大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

高校ライトノベル・魔法科高校の優等生・5『銀行強盗』

2013-11-12 14:38:39 | 小説
魔法科高校の優等生・5
『銀行強盗』
        


 ノドチンコが見えそうなマスターの大あくびが閃きだった。

「マスター、MS銀行に強盗が入る」
「なんか感じたんかい?」
「うん、ちょっと行ってくる」
「五時半までには片づけてきてなあ」
「十分、楽勝よ」

 そう言って麗奈は、バイト先の志忠屋を後にした。
 店を出て八秒ほどで、大通りに出る。角を曲がると交番がある。その隣が地下鉄の出入り口、その隣がMS銀行である。

 店の自動ドアを入った瞬間に銀行の案内係の制服になった。首からは行員のIDカード、髪は緩いヒッツメ。
 案内係で立っていた女子行員に声を掛ける。
「ご苦労様、交代よ」
「あ、よろしく」
 これで、この銀行の行員全員に魔法がかかった。全員が麗奈を仲間だと認識した。

 閉店間際の二時五十五分にそいつらは現れた。全部で四人。服装は量販店で買った作業着、ヘルメットの下にはグラサンにデカマスク。ゴルフバックから本格的な小銃を取りだした。米軍のM1カービンだ。旧式だが、小型で操作がしやすく、いかにも強盗向きだ。ご丁寧に銃剣まで付けている。

「全員、手を頭の後ろで組んで、窓口係、デスクの者は机から五十センチ以上離れろ!」
 リーダーらしき男が、マスクをずらして叫んだ。ノドチンコが見える。
――ああ、これが閃きだったんだ――
 強盗達は慣れていた。リーダーの叫びの直後、天井に向かって五発連射した。天井パネルやら照明器具の破片やらが落ちてきた。行内に悲鳴が響いた。
 銃を入れてきたゴルフバックをカウンターに放り込み、命令した。
「このゴルフバッグいっぱいに金を詰めろ。変な真似をしたら、天井と同じ目に遭うぜ」
 主任らしき男が、カウンターに札束を積んだ。
「なめんじゃねえ、こんなはした金じゃなくて、金庫から出せ。一分以内にやらなきゃ、一人死ぬことになるぜ」

 ここまでやらせれば十分だろう。

「お客様、まずお客様カードをお引きになってお待ち下さい。順番がまいりましたら、担当の窓口の者が声をかけさせていただきますので」
「言われた通りにしろ!」
「はい、上司から言われた通りにいたしております」
 麗奈は、あくまでも銀行スマイルで応対した。
「この女(あま)舐めやがって!」
「舐めるだなんて、そんな……不衛生なことはいたしかねます」
「くそ!」
 そいつは、銃剣で麗奈の胸を深々と刺した……ように見えた。
 銃剣はゴムになってしまい、麗奈の胸元でグニャリと曲がった。
「な、なんだこれは!?」
 麗奈は、銃口に指を突っこんだ。
「次は銃を撃つんでございましょ。どうぞご遠慮なく」
「舐めんな!」
 男が引き金に指を掛けると、銃本体が弾けて一杯の花びらが散った。
「な、なんだこりゃ」
「なかなか見事なお手並みでした」
 麗奈は拍手してやった。
「オンナ、ふざけてねえで、手を頭の後ろで組め!」
 ボスが叫んだ。
「それはマニュアルにございませんので、見本をお見せ願えますか?」
「こ、こういう風にだな……」
 もう一人が、銃を置いて見本を示した。
「あ、あれ……」
 手が後頭部にくっついて動かなくなった。
「どうも形がもう一つでございますね。リーダーの方もご一緒に」
 すると、リーダーも銃を手放して、頭の後ろで手を組んだ。
「さすが、リーダー。小笠原流でございますね。では、お三方、跪いていただけますか」

 三人は、捕虜のようになった。

 銀行の前で車が急停車した。迎えの仲間の車である。ドアがロックされて開かない。アクセルを踏んでもビクともしない。

 仕上げに麗奈は、監視カメラのメモリーから、自分の姿を消去した。

「あ~あ、もうちょっと派手にしてもよかったなあ。犯人さんを花だらけにしてあげるとか」
「仕事は、地道にコツコツと……」

 マスターの呟きで、志忠屋のディナータイムが始まった……。


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