真凡プレジデント・61
登下校に帽子をかぶる習慣がない。
でしょ、たまに日傘差してる子もいるけど、荷物になるし、ちょっちダサ目なんで、日傘も差さないし帽子も被らない。
だから制服を着たとたんに机の上に用意しておいたキャップは忘れてしまう。
で、終業式が終わって、生徒会としての学期末の書類整理なども終え、エアコンをギンギンに効かせてお召し替え。
「真凡一人イケてるじゃん」
ひまわり模様のワンピが健康的ではあるけど子どもじみたなつきが感心する。
「なんだか女子アナみたい!」
本質を突いてきた綾乃はモテカワのカットソーに虹色キュロット。
「女は化けるわねーー!」
自分の化けっぷりを棚に上げて、オールディーズ風水玉ワンピのみずき。
ケーキバイキングとはいえ一流ホテルのそれなので、申し合わせもしていないのに気合いが入っている。
こういうことに慣れている女子大生とかOLは、案外ラフな格好で来るのだろうと想像はつくんだけど。
まあ、こういう背伸びも似合って見えるのが女子高生の特権でしょ。
わたしの場合は、自分のがナフタリン臭いので止む無くってことなんだけどね。
「じゃ、行こうか!」
踏ん切りをつけて昇降口を出たところで思い至る――帽子欲しいよねえ!――
やっぱり制服の呪縛は大きい。
高校生と言うのは、時と場所によって――もう大人――と――まだまだ子ども――を使い分けてるんだけど、私服になったとたん、大人の方にバイヤスがかかり、普段は、あまり気にもしない日差しが大いに気になる。
「そだ、ちょっと待ってて!」
可愛い目をクルリと回したかと思うと、なつきがロッカーの所に戻った。
ひとしきりゴソゴソやったかと思うと――あったー!――の声をあげて駆け戻って来る。
「はい、ちょうど一個ずつ!」
配ってくれたのは、去年毎朝テレビの見学(これはこれでエピソードがあるんだけど、いずれ)でもらったキャンペーンキャップ。記念品は一人一個なんだけど、なつきは四つもせしめていた。
こうして、イケてる四人はさっそうとケーキバイキングに乗り出した。
夏の日差しをものともせずに、道行く人たちの注目を浴びて、ちょっとウキウキの四人。
「ア、信号変わる!」
駅前まで来たところで、なつきが駆けだした。
「ちょ、待って!」
靴までお姉ちゃんのを借りてきたわたしは、出遅れて、瞬きしだした信号に間に合わなかった。
「くそ!」
向こうの信号では、三人がオホホアハハと笑っている。
そこに、わたしの前にオフホワイトのワゴン車が停まった……。
え……?
☆ 主な登場人物
- 田中 真凡 ブスでも美人でもなく、人の印象に残らないことを密かに気にしている高校二年生
- 田中 美樹 真凡の姉、東大卒で美人の誉れも高き女子アナだったが三月で退職、いまは家でゴロゴロ
- 橘 なつき 中学以来の友だち、勉強は苦手だが真凡のことは大好き
- 藤田先生 定年間近の生徒会顧問
- 中谷先生 若い生徒会顧問
- 柳沢 琢磨 天才・秀才・イケメン・スポーツ万能・ちょっとサイコパス
- 北白川綾乃 真凡のクラスメート、とびきりの美人、なぜか琢磨とは犬猿の仲
- 福島 みずき 真凡とならんで立候補で当選した副会長
- 伊達 利宗 二の丸高校の生徒会長