の前で能力を使う』   




 二時間目が終わると階段を下りて、今日二度目、校長室の前を通る。


『……まだ予断を許しません、発表は控えておきましょう』

『そうだなぁ、元々お通夜も葬儀も断っておられたからなあ』

 ビンゴ、例の件だ!

 校長室は事務室の隣なので、掲示板を見るふりをして盗み聞き。

 魔法少女の能力で、壁一枚向こうの会話なんて楽勝で聞ける。神経を集中したら中の様子を見ることだってできる。あんまり品のいいスキルじゃないからめったに使わないけど、今回は特別だ。

 教頭先生と校長先生が佐伯さんの件で話をしてる。

 御神楽さんが裏技とか奥の手を使って、黄泉の国に足を踏み入れる寸前の佐伯さんを引き戻したのが一昨日。ご両親からは、その日のうちに「葬儀はやらないことになりました」と連絡があったみたい。

 生き返りはしたけど、まだ医学的には大丈夫とは言えないので、そういう言い回しになったんだ。

『しかし、長時間心臓も脳波も停まっていたんだ、元通りになるかどうか……おそらくは植物人間なんだろうねえ』

『いや、戦地ではこういう状態で生還する例がありましたよ、校長』

『そうか、僕は内地で終戦だったからなあ……あ、それと、生徒会から申し入れのあった件だけど』

『それは、やっぱり運営委員会を経て職員会議にかけませんと』

『とりあえず、暫定的にやってみるというのは、ダメかな?』

『なし崩しの管理強化ととられますよ、うちは組合が強いですから』

『そうか、まっとうな提案だと思うんだけどねえ……』

 学校というのはまどろっこしいなあ……と思うと、壁を通して教頭先生が予定表の黒板に向かっているのが見えてきた。

『同感です……ええと、今月は、ああ、修学旅行がありますから、月末になりますねえ』

 あ、そうだ、文化祭やら佐伯さんのことやらですっとんでたけど、修学旅行があったんだ!

 二つ同時にものを考えるのは苦手だけど、これは、両方ともゆるがせにはできないよ。

 ええと……でも、とりあえずは佐伯さんのことだ。

 いや、神さまでも魔導士でもないから治癒魔法なんか使えないけど、例の朝礼と終礼、放っておくと12月まで放っておかれるよ。

 よし!

 拳を握ると、わたしは一段飛ばしで階段を上がって教室に向かった。

 
 
☆彡 主な登場人物
  • 時司 巡(ときつかさ めぐり)   高校2年生 友だちにはグッチと呼ばれる
  • 時司 応(こたえ)         巡の祖母 定年退職後の再任用も終わった魔法少女 時々姉の選(すぐり)になる
  • 滝川                志忠屋のマスター
  • ペコさん              志忠屋のバイト
  • 猫又たち              アイ(MS銀行) マイ(つくも屋) ミー(寿書房)
  • 宮田 博子(ロコ)         2年3組 クラスメート
  • 辻本 たみ子            2年3組 副委員長
  • 高峰 秀夫             2年3組 委員長
  • 吉本 佳奈子            2年3組 保健委員 バレー部
  • 横田 真知子            2年3組 リベラル系女子
  • 加藤 高明(10円男)       留年してる同級生
  • 安倍晴天              陰陽師、安倍晴明の50代目
  • 藤田 勲              2年学年主任
  • 先生たち              花園先生:3組担任 グラマー:妹尾 現国:杉野 若杉:生指部長 体育:伊藤 水泳:宇賀  音楽:峰岸  世界史:吉村先生  教頭先生  倉田(生徒会顧問)  藤野先生(大浜高校)
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  • 御神楽采女             結婚式場の巫女 正体は須世理姫 キタマの面倒を見ている
  • 早乙女のお婆ちゃん         三軒隣りのお婆ちゃん
  • 時司 徒 (いたる)         お祖母ちゃんの妹  
  • 妖・魔物              アキラ      
  • その他の生徒たち          滝沢(4組) 栗原(4組) 牧内千秋(演劇部 8組) 明智玉子(生徒会長)
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巡(めぐり)・型落ち魔法少女の通学日記・138『一本早い電車に乗った』

2024-11-03 12:03:10 | 小説
(めぐり)・型落ち魔法少女の通学日記
138『一本早い電車に乗った』   




 寝付けなかったわりには早く目が覚めて、いつもより一本早い電車に乗った。

 6組の佐伯さんのことと、それを受けて屋上で開いた臨時MITAKAのせいだ。

 一つ手前の寿町が近づくと、ドアのそばで唸り声。

 う~~~ん

 大荷物抱えたお婆さんが下りるのに苦労している。モンペに地下足袋、頭に手拭い巻いて、電車で時どき出会う行商のお婆ちゃん。
 たいていは二三人のチームで、荷物持って乗り降りの時は助け合ってキビキビ動いてる。
 でも、今朝は何かの事情で一人で乗って、仲間の補助が無いから苦労してるんだ。

「だいじょうぶですか!?」

 声をかけた時は、もう荷物の端っこを持ち上げている。

「あ、どうもありがとうございます(^○^;)」

「いいえ」

 背負った大荷物を介助をしながらホームに出て……この時代、ホームにエレベーターなんか付いてないから、そのまま改札を出るところまで付き合ってしまう。

「ほんとうに、ありがとうねお嬢ちゃん。電車出ちまったけど、だいじょうぶ?」

「あ、はい、隣の宮之森だし、一本早いのに乗ってたし(^_^;)」

「そう、でもほんとうにありがとうございました」

「は、はい、じゃあ(^_^;)」

 とどめのありがとうが照れくさくって、そのまま宮之森目指して歩き始める。うまく道を拾っていけばいつもの時間に学校に着ける。

 
 ええと……こっちだったかなあ。


 滅多に通らない寿町の路地を進む。見覚えのあるお屋敷の角を曲がって……うん、あの祠を過ぎたら商店街に抜ける道!

 え?

 祠の向こう側、祠の壁に手をついてゼーゼー言ってるジャージ姿にビックリ。

「え、御神楽さん!?」

 バイトの結婚式場以外ではめったに見かけない御神楽さん(じつは須世理姫)が死にそうなくらいにくたびれている。

 文化祭のサポートに来てくれた時以外は外では見かけない御神楽さん。当然巫女服じゃないけど、下と上で紅白のジャージなので雰囲気は巫女さん。

「あ、ああ、地獄でグッチ。ちょっとエネルギーちょうだいね」

「え、あ、だいじょうぶ!?」

「おお、朝から人助けしたね、いつもよりエネルギーが多いよ……あ、ああ、なんとか一息だわぁ」

「あの、どうしたんですか?」

「佐伯さん、生き返らせてたのよ……」

「え……ええ!?」

「ちょっと待って……」

 御神楽さんが手を振ると床几が出てきて、とりあえず祠の横に並んで座る。

「あの子、そんなに切羽詰まっていたわけじゃないのよ」

「そ、そうなの!?」

「いや、理由はあるわよ。人間関係がヘタで、ちょっと孤立はしてたのよ。それが、金原さんが亡くなったのに地味に影響受けちゃっててね」

「あ、ああ……」

 それは、先生やあたしたちも心配していた。こういうのは伝染しやすいって。

「あの子の愛唱歌は『学生時代』なのよ」

「学生時代?」

「ああ、ほら、こんなの……」

 御神楽さんが指を回すと聞いたことのある曲が流れた。

――蔦の絡ま~るチャ~ペルで 祈りを捧げた日~♪――

「これの二番がね――讃美歌を歌いながら清い死を夢見たぁ♪――なのよ」

「えええ、そんなことでぇ!?」

「いや……それが、引き金になったのが文化祭の【ウェディングパラダイス】なのよ」

「え、なんで【ウェディングパラダイス】が原因で死のうと思うんですか!?」

「すてきすぎたのよ」

「え、ええ?」

「グッチたち、めちゃくちゃ楽しそうだったでしょ」

「あ、そりゃもちろん」

「17歳っていえば、人生でいちばん輝いてる歳でしょ。それが女の晴れ着、花嫁衣裳をクラスの女子全員が身に着けて、いっそうキラキラしちゃってさ。まあ、疎外感……人にも言えないで、金原さんのことも記憶に新しいし、飛躍したわけよ……【ウェディングパラダイス】は、わたしも調子に乗っちゃったからね……

「そ……あ……でも、助かったのなら」

「ほかの神さまの力も借りて、黄泉比良坂で待ち受けて、ついさっきこっちまで引き戻してきたとこ」

「そ、そうなんだ……」

「あ……もうちょっとエネルギーくれる?」

「あ、うん、もうちょっとなら」

「じゃあ……」

 しがみついてきたと思ったら、なんだか急速に力を吸いだされる感じ……あ、ちょっ、それ以上は……(;゚Д゚)

 目の前が暗くなってきて……気が付いたら、学校の正門前に倒れていた。



☆彡 主な登場人物
  • 時司 巡(ときつかさ めぐり)   高校2年生 友だちにはグッチと呼ばれる
  • 時司 応(こたえ)         巡の祖母 定年退職後の再任用も終わった魔法少女 時々姉の選(すぐり)になる
  • 滝川                志忠屋のマスター
  • ペコさん              志忠屋のバイト
  • 猫又たち              アイ(MS銀行) マイ(つくも屋) ミー(寿書房)
  • 宮田 博子(ロコ)         2年3組 クラスメート
  • 辻本 たみ子            2年3組 副委員長
  • 高峰 秀夫             2年3組 委員長
  • 吉本 佳奈子            2年3組 保健委員 バレー部
  • 横田 真知子            2年3組 リベラル系女子
  • 加藤 高明(10円男)       留年してる同級生
  • 安倍晴天              陰陽師、安倍晴明の50代目
  • 藤田 勲              2年学年主任
  • 先生たち              花園先生:3組担任 グラマー:妹尾 現国:杉野 若杉:生指部長 体育:伊藤 水泳:宇賀  音楽:峰岸  世界史:吉村先生  教頭先生  倉田(生徒会顧問)  藤野先生(大浜高校)
  • 須之内直美             証明写真を撮ってもらった写真館のおねえさん。
  • 御神楽采女             結婚式場の巫女 正体は須世理姫 キタマの面倒を見ている
  • 早乙女のお婆ちゃん         三軒隣りのお婆ちゃん
  • 時司 徒 (いたる)         お祖母ちゃんの妹  
  • 妖・魔物              アキラ      
  • その他の生徒たち          滝沢(4組) 栗原(4組) 牧内千秋(演劇部 8組) 明智玉子(生徒会長)
  • 灯台守の夫婦            平賀勲 平賀恵  二人とも直美の友人  
  
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巡(めぐり)・型落ち魔法少女の通学日記・137『屋上の臨時MITAKA』

2024-11-02 11:44:22 | 小説
(めぐり)・型落ち魔法少女の通学日記
137『屋上の臨時MITAKA』   




 予想通り、あくる日は臨時の全校集会。

「昨日未明、二年生の〇〇さんが亡くなられました。一分間の黙とうを捧げます」

「黙祷!」

 サワサワ……

 校長先生の簡単すぎる説明と、若杉先生の発声で静かに黙祷。

 静かに黙祷しても千人以上の生徒がいっせいに黙祷すると音がする。全体としては――サワサワ――なんだけど、姿勢を正したりうな垂れたり、重心を少し移すだけで、けっこうな音になる。

 今朝の集会は体育館。

 たぶん、集会の様子が外に知られないため。

 半年で二回目の自殺。マスコミも学校の近所でも噂になっている。だから、外には漏れないように締め切った体育館でやるんだ。

 6組の列から嗚咽、最初は数人だったけど、黙祷が終わるころにはクラス全体に広がった。

 先生はクラスまでは言ってないけど、6組の〇〇さんなんだと知れてしまう。

「新聞や報道の人たちから話を聞かれるかもしれませんが『質問は学校にしてください』と答えてください。けして、個人では答えないように」

 そう念を押されて全校集会は終わった。


「ねえ、聞こえてるぅ!?」


 真知子がメガホンで聞くと、後ろの方の五六人が手を挙げる。

 よし、なんとかいける。

 緊急のMITAKA(みんなで楽しく語る会)を屋上でやっている。

 二年生を中心に百人近くが集まった。

 ほんとうは学校の施設を使いたかったんだけど許可が下りなかった。中庭でやろうとしたら、これも許可が出ない。「それじゃ、屋上はどうですか?」というロコの提案で屋上になったんだ。

「やっぱりな、学校は生徒を施設利用者としてしか見てないんだ。学校は教育施設で、それに見合った知識と受験技術を教えれば事足りるという抜きがたい姿勢があって、生徒一人一人の心や悩みに沿った教育ができてない。やろうという意思も無いんだ。僕らは、単なる教育施設の利用者じゃない、僕ら生徒は学校の主人公なんだ。その基本を踏まえて、学校の諸々の矛盾や問題を変えていこうという意思と姿勢を明らかにしなければならないと思う!」

「賛成! けっきょくは、二年前に提起された諸矛盾を『流行の学園紛争』と歪曲して封じ込めたことに問題がある」

「もう一度、原点に返って半年で二度目になる自損事件に向き合わなくちゃならない!」

「「「異議なし!」」」

 ああ、三年生が勝手に盛り上がってる(-_-;)。

「すみません、二年生で起ったことですので、まず、二年生から話させてもらえませんか」

 真知子が穏やかに、でも、しっかりした声で発言。

「でも、金原さんは三年だったぞ」

「ですが、まず今回のことから話を始めたいと思います。いいですか?」

 賛成の声があがり、それでも不満そうな三年生は10円男が、ムカついている二年男子は高峰君がなだめに行ってくれる。

「わたしたち、その……佐伯さんが悩んでることにも気が付かなくって……」

 6組の女子がオズオズと、でも、はっきり〇〇さんのことを佐伯さんと呼んで悲しそうに語り始める。

「なんか、文化祭やら進路希望調査のことで、クラスや友だちのことに目がいかなくて……」

「あのぅ、一年なんですけど、いいですか」

「あ、うん、でも、メガホンで話してくれる?」

「あ、はい、すみません、声小さくて(#'∀'#)」

 たみ子がズイっと差し出したメガホンで、オズオズ語る一年生。

 ちょっとかわいい。

「宮之森に来て、ちょっとビックリしたんですけど、うちって朝礼も終礼もないんですよね。朝のチャイムが鳴ったら、なんとなく一時間目が始まって、六時間目のチャイムが鳴ったら、そのまま部活に行ったり帰ったりするじゃないですか。なんか、恥ずかしい話ですけど、クラスの中には、まだ名前と顔の一致しない人が居たりして……」

「ああ、あるある!」「あたしも」「あるよなあ」

「今年の卒業式、自分のクラスの生徒の名前まちがって読んでた教師がいたぞ」

「ああ、岸田と石破!」

「ええ、二人も?」

「うちの教師は薄情だからなあ!」

 ワハハハハ

 三年生が調子に乗って一年生をビビらせる。

「ええ、いまの一年生の話しは大事だと思うんです。人間関係が希薄なところがうちにはあると思うんですが、どうでしょう?」

 真知子が論点を整理し、方向付けをしようとする。

 MITAKAのメンバーや常連さんは、こういう話の流れ方には慣れているので、三年生から横やりが入りつつも、具体的な話がいろいろ出て来た。

「部活に入ろうと顧問のとこ行ったら『担任のハンコ貰ってこい』って言われたんだけど、顧問は担任で、忘れられてたあ」

「〇X先生、テスト返す時出席番号でしか呼ばない」

「友だちに『クラスの〇△に渡しといてくれ』って頼まれて渡しにいったら違う子だった」

「遠足の帰りにおいてけぼりにされた」

「間違えて怒られた」

「加藤、おまえもあるだろ!」

 三年生に言われて10円男が立ち上がる。

「ああ……留年して最初の化学の時間、先生が俺の顔見てギョッとしてた」

「ええ、なんでぇ?」

「俺が留年したの知らなかったんだろうなあ」

「え、加藤は学年で一人だけの落第だっただろーが」

「そうよ、進級判定会議で名前出てるはずよぉ」

「アハハ、忘れられてたんだろーなあ(^_^;)」

 ワハハハハ

 こういう話し合いって、学校やら人を糾弾する傾向があるけど、なんだか和気あいあいとなってしまって、最後は、せっかくだから全員クラスと名前を言って、もう一度佐伯さんに黙祷してお開きにした。

 あ、ひとつ具体的なことが決まった。

 朝礼と終礼をやることを先生たちに申し入れることになった。



☆彡 主な登場人物
  • 時司 巡(ときつかさ めぐり)   高校2年生 友だちにはグッチと呼ばれる
  • 時司 応(こたえ)         巡の祖母 定年退職後の再任用も終わった魔法少女 時々姉の選(すぐり)になる
  • 滝川                志忠屋のマスター
  • ペコさん              志忠屋のバイト
  • 猫又たち              アイ(MS銀行) マイ(つくも屋) ミー(寿書房)
  • 宮田 博子(ロコ)         2年3組 クラスメート
  • 辻本 たみ子            2年3組 副委員長
  • 高峰 秀夫             2年3組 委員長
  • 吉本 佳奈子            2年3組 保健委員 バレー部
  • 横田 真知子            2年3組 リベラル系女子
  • 加藤 高明(10円男)       留年してる同級生
  • 安倍晴天              陰陽師、安倍晴明の50代目
  • 藤田 勲              2年学年主任
  • 先生たち              花園先生:3組担任 グラマー:妹尾 現国:杉野 若杉:生指部長 体育:伊藤 水泳:宇賀  音楽:峰岸  世界史:吉村先生  教頭先生  倉田(生徒会顧問)  藤野先生(大浜高校)
  • 須之内直美             証明写真を撮ってもらった写真館のおねえさん。
  • 御神楽采女             結婚式場の巫女 正体は須世理姫 キタマの面倒を見ている
  • 早乙女のお婆ちゃん         三軒隣りのお婆ちゃん
  • 時司 徒 (いたる)         お祖母ちゃんの妹  
  • 妖・魔物              アキラ      
  • その他の生徒たち          滝沢(4組) 栗原(4組) 牧内千秋(演劇部 8組) 明智玉子(生徒会長)
  • 灯台守の夫婦            平賀勲 平賀恵  二人とも直美の友人  
 
 
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巡(めぐり)・型落ち魔法少女の通学日記・136『緊急にHRが中止になった!』

2024-11-01 12:50:05 | 小説
(めぐり)・型落ち魔法少女の通学日記
136『緊急にHRが中止になった!』   




 連絡します連絡します、本日6限のホームルームは中止、本日6限のホームルームは中止、部活等も中止、生徒諸君は5限終了後ただちに下校するように。5限終了後ただちに下校するように。


 お財布を掴んで学食に行こうと階段を下りかけたところで生指部長の若杉先生の放送が入った。

 いつもなら放送部の『宮之森アフタヌーン♪』がのんびり始まる時間なので、みんな――なにかあったな――という気持ちになりながらも、良くも悪くも羊の群れみたく穏やかにランチタイムに移って行った。

 学食でもランチの列に間に合おうという熱気はあったけど、ことさら若杉先生の放送について話題にする声は聞こえなかった。

「ねえねえ、新聞社の車が正門の前に並んでますよ!」

 ロコが目を輝かせてランチのトレーを置く。いつものことだけど『情報屋ロコ』は早耳頭巾だ。

「なにぃ穏やかじゃないわね」

 メンチカツにソースをかけながらのたみ子も、みんなのお茶を淹れている真知子も、やっと席に着いたわたしも、動きは停めないけども聞く態勢になっている。

「それがですねぇ……」

 ロコの話の中身に、四人は動きが停まってしまう。

「ええ、またぁ!?」

 たみ子が声を上げるけど、真知子が――あとでね――という目配せをして、とりあえずAランチやBランチをかっこむ。

 
 南館とグラウンドの間、文化祭で【ウェディングパラダイス】をやった雛壇に腰掛ける。教室では憚られるし、中庭も人が多いからね。

「二年の女子だそうです」

 ここに来るまでに、また自殺した子が出たというところまでは分かった。

 なんせ、学食の窓からでも見えるところにA新聞の車が停まっているのが分かる。学食の噂話からもA新聞の他にもMやYやS新聞がズラッと並んでいて、教頭先生と若杉先生が――生徒が動揺するから学校の周囲に停めないでくれ――と苦情を言いに行ってるのが見えた。

 さすがに新聞社の車は校内からは見えないところに移動したみたいだけど、やっぱり――たいへんなことが起こったんだ――という空気は隠せない。

 入学以来、生徒が亡くなるのは三件目だ。

 一年の時の栗原さん、この六月には三年の金原さん、そして今度の二年生の女子。去年の栗原さんは病気だったけど、今年は自殺が続いている。

「いえ、実はもう一件」

「「「ええ!?」」」

「実は、夏休み中に一年の男子が……これは未遂だったらしいですけど」

「はあぁ、そりゃあ新聞社も来るはずだぁ」

「「「…………」」」

 真知子がため息ついて四人は言葉が無くなってしまう。


 タタタタタ


 グラウンドへのスロープを佳奈子が部室に駆けていく。

 放課後の部活ができなくなったので、調整とかがあるんだ。部室棟の前には見覚えのある運動部の部長たちが集まり始めていた。

 
 けっきょく、この日はマスコミや教育委員会、PTAなんかの対応と職員会議で先生たちは大変みたいだった。

 おそらく、明日は臨時の全校集会で黙祷。

 多少の事情説明はあるかもだけど、あたしたちもMITAKAとかで話し合ってみようということになった。



☆彡 主な登場人物
  • 時司 巡(ときつかさ めぐり)   高校2年生 友だちにはグッチと呼ばれる
  • 時司 応(こたえ)         巡の祖母 定年退職後の再任用も終わった魔法少女 時々姉の選(すぐり)になる
  • 滝川                志忠屋のマスター
  • ペコさん              志忠屋のバイト
  • 猫又たち              アイ(MS銀行) マイ(つくも屋) ミー(寿書房)
  • 宮田 博子(ロコ)         2年3組 クラスメート
  • 辻本 たみ子            2年3組 副委員長
  • 高峰 秀夫             2年3組 委員長
  • 吉本 佳奈子            2年3組 保健委員 バレー部
  • 横田 真知子            2年3組 リベラル系女子
  • 加藤 高明(10円男)       留年してる同級生
  • 安倍晴天              陰陽師、安倍晴明の50代目
  • 藤田 勲              2年学年主任
  • 先生たち              花園先生:3組担任 グラマー:妹尾 現国:杉野 若杉:生指部長 体育:伊藤 水泳:宇賀  音楽:峰岸  世界史:吉村先生  教頭先生  倉田(生徒会顧問)  藤野先生(大浜高校)
  • 須之内直美             証明写真を撮ってもらった写真館のおねえさん。
  • 御神楽采女             結婚式場の巫女 正体は須世理姫 キタマの面倒を見ている
  • 早乙女のお婆ちゃん         三軒隣りのお婆ちゃん
  • 時司 徒 (いたる)         お祖母ちゃんの妹  
  • 妖・魔物              アキラ      
  • その他の生徒たち          滝沢(4組) 栗原(4組) 牧内千秋(演劇部 8組) 明智玉子(生徒会長)
  • 灯台守の夫婦            平賀勲 平賀恵  二人とも直美の友人  
 
 
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巡(めぐり)・型落ち魔法少女の通学日記・135『やっと進路希望調査票を書く』

2024-10-26 11:23:17 | 小説
(めぐり)・型落ち魔法少女の通学日記
135『やっと進路希望調査票を書く』   




 ちょっと考えた。


 進路よ、進路。

 毎日、令和から昭和の宮之森高校に通ってる。

 動機は制服。

 去年の春に開校以来の制服がモデルチェンジして、どこにでもある今風の制服に変わった。気づいたのは合格者説明会。部活とかに来てる在校生は旧制服だったけど、パンフに出てたのは『新制服』でビックリしたんだ。

 絶対昔の制服の方がいい!

 それで、昭和の宮之森に通って、もう二年。

 授業はつまらないけど、学校は楽しい。

 中学じゃ、最後まで名前と顔の一致しないクラスメートが居たけど、今はクラス全員……どころか、よそのクラスにも友だちが居る。

 ロコ、 たみ子、 真知子、佳奈子、演劇部の牧内さん、みんな一生の友だちになりそう。

 男子だって、10円男の加藤高明を始め、委員長の高峰君とかは小中学校時代の女友達よりも距離が近い。

 できたら、このまま昭和の学校に通いたい。大学に行って、就職もしてぇ……むろん令和の家から通うんだ。二重生活だね。

 我がままだけど、ドップリ昭和で暮らすのは二の脚。

 理由は何だと思う?

 ネットが無いから? スマホが無いから? あっちこっちでタバコ喫ってるから?

 ううん、トイレですよ、トイレ!

 洋式トイレはめったにないし、ウォシュレットはまだ発明されてないし、一般家庭はまだまだポットン便所だったりする。

 だからね、令和の時代から毎朝、戻り橋を渡って昭和で昼の生活をする。

 我がままかなあ……そう思って進路調査票と睨めっこ。


「いいじゃない、昭和で進学したら」


 テレビを観ながらお祖母ちゃんが言う。

 油断がならない、ちゃんと見てるんだよ、この年寄りは。

「旋(まわり)なんか、火星で暮らすつもりなんだしさぁ……」

 これは、お母さんへの皮肉だ。あの人はNASAの訓練所に行ったきり音沙汰がないからね。

「見てごらんよ、この総理大臣の顔ぉ」

「人を顔とか見かけで判断するのは良くないんだよ、ルッキズムって言ってさあ……」

 テレビを見ると……ああ、この人だったんだ(-_-;)

 おたふく(学校の前のお好み焼き)のテレビで見た総理大臣を思い出した。

 佐藤栄作、よく分からないけど、令和のこの人よりは100倍マシな感じだった。ググってみると、安倍さんの義伯父さんのお父さんだった。

 家系でドーノコーノは反則なんだろうけど、納得してしまった。

 締め切りを二日過ぎた調査書に『文系進学希望』と書いた。

 明日は日曜で総選挙だけど、1971年は大安の水曜日。

 学食のAランチは、クジラの竜田揚げの日。ちょっと楽しみ。



 
☆彡 主な登場人物
  • 時司 巡(ときつかさ めぐり)   高校2年生 友だちにはグッチと呼ばれる
  • 時司 応(こたえ)         巡の祖母 定年退職後の再任用も終わった魔法少女 時々姉の選(すぐり)になる
  • 滝川                志忠屋のマスター
  • ペコさん              志忠屋のバイト
  • 猫又たち              アイ(MS銀行) マイ(つくも屋) ミー(寿書房)
  • 宮田 博子(ロコ)         2年3組 クラスメート
  • 辻本 たみ子            2年3組 副委員長
  • 高峰 秀夫             2年3組 委員長
  • 吉本 佳奈子            2年3組 保健委員 バレー部
  • 横田 真知子            2年3組 リベラル系女子
  • 加藤 高明(10円男)       留年してる同級生
  • 安倍晴天              陰陽師、安倍晴明の50代目
  • 藤田 勲              2年学年主任
  • 先生たち              花園先生:3組担任 グラマー:妹尾 現国:杉野 若杉:生指部長 体育:伊藤 水泳:宇賀  音楽:峰岸  世界史:吉村先生  教頭先生  倉田(生徒会顧問)  藤野先生(大浜高校)
  • 須之内直美             証明写真を撮ってもらった写真館のおねえさん。
  • 御神楽采女             結婚式場の巫女 正体は須世理姫 キタマの面倒を見ている
  • 早乙女のお婆ちゃん         三軒隣りのお婆ちゃん
  • 時司 徒 (いたる)         お祖母ちゃんの妹  
  • 妖・魔物              アキラ      
  • その他の生徒たち          滝沢(4組) 栗原(4組) 牧内千秋(演劇部 8組) 明智玉子(生徒会長)
  • 灯台守の夫婦            平賀勲 平賀恵  二人とも直美の友人  
 
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巡(めぐり)・型落ち魔法少女の通学日記・134『演劇部の部室で昼ご飯』

2024-10-19 15:28:04 | 小説
(めぐり)・型落ち魔法少女の通学日記
134『演劇部の部室で昼ご飯』   




「男ってつくづくバカですね」

 図書室へ本を返しに行って戻ってきたロコがしみじみ言う。

「え、どうしたの?」

「思わず人生の真理を呟いたハムレットみたい」

 二つ目の言葉(最初のは真知子、二番目は牧内さん)で分かったらえらいんだけど、今日のお昼は演劇部の事実上の部室である図書分室でお昼を食べている。

 二年の二学期にもなると、学校の様子は分かってるし、マンネリもやだから、時どきイレギュラーなところでお昼にする。

ロコ:「え、あ、商店街の自販機でカップヌードルを買った話をしてたんですよ三年の男子が」

たみ子:「カップヌード(''□'')?」

ロコ:「あはは、そういう間違い方ですよ」

牧内さん:「ああ、銀座のホコ天で、あれ食べながら歩くのが流行だってテレビで言ってた」

 他のカップ麺に比べて割高なカップヌードル。わたしはあまり買わないけどね。

 そのカップヌードルが発売になったのが今月なんだ。人によって認知度がちがって、ロコ以外は牧内さんが知っている程度。ロコがスクラップ帳を広げて説明すると、カップ麺だけに食いつきがいい。

ロコ:「商店街の酒屋が自販機置いたんですよ」

たみ子:「え、インスタントラーメンの自販機!?」

ロコ:「並みの自販機と違って洋服ダンスくらいに大きくて、通行に邪魔になるんで、酒屋は横に入ったとこに置いたんですよ。それをなにか勘違いして……」

メグリ:「アハハ、ヌードに引っ張られたわけだ」

ロコ:「いやはや、男って言うのは……」

佳奈子:「でも、わざわざ自販機で買うようなものなの? スーパーとか、それこそ酒屋の店先でだって売ってるでしょ」

真知子:「メーカーの陰謀じゃないのぉ。カップヌードルって、男の想像力を刺激するかも?」

たみ子:「でも、ヌードルって、英語で麺類一般だからねえ」

佳奈子:「値段はいくら?」

ロコ:「それが、220円!」

みんな:「高っかー!」

 ああ、だよね。学食のラーメンだったら二杯食べてお釣りがくる。

ロコ:「いや、それが、お湯まで注いでくれて食べられる状態で出てくるんですよ! 取り出した瞬間は、ちょっとした幸福感に浸れます!」

メグリ:「あ、ひょっとして、ロコ、自分でも買ってみたんだ?」

ロコ:「え、あ……アハハハ(^_^;)」

 こういうところは、ロコの愛すべき好奇心だ。

 
 でも、我々はヨタ話をするために演劇部の部室でお昼を食べているわけではない。


 みんなの目の前には同じB5のプリントが置かれていて、そのプリントには氏名の他に記入欄が三つある。


 文系志望   理系志望   その他(就職、各種学校、その他)


 そう、中間テストも終わって、二年生全員に進路希望調査票が配られたんだ。


 五人のうち、ハッキリボールペンで(つまり清書)書けているのは牧内さんだけ。彼女はハッキリと劇団〇〇付属研究所と書いていた。



 
☆彡 主な登場人物
  • 時司 巡(ときつかさ めぐり)   高校2年生 友だちにはグッチと呼ばれる
  • 時司 応(こたえ)         巡の祖母 定年退職後の再任用も終わった魔法少女 時々姉の選(すぐり)になる
  • 滝川                志忠屋のマスター
  • ペコさん              志忠屋のバイト
  • 猫又たち              アイ(MS銀行) マイ(つくも屋) ミー(寿書房)
  • 宮田 博子(ロコ)         2年3組 クラスメート
  • 辻本 たみ子            2年3組 副委員長
  • 高峰 秀夫             2年3組 委員長
  • 吉本 佳奈子            2年3組 保健委員 バレー部
  • 横田 真知子            2年3組 リベラル系女子
  • 加藤 高明(10円男)       留年してる同級生
  • 安倍晴天              陰陽師、安倍晴明の50代目
  • 藤田 勲              2年学年主任
  • 先生たち              花園先生:3組担任 グラマー:妹尾 現国:杉野 若杉:生指部長 体育:伊藤 水泳:宇賀  音楽:峰岸  世界史:吉村先生  教頭先生  倉田(生徒会顧問)  藤野先生(大浜高校)
  • 須之内直美             証明写真を撮ってもらった写真館のおねえさん。
  • 御神楽采女             結婚式場の巫女 正体は須世理姫 キタマの面倒を見ている
  • 早乙女のお婆ちゃん         三軒隣りのお婆ちゃん
  • 時司 徒 (いたる)         お祖母ちゃんの妹  
  • 妖・魔物              アキラ      
  • その他の生徒たち          滝沢(4組) 栗原(4組) 牧内千秋(演劇部 8組) 明智玉子(生徒会長)
  • 灯台守の夫婦            平賀勲 平賀恵  二人とも直美の友人  
 

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巡(めぐり)・型落ち魔法少女の通学日記・133『are so』

2024-10-13 15:56:57 | 小説
(めぐり)・型落ち魔法少女の通学日記
133『are so』   




 ちょっとやり過ぎたかなあ。


 殊勝なことを言ってるけど、たみ子の目はへの字だし、いっしょに写真を見てるお仲間は、みんなニヤニヤしてる。

 さすがに教室だと差しさわりがあるので、昼休の中庭、藤棚の下で体育祭の写真を見ている。ほら、最後のプログラムだった着せ替えリレー。

 何十枚もある写真の中で一番人気が10円男の女装写真。

 もともとスレンダーな優男なんだけど、めちゃくちゃセーラー服が似合ってる。
 パンツ以外は全部女物で、走っているとスカートの中のスリップやら、揺れる襟から覗くブラ紐なんかがリアルに雰囲気。
 そして、髪は女子のボブってくらいに伸ばしてたから、違和感がほとんど無い。

 そして何より表情。

 最後まで嫌がってたんで、眉根にキュっと力が入ってるとこが、健気でカワイイ(^▽^)

「山口百恵みたい!」

 思わず口走って、みんなが『?』な顔をする。

 しまった、この時代、まだ山口百恵はデビューしてないか!?

「あ、ちょ……」

 佳奈子が声を上げる。ちょうど通路から10円男が友だちとやってくるところだ。

 アワワワ(''◇'')

 真知子が慌てて写真帳を挟んでいたスクラップ帳ごと落としてしまう。

 仕方が無いので、スクラップ帳ごと拾ってスクラップ帳を観てるふりをする。

 写真帳もスクラップ帳もロコのもので、開いたところは今月のニュース。

「なんだ、ヒロヒトの写真なんか見てんのか……」

 捨て台詞を残して、男どもは学食の方に行ってしまう。

「そうだ、天皇陛下、そろそろ帰って来るんだねぇ」

 記事の写真を見ながらたみ子が話題を変える。 

 
 史上初めて天皇陛下がアメリカに行った。


 この時代の天皇陛下は令和の天皇陛下のお祖父ちゃん。

 令和の天皇陛下も、わたしの感覚じゃお爺さん。愛子様はわたしより四つも年上なんだけど、その愛子様はひ孫になるんだからすごいよ。

「おもしろいエピソードがあるんですよぉ(^▽^)」

 さすがはロコ、新聞をスクラップするだけじゃなくて、ネタを仕込んでるよ。

「「「なになに?」」」

「あっちじゃ、いろいろご歓談になってるんですけど。あ、陛下は日本語で通訳が入るんですけどね」

「でしょうね、天皇さんが英語喋ってるのは見たことない」

 真知子は『天皇さん』と呼ぶんだ。

「あの人、英語しゃべれるよ。皇太子のころにイギリスに行って国王とさしで喋ってるの見たことある」

 たみ子は『あの人』だよ(^_^;)

「で、どんな英語」

 英語が苦手な佳奈子が話題を戻す。

「それがですねぇ、人が喋り終えると『are so』って言われるんです」

「『ああ、そう』って日本語でしょ」

 わたしが普通の反応をするとESSの部員でもあるたみ子がピンときた。

「あ、そうか! 言うよ『are so』って、日本語に訳しても『ああ、そう』だ!」

「are so なんだ( ゚Д゚)!」

 あ、アハハハ(^〇^)

 ギャグをかましたと思われて、笑われてしまった。


 うちへ帰ってお祖母ちゃんに話をした。


「ああ、あれはすごいことだったんだよ」

「are so?」

 ポコン

「イテ」

 新聞丸めたので叩かれる。

「国家的規模の敗戦で潰れなかったのは日本の皇室だけなんだ」

「え、そうなの?」

「イタリアなんかムッソリーニが処刑されて、一応王制は残ったんだけどね、国民の総スカンくらって国外追放になった」

「え、イタリアに王さま居たの?」

「居たよ。第一次大戦じゃドイツとロシアの帝政が廃止されたし、中国の清朝も日清戦争に敗れて滅んじゃったし。ナポレオンもロシアに負けてコルシカ島に流されたしね」

「ああ、そうなんだ」

「それに、昭和天皇はあの戦争が起きた時の国家元首だからね、その陛下が敵国だったアメリカに国賓で行かれた意味は大きいよ」

「そうなんだ」

「エリザベス女王が来日された時の記者会見でね『来日の目的はなんでしょう?』って質問をした記者がいたんだけどね、女王のご返事は『天皇陛下に教えを請いにきました』だったよ」

「ええ、リップサービスじゃないの?」

「女王の訪日は、陛下の訪米の四年後だよ。それに、その時、裏の警護責任者をやってたのは……」

「え、お祖母ちゃん!?」

「そうだよ、向こうの影のSPとも親しくなってね。お祖母ちゃん、あくる年にその人からプロポーズされた」

「ええ、うっそー( ゚Д゚)!?」

「で、シュミレーションしてみた」

「え、どんな?」

「孫娘が生まれたら、どんな子になるかって……ほら、こんなの」

 お祖母ちゃんが指を回すと、ソファーの向こう側にわたしを100倍可愛くしたようなクォーター美人が現われた。そいつ、長い足を組んでピースサインをしやがったよ(^_^;)。

 明日から中間テスト、がんばろう。



☆彡 主な登場人物
  • 時司 巡(ときつかさ めぐり)   高校2年生 友だちにはグッチと呼ばれる
  • 時司 応(こたえ)         巡の祖母 定年退職後の再任用も終わった魔法少女 時々姉の選(すぐり)になる
  • 滝川                志忠屋のマスター
  • ペコさん              志忠屋のバイト
  • 猫又たち              アイ(MS銀行) マイ(つくも屋) ミー(寿書房)
  • 宮田 博子(ロコ)         2年3組 クラスメート
  • 辻本 たみ子            2年3組 副委員長
  • 高峰 秀夫             2年3組 委員長
  • 吉本 佳奈子            2年3組 保健委員 バレー部
  • 横田 真知子            2年3組 リベラル系女子
  • 加藤 高明(10円男)       留年してる同級生
  • 安倍晴天              陰陽師、安倍晴明の50代目
  • 藤田 勲              2年学年主任
  • 先生たち              花園先生:3組担任 グラマー:妹尾 現国:杉野 若杉:生指部長 体育:伊藤 水泳:宇賀  音楽:峰岸  世界史:吉村先生  教頭先生  倉田(生徒会顧問)  藤野先生(大浜高校)
  • 須之内直美             証明写真を撮ってもらった写真館のおねえさん。
  • 御神楽采女             結婚式場の巫女 正体は須世理姫 キタマの面倒を見ている
  • 早乙女のお婆ちゃん         三軒隣りのお婆ちゃん
  • 時司 徒 (いたる)         お祖母ちゃんの妹  
  • 妖・魔物              アキラ      
  • その他の生徒たち          滝沢(4組) 栗原(4組) 牧内千秋(演劇部 8組) 明智玉子(生徒会長)
  • 灯台守の夫婦            平賀勲 平賀恵  二人とも直美の友人  
 


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