大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

大人ライトノベル・タキさんの押しつけ読書感想『筒井康隆「聖痕」』

2013-07-04 18:19:16 | 読書感想
タキさんの押しつけ読書感想
『筒井康隆「聖痕」』
       

 これは、悪友・滝川浩一が個人的に流している読書感想ですが、もったいないので転載したものです


巨匠の新作は“実験作”であると……まぁ、そうはおっしゃいますが 「虚人たち」 「虚空船団」以降、実験作でない作品があった?

 もう一丁 言ってしまえば、巨匠が自ら言うように「士農工商・犬・SF作家」としてスタートを切った時から、延々と実験作を紡いできたのではないだろうか。 個的、内面的世界をネチネチと スプーンと刷毛で掘り下げて行く私小説が純文学であってみれば(極めて乱暴な言いようである事は自覚しつつ書いています)そのような矮小な世界に決別した作家として存在してきた。
 作家が自己の内面に照らしてしか創作しえないのだとすれば、筒井というオッサンの内面はどうなっているのか。不気味な(?)底無し沼から 次に出てくるのは 一体どのような作品なのか……我々の学生時代は それをワクワクしながら待ち受ける時間の連続でした。いやあ、懐かしき「SFの集中と拡散」の時代……。

 と、まぁ おじんの繰り言は置いといて、本作「聖痕」であります。

 昭和という時代が幕を閉じる頃、5歳の葉月貴夫は暴漢に襲われ、男性器を切り取られる。このため、元々 天使かと見まがう美少年ではあったが、この少年が性的リピドーとは全く無縁に成長していく。その波乱万丈の生活を平成の時代、東北大震災までを描いて行く。“性的リピドー”を持たない人間がどう成長するのか、それは周囲にどのような波紋を広げるのか。これが実験の一つ。
 さらに、文章に古語や枕詞を多用、言葉を探し 選ぶ作業は巨匠にとっても刺激的であったらしく「ケケケ」と異声を放ちつつ執筆する姿が思い浮かぶ。  
 文章には鍵かっこを使わず、会話と情況描写が混然になっており、句読点はあるものの 可能な限り段落を変えず連続していく。
 この手法は随分以前に南米の作家(マルケス他)がよく使っており、巨匠はこの書き方がことのほかお気に入りのようで、時々お見かけする。
 性的リピドーを持たない人間が何に没入するのかというのも楽しみの一つ。
これには異論ありですが、ここで書いてしまうのはこれから読もうかって人の興味を削いでしまう。口にチャックであります。
 芸術、欲望、感覚の中で なにが一番「性欲」から遠いかという思考実験。う~~ん…そうなんですかねぇ。あなたはどう感じられるんでしょうねぇ。 巨匠曰わく「自分で面白がって書いて、読者を面白がらせて…それが理想」 私なんかは まるっきり術中にはまってますわ。


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