魔法科高校の優等生・5
『銀行強盗』
ノドチンコが見えそうなマスターの大あくびが閃きだった。
「マスター、MS銀行に強盗が入る」
「なんか感じたんかい?」
「うん、ちょっと行ってくる」
「五時半までには片づけてきてなあ」
「十分、楽勝よ」
そう言って麗奈は、バイト先の志忠屋を後にした。
店を出て八秒ほどで、大通りに出る。角を曲がると交番がある。その隣が地下鉄の出入り口、その隣がMS銀行である。
店の自動ドアを入った瞬間に銀行の案内係の制服になった。首からは行員のIDカード、髪は緩いヒッツメ。
案内係で立っていた女子行員に声を掛ける。
「ご苦労様、交代よ」
「あ、よろしく」
これで、この銀行の行員全員に魔法がかかった。全員が麗奈を仲間だと認識した。
閉店間際の二時五十五分にそいつらは現れた。全部で四人。服装は量販店で買った作業着、ヘルメットの下にはグラサンにデカマスク。ゴルフバックから本格的な小銃を取りだした。米軍のM1カービンだ。旧式だが、小型で操作がしやすく、いかにも強盗向きだ。ご丁寧に銃剣まで付けている。
「全員、手を頭の後ろで組んで、窓口係、デスクの者は机から五十センチ以上離れろ!」
リーダーらしき男が、マスクをずらして叫んだ。ノドチンコが見える。
――ああ、これが閃きだったんだ――
強盗達は慣れていた。リーダーの叫びの直後、天井に向かって五発連射した。天井パネルやら照明器具の破片やらが落ちてきた。行内に悲鳴が響いた。
銃を入れてきたゴルフバックをカウンターに放り込み、命令した。
「このゴルフバッグいっぱいに金を詰めろ。変な真似をしたら、天井と同じ目に遭うぜ」
主任らしき男が、カウンターに札束を積んだ。
「なめんじゃねえ、こんなはした金じゃなくて、金庫から出せ。一分以内にやらなきゃ、一人死ぬことになるぜ」
ここまでやらせれば十分だろう。
「お客様、まずお客様カードをお引きになってお待ち下さい。順番がまいりましたら、担当の窓口の者が声をかけさせていただきますので」
「言われた通りにしろ!」
「はい、上司から言われた通りにいたしております」
麗奈は、あくまでも銀行スマイルで応対した。
「この女(あま)舐めやがって!」
「舐めるだなんて、そんな……不衛生なことはいたしかねます」
「くそ!」
そいつは、銃剣で麗奈の胸を深々と刺した……ように見えた。
銃剣はゴムになってしまい、麗奈の胸元でグニャリと曲がった。
「な、なんだこれは!?」
麗奈は、銃口に指を突っこんだ。
「次は銃を撃つんでございましょ。どうぞご遠慮なく」
「舐めんな!」
男が引き金に指を掛けると、銃本体が弾けて一杯の花びらが散った。
「な、なんだこりゃ」
「なかなか見事なお手並みでした」
麗奈は拍手してやった。
「オンナ、ふざけてねえで、手を頭の後ろで組め!」
ボスが叫んだ。
「それはマニュアルにございませんので、見本をお見せ願えますか?」
「こ、こういう風にだな……」
もう一人が、銃を置いて見本を示した。
「あ、あれ……」
手が後頭部にくっついて動かなくなった。
「どうも形がもう一つでございますね。リーダーの方もご一緒に」
すると、リーダーも銃を手放して、頭の後ろで手を組んだ。
「さすが、リーダー。小笠原流でございますね。では、お三方、跪いていただけますか」
三人は、捕虜のようになった。
銀行の前で車が急停車した。迎えの仲間の車である。ドアがロックされて開かない。アクセルを踏んでもビクともしない。
仕上げに麗奈は、監視カメラのメモリーから、自分の姿を消去した。
「あ~あ、もうちょっと派手にしてもよかったなあ。犯人さんを花だらけにしてあげるとか」
「仕事は、地道にコツコツと……」
マスターの呟きで、志忠屋のディナータイムが始まった……。
『まどか 乃木坂学院高校演劇部物語』
青雲書房より発売中。大橋むつおの最新小説!
ラノベとして読んでアハハと笑い、ホロリと泣いて、気が付けば演劇部のマネジメントが身に付く! 著者、大橋むつおの高校演劇45年の経験からうまれた、分類不可能な新型小説、高校演劇入門書!
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青雲書房直接お申し込みは、下記のお電話かウェブでどうぞ。定価本体1200円+税=1260円。送料無料。
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お申込の際は住所・お名前・電話番号をお忘れなく。
青雲書房。 mail:seiun39@k5.dion.ne.jp ℡:03-6677-4351
大橋むつお戯曲集『自由の翼』戯曲5本入り 1050円(税込み)
門土社 横浜市南区宮元町3-44 ℡045-714-1471
『銀行強盗』
ノドチンコが見えそうなマスターの大あくびが閃きだった。
「マスター、MS銀行に強盗が入る」
「なんか感じたんかい?」
「うん、ちょっと行ってくる」
「五時半までには片づけてきてなあ」
「十分、楽勝よ」
そう言って麗奈は、バイト先の志忠屋を後にした。
店を出て八秒ほどで、大通りに出る。角を曲がると交番がある。その隣が地下鉄の出入り口、その隣がMS銀行である。
店の自動ドアを入った瞬間に銀行の案内係の制服になった。首からは行員のIDカード、髪は緩いヒッツメ。
案内係で立っていた女子行員に声を掛ける。
「ご苦労様、交代よ」
「あ、よろしく」
これで、この銀行の行員全員に魔法がかかった。全員が麗奈を仲間だと認識した。
閉店間際の二時五十五分にそいつらは現れた。全部で四人。服装は量販店で買った作業着、ヘルメットの下にはグラサンにデカマスク。ゴルフバックから本格的な小銃を取りだした。米軍のM1カービンだ。旧式だが、小型で操作がしやすく、いかにも強盗向きだ。ご丁寧に銃剣まで付けている。
「全員、手を頭の後ろで組んで、窓口係、デスクの者は机から五十センチ以上離れろ!」
リーダーらしき男が、マスクをずらして叫んだ。ノドチンコが見える。
――ああ、これが閃きだったんだ――
強盗達は慣れていた。リーダーの叫びの直後、天井に向かって五発連射した。天井パネルやら照明器具の破片やらが落ちてきた。行内に悲鳴が響いた。
銃を入れてきたゴルフバックをカウンターに放り込み、命令した。
「このゴルフバッグいっぱいに金を詰めろ。変な真似をしたら、天井と同じ目に遭うぜ」
主任らしき男が、カウンターに札束を積んだ。
「なめんじゃねえ、こんなはした金じゃなくて、金庫から出せ。一分以内にやらなきゃ、一人死ぬことになるぜ」
ここまでやらせれば十分だろう。
「お客様、まずお客様カードをお引きになってお待ち下さい。順番がまいりましたら、担当の窓口の者が声をかけさせていただきますので」
「言われた通りにしろ!」
「はい、上司から言われた通りにいたしております」
麗奈は、あくまでも銀行スマイルで応対した。
「この女(あま)舐めやがって!」
「舐めるだなんて、そんな……不衛生なことはいたしかねます」
「くそ!」
そいつは、銃剣で麗奈の胸を深々と刺した……ように見えた。
銃剣はゴムになってしまい、麗奈の胸元でグニャリと曲がった。
「な、なんだこれは!?」
麗奈は、銃口に指を突っこんだ。
「次は銃を撃つんでございましょ。どうぞご遠慮なく」
「舐めんな!」
男が引き金に指を掛けると、銃本体が弾けて一杯の花びらが散った。
「な、なんだこりゃ」
「なかなか見事なお手並みでした」
麗奈は拍手してやった。
「オンナ、ふざけてねえで、手を頭の後ろで組め!」
ボスが叫んだ。
「それはマニュアルにございませんので、見本をお見せ願えますか?」
「こ、こういう風にだな……」
もう一人が、銃を置いて見本を示した。
「あ、あれ……」
手が後頭部にくっついて動かなくなった。
「どうも形がもう一つでございますね。リーダーの方もご一緒に」
すると、リーダーも銃を手放して、頭の後ろで手を組んだ。
「さすが、リーダー。小笠原流でございますね。では、お三方、跪いていただけますか」
三人は、捕虜のようになった。
銀行の前で車が急停車した。迎えの仲間の車である。ドアがロックされて開かない。アクセルを踏んでもビクともしない。
仕上げに麗奈は、監視カメラのメモリーから、自分の姿を消去した。
「あ~あ、もうちょっと派手にしてもよかったなあ。犯人さんを花だらけにしてあげるとか」
「仕事は、地道にコツコツと……」
マスターの呟きで、志忠屋のディナータイムが始まった……。
『まどか 乃木坂学院高校演劇部物語』
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