大橋むつおのブログ

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高校ライトノベル・タキさんの押しつけ映画評『相棒Ⅲ/プリズナーズ』

2014-05-05 07:24:39 | 評論
タキさんの押しつけ映画評
『相棒Ⅲ/プリズナーズ』



 これは、悪友の映画評論家・滝川浩一が個人的に、身内にながしているものですが、もったいないので転載したものです。


相棒Ⅲ

 在る意味、“シリーズ相棒”の総ての要素を持っている作品と言えます。密度の高いミステリーと政治性、対する杉下右京の緻密さと何者に出会っても揺るがない秩序に対する忠誠心が描かれる。 “相棒”の劇場版として自信を持ってお薦め出来ますが……。

 監督/和泉聖治、脚本/輿水泰弘という、シリーズ生みの親コンビ、相棒の裏も表も知り尽くした二人、さすがにプロットの組み立て、ストーリーの見せ方は見事である。
 が、正直に言わせて貰うなら、“ネタが早く割れ過ぎる”と感じる。これが、シリーズ途中から脚本参加した古沢良太なら、もっと捻ったストーリーテリングを見せてくれたと思える。すなわち、監督/和泉、原案/輿水、脚本/古沢ならもっと面白かったはずだと考える。
 相棒はA・クリスティー的展開(人によってはE・クイーンやクロフツを上げるが、あくまで基本はクリスティーだと考える。クイーンやミルン的な世界観は各脚本家の味付けによる。古沢良太はクイーン的な捻りと衝撃的短絡にこだわりが有ると思っています)の世界です。そこに、極めて日本的な人生観や政治風土、組織論理が絡まるから、リアルな現代日本のドラマとして屹立できる。
 推理ミステリーの常道として、事件の手掛かりは、物語の始めから観客の眼前に提示される。
 しかし、それをその時、観客に“これは証拠だ”とか“伏線だな”と思わせてはならない。敢えてそうするなら、それは、観客を違った方向にミスリードする罠でなければならない。観客は、提示された怪しい情報/状況を“これは真正?罠?”と考えるのが面白い訳なのだが……本作の場合、考えるまでもなく、“これは伏線だ”と断定出来る。しかも、一番初めに出くわす情景がそうなのである。
 これによって、杉下・カイトが抱いている嫌疑が肯定されてしまう。罠だと考えた場合、タイミングが早過ぎて、今これを見せては不利にしか成らないからである。
同じく、杉下達が、この島に乗り込む理由となった事件にしても、ここまでやってしまう意味がない。 わざわざ不利益を呼び寄せる事にしかならず、もっと穏当な手段があるし、やるならやるで、この島で行われている事業(民兵訓練)から考えて、方法は山程存在する。
 これらを納得させる為には、これしか無かったという状況が提示されなければならないが、残念ながら、その点はスルーしてある。 さほど時間のかかる作業ではないが、後日、テレビ公開される時の時間割が過度に意識される結果だと断定できる。元々テレビマンである監督/脚本コンビだからこそのストーリーテリングなのである。この点が惜しまれる。この為、ラストの杉下コンビと主犯との間で交わされる会話も、その一言一句まで予想出来てしまう。
 相棒もテレビ12シーズン、劇場版3本、スピンオフ2本という巨大サーガとなり、いささか予定調和に陥る傾向があるようだ。鉄砲フリークとして疑問……冒頭、島での訓練が映される。川の中から静かに浮き上がる民兵達(最近、傭兵物でお約束のシーン)川から様々な武器を持って出てくるが、数人がショットガンを手にしている。敵中への隠密侵攻、乃至、威力偵察訓練なのだろうが、この水浸しのショットガンが火を吹く……??? 見たところ、軍用銃ではなく狩猟用の銃に見える。こんなもん、ほんまに水に浸けても使える? 雨が降っていてすらカバーが必要なのに? それと、島で指導を勤める隊員達の身体が全く軍人のそれでは無かったのも興醒め。せめてそれらしいガタイの役者を使ってほしかった。こういう細部から、映画のリアルはすべり落ちて行く。


プリズナーズ

 これだけ恐ろしい映画もそうは無いでしょうねぇ。白昼、二人の女の子が姿を消す。犯人らしき人物が早々に捕まるが、これが真犯人なのか否かがトコトン最後まで解らない。見事なストーリーテリングです。 プリズナーズとは、行方不明の子供だけを指すのではなく、主なキャラクター総てが現実に、また、過去の事象に捕らわれている事を指すタイトルです。
 映画の内容から、一切ストーリーには触れられないのですが……今年のハリウッド作品は(本作の全米公開は去年末ですが)聖書題材やキリスト教題材の物が多数作られています(テレビドラマで“ベン・ハー”のリメイクがあったし、秋には“十戒”のリメイクも公開される、現在公開中の作品の中に、臨死体験した幼児が天国を見るっつな物がある)。本作も間違いなく聖書関連スリラーです。
 敬虔な信徒が、ある時点を境にデーモニッシュな存在に変化する。極、普通の人間が、ある一線を越えた途端に暴走する。これだけなら、良くあるハリウッド映画だとも言えるが、本作の中にいきなり蛇が出現する……これは間違いなく宗教絡みの作品である証拠です(エデンの園でイブを誘惑する主体)
 リバタリアニズム、“完全自由主義”位が訳文ですかね。要するに国は最低限の秩序を保証せよ、後は我々が自ら守るって事です。アメリカの銃規制が進まないのも、国民皆保険が実現できないのもこの考え方によります。国家による思想/経済/身体に対する拘束はこれを拒否する。その自分がよって立つのはキリスト教信仰なのです。本作中、あるキャラクターが自ら狂気の行動と意識しつつ、そうせざるを得ない……その時、自らの狂気と正常世界の繋ぎ糸として“主の祈り”を口ずさむ、主の祈りは、本作のそこいら中に出てくる。毎回意味する所が違う。
 毎回言いますが、こんなキリスト教的知識がなくとも理解できる作品ではありますが。これを知っていればより深く本作を理解出来ます。加害者/被害者の苦悩ばかりではなく、刑事/ロキ(J・ギレンホール)の懊悩にも思い至ります。敢えて言います。キリスト教/リバタリアニズムに染められた“アメリカ”がわかっていなければ本作の3/2は理解できません。 およそ2時間30分の本作、これを長いと感じるか短いと感じるか……それはあなたの“アメリカ理解”“キリスト教理解”の度合いによります。不遜な言い方でゴメンナサイ。本作は日本人に対しては観客を選ぶ作品だと言えます。 これを見て「長い」「下らん」「面白くない」と思った方は「アメリカの現状況」が解らない方々です。
 剃刀の刃でも、鉄砲玉でも、気にくわなければ送って下さい。私の結論は変わりません。  H・ジャックマン/J・ギレンホールが素晴らしいのは言うモノがな、二人の子供の母親V・デイビスとM・ベロがリアル、何よりM・レオの存在感が圧倒的! おっとT・ハワードも捨てがたい。 解ってくれる人とだけ、この喜びを分け合いたい。轟々たる非難の声を予想しつつ……やっぱり、そう言い切ります。理解できないと思ったら見ないで下さい。所詮、理解できない人々の悪口など……聞きたくもありません。



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