RE・かの世界この世界
学校の中を一通りまわってみた。
そんなに居るわけじゃないけど、友だちにも声をかけたり視線を向けたり。
みんな返事をしてくれる、手を振ってくれる、笑ってくれる、ピースしてくれる。
冴子が他人になってしまった以外は何も変わっていないように感じる。
クラスの友だちも普通に話しかけてくれるし、席に戻って五時間目の教科書を出すと、表紙の隅に憶えのあるシミがちゃんとついている。
黒板に目を向けると……今日は日直だ。
そうだ、日直だった。
日直の最大の仕事は黒板を消すことだ。
改めて確認すると、四時間目の板書はきれいに消してある。
相棒の戸倉さんがやってくれたんだ。
「ごめん、戸倉さん、ボーっとしてて日直忘れてた(^_^;)」
「いいわよ、寺井さん考え事してたみたいだったし」
「え、あ、ちょっとね(^_^;)」
「よかったら、学級日誌とってきてくれる? ちょっと担任には会いにくくって」
そう言うと、戸倉さんは手元のプリントに視線を落とす。
プリントは進路希望調査票だ。文系・理系・就職・その他の四択の欄は白紙のまんま。提出期限は二日前。
「任しといて」
「ありがと(^▽^)」
事情を察して職員室に向かう。
うちの学校は規模の割に職員室が狭い。
半分くらいの先生が担任をやっていても準備室などに籠っている。連携の悪い学校だと思うんだけど、それで回っているんだから、まあいい。そんな中でもうちの担任は朝から職員室に居る。ちゃんとした先生なんだ。でも、戸倉さんは、そういうのが苦手なんだ。
「おう、寺井、ちょっと」
日誌をとって「失礼しました」を言おうとしたら担任に呼び止められる。
「はい、なんでしょうか?」
「進路希望なんだけど」
「はい」
「『その他の選択』はいいんだけど、異世界・勇者というのはなんだ?」
「え……あ……(;゜Д゜)」
「なにかのナゾか?」
「あ、ラノベとか読んでたんで、ちょっとボーっとしていて」
「ラノベもいいけど、勉強もな。揺れる気持ちは分かるけど、元々は文学部志望なんだろ寺井」
「え、あ、はい」
「基本的な文学作品読まないと、大学じゃ試験対策の小手先ばっかりで四年間過ぎるぞ。『その他の選択』で揺れてないで、シャンと前を……」
「先生、これ! あ、ごめん、寺井さん」
隣の金沢先生がスマホを手に割り込む。金沢先生は冴子の担任だ。
「うちの冴子が、見てください!」
「お、二宮……受賞したんですか!?」
「はい、高校生じゃ初めての吉野屋文学賞ですよ!」
「すごいなあ……」「え、どれどれ?」「わあ!」「ほんとだ!」
目を丸くしてスマホを囲む先生たち。
チラっと見えた画面には――大賞『犬のまほろば猫の高天原・二宮冴子』――の文字が他の受賞作を圧倒していた。
そうだ、ファンタジー手当たり次第のわたしと違って、冴子は日本の古典専門だった。
「書き直します……」
「お、おお……」
先生の生返事を背に教室に戻り、戸倉さんに「わたし書いとくから」と学級日誌を示して中庭に向かった。
ここは、ほとんど元の世界だ。冴子が他人だと言うことを除いて、とても穏やかな感じ。この分だと、ヤックンともうまくいってるような気がする。ヤックンと言う名前を思い浮かべても、穏やかに温もって、胸を刺すような痛みは起こらないもの。
それに、冴子は単なるラノベ好きを超え、オタクの殻を割って文学の階段を上り始めている。
ラノベ好きと文学まっしぐら、似てるようで全然違う。
冴子との間に波風が立つこともないだろう。
いっそ、ここに留まれば……という気持ちもしないではないけど、わたしは数分花壇を前に立ち止まり。そして、空を仰ぐと部室に向かった。
☆ ステータス
HP:20000 MP:400 属性:テル=剣士 ケイト=弓兵・ヒーラー
持ち物:ポーション・300 マップ:14 金の針:60 福袋 所持金:450000ギル(リポ払い残高0ギル)
装備:剣士の装備レベル55(トールソード) 弓兵の装備レベル55(トールボウ)
技: ブリュンヒルデ(ツイントルネード) ケイト(カイナティックアロー) テル(マジックサイト)
白魔法: ケイト(ケアルラ) 空蝉の術
オーバードライブ: ブロンズスプラッシュ(テル) ブロンズヒール(ケイト) 思念爆弾
☆ 主な登場人物
―― かの世界 ――
テル(寺井光子) 二年生 今度の世界では小早川照姫
ケイト(小山内健人) 小早川照姫の幼なじみ 異世界のペギーにケイトに変えられる
ブリュンヒルデ 主神オーディンの娘の姫騎士
タングリス トール元帥の副官 ブリの世話係
タングニョースト トール元帥の副官 ノルデン鉄橋で辺境警備隊に転属
ロキ ヴァイゼンハオスの孤児
ポチ シリンダーの幼体 82回目で1/12サイズの人形に擬態
ペギー 異世界の万屋
ユーリア ヘルム島の少女
ナフタリン ユグドラシルのメッセンジャー族ラタトスクの生き残り
その他 フギンとムニン(デミゴッドブルグのホテルのオーナー夫婦)
―― この世界 ――
二宮冴子 二年生 不幸な事故で光子に殺される 回避しようとすれば光子の命が無い
中臣美空 三年生 セミロングで『かの世部』部長
志村時美 三年生 ポニテの『かの世部』副部長